研究・教育内容(当時)


主な研究内容

 当教室では、腎病理に関する基礎研究や臨床病理学的見地から、糸球体腎炎に対する研究が広く行われております。また、慢性腎臓病(CKD)の進行予防に関する臨床研究を行っております。臨床研究では、関連病院や透析施設の協力のもとに透析患者に対する最適な医療を追求する観察研究や介入研究を行っております。また腹膜透析に関する様々な研究も行っております。

1.基礎研究について

 腎生検組織を解析して、基礎から臨床までを意識した幅広い研究を目指しています。動物実験モデルを用いた基礎研究では、糸球体腎炎モデルを用いてARBやstatinの腎保護作用について検討しています。また糸球体腎炎の進展にはマクロファージが関与することに注目し、phenotypeの変化についても検討を進めています。腎生検による検討では、1) 各種糸球体腎炎における係蹄内皮細胞傷害像、2) 管内増殖性病変や管外増殖性病変の形成と係蹄内皮細胞傷害の関与、3) 糖尿病性腎症の進展機序に関して研究を進めています。


2.IgA腎症に関する研究

 透析導入の原疾患として2番目に多いIgA腎症に対する新たな治療方法につき検討しています。病巣感染の除去(両側口蓋扁桃摘出術、鼻咽腔炎加療など)およびステロイド薬、免疫抑制薬(ミゾリビン)の投与により、早期であれば根治が期待できることを発表してきました。進行例でも免疫抑制薬の併用により腎機能の保持が期待できることを証明しています。さらに長期的な寛解率や腎保護効果を間質線維化のマーカーである血・尿中TGF-βやTNF-α、MCP-1などのサイトカインとともに評価しています。


3.CKDに関する臨床研究

 新たな国民病と言われているCKDの主たる原因疾患の治療薬の中から、原因疾患の是正のみならず腎機能を保持し得る、更には改善し得る可能性を持った薬剤を探し、その効果を検証する研究を行っています。現在までに、aliskiren、olmesartan、alogliptin、febuxostatについて成果を得る事ができており、また臓器連関の観点からtolvaptanにも注目して研究成果を発表しております。これまでに既存の薬剤のCKD治療における新規有効性を模索して来ておりますが、現在は更なる薬剤の研究を進め、多施設共同研究へと規模を拡大しております。


4.腹膜透析に関する研究

 日本医科大学全体で常時100名程度の腹膜透析患者を管理しております。今後世界一の超高齢化社会を迎えるにあたり高齢者の在宅医療の拡充は必須であり、腹膜透析の在宅医療としての可能性は非常に高く、医療経済的にも期待できる治療法であることは認識されております。そこで我々は、高齢者における腹膜透析の可能性を、それぞれの地域医療ネットワークの中で追求し、いくつかのモデルケースを探索しております。また、血液透析に比し管理がより困難であるCKD-MBDに対する臨床研究や、腹膜透析遂行の最大の医学的障壁である被嚢性腹膜硬化症の克服に向けて基礎研究を進めております。


5.AKIに関する基礎研究

 本学生化学教室と協力してAKIにおける早期バイオマーカーの研究をしております。これまで当研究室ではvanin-1がAKIにおける早期バイオマーカーになりうる可能性を示唆してきており、ラット用いた虚血再灌流モデルにおいて検討しております。


6.CKD-MBDに関する基礎研究

 慢性腎臓病(CKD)患者の予後を左右する重要な合併症である血管中膜の異所性石灰化は、尿毒素、高リン血症等による血管平滑筋の骨芽細胞様への異常分化誘導を経た、まさに「骨化」の現象と考えられていますが詳細はまだ不明です。本研究テーマでは、アデニン投与によるCKDマウスに高リン食を負荷し、血管壁石灰化モデル作成に成功し、今後、石灰化誘導後の血管組織病理、遺伝子・蛋白を経時的に解析し、石灰化機序の詳細を解明することを目標としております。


終わりに

 臨床面では従来から東京都をはじめ、神奈川、埼玉、千葉の各県内の先生方との緊密な連携のもと、大学病院ならではの臨床内容を提供できるように医局員一同頑張っております。研究面においてはまだまだ当教室は若く、萌芽的研究も多いですが着実な成果を上げつつある領域もあります。特にこの数年で急速に研究の幅が広がっており、今後の飛躍が期待できる教室だと自負しております。