第2波は弱毒化のエビデンス―1:貯まるのは「こども銀行券」だけ
(2020/7/23 updated)
「新型コロナで,10万人もの日本人が死ぬ」
そんな「予言」の主が みのもんた だったら誰も驚かなかったはずだ.記事にもならなかっただろう.しかし,実際にはこの「予言」がメディアの炎上商法
に油を注いだ。そして「馬鹿なことを言うな」と,市民の恐怖感を消そうとする者もいない。予言者がみのもんたではなく,ノーベル医学生
理学賞受賞者だからだ。誰が反論できるだろうか.私も同様だ。私ができるのは,データを示すことだけだ。データの判断はここをご覧になっている奇特な方々
にお任せする。
第1波での問題点のおさらい
検査陽性者,感染者,無症状病原体保有者といった言葉の定義と問題点については既に解説済なのでそちらを参照されたい.(患者数を偽造する:「感染者数」という名のデマ そして無症状病原体保有者という名の「こども銀行券」).2018-19の冬、季節性インフルエンザによる死亡数は3325人だった。それに対しCOVID-19による死亡数は2020年7月19日現在985人である.つまり第1波の時点で,COVID-19は既に季節性インフルエンザよりも格下だった→COVID-19はCBTネタ).以下,季節性コロナウイルス感染症になった「第2波」とやらのお話.日本のデータ,図の出典は「東洋経済オンライン 新型コロナウイルス国内感染の状況」から,海外のデータは「WORLDOMETER COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMIC」から)
早くも剥がれた第2波の化けの皮:
左に示すのは,第1波の最中を含む1ヶ月と,いわゆる「第2波」と言われる直近の1ヶ月の比較である.まだ「第2波」の検査陽性者数のピークが明らかではないので,より適切な比較対象のデータを得られるのはこれからだが,それでも既にこの時点でPCR陽性者に対する要入院者数,重症者数の比率には大きな相違があることがわかる.そして同じ1ヶ月間での死亡者数も決定的に異なる.
この表だけでも,第1波はともかく,「第2波」というのは,単に「無症状病原体保有者」をせっせと掘り起こしているだけだとわかる.
これに対し,『いや,まだ大きなピークが来ていないだけだ.さらに,PCR陽性者数のピークよりも,重症者のピークは遅れ,死亡者のピークはさらに遅れる.どんな病気も発病してから重症化して死ぬまで時間がかかる.SARS-COV-2でも,感染して即死するわけではない.そんなこともわからないのか,この藪医者め』と助言してくださる方もいらっしゃるだろうと思い,実際にそのピークのずれを検討したのが右の図である(クリックで拡大).
「なんちゃって第2波」は弱毒株の動かぬ証拠
第1波の場合:以下からわかるように,重症者のピークはPCR陽性者数のピークから遅れたとしてもせいぜい1週間である.
●PCR陽性者数のピーク:ピンクの矢印で示す4つのピークは,4月5日,4月10日,4月18日,4月24日
●重症者数のピーク:ピンクの矢印で示す4つのピークは,4月7日,4月15日,4月24日,4月30日
ところが,「第2波」とやらの場合には,7月4日,7月10日,7月18日と,しっかりピークができているのに,重症者のピークは全く発生していない.
このような,「なんちゃって第2波」は,日本だけではない.左の図(クリックで拡大)はスウェーデンにおけるPCR陽性者数と死亡者数の経過を比較したものである.6月から1ヶ月間にわたり,PCR陽性者数が激増した.これだけ見れば正に,第1波を凌ぐ第2波に見舞われたにもかかわらず,死亡者数は4月半ばにピークを迎え,以後は着実に減少している.第2波のピークから1ヶ月近くを経過した現在(7月20日)でも,死亡者数は増加の気配さえ見せていない.
日本やスウェーデンのように,厳密な都市封鎖を行わなかった国では,ウイルスの弱毒化が進み,消え去った強毒ウイルスに代わり,優勢になった弱毒化したウイルスが「なんちゃって第2波」を形成した.そのことを左の図はよく示している.一方,イタリアのように(遅ればせながらも)都市封鎖を行った国では,弱毒化したウイルスが駆逐されてしまったため,第2波が観察されていない.(右図,クリックで拡大)
日本・スウェーデンとイタリアとの差を説明するのが,感染対策のタイミングである.(更科 功 マンガでわかる「感染」を抑えることで「ウイルス」は弱毒化に向かって進化する ダイヤモンドオンライン 2020/5/17).詳しくは,漫画を交えた更科氏の素晴らしい解説を読んでいただくとして,ここでは,都市封鎖のタイミングと感染制御アウトカムの差を比較して,更科氏の解説が現実世界によく当てはまることを補足説明する.
