公益財団法人一新会の前身である財団法人一新会は石原色覚検査表の改良、色覚研究の助成、眼科学の奨励および国字の改良を設立目的として昭和36年に設立されました。こうした設立目的のなかで世界において先天色覚異常の標準検査表として、また我が国発の知的財産でもある石原色覚検査表の維持、改良が財団の大きな目的でありました。このような経緯のもと当財団法人は平成24年4月の公益財団法人としての認定を受け、あらたに発足を致しました。この公益財団として一新会は石原色覚検査表の改訂版を作製するとともに色覚に関する助成、啓発および色覚異常のバリアフリーの推進に努めております。
色覚は光覚および視力とともに視機能の三要素であり、個人の色覚特性を判定することは個人のみならず社会にとっても重要な意義を有しています。石原色覚検査表は仮性同色理論に基づく検査法(色覚異常者が判読し難い色および色覚特性に基づく検査法)として大正5年(1916年)に日本眼科学会雑誌に報告され、1917年に海外で使用されるに至りました。当時、すでに原理、方法を異にする多くの色覚検査法があるなかで、その優れた検査能力が認められ第14回国際眼科学会(昭和8年、1933年)において色覚検査法として石原表、Stilling表、ナーゲルアノマロスコープを採用することが決議されました。現在も各国の教科書などで色覚検査表の代表として引用されています。したがって、色覚検査表で使用される色およびその微妙な配列、組み合わせを維持することは検査表の特性ならびに性能・精度を維持、向上のために極めて重要であり、当財団法人の大きな責務となっております。
加えて、色覚研究および眼科学の発展にも貢献することを財団の使命として研究助成等にも努めてきております。一方で国字研究に関しては財団の他の目的とは異質であること、社会的要請・背景の変化などから研究の意義の検討を行い、平成18年に寄付行為(財団運営の基本)の改正を行い、寄付行為から外すことと致しました。その一方で社会における色覚および色覚異常に関する啓発事業への積極的支援を推進することと致しました。すなわち、社会において色情報が頻用されるとともに、色覚のバリアフリーの重要性が認識されるようになっていますが、色覚異常に対する知識の欠落または色覚に関する誤った知識、理論に基づく対応が混在しているのが現状であります。したがって、色覚異常の有無を正しく判定し、そのうえで色覚の異常、正常者が共に共有できる色情報の扱いならびに科学的に正しい知識の上に成り立つ真のバリアフリーが重要であると認識しております。
石原色覚検査表は前述のごとく色覚の正常・異常の判定に優れており世界における標準検査法となっていますが、逆に多くの違法コピーが出回っているのも事実であります。網膜には色覚を認知する3種類の錐体細胞があります。これらは長波長(赤)、中波長(緑)および短波長(青)感受性錐体です。石原色覚検査表の特徴の一つに先天色覚異常では青錐体が正常であるため青色の認識度が良好であることを利用して、正常色覚には認識できないが、先天色覚異常者には認識できる検査表が含まれております。これは色覚異常者が正常色覚者とは異なる面での色彩感覚を有していることを、検査表をとおして明らかに知らしめるものとして海外では Hidden plate(数字が隠されているという意味)と呼称され、高く評価されております。これは実社会では空から森をみると正常色覚者には判別できない物体を正常色覚と異なる色覚を有する人には判別がつくということがあります。
石原色覚検査表の基本である仮性同色理論では色覚の生理機能に基づく微妙な色の配列が重要であり、微妙な色の配色および取扱いが検査表としての精度に直結しております。従来の石原色覚検査表の各表の性能の検討をもとに、さらに検査精度を高めるために平成24年3月に一部の検査表のかわりに環状表を加えた石原色覚検査表 II に全面的に改訂を行いました。また、海外版としてIshihara Test for Colour Deficiency: Official Version を刊行いたしました。石原色覚検査この微妙な配色は印刷に使用するインクの管理を測色計によって行うことでのみ可能であり、カラーディスプレイなどの発光画面での再現は不可能であります。我国発でかつ、全世界で使用されている「石原表」、「ISHIHARA TEST」の名称の登標登録を行い石原色覚検査表のオリジナリティを明確にすることを致しております。
一方で、石原色覚検査表を中心に臨床で使用されている色覚検査は心理物理学的検査法として分類され、色覚の認知の状態を具体的に明確にすることでの難しさがあります。色覚の研究には遺伝子型と表現型との関係や波長別感度閾値の測定など、学問的に未だ解明されていない、または臨床的に応用可能なレベルに到っていない分野が存在します。こうした人間の色認知の問題について当公益財団法人での学術研究として現時点で学術的に解明されている事項を網羅、検証し、先天色覚異常の型と程度に関する4つの分類(1型2色覚、1型3色覚および2型2色覚、2型3色覚)を臨床的に判別可能にする臨床的検査法、すなわち新たな色覚検査法として「色覚検査装置およびプログラム」との名称での特許を取得しました(特許第6344676号)。本装置は個人の色の識別を明確にすることが可能となる波長弁別閾値測定を可能にするものです。装置についてはJapanese Journal of Ophthalmology 2023年67刊(353–360頁)に掲載され世界に向けて科学的知識の発信となっております。本装置の開発をとおして今まで研究が不十分であった正常人の色覚に関する生理学の発展に貢献し、臨床の領域では先天色覚異常および加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症などの後天色覚異常の評価が可能になります。当公益財団法人は色覚に関する学術的進歩および正しい知識の啓発に貢献するべくさらに努めて参ります。
その事業として大正5年(1916年)に石原色覚検査表が日本眼科学会雑誌に掲載されその前後から今日まで色覚検査法についての論文および検査表が発表されてきています。これらの論文にはドイツ語、日本語、英語のものがあります。現在、科学論文は英語が主体であるためドイツ語、日本語の論文は石原色覚検査表のように優れた検査法として世界で評価され、使用されていますが、原著論文が日本語であるためその開発理論、経緯は世界的に理解される状態にありません。そのため当公益財団の公益事業1(色覚の研究)として令和3年度から100年以上にわたる色覚検査、論文の集積をはかり令和6年度にReview articleとしてJapanese Journal of Ophthalmologyに(Sawa, M. Principal test for color sensation: clinical aspects. Jpn J Ophthalmol. 2024; 68: 259–92.)掲載いたしました。
石原色覚検査表は大正5年の石原先生の日本眼科学会会誌ではひらがなの表が掲載されており。翌年、世界で使用できるように数字の検査表に改変されたことなど大変興味深いものがあります。
また、毎年の日本眼科学会総会において厚生労働省の後援のもと一新会セミナーを開催し、令和6年度は第16回を開催するとともに色覚に関して研団体への研究助成ならびに文化事業への助成も行ってきております。
令和6年10月
公益財団法人 一新会
理事長 澤 充