GPLLIのミッション

ライフイノベーションを先導する理系のリーダーを養成

研究室の成果を医療現場へ

 日本は世界に先駆けて少子高齢化が進行し、医療費の拡大や医療供給体制などの課題が山積しています。その解決策を提供するとともに、医療・介護・健康関連の新産業を育成することで、新たな雇用を創出する切り札としてライフイノベーションへの期待が高まっています。特に医薬品・医療機器や再生医療などの世界最先端の医療技術を実用化することは、国際的に競争力のある産業を育てるだけでなく、その成果によって国民の医療・健康水準の向上に寄与することが期待されています。

 ライフイノベーションを実現するためには、その礎となる生命科学分野での技術革新が不可欠です。東京大学でも日々数多くの「知」が生み出されていますので、私たちは優れた研究成果を実用化させることで、一日も早く患者さんの診断や治療に役立てて参りたいと願っています。

 ただ、大学を起点にして最先端の治療法を開発をしていくのはそれほど簡単な事ではありません。まずは学内でも研究分野の垣根を超え、それぞれの優れた「知」を持ち寄って統合していく必要がありますし、患者さんや医療現場の協力も不可欠です。しかも大規模な研究開発や製造・販売を行なうためには、産業界にも協力を仰ぐ必要があります。しかも、「どのような診断法や治療法が患者さんや医療現場、市場で求められているか」という点を正確に把握しておかないと、全く売れず、患者さんにも使われない「無用の長物」を創り出してしまいます。大学研究者が「象牙の塔」に閉じこもって、自己満足の研究だけをしていては実用化への道のりは険しいことはすぐにお分かりになるかと思います。

理系のリーダーを養成する

 そのような困難を乗り越えてライフイノベーションを実現するには強い推進力を持ったリーダーの存在が不可欠です。しかも社会のニーズを把握し、いろいろな分野の専門家の協力を得ながら、その「知」をまとめ上げる優れたリーダーが必要であると私たちは考えます。本プログラムではライフイノベーション分野での解決策を自ら考え、社会を先導していくような「理系のリーダー」を養成したいと考えています。

 このようなリーダーには高い視野で社会や経済をとらえる俯瞰力や高いコミュニケーション能力が求められます。しかも、リーダーと呼ばれるだけの高い見識も持ち合わせる必要があります。ただ、それだけでは「理系のリーダー」としては不十分です。軸足となる高度な「専門性」を持っていて初めて問題の全体像や本質を見通すことができ、他の専門家を納得させ、組織をまとめ上げるリーダーになれると私たちは考えます。

 このような「理系のリーダー」の活躍の場は大学だけにとどまりません。産業界で患者さんの福音となる医薬品・医療機器の実用化を先導する技術者・経営者になるケースもあるでしょうし、医療現場で患者さんのニーズを踏まえた研究や診療を行なう医師となるケース、医薬品・医療機器に関する政策や審査について国際的な方針をまとめる行政官や審査官になる人もいるでしょう。当然ながら研究のプロジェクトリーダーとして、優れた研究成果を創出し、実用化する事にリーダーシップを発揮することも期待されます。

 本プログラムでは、東京大学でライフイノベーションに関わる研究科である医学、工学、薬学、理学の4研究科が連携し、部局横断的な視点で教育に取り組むとともに、深い専門性とリーダーシップを身につける新しいリーダー教育カリキュラムを構築しました。

講義と現場、リーダーから学ぶ

 本プログラムに参加する学生はどのように「理系のリーダー」としての要素を学んでいく事になるのでしょうか。私たちは、まず医・工・薬・理という各研究科の学問体系を、生体の「計測」、「予測」、「制御」という切り口で再整理し、最先端技術に関する分野横断的な講義を行なうとともに、実践的な演習を行ないます。

 演習の中でも私たちが特に重視しているのはインターンシップです。学内では病院を含む異分野の研究室での共同研究や実習を行ないます。ただ、これは単なる「見学」にとどまらず、医療現場のニーズを主体的に探索したり、実用化プランを考えるなど能動的な参加を促す工夫をしています。更にグローバルCOEプログラムでも実績のあるハーバード大学やスタンフォード大学といった海外大学や医療機関、国内外の製薬企業・医療機器企業、官公庁でのインターンシップに参加することで、多様な価値観に触れ、高い行動力と実践力を培っていきます。このような他流試合を繰り返すことで、グローバルに戦うことができる「タフな東大生」を養成したいと考えています。

 講義やインターンシップでの経験とは別に、リーダーとなるためには「心・技・体」の充実が求められます。「体」の面で健康がリーダーの前提となることは論を待ちませんが、本プログラムでは特に「技(スキルセット)」と「心(マインドセット)」の2つを伸ばしていきたいと考えています。リーダーは複雑に入り組んだ問題の本質を見抜き、適切な解決法を組織に伝えていく事が求められます。私たちは「技」の中でも「考えて解く力」、「コミュニケーション力」、「組織マネジメント力」に着目した講義を設定しています。その一方、「心」を学習するのは容易な事ではありません。そこで学生が大学、官界、そして産業界の第一線で活躍するリーダーと徹底的に議論する機会を設定し、リーダーとしての心構えや見識、そしてその迫力に触れて欲しいと考えています。

 昨今、産業界や官界が求める人材と大学で育成される理系人材との間でのミスマッチが指摘されています。本プログラムではアンケート調査によって産・官が人材に求める要素を把握し、そのニーズを踏まえた教育を実践することで、博士課程卒業生のキャリアパスを拡大させたいと考えます。「理系のリーダー」としての資質を持つ人材を社会に輩出する新たな大学院教育の体系を作り上げ、ライフイノベーションの実現に人材面から貢献していければと考えています。