炎症性腸疾患(IBD)とは? 治療方法 手術室



ここでは、炎症性腸疾患(IBD)における外科治療(手術)の役割、
当科の外科治療へのとりくみなどについて説明します。

IBDにおける手術の役割

手術とは、きずや病気のある部分を切り開いたり切り取ったりして治療することです。
切り開いたり、ときくと、痛いとか怖いとか、合併症はどうなのかなど、色々な不安があると思います。
しかし、病状によっては手術しなければ良くならない、ということもありますし、
薬などの内科的治療で改善がない場合や、一時的に良くなってもまたすぐ再燃して日常生活に支障が
あるようなときに、手術することで大きな改善が得られる場合があります。

IBDで治療法をえらぶときには、手術だけが「特別」「最後の手段」というわけではなく、
いつも内科的な種々の治療法と客観的に比較しながら考えていくことが大切です。
そのためには、手術ではどのようなことをして、その後はどうなるのか、といったことを知っていただくことが、
漠然とした不安を軽減し、客観的に治療法を選択するための第一歩だと考えます。
まずはこのページをはじめ、手術について色々とご覧いただければと思います。

なお、IBDでは、どのような場合に手術が好ましいのか(手術適応の判断)、
病態によってどのような手術をするのか(手術術式の選択)、などが病状によってことなりますので、
手術を検討するにあたってはIBDに十分な経験のある専門医による判断をうけるのが望ましいと思います。

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当科における外科治療の特徴

潰瘍性大腸炎では、肛門機能温存と根治性のバランスを考慮した
回腸嚢肛門管吻合術(手術の目的により肛門吻合術もおこないます)、
一時的人工肛門を作成しない1期的手術の適応拡大、
Crohn病では、個々の病態に対する適切な術式(切除範囲、吻合法)の選択、
腸管温存の工夫(狭窄形成術)、複雑痔瘻に対する、肛門機能を温存するseton(シートン)法などに
取り組んでいます。
腹腔鏡補助下手術や、癒着防止対策もとりいれています。


Crohn病に対する腹腔鏡補助下手術後

現在、当科におけるIBDの手術件数は年間80〜100件となっています。
以下に、手術前におこなっている説明内容を紹介します。具体的な方法や経過は個々にことなる点もありますので
ご了承ください。

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潰瘍性大腸炎の手術

潰瘍性大腸炎と診断されたかたのうち、5〜25%は手術となっており、この病気では手術(外科治療)は
決して特別な治療ではありません。
外科治療には、合併症や排便状態の変化が残るなどの心配点もないわけではありませんが、
内科治療で得られない大きな改善や将来の長期間にわたる安定した状態が期待できます。
以下に潰瘍性大腸炎の手術について説明致します。

1.手術を行う理由について(手術適応)

潰瘍性大腸炎に対して手術をする理由は大きくわけて以下の3つがあります。

1)重症:穿孔(穴が開く)、中毒性巨大結腸症(腸が麻痺し薄くなって穴が開く寸前の状態)、
大量出血、腹痛や発熱を伴うような全身状態の悪い状態。

2)癌:発症後10年で2%、30年で18%に癌を合併するといわれています。
癌のもと(dysplasia:異型腺管)があった場合も、癌に近い組織型の場合は手術を選択します。

3)難治:内科治療の効果がないか、一時よくなってもまたすぐ悪くなる方。
頻回の入院、通院で日常生活に著しい支障のある方。
ステロイドを大量に(プレドニゾロン10000mg以上)使用している方(副作用が出現する)、
手術で改善が期待される腸管外合併症のある方(壊疽性膿皮症、成長障害など)。
難治の手術適応はすべての方に共通ではなく、各々の病気の程度、生活の状態から総合的に判断します。

2.手術の方法(手術術式)

「潰瘍性大腸炎に対する手術」の標準的な方法は、大腸全摘術(大腸をすべて取る)、
回腸嚢肛門(管)吻合術(小腸とおしりをつなぎなおす)、です。
(ただし、つなぎなおすことができない場合や、手術を2回以上に分ける(分割手術)こともあります)


