キトロギア奨励賞

次回CYTOLOGIA奨励賞の公募〆切は2024年12月24日です。

公益財団法人・日本メンデル協会は、細胞遺伝学分野ならびに細胞生物学分野の将来を担う研究者を奨励するために、平成26年度(2014)からCYTOLOGIA奨励賞を創設しております。CYTOLOGIAは、1929年に創刊された日本初の欧文専門雑誌です。受賞者には、賞金(3万円)、賞状、楯を授与し、CYTOLOGIAに総説論文をご投稿頂くと共に、日本メンデル協会関連の学会などでご講演頂きます。

応募資格:

  • 細胞遺伝学ならびに細胞生物学分野において活躍が期待される若手研究者で、創刊95周年を迎えたCYTOLOGIAに掲載論文があること

推薦:

  • 自薦および他薦どちらでも可

応募書類:

  • 履歴書 PDFファイル
  • 研究概要 A4 1枚 PDFファイル
  • 研究業績書PDFファイル   (原著論文、総説論文、書籍をそれぞれ分けて掲載年順に新しい業績から並べて、応募者にアンダーラインを引いてください。掲載後、もしくは受理後の業績に限ります。)
  • 代表的な論文2報のPDFファイル

応募方法:

  • 上記、PDFファイルを添付書類として下記、応募先まで電子メールとしてお送りください。応募書類が10Mbを超える場合は、分割して送信してください。1週間以内に応募書類の受理メールをお送りします。送信後、1週間を経過しても受理メールが届かない場合は応募先までお問い合わせください。

応募先:

  • 〒113-0033 東京都文京区本郷 2-27-2  エポック本郷
    公益財団法人 日本メンデル協会 
    E-mail: isc-mendel-cytologia@edu.k.u-tokyo.ac.jp

募集期限:

  • 2024年12月24日(消印有効)

第10回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

墨谷暢子 新潟大学理学部

 選考理由:単細胞藻類における細胞と葉緑体の分裂の協調

佐藤陽一理研食品株式会社

 選考理由:大型海藻の生理生態学的研究と種苗生産など社会実装への貢献


墨谷暢子博士は、単細胞緑藻の葉緑体分裂と葉緑体DNA合成、そして細胞分裂と葉緑体分裂の協調機構を明らかにした細胞生物学的研究を推進し、その研究業績をキトロギアの他、インパクトの高い国際科学雑誌に論文出版していることが評価されました。単細胞緑藻における高リン酸塩環境(富栄養)下での葉緑体分裂のしくみと葉緑体DNA合成と関連、単細胞紅藻における細胞分裂と葉緑体分裂の協調機構であるチェックポイント機構の存在を明らかにしております。本受賞を契機に、キトロギアへの投稿はもとより、細胞生物学分野で世界に貢献する研究を発展させることが大いに期待されています。

  • Mori, S., Sumiya, N., Matsunaga, S. (2022) Nucleomorph: A fascinating remnant of endosymbiosis. Cytologia 87: 203-208.
  • Kuroiwa, T., Ohnuma, M., Imoto, Y., Misumi, O., Fujiwara, T., Miyagishima, S., Sumiya, N., Kuroiwa, H. (2012) Lipid droplets of bacteria, algae and fungi and a relationship between their contents and genome sizes as revealed by BODIPY and DAPI staining. Cytologia 77: 289-299.
  • Sumiya, N., Yamazaki, T., Owari, S., Yamamoto, M., Watanabe, K., Kawano, S. (2012) Chloroplast division and differentially regulated expression of FtsZ1 and FtsZ2 in the synchronous culture of Nannochloris bacillaris (Chlorophyta, Trebouxiophyceae). Cytologia 77: 59-66.


図 単細胞紅藻における細胞分裂と葉緑体分裂のチェックポイント機構


佐藤陽一博士は、東北大学、理研食品株式会社、理化学研究所、東京大学などにおいて、ワカメやコンブ類など大型海藻の生理生態学的研究に取り組んできました。これらの大型海藻は、食料資源やブルーカーボンとしての重要性が増す一方で、その天然資源および養殖生産量は著しく減少しています。佐藤博士は、ワカメやコンブ類が成長点に物質を蓄積するという生存戦略を明らかにし、世界初の陸上養殖装置を開発することで優良系統の選抜と利用を実現しました。これにより三陸地域や北海道のワカメの単位面積あたり生産量を約1.2倍に押し上げ、現在では約500トンの収穫を得るまでに至っています。こうした研究業績をキトロギアの他にも多数の国際学会誌に論文出版するとともに、生理生態の解明を資源の安定供給に結びつけた実装研究は、国際的にも評判になっております。

