たばこ・せき・いんふるえんざ

H21.5/13

マスクは日本の美徳と思うのだが、極東以外には親和性が乏しいのか旗色が悪い。

マスクと相性の悪いのは、タバコである。タバコを吸う時はマスクを外さないといけない、
マスクにチャックがついていてとか、タバコを吸うためのアクセスチューブが付いていてとかいうのは悪い冗談で思いついたが、よくある在宅酸素療法の喫煙者火災事故ほどでないにせよ、外さないと燃える。
インフルエンザウイルス感染は飛沫感染であるとともに接触感染でもある、あちこち触って、触った手を口や鼻に近づけるという行為が、感染機会を増やす。
放射性同位元素取り扱い施設では化粧・飲食にならんで喫煙が禁止されている。それは火災防止の観点からだけでなく、化粧もタバコも手を顔に持って行く行為だからである。
吸い口の所を持ち、そこで飛沫が吸い口にうつり、口に銜えて上気道に達する。
吸いさしが短くなると指そのものが唇にあたる。
手を洗ってから喫煙するというコマメな喫煙習慣は寡聞にして目にしない。さらにメキシコ風邪の場合消化器症状やウイルスの糞便中への排泄が言われており、尚更手洗いや接触感染への配慮は必要である。
さらに、火の貸し借りやタバコの拝借でライターや箱に手を触る機会もあるがこれはそれほどでも無かろうけど、キスをする様な仕草で火を貰う行為など、パンデミックの時期ならずとも、避けたい格好である。
喫煙室は煙が濛々としているが、清浄器がついていても、換気の悪い狭い所でヒトが群れるという行為は、タバコなしでも感染拡大機会を増やす。
さらには、喫煙者は自覚が乏しいが、煙による慢性炎症により、日頃から、咳嗽や喀痰の排泄が多い。飛沫を多く生じる行為を、喫煙中はマスクや咳エチケットなしですることになる。咳エチケットというのは塵紙で鼻口を覆い飛沫の拡散を防ぎましょうというのだが、片手にタバコを持っていたらもう片手でなにが出来ようか?という嵌めに陥る。ティッシュがなかったら袖で覆いましょう[動画]というアィーンの動作を白人は推奨しているが、手洟や痰の吐き捨てに馴れた東洋人にとっては習得に時間の掛かる行動様式である。

軍隊という喫煙に親和性が高く、集団で行動する組織での、感冒様症状と喫煙にまつわる、論文はイスラエルと米国の2報ある。

1982年のイスラエル軍のもの[ NEJM307(17):1042]は、336名の部隊で喫煙者(168名)の68.5%が発症し50.6%は休まざるを得なかった、非喫煙者は発症率47.2%に留まり(P < 0.0001)寝込んだのも30.1%だった。抗体保有率は喫煙者の方が有意差はなかったものの高く、喫煙者でインフルエンザがより顕在化し重症化することが判った。
1981年の米軍のものは喫煙する女性との比較[Am J Public Health.71(5):530]で、173名の新兵訓練部隊で喫煙率は35%であった。喫煙者の発症率は60.0%に対して非喫煙者は41.6%であった[RR 1.44 95% CI 1.03~2.01]。医師への受診率や重篤度は喫煙者の方が多く、喫煙の寄与率は13%に上る。

イスラエル軍の報告では抗体保有率に差がなかったとしているが、トルコの中高年を対象にした1983年論文では、喫煙者のほうが、保有率も力価も高く、既往が多いとしている。

40歳から64歳の採血を5年の間隔で行っていた。111名のライトスモーカーと68名のヘビースモーカーのHI価をみたところ、非喫煙者に比べて前値の時点で高力価であり五年後の抗体価の上昇も喫煙者で顕著だった[Eur J Respir Dis. 64(3):212]
また、接触感染にはノロウイルスが院内防疫の課題であるが、美濃加茂市の精神科病院の安藤正枝・看護部長が、横浜市で開かれた第24回日本環境感染学会で発表した。喫煙室のライターやドアノブでの拭き取り調査でのノロウイルス検出は記憶に新しい
調査の結果、3病棟でたばこを吸う職員の67%、老健施設では55%が発症。吸わない職員の発症率は各36%、26%だった。たばこを吸う人が多い慢性期病棟では、喫煙患者の73%が発症し、喫煙しない人の発症は29%にとどまった。[ノロウイルスによる感染性胃腸炎のアウトブレイクと喫煙行為との関連 2009-02-28]

マスクの有効性は医療現場ではSARSの時の検討などで認められている[BMJ 27 November 2007]。米国がそれを黙殺するのは日本と違い日頃からの消費が無く生産流通に不足が生じること、そして自宅待機というもっとも有効な予防策が遵守されなくなることを危惧してである{pdf : REUSABILITY OF FACE MASKS DURING AN INFLUENZA PANDEMIC 2006 by the National Academy of Sciences.}。

水道水によるウガイも上気道炎を予防する効果が認められている、しかし粘膜への負担の大きなイソジンは却って有効性が乏しいようである。
あとは、新聞の写真であるような光景「みんなで並んで一斉にウガイ」というのは飛沫を飛び散らせるので逆効果になる可能性がある。
十分きれいな水が得られることが前提で、コップの使いまわしなど論外である。
ウガイは一人静かに水道水でというのが日本流である。
口腔内の衛生状態を保つ事は、単独では流感の予防に効果が弱くても、その重篤化や細菌性の続発症(扁桃腺や肺炎)を減らす効果が期待される。


   


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