薬害ビジネス
-その虚栄と破綻:米国における血友病HIV/AIDS禍の実態-

空想医学物語だった「薬害エイズ」:下山事件他殺説と同様のデマ
薬害ビジネスとはいっても,その収益モデルは決して複雑怪奇なものではない.マスメディアが検察を使って,産業と行政と医療,規制当局と企業とアカデミアの判断と行動が複雑に絡み合って生じた悪い結果を個人の業務上過失に矮小化・あるいは殺人罪に偽装する.そして裁判官を騙して,業過罪により事故原因を隠蔽し,薬害再生産システムを温存する.医療事故と全く同じ手口である.

そうして薬害が再び生産されれば,またマスメディアが正義の味方となって規制当局と企業を極悪人に仕立て上げ,検察と一致協力して業過罪に追い込む.医療事故再生産による収奪モデルと瓜二つ.裏を返せば,医療事故ビジネスは薬害ビジネスの焼き直しに過ぎない.

これらのビジネスを象徴するアイコンがみのもんたであり、「エイズ犯罪 血友病患者の悲劇」(*)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した、女みのもんたこと、櫻井よしこである。(*彼女の類い希な創作力を象徴する貴重な本書は、どういうわけか、文化勲章受章者である,かの古畑種基の本同様、絶版になってしまっている.もちろんAmazonでは廉価で入手することができるが,大宅壮一ノンフィクション賞受賞の栄誉ある作品をこのまま埋もれさせておくのは何とももったいない話であり,是非とも復刻願いたいところだ)

「薬害エイズ」事件は,薬害ビジネスとして大成功を収めた.そのおかげで国民の皆様の多くはいまだに安部 英氏がとんでもない悪徳医師だったと信じている.「薬害エイズ」事件は北陵クリニック事件同様,例によって脈の取り方一つ知らない「ジャーナリスト」達が、これまた脈の取り方一つ知らない特捜検事を騙して創作した空想医学物語だった.そのことは,名著『「薬害エイズ」事件の真実』 現代人文社』を読めばすぐにわかる.そこには,金儲けのためには,どんなに汚い手段を使ってでも,医療者を業過罪あるいは殺人罪で有罪に追い込む「ジャーナリスト」達と,そんな「ジャーナリスト」達を忠犬として飼い慣らして冤罪を創り上げる特捜の手口が克明に記されている.大学教授であろうと,看護師であろうと,研修医であろうと,彼らは見境なく餌食にする.そんな彼らにとっては,チンピラ矯正医官の一人や二人,藪医者呼ばわりすることなど朝飯前である.

古き良き日々の大いなる幻影
「血液製剤に混入したHIVによる健康被害は,血液製剤を使用していた欧米の先進各国でも日本と同様に発生した。しかし,この問題との向き合い方には違いがあった。欧米諸国は,血液事業が未知の感染症の挑戦を受けた,健康危機管理上の問題であるととらえた。そうした国々では政府もしくは議会の主導で原因解明が図られ,日本よりも早く 血液事業の改革が実行に移されていった」(出河雅彦 血液製剤とHIV 感染 The Journal of AIDS Research 2013;15(2):91-95

出河氏は朝日新聞の記者である.こうして「ジャーナリスト」達は血友病HIV/AIDS問題報道を今も「大戦果」として自慢する.「日本の役所は企業と癒着し,真実を隠蔽し,大勢の犠牲者を出した.常に清廉潔白・頭脳明晰な「欧米」の官庁に対し,厚労省は間抜けな悪徳代官の巣窟である」と,我々は耳にタコができるくらい聞かされてきた.

