躁うつ病の文献紹介(医師・研究者向け)

                                                         躁うつ病研究室に戻る  最初のページに戻る

岐路に立つ精神医学 精神疾患解明へのロードマップ 加藤忠史 勁草書房 2730円 New (2013/6/25) 

前著、「動物に『うつ』はあるのか」は、精神疾患解明へのアプローチの中で、特に動物モデルを用いた脳科学研究に力点を置きつつ、臨床研究との連携について述べ、精神疾患解明へのロードマップを書いたつもりでした。しかし、タイトルだけでは、そのような本であるということが少々わかりにくかったかと思います。
 本書は、副題にあるとおり、精神疾患解明への道筋全体を議論しました。タイトルは、私が執筆意図を説明した時、編集担当の永田さんから反射的にでてきたもので、伺った瞬間に、そうか、精神医学は岐路に立っているのか!と納得してしまった次第です。精神疾患が社会に大きな影響を与えているにもかかわらず、検査法一つなく、治療法も副作用が多いのが現状です。もっと良い精神医療を目指すには、もっと研究しなければいけないことは明らかです。一方で、脳科学はこんなに進んでいます。それなのに、どうして精神疾患解明が思うように進まないのか? 双極性障害研究に携わっている私自身、日々もどかしい思いをしていますが、端から見ても、何でこんなに進んでないんですか、と思われると思います。本書では、精神疾患とはどのようなもので、解明がどのように進められてきて、なぜそれがまだ医療の改善につながるところまで進んでいないのか、何がボトルネックになっているのか、それをどうやって乗り越えたら良いか、ということをまとめました。
 新書に比べると、価格も高くなってしまい、タイトルも派手ではなく、あまり人目につくような本ではないかも知れません。しかし、小学校時代の友人で「パラレリズモ」の写真家、鈴木知之氏の写真のおかげで、表紙はナイスなものになりました。実は、当初「岐路(別れ道)」の写真が良いのでは、などと即物的な意見を述べてしまったのですが、彼が提案してくれたのは、ローマの古いホテルの鳥籠エレベーターと、それを取り巻く螺旋階段の写真でした。その趣旨は、カバー裏に本人の言葉で書いてくれましたが、なるほどなあ!と思いました。
 とにかく私の思いを全て詰め込んだような本です。

動物に「うつ」はあるのか 「心の病」がなくなる日 加藤忠史 PHP新書 756 円 New (2012/5/16) 

精神疾患を解明するためには、ゲノム研究、脳画像研究、死後脳研究といった臨床研究と、動物実験によるアプローチがあります。しかし、そもそも動物に精神疾患があるのか?という根本的な疑問がある以上、動物実験のみで精神疾患が解明できるとは思えませんし、一方、ヒトを対象とした研究では、できることに限りがあり、因果関係、メカニズム解明はできません。したがって、精神疾患の病態解明、診断法・治療法開発のためには、臨床研究と基礎研究を組み合わせていく必要があります。現状では、必ずしもそれがうまく行っているとは言えません。
 本書は、こんな現状の中、精神疾患解明を進めむには、一体どのようにアプローチしたらよいかを考えた本です。したがって、この書名ではちょっとピンと来ないかも知れませんが、実際の内容は、「精神疾患の生物学的研究のビジョン」について書いたものです。「マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学」にもつながる内容だと思っております。ぜひ、動物モデル研究を初めとして、精神疾患の生物学的研究に携わる方々にご参考にしていただければ幸いです。

双極性障害 病態の理解と治療戦略 第2版 加藤忠史  医学書院 4935 円 New (2011/5/19) 

