1型糖尿病とは
インスリンは膵臓のベータ細胞で作られるホルモンで、血糖値を低下させる働きがあります。1型糖尿病ではこのベータ細胞が減る結果、インスリン量が不足して、血糖値が上昇します。ベータ細胞からのインスリン産生が減るスピードとその程度は、患者さんごとに大きく異なります。何年もの経過で少しずつ減る方もいますし、数日でまったくインスリンを作れなくなってしまう方もいます。1型糖尿病でベータ細胞が減る原因は良くわかっていないのですが、ウイルス感染症や免疫機能の異常などが関係すると考えられています。
1型糖尿病は小児期にも発症するため、親からの遺伝で発症すると思っているひとがいます。しかし、同じ家族内で1型糖尿病が同時に発症することは少なく、日本人の糖尿病の大半を占める2型糖尿病よりも遺伝の関与は少ないと考えられています。また、小児期ばかりでなく、新生児から高齢者にいたるまで、すべての年代で発症する可能性があります。肥満や生活習慣も、1型糖尿病の発症には関係がありません。
高血糖を長く放置すると、合併症が生じる可能性があります。逆に言うと、血糖値さえしっかりコントロールすれば、合併症の心配は大きく減ります。学校生活や就職、結婚や出産など人生の様々なイベントも、糖尿病をお持ちでない方と同じように経験することができます。
薄井 勲(獨協医科大学 内分泌代謝内科)
1型糖尿病の検査
1型糖尿病の患者さんには、良好な血糖コントロールを得るために、次に挙げる検査からいくつか選んで実施してもらっています。
【HbA1c】
ヘモグロビンエーワンシーと読みます。血糖コントロールの指標で、過去1〜2ヶ月の血糖値の平均を表します。一般的には糖尿病合併症の進展を予防するためには、7%未満を目指した方が良いと言われています。1型糖尿病の患者さんは、低血糖を起こしやすいので、個々の目標について主治医と相談が必要です。
【血糖自己測定(SMBG)】
簡易血糖測定器を使って1滴の血液から数秒で血糖値を測定できます。どこでも簡単に血糖値を測定できますが、測定誤差は約15%とやや大きいです。
【持続グルコースモニタリング(CGM)】
皮下にセンサーを留置することにより、持続的に間質液中のブドウ糖濃度を測定できます。この値は血糖値にほぼ等しいので、24時間の血糖値の推移をグラフで見ることができます。スマートフォンをセンサーにかざすだけで血糖値を確認できるもの、低血糖や高血糖をアラームで教えてくれるもの、インスリンポンプと連動できるものなど、各社から特徴のある製品が出ています。
登丸琢也(獨協医科大学 内分泌代謝内科)
1型糖尿病の治療
1型糖尿病の治療には、食事療法・運動療法・薬物療法があります。
【食事療法】
基本的には食事制限は必要ありません。栄養バランスのとれた規則正しい食生活が大切です。とくに小さいお子さんは、健全な成長を支えるためにも年齢・性別・体格・運動量に応じたエネルギーと、必要な栄養素を過不足なく摂取するようにします。
【運動療法】
運動による血糖コントロールの改善効果は、まだ一定の見解が得られていません。しかし、心血管疾患を生じるリスク(体重や悪玉コレステロール(LDL-c))の低下や生活の質(QOL;quality
of life)を高める効果があり、運動療法は勧められています。
【薬物療法】
インスリン頻回注射療法(basal-bolus治療)が必要です。追加インスリン(bolus insulin)と基礎インスリン(basal insulin)を注射する方法です。追加インスリンとして、毎食前に速効型あるいは超速効型インスリンを投与し、基礎インスリンとして、持効型インスリンを1日1〜2回投与します。また、専門的な治療としては、持続皮下インスリン注入療法、いわゆるインスリンポンプがあります。これは、携帯型インスリン注入ポンプを用いて、皮下に刺した針より持続的にインスリンを注入する方法です。また、SGLT2阻害薬が1型糖尿病に使用できる数少ない飲み薬です。
膵臓には作用せず、尿糖を排泄することにより血糖を下げます。インスリン投与量や体重を減らす効果もあり、新たな治療の選択肢として期待されています。
【今後の展開】
2020年4月より膵島移植術が保険適応になりました。膵島移植とは、ドナーの膵臓より分離したインスリン分泌を担う細胞(β細胞)を含む膵島を肝臓に移植する方法です。ただし、現在のところ膵島移植の認定施設は全国で12施設と限られております。
松村美穂子(上都賀総合病院 糖尿病センター)
1型糖尿病のインスリン療法
1型糖尿病のインスリン療法では一般に、基礎インスリン1日1〜2回と、追加インスリン毎食前のインスリン強化療法が必要になる場合が多いです。
【超速効型インスリン製剤】
食直前の投与で食事による血糖値の上昇を抑える働きがあります。作用があらわれるまでにかかる時間は10分〜20分、インスリン作用が持続する時間は3〜5時間です。
【速効型インスリン製剤】
食前の投与で食事による血糖値の上昇を抑えます。作用発現まで30分程度の時間を要し、最大効果は約2時間後、作用持続時間は5〜8時間です。
【中間型インスリン製剤】
基礎分泌を補うためのインスリ製剤です。作用発現時間は約1〜3時間、作用発現時間は18〜24時間です。
【混合型インスリン製剤】
超速効型や速効型インスリンをいろいろな割合であらかじめ混合したインスリン製剤です。1つの製剤で基礎分泌と追加分泌が同時に補える製剤です。
【持効型溶解インスリン製剤】
不足しているインスリンの基礎分泌を補い、空腹時血糖の上昇を抑えて、1日中の血糖値を全体的に下げる働きがあります。
【配合溶解インスリン製剤】
超速効型インスリンと持効型溶解インスリンを混合した製剤。1つの製剤で基礎分泌と追加分泌が同時に補える製剤です。
持効型溶解インスリン製剤:不足しているインスリンの基礎分泌を補い、空腹時血糖の上昇を抑えて、1日中の血糖値を全体的に下げる働きがあります。
このように現在では、さまざまな種類のインスリン製剤があり、医師と相談しながら 自分の状態やライフスタイルに合った製剤を選ぶことができます。ただ、インスリン
による副作用としては低血糖がありますので、インスリンの単位は食事の量や活動量 に応じて調整が必要となります。
野澤 彰 (上都賀総合病院 薬剤部)