しかし,彼の論文を読んでみると非常におかしなことに気づく.CDCという言葉は10回も出てくるのだが,FDAという言葉は一回も出てこないのだ.医薬品の承認審査について何も知らなくても、血友病HIV/AIDS問題が発生した20年以上前、サリドマイド問題で日本のマスメディアがFDAを絶賛したことを知っていれば,出河氏が重大な事実を隠しているであろうことは容易に想像できる。以下に示すのは血友病HIV/AIDS問題に対するFDAの罪状を検証した結果である。

FDAによる血友病HIV/AIDS禍の隠蔽
Keshavjee S, Weiser S, Kleinman A. Medicine betrayed: hemophilia patients and HIV in the US. Soc Sci Med. 2001 Oct;53(8):1081-94
この論文のIntroductionには下記のような記載がある.
the FDA ignored the ample warnings of blood contamination from the CDC, and failed to enforce the administration of viral inactivation processes - available in the early 1980s, and ultimately found to be effective against HIV  because the drug companies claimed that they were too expensive.
CDCは日本のお役所ではない.だからCDCは旧厚生省ではなく,FDAに向けて警告した.それをFDAは黙殺した.自分で黙殺した警告を日本の役所に知らせるわけがない。インターネットも何もない時代に、CDCの出す情報を必死で捉えようとしていた旧厚生省の努力をFDAは踏みにじったのである。学術論文になって2001年から公開されているこの事実を、いまだに日本のメディアは隠蔽したつもりになっている

上記Keshavjeeらの論文以外にも,,FDAが関与したスキャンダルが,誰でも閲覧できるサイトで公開されている.
Bayer Documents: AIDS Tainted Blood Killed Thousands of Hemophiliacs
ニューヨークタイムズの記事を紹介した,上記サイトには下記のように,FDAがバイエルのスキャンダルの隠蔽に積極的に関与した様子が描かれている.
This previously uninvestigated case demonstrates how this industry’s lies and crimes are shielded by officials at the Food and Drug Administration. The Times reports that in 1985 FDA’s Dr. Harry Meyer willingly helped Bayer cover up “one of the worst drug-related medical disasters in history.” Meyer suggested that the issue should be “quietly solved without alerting the Congress, the medical community and the public.” This culture of accommodation continues to prevail at the FDA.
こうしてバイエルはFDAによる隠蔽工作のおかげで,米国内で非加熱製剤が使えなくなってからも,日本を含めたアジアに自社製品を輸出し続けることができ、FDAはそれを黙認した.今こそ医薬品の安全性情報を迅速に各国に流すFDAだが、ベトナム戦争に象徴されるように、常に自国民の利益を優先する米国の規制当局にふさわしく、多国民のことは考えない(というより、他国民を犠牲にしてまでも自国の企業の利益を優先する)FDAに,旧厚生省は「嵌められた」のである.

出河氏はこれらのFDAの罪状を隠蔽した上で,あたかも「欧米」では血友病HIV/AIDSの健康被害がはるかに少なかったように事実を「偽装」している.つまり嘘をついている.では事実はどうだったろうか.

三菱ウェルファーマ株式会社 HIV事件社内調査委員会 HIV事件に関する最終報告書 2007年7月9日によれば,血友病HIV/AIDSの健康被害者数は,米国で8000人,フランスでは3000〜5000人,ドイツでは1358人となっている.日本の 1800人と1983年時点での各国の人口(日本1億1923万人,米国2億3425万人,仏5465万人,ドイツ7704万人)を用いて単位人口当たりの被害者数を比較すると,米国は日本の2.3倍,フランス3.6-6.1倍,ドイツ1.2倍となる.いずれの国でも損害賠償が民事訴訟により争われたが,米国でもドイツでも,企業や行政に対して刑事訴追は一切行われていない企業や行政の個人が刑事裁判で有罪となったのは日本とフランスだけである.しかし,そのフランスでも,医師は一人たりとも刑事訴追されたことはなかった.

日本のメディアはこのような重大な事実を今日まで隠蔽しつづけ,「薬害」というスローガンで特捜と結託して,医学・科学・薬学・行政のことを何も知らない裁判官を騙し,厚労省・製薬企業の攻撃報道により莫大な収益を上げ,正義の味方認定証を独占してきた.その真相隠蔽の典型が冒頭に挙げた出河論文である.

出河論文学会誌掲載の意義
ここで非常に不思議なのは、出河論文が掲載された媒体である,「バカ者揃いの朝日新聞の読者達なら、俺様の書くものは何でも喜んで読むだろう」そう考え、自社の社説として書くのなら、出河氏のその姿勢は十二分に理解できる。ところが、出河論文が掲載されたのは、日本エイズ学会の機関誌である.なぜ出河氏は、こんな読者をバカにしきった論文を、よりによって日本エイズ学会の機関誌に投稿し、さらにそれが受理され、掲載され、今でも、論文取り下げどころか、どこからも何のクレームもついていないのだろうか?