  • Sato, Y., Numata, Y., Kinoshita, Y., Shinotsuka, M., Ono, K., Kawano, S. and Hiraoka, M. (2023) Beyond the valley of death for land-based aquaculture of seaweeds. Cytologia 88: 1–2.
  • Sato, Y., Hirano, T., Hayashi, Y., Fukunishi, N., Abe, T. and Kawano, S. (2021) Screening for high-growth mutants in sporophytes of Undaria pinnatifida using heavy-ion beam irradiation. Cytologia 86: 291-295(2021)
  • Kinoshita, Y., Sato, Y., Sakurai, T., Yamasaki, T., Yamamoto, H. and Hiraoka, M. (2022) Development of blade cells and rhizoid cells aseptically isolated from multicellular leafy seaweed Gayralia oxysperma. Cytologia 87: 17-22.


図 国際会議で講演中の佐藤博士(2023年 第1回欧州海藻サミット記念大会にて)


授賞式と受賞記念講演会は、2024年6月15日に日本女子大の新泉山館で行われます。)

第9回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

坂本卓也 神奈川大学理学部

 選考理由:クロマチンのダイナミズムと細胞核の構造に関する細胞遺伝学的研究


坂本卓也博士は、蛍光抗体標識観察をはじめとする顕微鏡観察技術と、ChiIP-Seq等のシーケンス解析技術の両方を駆使してクロマチンのダイナミズムや細胞核の構造などを研究してきました。Nature Plant (Sakamoto et al. Nature Plants 8, 940–953, 2022)に掲載された論文は、セントロメアの核内空間パターン形成を制御する分子機構を見出し、植物のCentromereのnon-Rabl構造形成に関する長年の疑問に回答を与える研究であり高く評価できます。
 大学での専門分野は「植物分子生物学」と「植物クロマチン生物学」です。40歳代ながら論文は40報を超えることからも、極めてアクティブに研究をなされていることがわかります。また、Cytologiaには原著論文や総説(Cytologia Focus)を5編発表しており、特にCytologia Focusでは見識の高さとセンスの良さが光っております。以下の論文をご参照ください。

  • Fujiwara, Y., Matsunaga, S., and Sakamoto, T. (2021) Next generation sequence-based technologies for analyzing DNA strand breaks. Cytologia 86, 3-9.
  • Ito, N., Sakamoto, T., and Matsunaga, S. (2021) Components of the nuclear pore complex are rising stars in the formation of a subnuclear platform of chromatin organization beyond their structural role as a nuclear gate. Cytologia 86, 183-187.
  • Nishioka, S., Sakamoto, T., and Matsunaga, S. (2020) Roles of BRAHMA and its interacting partners in plant chromatin remodeling. Cytologia 85, 263-267.
  • Hoshino, A., Matsunaga, T. M., Sakamoto, T., Matsunaga, S. (2017) Hi-C revolution: From a snapshot of DNA–DNA interaction in a single cell to chromosome-scale de novo genome assembly. Cytologia 82, 223-226.
  • Okamura, E., Sakamoto, T., Sasaki, T., and Matsunaga, S. (2017) A plant ancestral polo-like kinase sheds light on the mystery of the evolutionary disappearance of polo-like kinases in the plant kingdom. Cytologia 82, 261-266.

第8回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

田中若奈 広島大学大学院統合生命科学研究科

 選考理由:イネの幹細胞と形態形成に関する発生遺伝学的研究

澁田未央 山形大学学術研究院

 選考理由:エピジェネテック制御機構と細胞学的イメージング


田中若奈博士は、「イネの幹細胞と形態形成に関する発生遺伝学的研究」が高く評価され、今回の受賞に至りました。イネを研究材料として、幹細胞の創生や維持、花(小穂)やブランチ形成などに関する分子発生遺伝学的研究を行い、優れた研究業績をあげてきました。植物科学の一流誌で公表するとともに (Tanaka et al. (2021) Development 148 (24) dev 199932.; Tanaka et al. (2020) New Phytol. 225: 974-984. etc.)、以下のようにキトロギアにオリジナル論文や総説を発表しています。今後も、植物の発生学分野で世界に貢献する研究を発展させることが大いに期待されています。

  • Hirano, H.-Y. and Tanaka, W. (2020) Stem cell maintenance in the shoot apical meristems and during axillary meristem development. Cytologia 85: 3–8.
  • Tanaka, W., Tsuda, K., and Hirano, H.-Y. (2019) Class I KNOX gene OSH1 is indispensable for axillary meristem development in rice. Cytologia 84: 343–346.