1)大腸全摘術
大腸は原則として全部とります。特に右側の大腸には一見病気がない場合があり、
昔は大腸のいい部分は残して、悪い部分だけをとる手術をおこなっていました。
しかし、結局残した大腸がすぐに同じように悪くなることがわかってきたため、
現在ははじめから全部とるのが標準的な方法です。

2)回腸嚢肛門(管)吻合術
大腸をとったあと、小腸と肛門をつなぎなおします。この時、端と端で直結すると、
ためておく機能がないため、頻便や漏便が著しくなります。このため、便をためる働きを期待して、
小腸で袋を作り(小腸の終わりのほうを回腸といいますので、この袋を回腸嚢とよんでいます)、
その袋と肛門をつなぎます。当科ではJの形をした袋を作っています(J型回腸嚢)。
術後しばらくは、つなぎめを保護するために肛門から回腸嚢の中へ管を入れておきます。
便はくだから袋にでていくよう になります。
おしりの穴と直腸(大腸の最後の部分)の間には、肛門括約筋で囲まれた、
おしりを閉める働きをする部分が3〜4cmくら いあり、ここを肛門管といいます。
厳密には大腸の組織はこの肛門管の真ん中あたりまであります。
この肛門管を残すのが「肛門管吻合術」、肛門管の真ん中まで大腸の組織を全部取り除くのが「肛門吻合術」です。
当科では主に「肛門管吻合術」を行っています。
肛門吻合術に比べて、縫合不全(つなぎ目のもれ)が少ない、人工肛門を作らない1期手術の選択の幅がひろがる、
肛門機能がよい(漏便が少ない)、とされています。一方、厳密には肛門管の中に大腸の組織がわずかに残るため
、 理論的にはその部分の炎症の再燃や発癌の危険性があります。ただし、同部に癌が発生した例は非常に少なく
(論文で報告がなされる程度)、現実的には残った大腸の組織が問題となることはほとんどありません。

3)人工肛門造設、分割手術
上記の手術を条件(全身状態、それまでの治療内容、直腸肛門の病変の程度など)がよければ1回で行います(1期手術)。 しかし上記条件が悪く、縫合不全(縫い目のもれ)の危険性が高い場合は、2回(もしくは3回)に分けておこないます(分割手術)。分割手術では一時的に人工肛門が必要です。 人工肛門とは、腸をおなかに引っ張り出して縫い付けるもので、便がおなかから出てくることになります。通常3〜6ヶ月後に次の手術をおこない、原則として最終的に人工肛門は閉じることができます。 なお、1期手術で縫合不全となった場合も再手術で人工肛門をつくる必要があります。

4)腹腔鏡補助下手術
上記の操作の一部を、腹腔鏡を併用しておこなうことで、傷の大きさを小さくすることができます。 きずの大きさは、通常の開腹手術で中下腹部正中10〜15cmくらい、腹腔鏡補助下手術で正中7〜8cm+小さなきずが数か所となります。初回手術で、かつ条件のいい場合に、大腸の剥離授動などに併用しています。

3.手術後の経過

術後1週間は絶食です。その後肛門に入れた管から造影剤を入れてつなぎ目の状態を確認します。問題がなければ食事を開始します。流動食から、3分粥、5分粥、全粥と2日ごとに変更していき、全粥摂取が問題なければ退院です(退院後は通常の食事でかまいません)。腹部の管(ドレーン)、肛門の管はいずれも術後10日目ころに抜きます。順調にいくと術後約2週間で退院となります。 退院後は普通に日常生活をお送り下さい。職場復帰は業務内容によりますが、退院後2〜4週間くらいの自宅療養ののち復帰されるかたが多いです。術後の排便について、小腸の袋で代用はしていますが、大腸がないのでやはり頻便や漏便(しみ)が残ります。程度は、便の回数は平均6〜7回、漏便(しみ)は数%です(術直後は便回数10回程度で瘻便ももっと多いです)。回数だけみると潰瘍性大腸炎が悪いときと変わらないと思われるかもしれませんが、術後は規則的になり、がまんもできますし、腹痛や出血も伴いませんので、ほとんどのかたは日常生活に差し支えない状態になります。術後数ヶ月間少量の出血を伴うことがありますが、縫合部からのにじみですので心配ありません(自然に消失します)。

