クリオプレシピテート |
新鮮凍結血漿(FFP)をゆっくり融解すると、沈殿物が析出します。この沈殿物がクリオプレシピテートで、フォンビルブランド因子やフィブリノゲン、凝固第VIII因子およびXIII因子など、分子量が大きな血漿蛋白を含んでいます。クリオ製剤とも呼ばれ、過去には凝固第VIII因子補充が必要な血友病Aの止血治療に使用されていました。しかし同じ血友病でも凝固第IX因子の補充が必要な血友病Bには無効で使用されませんでした。また、止血に重要な役割を果たしているプロトロンビンやα2-アンチプラスミンも含まれていません。
フォンビルブランド因子やフィブリノゲン、凝固第VIII因子およびXIII因子はクリオプレシピテートの中に含まれますが、新鮮凍結血漿に含まれているこれらの因子が全てクリオプレシピテートに濃縮されるものではありません。おおよそくりオプレシピテートの中の50%がクリオプレシピテートに含まれます(回収率50%)。したがって一般に最も使用される480mL新鮮凍結血漿製剤から作成されるクリオプレシピテートは240mLの新鮮凍結血漿を輸液した場合と補充効果は同等です。この意味ではクリオプレシピテートは効率の悪い補充療法です。
全血液や新鮮凍結血漿(FFP)に比べれば、クリオ製剤には凝固第[因子は濃縮され濃度的には数倍含まれています。このため輸液量に対してクリオ製剤の方か、新鮮凍結血漿に比べ少量(すなわち短時間の補給)ですむので、血友病Aの出血に使用されていました。しかし、血漿分画から第[因子を濃縮した分画製剤に比べると第[因子濃度は1/10程度(それでもFFPに比較すればクリオ製剤は10倍ちかく濃縮されてはいましたが)で、不純物も多くアレルギー反応なども起こしやすいため、重篤な出血の治療には不向きでした。
結局、クリオ製剤は全血輸血やFFP輸血から第[因子血漿分画製剤に至る過渡期の製剤でしかありませんでした。現在では遺伝子工学技術を利用した第VIII因子製剤が使用されていますので、血友病Aの治療には全く用いられていない製剤です。
このように、クリオプレシピテートは血漿中の止血関連因子の一部が濃縮されているにすぎず、全ての凝固関連因子が補充されているものではない、効率の悪い補充療法であることは理解しなければなりません。
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前述の様に血友病A治療に対しては、既に過去の治療選択であり、その他の因子欠損症(先天性フィブリノゲン欠損症、フォンビルブランド病、先天性凝固第XIII因子欠損症)に対してもそれぞれ濃縮因子製剤がありますので、クリオ製剤の明らかな適応症例はありません。
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