ご挨拶

生理学研究所 池中 一裕教授
生理学研究所
池中 一裕教授

われわれの脳内には神経回路が縦横無尽に張り巡らされており、神経細胞間での情報伝達が脳機能発現に重要な働きをしていることは良く知られています。ところが脳内には神経細胞以外にもグリア細胞があり、これらも相互に連絡を取り合っていることは最近になって分かって来ました。この連絡は神経細胞間と比べて緩慢で、アナログ的交信を用いており、またその交信範囲は脳の特定領域全体に及ぶ広範囲なものです。われわれはこの巨大グリアネットワークを「グリアアセンブリ」と名付け、脳機能発現における役割を明らかにすることを目的としました。グリア間交信は神経活動がなくても自発的に起きるものであり、神経回路と連絡を取りながらも、神経回路とは独立して活動できます。そのためグリアアセンブリは神経回路の活性制御を通して、主体的に脳機能を調節している、ということも考えられます。これは今までにない概念で、ぜひとも本研究領域でその真偽を確かめたいと思います。

またミクログリアやアストロサイトなどのグリア細胞は発達過程において、シナプスの形成を制御していますが、シナプスが形成され刈り込みが行われる時期はグリアアセンブリが形成される時期と重なります。またシナプスの刈り込みは「臨界期」と深く関連しているため、グリア細胞がグリアアセンブリを形成して相互連絡することが、脳の発達過程においても極めて重要な役割を果たしていることが十分考えられる訳です。さらに、自閉症スペクトラムと統合失調症ではグリア細胞の増殖・分化期に一致してシナプス密度の異常が発生するため、グリアアセンブリは精神・神経疾患の発症にも深く関与する可能性があります。本研究領域ではグリアアセンブリの異常による病態を「グリア病」と名付け、それが精神・神経疾患の中でどのようなサブグループを形成しているのかも明らかにします。

この研究領域には計画研究代表者や分担研究者にいろいろな分野の研究者が参加しています。分子生物学、生理学、解剖学、薬理学、イメージング、精神医学、神経内科学などなど、極めて多種多様です。このため研究発表会では普段得られない情報を得られることが考えられます。この研究領域をさらに発展させるために、是非多様な分野からの公募研究者の参入を希望しています。特に、神経栄養因子などの液性因子を介したグリアーニューロンのコミュニケーション、また、グリアアセンブリの進化に関する研究及び遺伝子改変サルを用いた提案を期待します。また、将来性の高い斬新な研究を提案する若手研究者からの積極的な応募を期待します。
皆様とともに充実した研究活動を行いたいと思います。

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