実験中の田中若奈博士


澁田未央博士は、「エピジェネテック制御機構と細胞学的イメージング」が高く評価され、今回の受賞に至りました。植物の核形態やエピジェネテック修飾の細胞学的観察に取り組んでおり、様々なストレス下での核形態やエピジェネテック修飾の分布パターンに着目し、核内領域とクロマチン配置による遺伝子発現制御機構の解明を目指しています。また、酵母や動物細胞の細胞学的観察にも視野を広げ、⽣物種間での細胞・核構造の普遍性と多様性の解析にも取り組んでいます。彼女のShibuta et al. (2017) Plant Cell Physiol. 58, 2017-2025やShibuta et al (2021) Communications Biology 4:580は、国際的にも高く評価されています。また、キトロギア論文には以下のようなものがあります。

  • Shibuta, M. K. Matsuoka, M. and Matsunaga,S. (2019) 2A peptides contribute to the co-expression of proteins for imaging and genome editing. Cytologia 84: 107-111.
  • Shibuta, M. K. and Matsunaga, S. (2019) Seasonal and diurnal regulation of flowering via an epigenetic mechanism in Arabidopsis thaliana. Cytologia 84: 3-8.

澁田未央博士の模式図


(授賞式と受賞記念講演会は、コロナの感染状況にもよりますが、2023年秋を予定しております。)

第7回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

坂本勇貴 大阪大学・大学院理学研究科・生物科学専攻

選考理由:

植物核ラミナタンパク質CRWNの解析と植物組織透明化手法の開発

 坂本勇貴博士は、植物細胞における核ラミナ構成タンパク質の同定と核ラミナ機能の解明を目的として研究を行ってきた。まず野生株と比較して核が著しく丸くなるcrowded nuclei1 (crwn1)およびcrwn4を単離した(Sakamoto and Takagi, 2013)。シロイヌナズナにはCRWN1−4の4個の分子種が保存されており、蛍光顕微鏡観察、免疫電子顕微鏡法、超解像顕微鏡観察によりCRWNsが核膜内膜直下でメッシュ状構造を形成することを明らかにし、CRWNs が動物ラミンの構造的なアナログであることを示した(Sakamoto and Takagi, 2013; Sakamoto et al., 2020)。次に、野生株とcrwn1/4を用いて RNA-seq解析を行い2,000個以上の発現変動遺伝子を検出し、その中に多数の環境ストレス応答遺伝子が含まれていることを明らかにした。  
 坂本博士はその中で銅結合遺伝子群に注目した。銅結合遺伝子群は、ゲノム上で11個の相同遺伝子が連なった遺伝子クラスターを形成しており、そのうち5個がcrwn1/4において発現抑制されていたためである。そこで、crwn1/4の銅耐性を調べると、crwn1/4は野生株と比較して銅に対する耐性が著しく弱くなっており、それは銅結合遺伝子を過剰発現することで回復した。また、CRWN1と銅結合遺伝子座の結合、銅結合遺伝子座の核内配置を調べることで、CRWN1は銅結合遺伝子座の核内配置を制御することでその発現を調節し、植物の銅耐性獲得に寄与していることを明らかにした(Sakamoto et al., 2020)。このことは、植物の遺伝子発現調節に遺伝子の空間配置という概念を導入する重要な発見であると考えられる。  
 また、坂本博士は、東京理科大学イメージングフロンティアセンター研究員に着任後、2,2’-チオジエタノールを用いた透明化手法“TOMEI”を開発した(Hasegawa et al., 2016; Sakamoto and Matsunaga, 2017)。TOMEIは、蛍光タンパク質の蛍光を維持したまま、約6時間で植物組織を透明化できる。例えば、シロイヌナズナの葉をTOMEIによって透明化することで、表表皮から裏表皮の蛍光タンパク質を観察できる。従来法に比べ非常に高度に透明化が完了することから、東京化成工業から「植物組織透明化試薬TOMEI」として製品化されている。現在、さらに TOMEI の改良を進め、従来法よりも蛍光タンパク質を明るく保ちつつ,透明化できる新規透明化手法の開発に成功している。

(授賞伝達:令和3年7月 吉日、今回はコロナ禍のため式は取り止めました。受賞記念講演会は未定ですが、コロナ後に東大・理学部2号館・大講堂で開催予定です。)

実験中の受賞者


第6回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

桧垣 匠 熊本大学 国際先端科学技術研究機構

選考理由:

ライブイメージングと顕微鏡画像解析による植物細胞骨格の動態と機能の研究

 桧垣 匠博士は、植物細胞における細胞骨格の動態と機能を定量的かつ統計的に理解することを目指し、ライブイメージングと顕微鏡画像解析を基盤技術として、(1)細胞骨格そのものの構造特徴および(2)細胞骨格機能の結果と位置付けられる細胞形態特徴を定量評価することにより、客観的な観点から植物細胞骨格の動態と機能を明らかにしてきた。一連の研究論文は高く評価されている。
 (1) 植物細胞骨格の構造特徴の可視化と計測に関する研究植物アクチン繊維のライブセルイメージングを実現するため、可視化プロ―ブとしてアクチン繊維結合タンパク質のアクチン繊維結合ドメイン(ABD2)に注目し、これをタバコ培養細胞BY-2 およびシロイヌナズナ植物体に導入した(BMC Plant Biol 2008, PCP 2013, 2020)。シロイヌナズナ植物体を用いて日周期依存的な気孔開閉運動の解析を実施している(PLOS One 2016)。独自に開発した細胞骨格の密度や束化状態などの構造特徴の計測技術を基盤とした複数の共同研究も多く展開し,当該分野の発展に貢献している(Plant J 2017, PlantPhysiol 2019, PNAS 2019, Nature Plants 2018, Gene Cells 2019)。
 (2) 生物画像を高速・高精度に自動分類するソフトウェア CARTA(Clustering-Aided Rapid Training Agent)を共同開発した。広域画像からユーザーが指定した任意の細胞構造を自動的に認識・検出する画像解析システムも考案している(Nature Commun 2012, Plant Morpho 2014, Sci Rep 2015)。また、複数細胞の統計的画像処理によって気孔開閉運動における細胞内構造の網羅的な分布解析を実施している(Sci Rep 2012, BMC Plant Biol 2013)。これらの画像処理によって得られた細胞生物学的知見に基づいて CO2 依存的な気孔開閉運動および気孔発生の制御機構の解明に寄与した(Nature Commun 2013, PCP 2014, Gene Cells 2020)。さらに,画像計測技術と数理モデリングを組み合わせたアプローチにより,葉表皮細胞でみられるジグゾーパズル型の細胞形態形成に関する理論モデルを提案している(PCP 2017)。

(授賞伝達:令和2年12月 吉日、今回はコロナ禍のため式は取り止めました。)

楯と冬の薔薇


第5回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

吉田大和 東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻

佐藤杏子 富山大学 理学部/大学院理工学教育理学領域

 

選考理由:

吉田大和博士は、原始紅藻シアニディオシゾンだけでなく、米国ミシガン州立大学のオスターヤングの研究室においては、酵母細胞内での人工色素体分裂装置の合成を試みるなど、異なる微生物の扱いにも慣れている。キトロギアが今後目指すべき動物や植物だけでない広範囲で普遍的な細胞学にうまく対応できるだろう。最近の新しい光学系システムを備えた超解像光シート顕微鏡の開発などもキトロギアに新たな息吹を与えるものである(Yoshida and Taniguchi 2019. Cytologia, 84, 15-23)。また2016と 2019のCytologia の2つの大扉はもとより(Yoshida and Taniguchi 2019. Cytologia, 84, 1-2; Yoshida and Mogi 2016, Cytologia 81, 249-250)、2010年のScienceの表紙を飾る成果なども含め国際的な評価も申し分ない(Yoshida, et al. 2010. Science 329, 949-953)。

 佐藤杏子博士は、野生植物を対象に種分化の過程と生殖様式を解明することを目的として、染色体の数・形・行動を手がかりにする細胞分類学的研究を継続的に行って成果を得ている。Taraxacum 属(キク科)を中心に、Hieracium 属(キク科)、Myosoton 属(セリ科)、 Achyranthes 属(ヒユ科)、Portulaca 属(スベリヒユ科)、Oxalis属(カタバミ科)、Lyschiton属(サトイモ科)、Apios属(マメ科)など多彩な植物の核型を解析してきており、従来のキトロギアの王道を行く研究を進めてきている。特に、Taraxacum 属のタンポポ類において、三倍体以上の無配生殖タンポポは、染色体の構造変化と倍数化により、核型および倍数性が異なる複数の系統から構成されていること、ならびにそれぞれの系統のわが国での地理的分布を明らかにしている。さらに、種子形成のメカニズムの違いに起因する、二倍体タンポポと三倍体以上のタンポポ間の核型進化の仕組みの違いを明らかにするとともに、分類が困難であり,研究者によって意見が異なっていたタンポポ属の分類において、染色体の違いに基づく系統判別の手法を確立したことから、わが国のタンポポ属の分類・系統の解明と再検討の細胞学的な基礎を構築している。これらの成果は、主にキトロギアに発表され、7報の論文を発表しキトロギアに貢献している。今後の古典的な細胞学を基礎とする研究を継承できる人材として期待できる。 (授賞式:令和元年6月22日)

