2013-06-15
逆説的だが、救命救急には、食指が進まない。延命もそうである。予防出来る事はする、出来なかった事は諦める。老人医療費を掛ければ、75歳の心筋梗塞を助けたが故に長じて85歳の介護で家庭が崩壊するかもしれない、否・経済が行き詰まり少子化が進むのも社会資源を介護から保育へ大胆に分配し直せないという現実が横たわっている事から目を背けているような偽善に押しつぶされているのが日本の現実である。
題名だけからは善意の塊に思えるこの演題は、聴いてみると暗澹たるものだった。自分の心にまた一樽のタールが注がれた様に感じられた。
既往に数回の失神歴があり、家族歴に濃厚なペースメーカー植え込み例が有る若年女性。失神の1回はバイスタンダーである父の蘇生(BLS)で事なきを得ていた。
面接の際に意識を失った。救急隊が到着するまで30分。その間、心臓マッサージなどは施されてい無かった。搬送先で低体温療法なども施されたが、頻回の不整脈も有り、植え込み型除細動器(ICD)を施されたものの、高次機能障害を残した。
まず、胸を押せ.遠巻きに見るな。まして通りがかりではなく、会社の一員として尽くす筈の身内候補ではないか?、親にしてみればという心持ちにもなる。
一方で、collateral life・巻き添えで反魂丹、2割の成功例を得るために、濃厚な介護が必要な「生還者」が社会に在る事も忘れてはいけない。少数の成功例を賞賛したり、亡くなった事だけを悔やまずに、俯瞰的に社会が抱えられる限界を勘案することも必要である。
Conventional and chest-compression-only cardiopulmonary resuscitation by bystanders for children who have out-of-hospital cardiac arrests: a prospective, nationwide, population-based cohort study Kitamura et al. doi:10.1016/S0140-6736(10)60064-5 The Lancet
胸に球が当たった心臓震盪症のように心原性の場合には差がなかったが、子供のばあい心肺停止の原因は下記に示す大人の虚血性心疾患に伴う致死性不整脈より、飴・玩具などの気道内異物や溺水の事が多く、人工呼吸やハイムリッヒ法などの気道確保が不可欠である。
2005-07年までに日本であった18歳未満の5170例の病院外心肺停止事例を検討した。発見者などが速やかに蘇生に取りかかった場合は、良好な神経学的予後が得られた(4·5% [110/2439] vs 1·9% [53/2719]; adjusted odds ratio [OR] 2·59, 95% CI 1·81—3·71)。
人工呼吸を行った蘇生では7.2%(45/624)が社会復帰できたのに対して、胸部圧迫による心臓マッサージだけでは1.6%(6/380)だけしか快復しなかった(オッズ比5.54[2.52-16.99])。心原性の場合は、人工呼吸の有無で差がつかなかった(9·9% [28/282] vs 8·9% [14/158]; OR 1·20, 0·55—2·66)。
一方、同じく消防庁のデータを用いた研究で成人でのAEDの有効性を調べた所、
発見者などが救急隊到着前にAEDを用いた場合のひと月後の社会復帰率は462人のうち31.6%。一方、最初に救急隊の処置を受けた患者約1万1700人で社会復帰したのは14.0%だった。
蘇生は如何にあるべきか?という研究で、心臓マッサージ(心マ)のみと、気道確保・人工呼吸( mouth to
mouth)を含めた教科書的な蘇生を比較している。
by−standerが蘇生を開始することで、神経学的予後は改善するのは当たり前として、教科書的な蘇生と心マのみと較べても、予後に大きな違いが見ら
れないばかりか、心室頻拍(VT/pulseless VT)オッズ比1.9[95% CI
1.0-3.5]、無呼吸オッズ比2.0[1.1-3.7]のような場合でも、【心マのみ】の方が神経学的予後がよかったという部分的な
解析結果が得られている。層別化した場合は、疑陽性の結果をもたらす危険もあるので、改めての検証が必要となるが、得られた結論は、『兎に角、早く、胸を圧せ』と言うことになる。4分以内に蘇生
を開始した場合でも、心マのみの方が良いオッズ比2.1[1.1-4.0]を得ている。
胸郭を圧すだけでも、ある程度の換気は行われる。一方で気道内圧を高め縦隔の内圧が上がると、全身からの還流が阻害され心拍出量が減少し、末梢のうっ血も
来しやすい可能性も考えられる。
専門医の資格に蘇生法の習得は必要なかったのだが、循環器学会専門医も内科認定医もそれを要求するようになっていて、足の裏の米粒をとるにも色々手間暇が
掛かるようになりつつあるが、その教科書が書き換えられるネタになるような研究である。
また、SARSなどの事例では口−口呼吸で感染例もある。また、気道確保のために下顎の挙上が必要だが、頚椎損傷の患者かどうか、周囲の人には即座には判
断できない。そういた意味では、善意の一般市民に強いる事も躊躇われるので、今回の「胸だけ」というのは、良い教訓を得たと言える。その後、米国などの指針でも十分なトレーニングを積んでいない市民では口口人工呼吸を省いても胸部圧迫を優先させるべく変更された[Sayre et al.][日本ライフセービング協会microsoftword]。
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