− ディーゼル排気粒子曝露がアレルギー性気管支喘息へ及ぼす影響 −
当研究室の李(英)らは、ディーゼル排気粒子曝露のアレルギー性気管支喘息へ及ぼす影響について、より実際の大気環境に近い曝露条件にて動物実験レベルで検討を行い、
その結果をClinical Immunology誌(2010年137巻2号234-241)において公表しました。
近年気管支喘息やアレルギー性鼻炎などの呼吸器疾患が増加しており、大気汚染が問題となっています。そのなかでももっとも大きな課題は,肺の深部まで到達できる微小粒子状物質
(粒子の直径2.5μm以下)の影響であり、その原因物質として自動車から排出するディーゼル排気粒子が注目されています。一方、ディーゼル排気粒子の生体への影響は酸化ストレス
作用によることが細胞レベルでの研究で明らかになっています。
そこで、ディーゼル排気粒子の生体への影響は酸化ストレス作用によることを動物実験レベルで明らかにするために、抗酸化酵素の発現を制御する重要な転写因子である
Nrf2の欠損マウスを用い、卵白アルブミンによりアレルギー性喘息マウスモデルを作製し、実際の大気環境に近い低濃度(100μg/m3)ディーゼル排気粒子曝露実験を行いました。
その結果、Nrf2の欠損マウスでは正常(野生型)マウスと比較し、気道過敏性、気道炎症、粘液細胞増生などのアレルギー性喘息病態が明らかに増悪することを確認しました。
また、気管支肺胞洗浄液中において、アレルギー性気道炎症病態に重要なサイトカインIL-5とケモカインTARC (thymus and activation-regulated chemokine)の有意な増多が認め
られました(図1)。
これらの結果から、ディーゼル排気粒子の酸化ストレス作用により、アレルギー性気管支喘息病態が増悪する可能性を動物実験レベルで明らかにしました。
抗酸化防御機能が低い個体は環境要因による酸化ストレスに対し感受性が高いといえ、被害低減のための化学予防対策が必要と考えられます。
この点において、本結果は、ディーゼル排気粒子によるアレルギー性喘息増悪予防のための科学的根拠に基づいた対策策定に寄与しうるものと期待されます。
本研究は平成18-20年度 独立行政法人環境再生保全機構委託業務の一部として行われました。
(原著)
Li YJ, Takizawa H, Azuma A, Kohyama T, Yamauchi Y, Takahashi S, Yamamoto M, Kawada T, Kudoh S, Sugawara I. Nrf2 is closely related to allergic airway inflammatory responses
induced by low-dose diesel exhaust particles in mice. Clin Immunol 2010; 137: 234-241.
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