会長挨拶

新型コロナウイルス感染症の拡大は、子どもたちの生活にもさまざまな影響を与えました。流行下で小学校に入学した子は、友人のマスクをした顔しか思い出せないかもしれません。「3密の回避」「不要不急の外出自粛」などの行動制限によって、他者との触れ合いや、公園などで遊ぶ経験も極端に減少。長引く休校に加え、社会全体の不安感は子どもたちにも伝わったのではないでしょうか。

新しい感染症の流行前と比べて、さまざまな制約の中で育つ子どもたちに、どのような影響が出てくるのか。今後、どのように経験を補い、見守っていくのか、私たちは大きな課題に直面しています。社会活動の制約は、生活基盤の脆弱な家族に影響を与えました。コロナ禍で仕事を失った保護者と、学校に登校できない子どもが家にこもり、虐待が顕在化するケースも少なくありません。

このような時期だからこそ、近畿地区の小児科医が一堂に会し、コミュニケーションをはかりながら、子どもたちの未来を考える。そんな学会にしたいと思っています。

今回の学術集会の柱となるのは、四つの教育講演です。一つ目は「子どもの安全を守るー社会医学の視点からー」。滋賀県では、「予防のための子どもの死亡検証(CDR)モデル事業」に取り組んでおり、県内で死亡した子どもの死因の検証を進め、提言をまとめています。この事業の中心となる「滋賀県CDR推進会議」の会長を務める滋賀医科大学社会医学講座の一杉正仁氏に、これまでに得られた知見を報告していただきます。

二つ目が「感染症診療の基本2023ー肺炎を中心に」。今後も流行するであろう感染症から、子どもたちを守るための方策について、兵庫県立こども病院感染症内科の笠井正志氏に話を聞きます。

三つ目と四つ目が、医療安全の観点から「鎮静のこつと教え方」「小児輸液のトリセツ」。子どもの検査には欠かせない鎮静を小児科医が手掛ける際のコツや注意点について、大分こども病院院長の久我修二氏が解説。小児輸液の考え方を、国立成育医療研究センター集中治療科の加藤宏樹氏に学びます。

他にも、時流に即したテーマで開催される共催セミナーや、日本小児科学会の男女共同参画推進委員会の企画、実際の臨床現場からの知見を共有できる多くの一般演題など、充実したプログラムとなりました。

学術集会のキービジュアルは、姫路市立美術館名誉館長で、私の長年の友人でもある絵本作家・永田萠さんに描いていただきました。

現地で集うのは、実に4年ぶりです。小児医療に取り組む仲間との活発な議論を楽しみにしています。

  • 第36回近畿小児科学会
    会長丸尾 良浩
    (滋賀医科大学小児科学講座)