Chairman's Greeting
会長挨拶
異種移植の臨床・研究自体は古くから行なわれ,1960年代にはアメリカでたくさんの臨床が実施されております(現在32例の臨床報告がWHOに届いております)。その後80年代には同種移植が世界中で盛んとなり、少し下火になりましたが、90年代にはdonor不足が決定的となり、再び盛んになりました。ちょうどその頃発生工学が進み、補体制御因子(DAF:
CD55)を発現したtransgenicブタが誕生し、2000年代に入るとα1,3gal(ブタ−ヒト間最大の異種糖鎖抗原)のknockoutブタも各国で作出されております。
この間、ブタの内因性レトロウイルス(PERV)の危険性が指摘され、研究にブレーキがかかった感がありましたが、このPERVの制御も盛んに研究され、そのヒトへの実際の感染性は疑問視されるようになった感があります。
一方、巨額の研究費が投与され世界の研究開発は篠木を削り、現在では各国でα1,3galのknockoutブタを基に補体制御因子、抗凝固因子、
CTLA4-Ig、HLA-E、等、いろいろな分子を同時に発現するブタが開発されております。また、α1,3galに加えHanganutziu-Deicher(HD)抗原(ブタ−ヒト間の次の異種糖鎖抗原)のdouble-knockoutブタも出来ております。さらに一方で、ニュージーランドを中心に免疫隔離膜を利用したブタisletsの移植が臨床で進められております。
この度、日本異種移植研究会の会長に就任致しましたことをご報告申し上げます。当研究会は、名古屋大学高木弘教授と広島大学土肥雪彦教授の御指導のもと1997年9月に発起人会が開かれ、高木弘教授を初代会長に互選し発足しております。翌年1998年6月には第1回学術集会(名古屋)を開催いたしました。設立当時の会員の多くは移植外科医でしたが、2000年6月から第二代白倉良太会長に引き継がれ、現在では基礎医学研究者、農学(畜産)研究者、理学・工学系の研究者、等が加わり、充実した体制になっております。また単に遺伝子改変したブタの細胞・臓器をヒトに移植するだけでなく、ブタ組織の工学的利用法の研究、さらにブタ等の動物をスカッホールドとして使った再生医療(iPS研究、等)の研究も当研究会の課題としており、各国の流れに遅れをとらず臨床応用を進めるとともに、日本独自の研究を生み出す事を主眼としております。
平成25年11月 会長 宮川周士