業過罪という名のサイコロ
ーカルテを読めない検察官ー
キーワード:サイコロ賭博,有罪率99.9%,マリー・アントワネット,源氏物語,中世,診療録,医療事故調査制度,事故調査報告書
Let them read charts ! カルテを読めばいいじゃない (下記注)
「あんちょこ」という言葉の認知度には世代間格差があるかもしれない.少なくとも私が小学生・中学生だった頃は,問題の答えも記した教科書の解説書がそう呼ばれたものだ.カタカナ言葉を交えて「教科書ガイド」「教科書レーダー」なんて別名もあった.「あんちょこ」とは「安直」から転化したと教えられたが,その真偽については検証したこともないし,する暇もない.
交通法規を知らない警察官が交通事故の現場検証をすることがないように願っているが,検察官は皆,複式簿記を知っているのろうか.まさかとは思うが,特捜が最も得意とするはずの経済事件で完敗を喫する姿を見ていると「不安」になる.そしてそれでも検察は,検察官に対して何の医学教育も施さないまま,今後も医療事故に取り組み続けるつもりなのだろうか.医者の刑事免責がけしからんというのなら,業務上過失致死傷罪(業過罪)の有罪立証と事故原因究明をすり替えて,本質的な事故原因の数々を隠蔽する検察官の品質管理はどうなっているのかという反問にどう答えるというのだろうか?矯正医官を嘘つき・藪医者呼ばわりして名誉毀損と威力業務妨害に問われるようなふざけた検察官は懲戒処分にしましたからご安心くださいとでも言いたいのだろうか?
医療事故裁判における検察の機能不全はいつ頃から生じたのかと問われれば,それは医療事故裁判の誕生と共にあったと断言できる.もっとも機能不全ではなく,もともと検察には,医療事故を扱って市民の期待に応えるような機能は備わっていなかった.検察官の医療事故捜査・起訴能力欠如に関しては,業務上過失致死傷罪(業過罪)とすり替えに本質的な事故原因を隠蔽し,事故再生産構造を放置する彼らの手口をすでに説明したので,ここでは繰り返さない.私の呈示した事例で十分説明できているとは思うのだが,さらにご興味ある方は,武藤春光・弘中惇一郎 編著”「薬害エイズ」事件の真実”(現代人文社)を御覧あれ.
私は源氏物語を通読したことがない.高校時代に円地文子訳の巻一を半分も読まないうちに投げ出して今日に至る.検察官の中には源氏物語を読んだことのある人もいるだろうが,その「読んだ」というのは何を読んだのだろうか?円地や谷崎の訳だろうか?それとも原文だろうか?いずれにせよ,診療録を読み込むよりは,はるかに楽な作業だったに違いない.北陵クリニック事件では,A子さんに限っても,救急体制の不備、気道確保の遅れ、血液ガスデータが示した高乳酸血症の見逃し等、極めて多数の事故原因が検察によって隠蔽されたのだが,それは単に検察官が診療録を読めなかったためである.相手が源氏物語なら試験で落第すれば済むことだが,診療録を読めなければ冤罪を作るだけでなく,神経難病の患者を不整脈死の危機に放置することになる。そんなことも理解できずに専門医を藪医者呼ばわりするのだから,本当に怖いことができるのは,怖さを知らない素人だけ.
脈を取れない警察官・カルテを読めない検察官
医療事故裁判について、マスメディアが今もなお隠蔽している重大な事実がある。それが、日本中の警察官・検察官の誰一人として診療録を読めないという事実だ。これまで彼らには診療録の読み方を習う機会など一度も無かった。なぜなら、その事実をマスメディアがその事実を隠蔽してきたからだ。警察官や検察官がいつまで経っても診療録が読めないのは、日本中の医師が「自分たちを刑務所にぶち込むような連中に誰が診療録の読み方を教えるものか」と身勝手な行動で、警察官や検察官の医学教育をサボタージュしてきたからだ。そうマスメディアが暴露して日本中の医師達の責任を追及しない限り、警察官・検察官の医学に関する無知は永遠に続く。
「薬害エイズ」事件でも,起訴した東京地検特捜部の検察官は医療行為の一次資料である診療録を読めなかった.診療録を見れば,
安部 英氏を起訴どころか逮捕もできないことは一目瞭然だった.なぜなら,診療録には,安部氏が非加熱製剤の投与を命令はおろか示唆したことも,一言も書いていないからだ.にもかかわらず,肝心の非加熱製剤を投与した担当医は起訴どころか逮捕もされなかった.その検察が,ウログラフィン誤使用事故の時は担当医を起訴し,有罪立証を勝ち取った.当時80歳で大動脈弁と僧帽弁の両方に弁膜症を抱える安部氏をなぜ56日間にわたって拘留し,公判で「厳罰」を主張する一方で,ウログラフィン誤使用事故が起こった国立国際医療研究センター病院の院長は何のお咎めも受けなかったのだろうか?