4.合併症

手術自体に問題がなくても一定の割合で合併症がおこります。下記が代表的なものですが、他の合併症もあります。

1)出血〜輸血の可能性があります(数%)
2)感染症(創感染、腹腔内骨盤内感染、その他)
3)縫合不全(5%前後)〜再手術、人工肛門造設
4)腸閉塞(7%前後)(術後腸管麻痺、癒着)
5)手術時周囲臓器損傷(小腸、尿管、神経、血管、女性では卵巣、卵管、膣など)
6))長期的な問題点〜回腸嚢炎(要治療10%前後)、痔瘻(4%前後)、上部消化管病変(極めてまれ)

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Crohn(クローン)病の手術

Crohn病の治療において中心となるものは、薬物療法、栄養療法などの内科治療ですが、
年間36%のかたがなんらかの手術を必要としており、手術も常に考慮すべき重要な治療法のひとつです。
以下にCrohn病に対する手術の概略を紹介致します。

1.手術を行う理由について(手術適応)

手術は、内科治療が無効の場合や、生活の質(QOL)を改善したい場合に行います。
Crohn病に対して手術を行う理由(手術適応)としては、腸管合併症である以下の病態があげられます。

1)狭窄、閉塞(せまくなること、つまってしまうこと)
もっとも多い腸管合併症です。むくみによる狭窄(浮腫性狭窄)は薬剤で改善の余地がありますが、
潰瘍の後の引きつれによる狭窄(瘢痕狭窄)は内視鏡での拡張術や手術が必要です。

2)瘻孔、膿瘍 (腸と他の臓器の間に穴ができてつながってしまうこと、膿がたまること)
お腹から便がでてくる腸管皮膚瘻、お腹の中で他の臓器へつながる腸管腸管瘻、腸管膀胱瘻などがあります。
途中で膿がたまると膿瘍とよばれ、発熱や炎症反応高値の原因となります。
瘻孔があったらすべて手術というわけではありませんが、脱水、電解質異常、感染症など、
他の異常をともなう瘻孔は手術適応です。

3)大量出血
内科治療をしても大量の出血が続く場合は出血部の病変を切除する必要があります。

4)穿孔(腸に穴が開くこと)
穿孔をおこすと腹膜炎となり(腹部の激痛、発熱)、緊急で病変腸管の切除とドレナージ(お腹の中の洗浄)が必要です。

5)癌合併
小腸にも癌はできますが、大腸に多く発生します。Crohn病でよくみられるものに痔瘻癌があります。
癌の診断になったら切除が原則です。

6)肛門病変

7)その他

2.手術の方法(手術術式)

腸管病変に対する手術には以下のものがあります。術式や手術の範囲は個々の病態によって判断します。
アプローチの方法としては開腹手術と腹腔鏡補助下手術があり、これも病態により選択します。

1)腸管切除
2)狭窄形成術
3)バイパス術
4)人工肛門造設術
5)その他

通常Crohn病に対する開腹手術は、将来的に複数回の手術を要する場合もあり、
その都度病変部位に近いところで開腹すると多数の創になったり人工肛門が必要となった場合の
障害になったりするため、原則として正中切開(お腹のまんなかを縦に切る)でおこないます。
回腸末端から盲腸の病変の場合(Crohn病の病変の一番多いところ)では、臍から下の下腹部の縦の
切開となります。病変の部位により頭側に切開を延長する必要があります。

