アビガンによるCOVID-19死亡率の上昇
―これで国と富山化学の敗訴は確定―
注意:このページは「ファビピラビル観察研究中間報告」が出た後、その報告書を参考に2020年6月に書き上げたもので、その当時のデータに基づいています。アビガンの毒性についてのより新しい情報は→こちらをご覧ください。
要約:「ファビピラビル観察研究中間報告」は、症状の軽重に関わらず、ファビピラビルを投与されたCOVID-19患者では、様々なヒストリカルコントロールに比して死亡率が上昇したことを示している。一方、死亡をエンドポイントにしたプラセボ対照試験は存在しない。すなわち、ファビピラビルが実際に日本の臨床現場で使った「ファビピラビル観察研究中間報告」は、これまでにこの薬剤について得られた中で最も頑健リアルワールドエビデンである。ここにアビガン薬害訴訟における被告の敗訴は確定した。
はじめに
2020年5月20日に公開された「ファビピラビル観察研究中間報告」(以下中間報告)には、「本観察研究はCOVID-19に対しファビピラビルが適応外使用された症例につき、その安全性と有効性を俯瞰する目的で行われている」とある。「検討」ではなく「俯瞰」とした理由は述べられていないが、確かに眺めただけで、ああだこうだと検討した形跡はどこにもない。つまり,「データは公開した。後は興味のある人間が自由に検討してよろしい」という意味と考え、以下、私なりに検討してみた。なお、報告中にはファビピラビルとなっているが、ファビピラビルを有効成分とする医薬品は日本ではアビガンのみであり、未承認処方で用いられたのは全てアビガンなので、研究成果を一般市民と共有しやすくするためにも、ファビピラビルの代わりに「アビガン」を用いる。
リアルワールドでアビガンを使用した貴重なデータ
個々のデータを検討する前に、この研究の意義とその背景を確認しておく。この研究の最大の意義は、通常の新効能効果申請のために行われる治験とは全く異なる。それどころか、他のいかなる観察研究とも異なり,研究という束縛を一切取り払った,実地診療そのものを俯瞰したところにある。そのため、外的妥当性は十分だが、内的妥当性には欠ける。確かにプラセボ対照のRCTのような、十分な妥当性を持った比較対照は設定できない。だからといって、対照群が存在しないわけではない。
たとえば、エボラウイルス感染症に対するアビガンの有効性を検討したJIKI試験では、historical controlを用いて、有効性が示唆され、最終結果はpeer reviewを経て論文にもなっている(PLoS Med. 2016;13(3):e1001967. doi: 10.1371/journal.pmed.1001967)。幸い、本研究は,日本だけではなく、世界中でCOVID-19が蔓延している最中に行われた。historical より遙かに妥当性の高いcontemporary controlがリアルタイムで得られる。以下に示すのはいずれも中間報告に掲載されている。以下の表の中で、それぞれ、軽症は酸素投与を必要としていなかった(830名、43%)、中等症は自発呼吸だが酸素投与を必要としていた(864名、45%)、重症は人工呼吸やECMO(ExtraCorporeal Membrane Oxygenation 体外式膜型人工肺)を必要としていた患者(224名、12%)である。
死亡率11.6%の衝撃
まず、転帰だが、何よりも衝撃的なのは、死亡率11.6%という数字である。1割以上の患者が死亡退院である。しかもこれは最終結果ではなく中間報告なのだ。増悪して転院した例や入院中の患者が死亡すればさらに死亡率は高くなる.一方、病気が治って退院した患者は半分にも満たない。軽快転院した患者も含めても6割に満たない.この表だけからでも、連日テレビに出演していたアビガンの広告塔も新聞のアビガンよいしょ記事も一斉に姿を消した理由がわかろうと言うものだ。「死の淵からの生還」は全て法螺話だったのだ。多くの一般市民はここで脱落し、もうアビガンのことなど忘れてしまうだろう。しかし、仮にも臨床研究の心得がある者ならば、そしてアビガンに一縷の望みを持っている人間なら、入院時の重症度と転帰の関係を知りたいと考える。それが次の表である。