楯と花束 受賞者

第4回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

秋田佳恵 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻  

選考理由:

秋田佳恵氏は、シロイヌナズナの葉表皮細胞の形態形成機構の解明を目指していて、独自の画像処理技術により微小管配向を定量的に解析し、表皮細胞の複雑な細胞形状に対して微小管が局所的に配向を揃えることを見出している(Akita et al. 2015 Plant Signaling and Behavior)。また、表皮細胞においては、膜交通に着目し、共焦点レーザー顕微鏡と透過型電子顕微鏡で、ジグゾーパズル型表皮細胞の湾曲部を標的としたエキソサイトーシス機構が存在することを明らかにした(Akita et al. 2017 Protoplasma)。スクロース水浸処理した葉では気孔がクラスター化することを発見し、気孔分化時における非対称分裂の観察結果から、スクロース水溶液への水浸処理による気孔クラスター化の原因は、気孔分化頻度の異常ではなく、非対称分裂の異常である可能性を示した(Akita et al. 2013 PLOS One)。 秋田氏らが開発した独自の水浸処理は、キトロギア 誌の Technical note にて、シロイヌナズナ の葉において高頻度に気孔クラスターを誘導する実験系として詳細に報告している (Akita and Hasezawa 2014 Cytologia)。こうしたキトロギア誌への貢献に加え、ユニークな研究系の開発が高く評価された。(授賞式:平成30年3月16日)

                    
    キトロギア表紙 Vol.79, No.2            受賞講演

第3回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

稲田のりこ 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科  

選考理由:

稲田のりこ氏は、植物病原真菌のなかでも特に「うどん粉病菌」に注目しており、うどん粉病菌応答に関わるシロイヌナズナ新規因子の探索では世界的にも高く評価されております。うどん粉病は多くの農作物に甚大な経済的被害を及ぼす植物病原真菌が引き起こす代表的な病害です。氏は、2016年6月号のキトロギアの表紙とテクニカルノートに“Visualization of Host Actin Microfilament Dynamicity upon Obligate Biotrophic Pathogen Infection”を寄稿しております。この論文では、宿主植物シロイヌナズナと宿主に適応したうどんこ病菌Golovinomyces orontiiを用いて宿主-病原体相互作用の動態を調べるライブイメージング法を確立しました。宿主と感染菌の複雑な相互作用の解明に大きく貢献するでしょう。(授賞式:平成29年3月21日)

                      
     キトロギア表紙 Vol.81, No.2            楯と賞状

第2回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

柴田 洋 愛媛大学教育学部    

内田英伸 東京大学大学院農学生命科学研究科

選考理由:

柴田氏の代表論文は核型解析とGISHによる染色体研究で、キトロギアの王道を行く研究テーマとなっている。柴田氏は、研究の一貫性という意味でも優れているように思える。キトロギアは、国際細胞生物学雑誌ということで、広く細胞学全般を分野としており間口はかなり広い。内田氏の代表論文は2つとも遺伝子クローニングであり、直接的に細胞学的とはいえないが、ミドリサンゴ(Euphorbia tirucalli)の茎でin situハイブリダイゼーションなども行なっており、遺伝子解析の手法として主な解析手段としている。研究に関して、2名のこれまで一貫した姿勢には、目立った優劣はないように思われる。今回は両者に奨励賞を授与することとした。(授賞式:平成28年2月27日)

               
            授賞式                授賞講演

第1回 CYTOLOGIA奨励賞授賞者と授賞理由

授賞者:

酒井 敦 奈良女子大学研究院自然科学系・教授

選考理由:

酒井敦博士は、タバコBY-2細胞を用いて、オルガネラ核様体と過敏感細胞死を研究している。細胞生物学分野において重要な業績を挙げている。英語論文数も70報を超えており、国際的にも高い評価を得ている。CYTOLOGIA誌に自分自身で論文を掲載しており、今後もCYTOLOGIAの発展に貢献してくれると期待できる。酒井敦博士を第1回CYTOLOGIA奨励賞受賞者とする。酒井敦博士の業績の一端は、キトロギアの奨励賞記念招待論文、Sakai et al. (2015) Cytological Studies on Proliferation, Differentiation, and Death of BY-2 Cultured Tobacco Cells. Cytologia 80(2): 133–141にまとめられている。(授賞式:平成26年9月13日)

                  
               CYTOLOGIA奨励賞楯と招待論文の図(a タバコ葉肉細胞、b単離葉緑体、c単離葉緑体核