3.手術後の経過

腸を縫った場合は術後5日〜1週間は絶食です。その後問題がなければ食事を開始します。
つなぎめの確認の検査をする場合もあります。流動食から、3分粥、5分粥とし、全粥で退院です。
順調にいくと術後約2週間で退院となります。
退院後は生活の制限はほとんどありません。普通に日常生活をお送り下さい。
食事は手術後としては、消化の悪いもの(海藻、こんにゃくなど)は控えたほうがいいようです。
また、手術をしても残念ながらクローン病自体が根治するわけではないので、
クローン病の食事(低脂肪、低残渣)を中心とし、栄養療法(エレンタールなど)や
薬物療法(ペンタサ、イムラン、レミケード、他)などの寛解維持療法が引き続き必要です。

4.合併症

1)出血〜輸血の可能性があります(数%)
2)感染症〜創感染など
3)縫合不全〜再手術、人工肛門造設が必要な場合もあります
4)腸閉塞
5)手術時周囲臓器損傷(小腸、尿管、神経、血管、女性では卵巣、卵管、膣など)
6)その他(予測されない合併症については適宜説明を追加致します)

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seton(シートン)法〜Crohn病などに合併する痔瘻の手術


1.痔瘻、肛門周囲膿瘍とは

肛門内からその周囲に菌が入ることにより炎症反応(赤く腫れて熱を持って痛くなるような反応)をおこすことがあります。 これが持続すると、やがて膿のたまりとなります(肛門周囲膿瘍)。さらにたまった膿が肛門周囲の皮膚や会陰部、膣などに破裂して通り道をつくってしまうと、 慢性的に膿が出続けるようになります(痔瘻)。

2.通常の痔瘻と、Crohn病の痔瘻の違い

通常は、大腸粘膜と肛門皮膚の境目から菌が入り、痔瘻となります。このようなものには、 痔瘻の通り道(瘻孔といいます)が一直線で単純なものが多く、瘻孔をすべて取り除いてあげることによって根本的な治療ができることがあります。 一方、Crohn病の痔瘻は、Crohn病による裂孔、潰瘍から菌が入ることによって起こるので、あらゆる場所から起こり、広がり方も複雑になっています。

3.手術について

まずCrohn病の治療薬や抗生物質などにより治療を行いますが、膿のたまりや通り道ができあがってしまうと薬の効果は期待できず、手術が必要となります。 通常の痔瘻には、前述のように瘻孔をすべて取り除く根治手術ができる場合もあります。しかしCrohn病の痔瘻は痔瘻の入り口、体内の広がりとも複雑なものが多く、根治的にすべてを直すことはできません。 そのため、手術ではまず膿のたまりを開放し、たまっていた空間、通り道を掃除します。複雑に入り乱れた瘻孔を一度にすべて取り除くことはできませんので、次にこれを単純化するための操作をします。 具体的には、肛門からの入口と皮膚の出口にひも(プラスチックやゴムのひもを使用します)を通します。皮膚の出口同士でひもを通すこともあります(平均4本留置しています)。 これにより膿は体内で広がることなくひもに沿って体外に排出され、ひも以外の部分の炎症がおさまります。このような、掃除をしてひもを通す手術のことを「シートン(seton)法」といいます。

合併症としては、出血、疼痛、肛門機能障害(根治術よりはリスクは少ないです)、 痔瘻増悪(肛門手術だけでは十分な改善がえられない場合があります)、他。

4.術後経過

数日で食事を再開し、出血がなく、痛みがある程度落ち着けば術後4~5日で退院となります。 炎症が完全に落ち着いたら外来でひもをとりますが、はやめにとってしまうと再燃してしまうため、 数ヶ月間留置しておくことが多いです。ひもを入れたまま生活しますが、慣れると見た目の印象ほど違和感はなく、 生活への支障はほとんどありません。ただし、ひもがありますから排膿は続きます。 改善とともにほとんど出なくなることも多いですが、ガーゼや生理用ナプキンを使用することもあります。

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