軽症例・中等症例でも高い死亡率
悪夢のような数字である。死亡退院223名のうち、重症者は71/223=32%に過ぎない。死亡退院の半数の110名が入院時中等度、さらに死亡退院の2割にあたる42名が入院時酸素も必要としていなかった軽症の患者となっている。これが全てアビガンを投与された患者である。アビガンは重症者を救うことができないのはもちろんのこと、軽症者でも退院できたのは6割。中等症者の8人に一人,軽症者でも20人に一人は亡くなってしまうのだ。
いまだにアビガンが希望の星と考えている人は想像してみるがいい。(もちろん酸素など要らずに)歩いて入院した家族が,棺ではなく非透過性納体袋に入れられたまま,最期の対面もできずに直葬される光景を。私はこの中間報告結果を見る前も,もし家族がCOVID-19に感染した場合でも,決してアビガンを要求してはならないと申し渡すつもりだったが,このデータを見てからは,あらかじめ本人と私の連名で,如何なる場合でもアビガンを拒否する「非同意文書」を提出しておくことにした。アビガンのために家族を失ったなんて悔やんでも悔やみきれないではないか。
重症例の比率が高かった???←余りに楽観的な言い訳
ここで思い出してもらいたいのは、この研究は現実世界で行われたという点である。ではどういう現実世界かというと、多くの病院・診療所がCOVID-19の診療を拒絶する中で,COVID-19の患者さんを受け入れている全国407の医療施設である。特別に重症者ばかり集めているナショナルセンターだけではない。こうなると、もう、アビガンの有効性云々どころの話しではない。それ以前に,以下のような疑問が生まれる.
1.COVID-19とは、これほどまでに死亡率の高い病気だったのか?
2.この研究に加わった407施設は、何らかの理由で重症者の比率が非常に多かったのか?
3.あるいはもしやアビガンがCOVID-19の予後を不良にするのか?
といった可能性を考える必要がある。そこでリアルワールドに(歴史的はなく)同時期対照comtenporary controlを求めて考えてみる。
国内外のいずれと比較しても異常に高い死亡率
まず、1&2の疑問に対する答えだが、ここでは、新型コロナウイルス国内感染の状況(東洋経済オンライン)から対照(参照)となるデータを取得した。2020年6月9日時点での退院・療養解除者数14970名+死亡者数916名の計を15886名を分母、死亡者数916名を分子とすると、国内で入院したCOVID-19患者の暫定的な死亡率は5.8%となる(外来で診断され入院せずに自宅療養する事例を含めれば死亡率はもっと低くなるが,今回は入院例に限った議論なのでその点には触れない)。また,中国における入院患者の死亡率も5.7%となっているので(中国の新型肺炎治癒率は94%超),中間報告での暫定的な死亡率11.6%は異常に高い.そうなると,観察研究に参加した施設には、他施設に比べて重症者の割合が高かったand/or医師がアビガン投与に踏み切ったのは重症例が多かったために=もともと死亡率が高い集団の比率が高くなったため、全体の死亡率も高くなった と考えたいところだが,そうは問屋が卸さない。
たとえば、保健衛生行政や医療サービスが日本や中国よりもはるかに劣悪なブラジルの場合は、死亡率はどうだろうか?COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMICによれば、2020年6月9日現在、回復者数325,602名+全死亡が37312名の計362914名を分母、死亡者数37312名を分子とすると、死亡率は10.3%である。また、同日時点での世界全体では、回復者数3,536,284名+全死亡が408,734名の計3,945,018名を分母、死亡者数408,734名を分子とすると、死亡率は10.4%。これだけ医療サービスが行き届いた日本で、しかも期待の新薬(だったはずの)アビガンを全例に投与した患者群で、死亡率が11.6%とは、一体どういうことか?私に対する反論よりも、亡くなった患者さんと家族にどう説明するのか、そこをよおおーーっく考えておくように。
