Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS)のサブスタディ

異脂血症(TG>150mg/dl, HDL-c<40mg/dl)には心血管イベント一次予防でも効果 atherosclerosis vol200 p.135-140 (September 2008)

2008-11-16

一次予防群で脂質異常症という言葉を生み出した中核である高中性脂肪血症でかつ低HDLコレステロール血症である患者について、JELISのサブスタディーが出された。該当者はHR1.71(95%信頼区間 1.11-2.64, p=0.014)と心血管事故を多く発症した。介入群と対照群は500名程度とすくなく、事故発生者がグラフで示され細かい数字が省かれているのだが 介入群5%弱と対照群2%強であった。下記に述べた全体よりも高い心事故率があり、検出率が高いのも相俟って、投与群はHR0.47 (95%信頼区間0.23-0.98, p=0.043)と予防効果が高かった。
危険因子の集積により心血管イベントが集積する事が再度示された。胴周囲径のみに拘泥するのではなく、危険因子集積に着目すべき事があらためて判った。そして、EPAに対する介入の中核は、エパデールが抗血小板剤である前に、魚油投与により改善する対象の中核である、高中性脂肪血症の患者のうち、危険因子が集積した低HDLコレステロール血症の患者に絞られることが明らかになった。
この群は、男性が半分を占め、他の危険因子も集積した、マルチプルリスクファクターの状態である。結果として、NNTも50名程度であり、薬価の高さがあっても1次予防である事を鑑みれば今まで出された日本人を対象とした研究の中で一番割が良い。


多価不飽和脂肪酸の投与による心不全患者の予後改善効果 GISSI-HF@Italy

2008-10-10

Lancet Vol. 373 p1223

今回は1gのPUFAサプリ製剤としては規格がはっきりしない(850-882mgのEPAと残りがDEAで足して1g)を、3529名の投与群と3517名の対照群に分けて中央値で3.9年観察した。総死亡で、投与群955名(27%)に比し対照群1014 名(29%)[HR 0.91 (95.5% CI 0.833-0.98), p=0.041]。総死亡ないし心血管事故による入院で、投与群1981名(57%)に比し対照群2053名(59%)[HR 0.92(99% CI 0.849-0.999), p=0.009]。予後改善効果を認めたが、心筋梗塞などの細分化した検討では明らかな差は示されなかった。
一方、HMG-CoA還元酵素阻害薬のロスバスタチン(商品名クレストール)の投与は予後の改善効果をみなかった[HR=1.00, p=0.943] (Lancet Vol. 373 p1231)


JELIS & MEGA : EPA & statin

H17.11/18

 まずは、常識通り、魚油を精製し抗血小板作用のあるEPA(エパデール™)とHMG-CoA還元酵素阻害薬(メバロチン™)による動脈硬化の予防試験が、「投薬群で有効」という結果を出した。

 良かった結果については、殊更ここで述べなくても、会社(持田[pdf]、第一三共[pdf])が説明するので、動脈硬化の発症を追った研究として日本人(東アジアの黄色人種)での心血管イベントの数がでたという点を書いておく。

 JELISではHMG-CoA還元酵素阻害薬単独群の一次予防で 1.7%であった。介入群では1.4%(HR:0.82,95%CI:0.63-1.06,p=0.132 , n=14,981例)有意差はでなかったが、2次予防の検討では結果をだしている(対照群3.5% vs EPA群2.8%,HR:0.81,95%CI:0.69-0.95,p=0.011)。MEGAのHMG-CoA還元酵素阻害薬投与群でも1.5%程度の発症率であった(後日正確な数字を入れる)。J-LITと合わせて、HMG-CoA還元酵素阻害薬治療中の患者では3名/千人年の冠疾患が発症する事が判った。

MEGA studyのHMG-CoA還元酵素阻害薬非投与群では、冠疾患で2.8%、冠疾患+脳梗塞で4%の発症をみたので、概略で4.5名/千人年の冠疾患が、7名弱/千人年の冠疾患+脳梗塞が発症する事が判った。
これはJ-LITでは判らなかったポイントである。色々な住民コホートでは日本で1名/千人年の冠疾患発症があると思われているので、高脂血症の患者では必要な薬HMG-CoA還元酵素阻害薬を投与するベキであろうと思われる。特に糖尿病ではJDCSで見られる様に著しい心血管イベントを示すので、必ず投与となろう。
何人に投与すると1名の発症が抑えられるかという検討(number needed to treat : NNT)をMEGAで行うと 冠疾患でNNT=119、冠疾患+脳梗塞でNNT=91であった。米国の正脂血症(そう高くない患者)を扱ったAFCAPS/TexCAPSでのNNT=54[pdf]を考えると、如何に日本人で「冠疾患が起こり難いか」という事になる。
ちなみに米陸軍病院のJeziorはAHA2005で9.11テロ後、50歳以上の現役の米軍の急性心筋梗塞発症数が、2.78/千人年から4.49/千人年に増加したと述べている。MEGAの数字はすべての冠動脈イベントであり、Jeziorは再還流の件数は3.91から5.65に増えたとしているので、全イベントはさらに多いと思われる。

「なんパーセント予防できたか? vs 幾らで人の命が買えたか?」

 費用対効果の検討が今後の課題になる。100名の患者にメバロチン™を投与すると10mg 1錠 145.50円を365日に投与して531万750円かかる。カテーテル治療の入院で150万円、バイパス手術で250万円しか掛からないことを考えると、あとの300-400万円が安心料という事になる。倍の発症率で倍の医療費の米国ではHMG-CoA還元酵素阻害薬は多いに投資に対する回収がとれる良い薬になる。心筋梗塞にならなかった、脳梗塞で介護が不要になった。そういった値段のつけにくい「コスト」を幾らと見積もるかが悩みになろう。

ぎゃくに言うと プラバスタチン錠の適正価格は10mg40円か?
そうするとPTCAの値段とトントンになる。

次はJ-STARS(脳梗塞の再発予防)(追記2016年有意差なし
[H17.11/21追記]
天ぷら(アメリカの揚げ魚と日本の魚摂取量)


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