1. β溶血性レンサ球菌とは(総論)
β 溶血性レンサ球菌とはどのような細菌ですか?
β 溶血性レンサ球菌とは,グラム染色を行い光学顕微鏡下に観察しますと,図-1のように一定方向に分裂・増殖してレンサ状に見えることを特徴とする細菌です。
また,本菌は図-2に示すように,血液寒天培地を用いて20 - 24時間,5%炭酸ガス培養を行なわないと,発育が非常に悪い菌です。血液寒天培地上に発育した A 群溶血性レンサ球菌は,培地に含まれる赤血球(この場合,ヒツジの脱繊維血液)を溶かしながら増え,コロニー(菌が塊となって肉眼でみえる状態になったもの)を形成します。そして,コロニー周囲には,明瞭な溶血環が認められるようになります。
このような性状を示す菌に対し,β 溶血性レンサ球菌という言葉が用いられます。
ヒトの感染症にとって,どのようなβ 溶血性レンサ球菌が重要なのですか?
レンサ球菌の正式名はストレプトコッカス (Genus Streptococcus) といい,多くの種類 (菌種: species) が含まれています。
ヒトの感染症と関わりのある菌は,図-3に示す pyogenic グループ (炎症性化膿性疾患を引き起こすという意味) に属する 1) Streptococcus pyogenes (A 群溶血性レンサ球菌: GAS と略称),2) Streptococcus agalactiae (B 群溶血性レンサ球菌: GBS と略称),そして3) Streptococcus dysgalactiae subsp.equisimilis (C, G 群溶血性レンサ球菌: SDSE と略称) の3菌種が症例数も多く,最も重要です。いずれもβ溶血性を示す菌です。
その他に,anginosus グループや mitis グループなどに分類される菌もあります。肺炎球菌は分類学的に mitis グループの仲間ですが,病原性の点で本質的に異なります。mitis グループに分類される菌株の中には β 溶血性を示すものもありますが,ほとんどが α 溶血あるいは非溶血性で,病原性は低いのです。しかし,まれに亜急性心内膜炎等を引き起こす場合もあります。
通常,GAS は咽頭炎や扁桃炎,猩紅熱等のポピュラーな起炎菌として知られ,学童に多く見られますが,抗菌薬治療が必要です(感受性の項参照) 。GAS はまれに劇症型感染症を引き起こすことがあります。GBS はヒトの腸管にも棲息する常在細菌の一種ですが,時に高齢者の尿路感染症や敗血症,新生児にみられる産道感染症の原因菌となります。SDSE は今最も注目されている菌ですが,特に高齢者に GAS と同様の感染症を惹起することが明らかになってきています。