日本エイズ学会誌の場合,2名以上の査読者による審査を受けた上で,編集委員会が採否を決定する.いずれも上記の事情をすべて知悉した面々が出河論文を審査し,その欠陥を知った上で論文を受理したことになる.そして,2013年5月の掲載以来,出河論文に対しては,取り下げ要求はおろか,何の物議も醸していない。つまり,日本エイズ学会は,出河論文の欠陥を知りながら,敢えて掲載し,放置していることになる.科学論文のデータ隠蔽・捏造に非常に敏感な昨今,非常に不思議な現象である.この不思議な現象を一体どうやったら説明できるのだろうか.

出河論文を読めば,ある人は,これは薬害ビジネスの動かぬ証拠であると考えるかもしれない.またある人は,出河氏はみのもんたと同種の人間だと思うかもしれない.またある人は,薬害ビジネスはFDAの陰謀であり,日本のマスメディアは全てFDAの忠実な番犬であると思うかもしれない.いずれにせよ,出河氏の単名で書かれたこの論文は,出河氏自身の不名誉にしかならない

そのことがわかっていて掲載した日本エイズ学会には、出河氏に対するあからさまな悪意が感じられる。「フン,何も知らねえくせに,たかがブンヤが偉そうなツラしやがって」とばかりに,出河氏に対する露骨な悪意を持った人間が少なからずいて,単名の論文を投稿してきたのを,「飛んで火に入る夏の虫」とばかりに,無修正でアクセプトして,出河氏を永久に晒し者にすることにした.私にはそれ以外に理由が考えられないのだが,私の頭の構造が単純すぎるのだろうか.他の理由が考えられるとしたら、どうかご教示願いたい。

報道カルテルと検察と菅直人氏による真相隠蔽大合同
以上のような摩訶不思議な点はあるものの,朝日新聞も出河氏も,出河論文が「第二の従軍慰安婦問題となるのか!」とは決して懸念はしていない.何せ,医療事故ビジネスと全く同様に,血友病HIV/AIDS報道に関する隠蔽についても、日本の全てのジャーナリストが赤信号を渡って戻れなくなったA級戦犯なのだから.薬害や医療事故を食い物にした報道カルテルには,日本の全てのマスメディアが参集している.血友病HIV/AIDSを食い物にした薬害ビジネスに対するマスメディア各社の完全黙秘は,北陵クリニック事件に対する完全黙秘同様,今後も徹底して継続されるだろう.

もちろんこの報道管制には、報道カルテルの勧進元である検察も加わる.なぜなら,いつものように被告人が無罪である決定的な証拠を含めて、全てを握っている検察は,マスメディアよりもさらに多くの証拠を隠蔽しているのだから。FDAによる薬害隠しを含めて、検察にとって都合の悪いことを全て隠蔽してくれているマスメディアを応援しないわけがない.この隠蔽作業への検察の加担も、北陵クリニック事件を含めた他の医療事故ビジネスと全く同じ構図である.

業務上過失致死罪で1996年に安部 英(あべたけし)医師が起訴された裁判に関連して,検察はエイズ原因ウィルスを確定したモンタニエ博士の共同研究者であるフランソワーズ・バレ・シヌシ博士の嘱託尋問調書を作成した.その内容は、安部医師に有利なもので、「1984年秋当時安部医師にはエイズ発症とそれによる死亡について予見するに足るエイズ原因ウイルスに関する知識は無かったと思う」という趣旨のものだった.モンタニエ博士と同じく エイズ原因ウィルスの確定者であるロバート・ギャロ博士の嘱託尋問調書の内容も、安部医師の責任を否定するものだった.(検察官の証拠隠し 紫色の顔の友達を助けたい より).しかし,この事実に対してもマスメディアは今日まで完全黙秘している.これも北陵クリニック事件を含めた他の医療事故ビジネスと全く同じ構図である.

