加齢黄斑変性に対するアバスチン
−特に55年通知との関係について−

伝家の宝刀55年通知
英国では,NHSが裁判所に訴えて,アバスチンによるAMDの治療を合法的と認めさせねばならなかった.しかし,我が国では,医学の「医」の字も知らない裁判官におすがりしてエビデンスを認めてもらう必要など,これっぽっちもない.55年通知という,伝家の宝刀があるからだ.
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より安く済む抗癌剤Avastinによる加齢黄斑変性症治療を英国裁判所が合法と判断 BioTodayニュースレター 2018年9月25日
Rocheの抗VEGF抗癌剤Avastin(bevacizumab)をより高価な抗VEGF薬・BayerのEYLEA(aflibercept)やNovartisのLucentis(ranibizumab)の代わりに,加齢黄斑変性症(AMD)の治療に使うことを英国の裁判所が合法と判断しました。Avastinは抗癌剤としてのみ承認されていますが、同国の医師はAMD治療にこれから同剤を使えるようになります。英国イングランドの公的医療NHSはAvastinを使うことで年間1億ポンド超を節約しうるとThe Guardianは報じています。2012年のNational Institutes of Health試験(Ophthalmology 2012;119:1388)でAvastinの視力改善効果はLucentisに引けを取らないことが確認されています。

NHS wins legal fight against pharma firms over sight-loss drug
Bayer Plc and Novartis Pharmaceuticals UK Ltd v Various Clinical Commissioning Groups
English court backs NHS in fight with Bayer, Novartis over off-label Avastin use
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加齢黄斑変性(AMD)に対するアバスチンの適応外使用を巡って,NHSと製薬企業の間で争いが起こったのは,2011年9月、AMDに対してアバスチンの費用に保険を適用するとNHSが決定した時に始まった.ノバルティスはベバシズマブと同様に抗VEGF (anti-vascular endothelial growth factor) 作用を持つラニビズマブを,ベバシズマブとは全く違う薬として,AMDに対する治療薬として開発(アバスチンで開発の道は開けているから,さぞかし楽ちんだったろうね),承認申請した.そして薬価を先発品よりも高くするという戦略に出た.日本国内はもとより,英国でも米国でも,この戦略に違法性はない.それどころか,英国では,ノバルティス自らが裁判所に訴えてアバスチンの適応外使用を阻止する行動に出た.それが2012年のことである.(ノバルティス、英国での「アバスチン」の眼科利用阻止へ動く それに対し,NHSがノバルティス(ルセンティス:ラニビズマブ)とバイエル(アイリーア:アフリベルセプト)を相手取って,アバスチンの適応外使用を認めるよう訴えていた裁判で,ようやくこの9月,合法との判断が示されたというわけである.
→参考記事:NICEの判断と保険償還

アバスチンの適応外使用は眼科学会の長年の悲願だったはずだが・・・もしかして,55年通知を知らないとか???
 『昨年には、コンパッショネート・ユース制度(海外で既に承認されていて、他に代替療法が存在しない未承認薬剤の使用を認めるという措置)の適用に関する要望書を厚生労働省に提出しましたが、アバスチンの場合にはうまく当てはまらないようです。臨床使用への道を切り拓くには、安全性、有効性についての確固 たるエビデンスの集積が必要で、結論から言えば、医師主導臨床治験の手立てしか残されていません』(抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬をめぐって 日眼会誌 2012;116 (2): 1119
↑ 
確かに6年前はそうだったかもしれない.しかし,今や後述のようにアバスチンの再審査結果も出たわけだから,支払基金に対して55年通知の適応を申し入れる環境は整っていると言えるだろう.もう,未承認薬・適応外薬検討会議なんかにぺこぺこする(^^;)必要なんかこれっぽっちもないのだ!!

竹内 忍 眼科高額薬剤について Part 2 2016/11/24←今から2年前,自由民主党 眼科医療政策推進議員連盟総会での,日本医師会疑義解釈・保険適用検討委員会の竹内氏によるプレゼン.

この中でも,55年通知については一言も触れられていないし,,55年通知の適応事例集(審査情報提供事例)で「ベバシズマブ」を検索してもヒットしな い(2018年10月13日現在).もしかしたら,眼科学会の方々は,55年通知をご存じないのだろうか?

アバスチンの再審査結果は「カテゴリーI」!!
アバスチンの承認が2007年04月18日であり,再審査期間が10年であることは誰もが知っている.そして2018年9月にアバスチンの再審査結果は,「カテゴリーI」(承認通り有用性が認められる)となり,目出度く55年通知の適応検討対象としての資格を得た.↓
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「アバスチン」など20件の再審査結果、全てカテゴリーT 厚労省通知 日刊薬業 2018/9/27 23:31
 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課は27日付の課長通知で、中外製薬の抗がん剤「アバスチン」など、医療用医薬品の再審査結果(20件)を都道府県に示した。8月の医薬品部会で報告したもので、いずれも「カテゴリーI」(承認通り有用性が認められる)だった。
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参考資料

審査情報提供事例診療報酬明細書の審査にあたり認められるべき事例.平たく言えば55年通知が適用される適応外使用事例.
適応外使用は要するに金の問題:承認審査と保険適応を混同しないために
● 55年通知解説
いわゆる55年通知の概要と課題:最後の4ページに,55年通知の検討対象品目と医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議での検討対象との相違点を示した表がある.
● アバスチン(FDA承認2004/2/26)はルセンティスが承認される(2006/6/30)前からAMDに使用されていた,「伝統的な」適応外使用だった.→『薬剤は、当初はアバスチンというもともと大腸がんに対して点滴注射で用いられていた薬を使っていたのですが、現在では眼専用に作られた次世代の薬剤(ルセンティス、マクジェン、アイリーア)が主流となっています』(清瀬えのき眼科HPより)
NICEの判断と保険償還−アバスチンの適応外使用事例に学ぶ−:製薬企業が裁判に訴えてもアバスチンの適応外使用を阻止しようとしたことがわかります.
CATT Research Group. Ranibizumab and bevacizumab for neovascular age-related macular degeneration.N Engl J Med. 2011;364(20):1897-908. アバスチンとルセンティスの有効性に差がないことを示した大規模試験.
● コクランもアバスチンの味方. Systemic safety of bevacizumab versus ranibizumab for neovascular age-related macular degeneration.Cochrane Database Syst Rev. 2014 Sep 15;(9):CD011230 安全性についても,消化器症状以外はアバスチンとルセンティスでは明らかな差は認められないので,(有効性はもちろん)安全性の問題からも,アバスチンを棄却し,ルセンティスを採用することに妥当性は認められない.
●アバスチンのPfizer製バイオシミラーZIRABEVの承認を欧州医薬品庁(EMA)諮問委員会(CHMP)が推奨.
Pfizer wins EMA positive opinion for Avastin biosimilar. BioPharma-Reporter.com-2018/12/18

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