軽症例に限っても異常に悪い転帰
そもそもone armで対照群が設定されていない以上,重症例の比率が高かったために死亡率も高くなったとは立証できない,前述のように,この観察研究に参加したのは,COVID-19の患者さんを受け入れている全国407の医療施設で
ある。特に重症者を数多く入院させている施設だけを選定したわけではない。つまり,この中間報告でも,本来ならば上記の5.8%という値とさして変わらない死亡率と
なっていたはずである。だとすると,この中間報告に組み入れられた患者さんに共通の因子であるアビガンが死亡率上昇の原因ではないかと,誰しもが考える。
アビガンが予後を悪化させた可能性を示すのは軽症・中等症・重症を併せた全体での死亡率の高さだけではない.軽症群での転帰が予想外に悪かったことも重大な懸念である。実際,上記に示したように,日本でも中国でも死亡率は6%未満=95%弱が退院している.しかも,これは重症度に関わらず,全体の退院率である.ところが、中間報告では軽症群の1ヶ月後の退院率が6割に留まっている。軽快転院例を含めても7割で、入院後1ヶ月経っても状態が改善しないかのが2割、残りの1割は増悪ないしは死亡している。そしてその軽症群での死亡率が5.1%と、日本(5.8%)・中国(5.7%)での全体での死亡率とさして変わりがない!つまり軽症群に限っても異常な予後の悪さである.この事実も重症例の比率とは全く独立に,アビガンが予後を悪化させた可能性を示唆している。
総投与量が既承認用量の2.5倍の設定根拠は?
特に本研究に組み入れられたほとんどの症例で、アビガンの総投与量(3.6g+1.6gx10=19.6g)は承認用量での総投与量(3.2g+1.2gx4=8g)の2.5倍にまで達している。このことは予てからの重大な懸念となっていた。なぜこんな高用量を設定しなくてはならなかったのか?この高用量がリスク・ベネフィットバランス最良と考えた根拠は何か?泥縄で代用エンドポイントで至適用法用量をこじつけようとしていたのではないのか?(jRCTs041190120)、 「観察研究」とやらで、既承認用法用量を初めから排除し、2.5倍もの高用量をいきなり患者さんに投与した理由はどこにあるのか?用量依存性の副作用や、未知の副作用への対応はどう考えていたのか?こういった本質的な疑問に対する答えも、いまだどこからも得られていない。ここにも裁判が必要な理由がある。
患者さんと家族に対する説明責任
特に上記のアビガンが承認された暁には,これらの施設で引き続きアビガンが処方される可能性が高い。特に市販後規制が厳しいアビガンの場合,新効能ということ
もあり,施設が限定され,かつ全例調査となる可能性が極めて高い。すなわち,本研究は市販後のリアルワールドを先取りしていることになり,その意味でも本
研究のデータを楽観的に解釈することは厳に慎まねばならない。中間報告では死亡原因について全く言及していないが、アビガンが予後不良の原因になった可能性を排除するためには、各死亡例についての入念な死亡原因分析が欠かせない。ここにも裁判が必要な理由がある。
Original version 2020/6/9
→「アビガンは毒薬」を立証した「観察研究」
→富山化学の罪と罰:コンプライアンス欠落企業に潰されたアビガン:アビガンを潰した責任を負うのは、医薬品規制の何たるかも、薬機法違反の何たるかも知らずに、ひたすらアビガンを溺愛した内閣総理大臣ではない。製薬企業にとって不可欠なコンプライアンスを踏みにじった富山化学である
→アビガン薬害訴訟:2400年前のポツダム宣言
→薬害オンブズパースン会議.「藤田医科大学アビガン「観察研究」中間報告における死亡者を踏まえた意見書 (新型コロナウイルス感染症に関して)」
→アビガン関連記事
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