2011520日頃発売の新刊です。1999年に出版した本(当時35歳か…)を、12年ぶりに改訂しました。

12年前と比べると、双極性障害をめぐる社会状況は全く変わりました。当時は、精神科医の中にも関心を持っている人が少なかったことが思い出されます。今では、精神医学の中でも、最も注目される疾患の一つとなり、過剰診断に対する警鐘さえ鳴らされるようになりました。そして、次々と新薬が現れ、治療のオプションも広がりました。数年で改訂の必要を感じたものの、いよいよ改訂できる機会が来た時には、もはや手遅れ。ほとんど書き直しとなりました。内容的には、診断・治療が3分の2、病態理解(薬理を含む)が3分の1位です。双極性障害について私の知っていること、思うことを全て注ぎ込んだ結果、出来上がってみると、思ったより分厚くなり(334ページ)、よくこんな本が完成したもんだ、と我ながらびっくりです。
(早速ですが、訂正です…。申し訳ありません。)

脳科学エッセンシャル ―精神疾患の生物学的理解のために 神庭重信・加藤忠史編  中山書店 9450   

 2010710日発売の新刊です。
 気合が入りすぎて、個人で購入するような価格ではなくなってしまいましたが、これは大変な本だと思います。脳科学の本は色々あると思いますが、脳科学があまりにも幅広い領域であるために、全てを網羅することが困難です。本書は、総勢110名にも及ぶ先生方にご執筆いただくことにより、分子から意識まで、脳をめぐる幅広い内容を取り扱っています。(この場を借りまして、ご多忙の中ご執筆下さった先生方に心より感謝申し上げます。)
 特に解剖学にはこだわり、精神疾患との関連の疑われる脳領域に注意して章立てされています。脳科学全般を見渡しつつ、特に精神疾患の生物学との関係について詳述されています。精神科医、およびこれから精神疾患を研究しようとする神経科学の研究者のお役に立てることと思います。

うつ病の脳科学 ―精神科医療の未来を切り拓く 加藤忠史著  幻冬舎新書 798 円 

 2009928日発売の新刊です。
 昨今、どうもジャーナリズムが「精神科叩き」に走っているように思えてなりません。うつ病がなかなか治りにくい場合、副作用が出た場合など、全てが精神科医のせいにされています。
 もちろん、そういう場合もあると思います。しかし、これらの原因が、本当に全て、精神科医の力量不足なのでしょうか? 何と言っても、精神疾患の原因解明が道半ばであることが最大の原因と考えるべきではないでしょうか。
 本書は、うつ病医療を巡る誤解について、本当のところを説明し、社会が精神疾患研究の必要性を理解してくれることを祈って書いた本です。3月にお話をいただいたのですが、さまざまな社会情勢を鑑み、機中、車中を最大限に利用して、突貫工事で仕上げました。
 本業の懸案の原著論文がなかなか通らず苦しんでいる中、一般書ばかりが続くのは忸怩たる想いではありますが、研究は、国民の皆様のご支援なしには行えません。精神疾患研究がどれだけ重要か、いくら説明しても言い過ぎることはない、と思っております。

脳と精神疾患(脳科学ライブラリー 1) 加藤忠史著 朝倉書店 3,675円 

 2009120日発売の新刊です。単著で専門書を書くのは、1999年以来のことです。
 この20年に経験したこと、勉強したことを全て、この一冊の本に注ぎ込みました。
 「精神の脳科学」が興味深いトピックを取り扱う本であったのに対し、この本はなるべく幅広い視点から精神疾患全体を俯瞰するつもりで書きました。このような精神疾患の脳科学の系統的な本は、ありそうでいてほとんどなかったと思います。精神疾患の基礎知識も得られるようになっており、価格も朝倉書店さんに特にお願いして、この種の書籍としてはぎりぎりの線までなんとか抑えていただきましたので、これから精神疾患研究を始めようという研究者の方々(脳科学、分子生物学、心理、工学など)、精神科医、その他の全ての方々にお勧めしたいと思います。

脳と精神疾患
 
はじめに
 1. 総論
  1.1 精神疾患とは
  1.2 精神疾患の重要性
  1.3 脳と精神疾患の歴史
  1.4 精神疾患研究の現状
 2. 統合失調症
  2.1 統合失調症とは
  2.2 臨床
  2.3 原因
  2.4 まとめと今後の展望

