レムデシビルを第二のイレッサにしないために
―そしてメディアリテラシー獲得の絶好の機会を逃さないために

マスコミと市民団体がぐるになり,薬のことを何も知らないのにアビガンを能天気に推奨している偉い人達を利用して,イレッサ訴訟全面敗訴の仇を討とう企んでいることは既に説明した。そこへ来て今度は,レムデシビルである。これで単なる無知からにせよ,様々な大人の事情からにせよ,ごく一部の本当にお目出度い人々を除き,アビガンをほめそやしてきた人々も姿を消すと思ったら,なんとゾンビのようによみがえった(→イレッサ事件の真犯人出頭す)。では,マスコミも,後出しじゃんけん「薬害」訴訟を生業としてきた市民団体も,出番はなくなるのか?もちろん,そんなことはない。各々方,くれぐれも油断召さるな。「アビガンが消えれば,レムデシビルを叩けばいいだけだ」 彼らはそう思っている。

血友病HIV/AIDSにせよ,ロッキード事件にせよ,イレッサにせよ,北稜クリニック「事件」にせよ,ディオバン「事件」にせよ,とにかく「でっち上げてなんぼ。医学の「い」の字も知らない裁判官を騙してなんぼ」の,裁判真理教の世界である。レムデシビルが例外であろうはずがない。マスコミが考える手口は陳腐なものだ。イレッサの場合と全く同じく,FDAが承認した「夢の新薬」(*)と,あたかも副作用などありえないかの如く誉めそやす。そうすれば,患者はもちろん,COVID-19がスペイン風邪の再来であると信じる国民の皆様や,(審査報告書など一度も読んだことがなくても)薬のことなら任せておけと,根拠なき自信満々のお医者様達も,みんなみんな,ころっと騙され,みんなみんなレムデシビルを求めて殺到する。そうすれば,後は簡単だ。(*イレッサの場合には,厚労省が世界に先駆けて承認した)

専門性にかかわらず,レムデシビルが全国で大量に処方される。正に濫用であるそうして米国での治験では見つからなかった副作用がどんどん出てくる(*)。マスコミは,自分達がかつて「夢の新薬」と報道した事実を隠蔽し続ける一方で(←報道しない自由),市販後に出現した全ての副作用例を洗いざらい報道し,「なぜこんな危険な薬を承認したのか?」と厚労省を叩きまくる。その後で,市民団体がお出ましになり,国(厚労省)とギリアードを相手取って後出しじゃんけん損害賠償訴訟を起こす。これがマスコミが夢見るイレッサの仇討ち訴訟のシナリオである。

レムデシビルのリスク・ベネフィットバランスはHPVワクチンよりも悪い
市民団体が「悪魔のワクチン」とデマを飛ばしまくるHPVワクチンはもちろんのこと,どのワクチンも通常の治療用医薬品よりもはるかに安全性が高い。それでも,重篤な副反応(有害事象を含む)は生じる。その頻度はワクチンの種類によって異なるが、10万接種当たり,多いもので9件,少ないもので0.05件である。仮にレムデシビルがワクチンと同程度に安全性が高いとしよう(実際にはまるきりの新薬で市販後経験のないレムデシビルの方が,ワクチンよりもはるかに「危険」なのだが)。そのレムデシビルとて,全世界の人々に処方できるわけではない。これも仮に死亡リスクの高い65歳以上(3588万人,2019/9/15現在)だけに投与できることになったとしよう(それでも「我々には死ねと言うのか」という65歳未満の連中による暴動が起きそうだが)。すると最も多い副作用が3000例以上出現することになる。これでも集団訴訟を起こすには十分すぎる例数だろう。実際には,前述のように,レムデシビルの安全性はワクチンよりもはるかに劣るから,もっと濫用すればもっと副作用例数は増える(はずである)

だが,心配御無用.実際にはそのようなことは起こらない。日本の官僚はそこまで馬鹿ではない。レムデシビルは「特例承認」として日本でも患者さんに投与できるようにはなるが,何しろわかっていることが限られている。治験での投与対象も全部で数千人以下である。10万人当たり9件の頻度でしか現れない副作用など捉えられるわけがない。それゆえ,日本では使用できる施設も,投与対象となる患者さんも限定した上で,極めて慎重な市販後体制の下,その有効性と安全性を見極めることになる。その場合,特に留意するのが,海外では観察されていない,日本人特有の重篤な副作用の有無である。ここでもイレッサの経験が生きてくる。イレッサで問題となった間質性肺炎の頻度は,欧米人に比べて日本人で非常に高かった。

何はともあれ,皆さんには,普段軽蔑している「バカなマスコミ」による,陳腐なマッチポンプトリックに騙されるような,へまな真似をしてもらいたくないさらに,「あのアメリカの新薬が使えないのなら,アビガンを使ってくれ」なんて馬鹿なことも絶対に言ってはならない.レムデシビルが投与されるのは,限られた専門病院に入院している重症患者に限られる.それに対し,自分の治療に対してどうのこうの言えるぐらい元気のある人は第二のサリドマイドの助けなんぞ借りなくてもきっと良くなっていく.

あなたにお願いしたいのは,この大切な機会を利用して,これまで「バカなマスコミ」が散々市民を騙してきた陳腐な手口を,そしてその「バカなマスコミ」に騙され続けてきた,あなた自身の苦い記憶を,あなたの大切な人にも伝えてもらいたい。失敗の記憶を大切にする人だけが成長していけるのだから。

忽那賢志 早期承認見込み 新型コロナ治療薬レムデシビルの有効性は?Yahooニュース 2020/5/2←バランスの取れた見解.お勧めです.

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