若年発症虚血性心疾患患者の特徴について

平成11年4月1日 日本内科学会ポスター展示 於:東京国際フォーラム

【目的】若年者と高齢者の間に虚血性心疾患における 危険因子の違いがあるかを解析した。

【対象】1994年以降1998年までに、東京大学第三内科にて虚血性心疾患(IHD)の診断治療を目的に心カテーテル検査を施行された225例(男性182例、女性43例)について、対照群450例(男性364例、女性86例)と比較検討した。

対照群は、虎の門病院の人間ドック2113名と八丈島の住民健診699名に乱数をふり、年齢と性をマッチさせて、少ない乱数のものを1名ずつ抽出した。

【方法】連続変数に関してはun-paired T検定で対照群と比較した。

 名義変数については、従属変数として、虚血性心疾患の有無をとり、独立変数として、高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満、重複した危険因子の数を使用したロジスティック解析を行った。

【定義】IHD群を年齢で4分割すると、第1四分区間は56才、中央値63才、第三四分区間70才であった。56才未満の者を若年群、70才以上の者を高齢群として比較した。

 高血圧については、投薬の有無と米国合同委員会第六次報告の基準(JNC-VI) でStage 2以上(収縮期血圧160mmHg以上、若しくは拡張期血圧100mmHg以上)

を高血圧と定義した。糖尿病については薬物療法中かHbA1c≧6.0%または75gOGTT糖尿病型を基準とした。投薬中または動脈硬化学会ガイドラインを基準とした高脂血症例とした(総コレステロール≧220mg/dl, 中性脂肪≧150mg/dl, HDLコレステロール<40mg/dl)。肥満はBMI≧26kg/m2とした。

【結論】

(A)高血圧:56才未満では、IHD 137±23 mmHgに対して、対照では126±17 mmHgであり、有意に虚血性心疾患患者で収縮期圧が高かった。拡張期圧は差がなかった(IHD;79 vs 対照 81 mmHg、N.S.)。70才以上では収縮期圧に差は見られなかった(IHD;144±23 vs 対照;139±23 mmHg、N.S.)が、収縮期圧が有意に虚血性心疾患患者で低く(IHD;74±12 vs 対照;78±10 mmHg、p<0.05.)、脈圧が拡大していた。なお、IHD患者の80%近くに降圧薬が投薬されていた。高血圧の相対危険度は、56才未満では6.7(95%信頼区間 2.9~15.8)に対し、70才以上では4.8(95%信頼区間 1.9~12.1)になっていた。

(B)糖尿病 年齢を問わず、IHD群で空腹時血糖が高く(56才未満: 115 vs 92、70才以上: 119 vs 96, P<0.001)。HbA1cも高い傾向を示した(56才未満: 5.86 vs 5.39、70才以上: 6.16 vs 5.86)。糖尿病の相対危険度は、56才未満では6.1(95%信頼区間 2.1~17.7)に対し、70才以上では3.0(95%信頼区間 1.4~6.8)になっていた。

(C)総コレステロールについては、56才未満では差がなかった(IHD 210±41 vs 対照 208±37mg/dl, N.S.)70才以上では対照の方が高値であった(IHD 195±39 vs 対照 213±38 mg/dl, p<0.05)。HMG-CoA還元酵素阻害薬の投薬は、虚血性心疾患患者の30%の患者に行われていた。

 高中性脂肪血症/低HDLコレステロール血症の傾向が各年代で認められ、若年者では特に差が著らかであった。中性脂肪は、56才未満(IHD 221±212 vs 対照 140±97mg/dl, p<0.001)、70才以上では(IHD 132±110 vs 対照 113±72mg/dl, N.S.)であり、HDLは56才未満(IHD 42.9 ±11.4 vs 対照 53.7±14.4 mg/dl, p<0.001)、70才以上では(IHD 49.3±16.6 vs 対照 54.4±14.4mg/dl, N.S.)であった。高脂血症の相対危険度は、56才未満では1.78(95%信頼区間 0.76~4.20)に対し、70才以上では1.14(95%信頼区間 0.54~2.41)になっていた。多変量解析を行うと、高血圧や糖尿病の影響を受け、単独での危険率は有意では無くなっていた。

(D)肥満:56才未満では、IHD 25.7±4.6kg/m2に対して、対照では23.9±2.8kg/m2であり、有意に虚血性心疾患患者で肥満傾向をしめしたが、70才以上では差は見られなかった(IHD;23.0±2.7 vs 対照;22.6±3.1kg/m2、N.S.)。相対危険度も、56才未満では有意であったが(相対危険度;3.02(95%信頼区間 1.31~6.05))、70才以上では有意では無くなっていた(相対危険度;0.53(95%信頼区間 0.20~1.48))

(E)危険因子の重複は、56才未満(IHD 2.51±2.38 vs 対照 1.35±1.03, p<0.001)、70才以上では(IHD 2.20±1.02 vs 対照 1.60±1.05, p<0.05)であり,

IHDの4割から5割が3個以上の危険因子を重複していたのに対し、対照では危険因子が1つ以下なのが半数強、2つまでを含めても8割強と、危険因子の重複している例は少なかった。危険因子1つあたりの相対危険度の上昇は、56才未満では3.19(95%信頼区間 2.13~4.78)に対し、70才以上では1.74(95%信頼区間 1.25~2.42)と、危険因子の与える影響は、若年者に強く現れていた。

【結論】56才未満での高血圧,糖尿病と危険因子集積は極めて強い冠危険因子であった。肥満も56才未満では危険因子であった。全般に高中性脂肪血症/低HDL血症を示し、若年者でその特徴が強く現れた。Multiple Risk Factor Syndromeの特徴が、若年者の虚血性心疾患患者に強く認められた。危険因子が累積した場合もより強く作用していた。

 一方高齢者では、全身の動脈硬化の進展を反映してか、脈圧の拡大が虚血性心疾患群で認められた。糖尿病も強い危険因子であった。50才未満では3名のみだった女性が、70才以上では、19名(35%)と多く、閉経後に動脈硬化が進展することが観察された。

 危険因子の保有数はどの年代の間でもIHD群が多かった。3つ以上の危険因子を重複する者が、約半数弱を占めていた。

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