 3. うつ病と脳
  3.1 うつ病とは
  3.2 臨床
  3.3 原因
  3.4 まとめと今後の展望

 4. 双極性障害
  4.1 双極性障害とは
  4.2 治療
  4.3 双極性障害の生物学的研究
  4.4 双極性障害の病態理解
 5. 自閉症とAD/HD
  5.1 自閉症
  5.2 AD/HD(注意欠陥/多動性障害)
 6. 不安障害・身体表現性障害 
  6.1 神経症概念の解体 
  6.2 不安障害とは
  6.3 強迫性障害
  6.4 パニック障害
  6.5 PTSD
  6.6 転換性障害
  6.7 心気症
 7. 動物モデルを用いた精神疾患研究
  7.1 さまざまな研究の方向性
  7.2 動物に精神疾患はあるのか
  7.3 進化精神医学の視点
  7.4 野生動物と実験動物
  7.5 動物モデルと評価系
  7.6 動物モデルの妥当性
  7.7 うつ病の動物モデルと評価系
  7.8 統合失調症の動物モデルと評価系 
  7.9 双極性障害の動物モデルと評価系 
  7.10 不安障害の動物モデルと評価系 
  7.11 まとめと今後の展望 

 おわりに
 索引 

精神の脳科学 (シリーズ脳科学 第6巻) 加藤忠史編、甘利俊一監修 東大出版会 3360円 New (2008/3/8) 

怒り発作、A10、ミトコンドリア、潜在記憶、ムンク、前駆衝動、多重記憶システム、経頭蓋磁気刺激、汚言症、DISC1、自我意識、大麻、考想伝播、ギャンブル課題、視交叉上核、覚醒意識、三島由紀夫、一卵性双生児、情動脱力発作、DNAメチル化、非随意、暴力、反転学習、驚愕反応、前頭前野背外側部、解離性麻酔薬、先行刺激抑制効果、報酬系、情動記憶、脳内自己刺激、神経細胞新生…

2008313日発売予定の新刊です。オビは、さすがの養老節。(『脳研究なんて、自分の分野とは関係がない。そう思っている人は、ただそう信じているだけのことである』) 脳科学の幅広い領域をカバーする「シリーズ脳科学」の第一回配本となります。脳科学の視点から書かれたため、精神疾患の解明を通して精神の不思議を解明しよう、というスタンスになっています。寄稿してくださった先生方のお陰で、上記のような実に多彩な話題を縦横無尽に取り扱う、大変刺激的な本になりました。
 理系と文系の交差点である精神医学の魅力を実感できる本になったと思います。
 一般向けというには少々難しいかも知れませんが、脳と精神の研究に関心のある、理系・文系の研究者や学生に(もちろん精神科医にも)オススメです。
毎日新聞4月13日朝刊で紹介されました

1章 総論 −精神疾患からこころの深層に迫る脳科学のアプローチ (加藤忠史)
2章 人格・行動の変化と前頭葉損傷 (村井俊哉)
3章 トゥレット障害 −「随意」と「不随意」の間 (金生由紀子)
4章 快情動と依存 (池田和隆)
5章 統合失調症 −「分子」と「精神」の間 (吉川武男)
6章 うつ病と神経可塑的変化 (楯林義孝)
7章 双極性障害 −脳にとって、気分とは何なのか?  (加藤忠史)
8 PTSDと解離性障害にみる記憶と自己の多重性 −消せない現在、見失われた過去 (西川 隆)
9章 ナルコレプシーと睡眠制御機構 (本多 真)

一般書

躁うつ病とつきあう 第二版 、日本評論社、1500円、2008

 筆者が一般啓発書として書いた本ですが、10年の月日を経て、新たに3章を加え改訂となりました。これまでの研究の経緯も追って書いてあります。末尾の「躁うつ病を知ろう」も、10年前にはなかった薬物療法や、この10年間に更に注目が高まった認知療法等の非薬物療法も含め、最新情報に改訂いたしました。ノンフィクション小説としても気軽に読めるようになっていますので、患者さん、ご家族、看護スタッフなどに躁うつ病の全容を理解していただくためにご利用いただければと思います。