このでっち上げの御利益に預かった方々はたくさんいらっしゃるのだろうが,その筆頭は何と言っても後に第94代内閣総理大臣として位人臣を極めた方だろう.下記は魚住 昭氏の書評から
---------------------------------------------------------------------------------------
 安部医師のバッシングが加熱したのは橋本政権が誕生した96年1月ごろからだ。橋本政権の厚生相になった菅直人氏は省内に「薬害エイズ」の調査班を設置し、ありとあらゆる情報を調査し、報告するよう命じた。そのころエイズ訴訟原告と支援者の抗議行動が厚生省周辺で何日にもわたって行われ、菅厚相が命じた報告期限の3日前に終わる予定だった。菅厚相は集会最後の日(2月9日)に原告団を省内に招き入れ、「郡司ファイル」なるものを提示して、「こんなものが倉庫に隠されていました。83年当時、厚生省内に非加熱製剤が危険だという認識がありました」と言って原告団に謝罪した。自ら命じた調査報告書の完成も待たずにである。
 だが本当にファイルは隠されていたのか?実は厚生省の新庁舎ができたとき、職員たちは「机の上に物を置くな。日常、使わない物は(新設の)倉庫に入れろ」と指示されていた。その倉庫から見つかったファイルの中身は雑多なメモや新聞記事だった。メモは、課内のスタッフが議論のために書いたのを直ちに捨てるのも気が引けるので、郡司篤晃課長がファイルしておいたものだった。つまり「郡司ファイル」は隠されていたのではなく、単なる「ごみファイル」だったのである。その中に「非加熱製剤を使用しないよう業者に対する行政指導をする」などと、新任の技官補佐が「思いついた個人的意見」を記したメモもあったが、それが課内で議論されたことは一度もなかった。まだHIVの正体が分からなかったからだ。「郡司ファイル公表」から1週間後の2月16日、菅厚相は患者らに国の責任を認めて謝罪した。2カ月後の4月、安部氏は衆参両院に参考人招致され、7月に衆院で証人喚問を受け、8月に東京地検に逮捕された。人気取りの政治家と、ことの本質を理解しようとしないマスコミによりエイズ問題の本質は、悲劇から事件へとねじ曲げられたのだ。それが裁判で疑問の余地なく明らかになった。
---------------------------------------------------------------------------------------

薬害ビジネス崩壊の意味
帝国陸海軍でさえ,ガダルカナル島の敗北を隠蔽できなかった.ところが,日本のマスメディアは学会誌の権威をも隠蔽工作の道具にして,裁判官と市民を欺いた大スキャンダルの真相を今日まで隠蔽し続けてきた.既に上記Keshavjeeらの論文が出てからだけでも14年,今日に至るまで,真相を隠蔽し,「悪人どもを成敗」したのは自らと検察の大手柄であると嘘八百を吹聴し続けている.日本のマスメディアは,帝国陸海軍,GHQ,検察と,常にその時々の国家最高権力の忠実な番犬となって今日まで生き延びてきた.その番犬の一番の仕事は常にご主人様の不始末の隠蔽だった.薬害であれ医療事故であれ,人の不幸を食い物にした商売の構造は,至極単純なものだったのである.

「お馬鹿な国民の皆様には真相が理解できるわけがない」とばかりに,市民をバカにしきってきたマスメディアと検察.この薬害ビジネスにせよ,医療事故ビジネスにせよ,彼らが真相を隠蔽し続けることによって成り立ってきた.しかし,ここに示したように、彼らの真相隠蔽の動かぬ証拠が,今や誰にでも瞬時に手に入る時代になった.新聞を読まなくなったのも,テレビを見なくなったのも,人口減少なんぞとは何の関係もない。「今までよくも騙してくれたな」というサイレントクレーマー達の立ち去り行動なのである.

参考
武藤春光・弘中惇一郎 編著”「薬害エイズ」事件の真実” (現代人文社):医療事故裁判におけるマスメディアと検察の手口,そして市民を騙して権力の階段を上り詰めていった菅直人氏の正体を知る上で最良の書です.

サリドマイド問題における報道の検証

一般市民としての医師と法に戻る
二条河原へ戻る