感染対策の強度・タイミングが弱毒株に及ぼす影響
1.集団免疫,ないしは緩い感染対策(スウェーデン・日本)に甘んじた国では→強毒株による第1波の後→弱毒株による「なんちゃって第2波」.これは,強毒株も,弱毒株も,ともに制御しなかった(できなかった)ためである.
2.都市封鎖の遅れた国(イタリア,フランス,スペイン,英国等)では→強毒株による第1波はあったが,第2波は発生せず.これは,都市封鎖の遅れが肝心の強毒株制御のタイミングを逸した一方,どうでもいい弱毒株を制御してしまったためである.
3.迅速かつ厳重な都市封鎖による先制防御(デンマーク,ノルウェー等)→感染制御に成功した.これは迅速かつ厳重な都市封鎖が,強毒株と弱毒株の両方の伝播を封じたためである.
もうデマは通じない:死者数増加を伴わないPCR陽性者急増は弱毒化の頑健なエビデンス
スウェーデンのPCR陽性者数の経過で,第2波が第1波よりもはるかに大きく高い山を形成しているのは,強毒株よりも弱毒株の方が毒性が低いから→感染した宿主(ここでは人間)を殺さないので,感染がどんどん広がるからで
ある.これは感染症の基礎知識である.敢えて集団免疫を選んだスウェーデンでは,専門家達はもちろん,一般市民もこの点をよく理解していたので,「なんちゃって第2波」に惑わされるよう
なことは全くなかった.パニックも一切起きなかった.今,日本で起こっているのも同じ事なのに,専門家がいない.この国にいるのは,感染症の初歩もわきまえない,怪しい予言者達だけだ.しかし,案じることはない.やれ「42万人が死ぬ」,「いや,10万人ぐらいに負けておこう」とデマを飛ばす,理論疫学オタクとノーベル医学生理学賞受賞者の凸凹
コンビなんぞに委細構わず,日本の市民は,スウェーデンの市民同様,落ち着いている.マスクも,消毒液も,トイレットペーパーも潤沢にある.パチンコ屋も営業を続けている.彼らは専門家を自称する怪しい予言者達が垂れ流すデマはもうたくさんだ思っている.一方で,お友達ばかりを集め,まともな科学者が一人もいない官邸は,アビガンに引き続き,PCR陽性者急増と科学者ならぬ予言者達による恫喝を受け,右往左往を繰り返している.
世界的にもSARS-COV-2の弱毒化は着実に進行している
左の図(クリックして拡大)は世界全体での検査陽性者数と死者数の推移を7日移動平均曲線とともに示したものである.ここに示された検査陽性者数と死者数の経過の違いも,主力が強毒株から弱毒株へ移ったことで説明できる.もしもずっと強毒株だけだったなら,死者数も検査陽性者数同様に単調増加しているはずだが,実際にはそうなっていない.また,このグラフは全世界のデータだから,一部の国,地域における,陽性者の増加と死者の増加のタイムラグの影響は皆無である.つまり世界的にもSARS-COV-2の弱毒化は着実に進行している.
死者数の7日移動平均は4月17日でピークに達し,それ以降は,検査陽性者数の単調増加とは全く逆に減少して,5月26日にボトムとなった.ただしそれ以降は,第1波の立ち上がりよりもはるかに緩やかながら上昇に転じている.もし世界中が強毒株だけだったら,この緩やかな上昇は説明できない.合衆国の南部,中米,南米を中心とした,遅れて浸淫してきた強毒株による遅発性第1波による死亡数の急激な増加が,その他の地域で起こっている弱毒株優位により相殺されたのと,強毒株が遅れて流行した地域では,いち早く強毒株が流行して数多くの死者を出した西欧諸国よりも高齢化率が遙かに低いため,PCR陽性者に比べた死者の比率が低くなった結果(*)と考えれば十分説明できる.
(*つまり強毒株の流行時でも,若いPCR陽性者がどんどん増える割には死亡者が少ない.高齢化率は米国15.8%,メキシコ7.2%,ブラジル8.9%に対し,イタリア23%,フランス20%,スペイン19.4%,英国18.4% Global Note 世界の高齢化率(高齢者人口比率) 国別ランキングより)
→患者数を偽造する−「感染者数」という名のデマ
→第2波は弱毒化のエビデンス―2
→第2波は弱毒化のエビデンス―3
→第2波は弱毒化のエビデンス―4:スペインでも「なんちゃって第2波」
→第2波は弱毒化のエビデンス―5:第2波なんてどこにある?スウェーデンに学ぶ
→第2波は弱毒化のエビデンス―6:大本営2020解体に向けて
→第2波は弱毒化のエビデンス―7:患者数水増しと第2波パニック
→「新型コロナの実態予測と今後に向けた提言」『社会保険旬報』2020.6.21号、7.1号(2787[pp.6-15]、2788[pp.18-28]
→コロナのデマに飽きた人へ
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