こころだって、からだです、日本評論社、1,500円(税込み1575円)、2006 

 精神科医なら一度は経験する(?)、「精神保健」の講義。研修医時代は既存の教科書でおこないましたが、内容が古臭いし、型にはまっている感じがして、どうもしっくりきませんでした。数年前に久々に幼児教育学科で「精神保健」の講義をたのまれた際に、今回こそと思い、講義内容を自分で構成しました。その講義ノートが元になった本です。できあがってみると、どういうわけか、教科書どころか、何故かとっても軽い読み物になってしまいました(笑)。双極性障害のミトコンドリア仮説やらDNAメチル化やらの研究最前線も取り上げたコラムをつけ加え、硬軟取り混ぜた一般書になった次第です。題名は、以前から好きだった中島らもさんの言葉を、許可を得て使わせていただきました。精神医学や精神保健のサブテキスト等にでもご使用いただければ幸いです。

その他の一般向けの本

最近読んだ一般向けの本

   専門家向けの新しい文献

1.教科書

TEXT 精神医学 改訂3版 加藤進昌、神庭重信編 南山堂 

 今年出版された精神医学の教科書。もちろん気分障害専門の本ではありませんが、気分障害の記述は充実しています。(ちなみに、気分障害の章が統合失調症より先にある!
 これまで精神医学の教科書といえば、例えば大熊先生の「現代臨床精神医学」(金原書店)などが定番でしたが、今後はこれか!と思わせる本です。内容が新しいし、どこか重要かがわかりやすくて読みやすい。そして何と言ってもコラムが面白い(実は私も、6本も(!!)書かせていただいたのですが[]、その項はともかくとして、特に精神医学史のトピックは面白いです。) 
 先日、編者のお一人である神庭先生より、この教科書は、第一層 国試対策 第二層 精神医学の基礎 第三層 最先端の情報 の三層構造からなると伺い、本書の特徴について初めて合点がいきました。(本の中にはそんなことは書いてありません) すなわち、国試対策には、各章の頭にあるキーワードをチェックする。精神医学の基礎を学ぶ人は通読する。そして精神科医はコラムを通してより進んだ情報を知る、とそれぞれの活用法があるということなのです。

− ストレスとこころの健康 新しいうつ病の科学(G.ウォーレンシュタイン著、功刀浩訳) 培風館 2400円 

 うつ病の病態に関する理論は、ここ数年で大きな変化がありました。モノアミン中心の考え方から、神経可塑的変化を中心に据え、モノアミン系、視床下部−下垂体−副腎皮質系の抑制障害を統合した理論へ展開されるようになってきています。こうした急速な進歩にも関わらず、うつ病の病態についての最新理論を解説した、適当な本はありませんでした。本書は、うつ病研究の到達点をわかりやすくまとめた本です。まさにこの研究分野で活躍している精神神経センターの功刀先生が訳されただけあって、随所に痒いところに手が届くような訳注が入り、訳語も、実際に良く用いられている適切なものが使われていて、とても読みやすいものです。功刀先生の研究室で、初めてうつ病研究に携わる研究スタッフの人達のための勉強会に使ったというだけあって、うつ病研究にこれから取り組む人には最適の本と言えましょう。
(注: この本は双極性障害ではなく、「うつ病」に関する本です)

Goodwin FK, Jamison KR : Manic-Depressive Illness: Bipolar Disorders and Recurrent Depression, 2nd Edition Oxford University Press, New York, 2007

躁うつ病研究者のバイブルの改訂版。単極性うつ病の記載もあるが、記載の中心はむしろ双極性障害である。双極性障害のあらゆる面について細かく記述されており、これだけの本は今後も現れないのではないかと思うほど内容、文献リスト共に充実している。(例えば、筆者のMRS研究についても、筆者が覚えていないほど詳しい内容が紹介されていて驚いた。逆に言えば、詳しすぎるのが難点と言えば難点。) 
 
特に、躁うつ病の肯定的側面、心理教育の重要性などの記載は充実している。
 なお、著者のJamison博士は、自身が双極性障害をであることを著書「躁うつ病を生きる」の中で詳しく語っている。

  新しい本

最初のページに戻る