研究室案内
オルガネラホメオスタシスを基軸とした感染および炎症制御の新戦略
炎症応答は、生体が外傷や異物の侵入、微生物感染などの刺激を受けた時に起こる反応で、病原体の排除や損傷組織の修復に重要な機構です。この炎症応答はマクロファージ、好中球、樹状細胞といった自然免疫担当細胞によって担われており、これらの細胞に発現するToll様受容体(TLR)をはじめとする自然免疫センサーによって刺激が認識されることで惹起されます。TLRからの炎症シグナルは炎症性サイトカイン、インターフェロンやケモカインの産生を誘導し、白血球の活性化や炎症組織への浸潤を促します。炎症部位に侵入した白血球は炎症の原因となっている異物を攻撃し排除します。
異物の排除が収束すると、損傷組織の修復が行われ炎症応答が終息します。通常、異物の認識・排除と組織修復の間にはバランスが保たれていますが、異物の排除がうまくいかなかったり、誤って自己の組織を攻撃してしまったりすると、炎症応答が過度にあるいは長期化します(=慢性化)。このように、組織の修復・治癒プロセスが長期化すると、正常組織はもとより、自己免疫性疾患やアレルギー性疾患をはじめとする様々な免疫難病や、がん、糖尿病などの生活習慣病)の病態に多大な悪影響を及ぼすと考えられます。
そのため、炎症反応の根幹を担う自然免疫細胞群の機能制御の基本原理の理解と、それに立脚した炎症制御基盤技術の確立が、先駆的な治療法の開発に不可欠です。
私たちは、そうした「炎症反応」に焦点を絞り、その分子メカニズムを理解することによって、新規治療標的を見つけ出し、炎症反応の制御に応用することを目指しています。
特に私たちは炎症反応を、細胞内の微小環境であるオルガネラの状態変化(homeostatic state ←→ inflammatory state)という新しい視点から捉え、その分子基盤に立脚した新しい炎症制御機構を明らかにし、炎症応答における素過程をリセットする新しい方法論を樹立するとともに、感染症および免疫難病の病態理解に革新的な展開をもたらすことを目的としています。
私たちの研究チームのプロジェクトは次の3つに大別されます。それぞれの詳細は研究内容の紹介をご覧ください。
1.自然免疫応答におけるsignaling endosome機能の制御機構とその役割
2.炎症応答におけるオルガネラホメオスタシスの制御機構
3.抑制性レセプターによる自然免疫応答の制御機構
これらに加えて、オルガネラを構成する膜脂質あるいは細胞膜上のマイクロドメインの脂質の構成・動態が免疫シグナル伝達にどのような影響を与えるのかについて研究を行っています(新学術領域研究;リポクオリティ)。