この検察の変節・二枚舌は,その間の長い年月にわたって検察が組織を挙げて医学教育に取り組んだ成果ではない.安部氏を拘留した当時は特捜のエース達にとってさえ,診療録は源氏物語以上の難解な代物だったから,安部氏が殺人鬼であるという空想医学物語をでっち上げてしまったのに対し,ウログラフィン誤使用事故では担当医だけが起訴されのは,特捜以外の検察官までが,診療録を読み込めるようになっていたからなのではない.我が国では正義の味方は決して「ぶれない」ということになっている.変節漢は医者どもの方だと彼らは言うだろう.
国立国際医療研究センター病院の院長が安部氏の運命を知らなかったはずがない.もし事故を通報しなければ,どうなるか,そのぐらい誰だってわかるから,司法取引に応じたに過ぎない.院長に刑事免責が自動発券されたのは,通報のご褒美である.安部氏も,担当医が非加熱製剤を投与していると警察に通報していれば裁判はおろか,逮捕も拘留もされずに済んだのである.こんな明白な事実に対してもまた,マスメディアも検察も完全黙秘を続け,隠蔽した気になっている.敗軍の将兵を語らず.自分たちに都合の悪いことは全て沈黙して決して言い訳をしない「潔さ」,正義の味方達の「ぶれない」態度のなんと見事なことか.
医事裁判という名の賭場においては,検察という名の胴元が,業過罪という名のサイコロの操作によって,拘留・起訴する相手を自由自在に変え,有罪率99.9%という驚異的な業務成績を達成する.血友病HIV問題とウログラフィン誤使用事故問題を比較するだけで,それが一目瞭然となる.
安部氏が業過罪で逮捕,起訴されてから,2016年で早20年が経つ.この間,検察官の医学教育には何の進歩もなかった..裁判が中世なら検察も中世である.日本中の検察官の誰一人として脈の取り方一つ知らない状態が今後も未来永劫に続くのだ.それはマスメディアの責任ではない.警察官も検察官も誰一人として医学教育を受けていない事実から目を背け続けてきた我々医師の責任である.脈の取り方一つ知らないのに診療録が読めるわけがない.診療録を読めなければ医療事故の捜査ができるわけがない.所詮,無理だったのだ.無理を承知すべきだったのに,無理を承知せずして,誰も幸せにならないババ抜きゲームで起訴,公判を強行し,事故原因を隠蔽して,自分同様に脈の取り方一つ知らない裁判官を騙して有罪を勝ち取り,医療事故再生産システム維持してきた検察官達.
源氏物語の研究者は,決して高校生向けのの参考書を基に源氏物語を研究するような真似はしない.医学部の学生はメルクマニュアルの中でも医師向けの方を使う.家庭版を使っていては試験に通らないことを知っているからだ.あらゆる医療行為の妥当性を判断するにあたって,根本的な資料となる診療録を読み込めれば,事故調査報告書など不要のはずである.それなのに,捜査,取り調べ,起訴,公判請求にあたって,事故調査報告書を欲しがるのは,診療録を読めないからだ.
北陵クリニック事件再審請求審での検察官意見書を見る限り,検察官がメルクマニュアル家庭版を読んだ形跡は全く見られない.もし読んでいれば,私を嘘つき・藪医者呼ばわりするような真似は決してできなかっただろう.メルクマニュアル家庭版さえも読まない検察官が,事故調査報告書に基づき,取り調べ,起訴するのは,高校生向けの参考書を基に源氏物語を研究することに等しい.
何が書いてあるか何が起こったのか全然わからない診療録は,有罪立証に全然役立たない.裁判官を騙すためには,どんなに医療の現実とかけ離れたものであっても,単純明快なシナリオである必要がある.その点,診療録より素人向けに解説してある「あんちょこ」としての事故調査報告書は,そんな水戸黄門シナリオを創作するにはもってこいの材料である.そういう安直な教育をやってるから,いつまで経っても大事な矯正医官を嘘つき・藪医者呼ばわりするしか能が無い検察官しか育たないんだよ.
* Qu'ils mangent de la brioche! ケーキを食べればいいじゃない とマリー・アントワネットが言ったなんて,録音テープが残っているわけじゃなし,「冤罪」に決まってるじゃないか!
参考:診断学の基本を教える
→一般市民としての医師と法 へ戻る