H17.11/17
年を取ると階段や坂道は苦しくなります。その原因の一つに肺気腫があります。年齢でも肺気腫の検査値1秒率は減りますが、それよりも喫煙が大きな原因になっています。
「風邪が治らなくて」とか、「何かあると困るから風邪薬を常用している」とか、「抗生剤をなぜよこさない」とか、そう仰る患者さんの中には、風邪のような感染症ではなく、肺気腫や慢性気管支炎がタバコや大気の汚染で生じている結果の咳に由来している場合もしばしばあります。そのような患者さんには抗生剤や解熱剤は不要です。不要な薬を飲む前に自分の健康状態を把握しましょう。その為に必要な検査として肺機能検査があります。そして1秒率や肺活量をしらべましょう。
タバコをはじめとして七輪や囲炉裏など屋内で高濃度の排煙を吸入すると浮遊粒子状物質が肺に沈着します。
肺の組織に慢性的な炎症が起き喀痰、気管支のむくみ、肺胞な破壊が起こります。慢性気管支炎(炎症が主体)と肺気腫症(破壊された像が主体)をあわせてCOPD(慢性閉塞性肺疾患)といいます。
肺気腫の場合1秒量の減少が主体です70%未満ならさらに検査を進めていきます。酸素飽和度が90%未満なら酸素吸入が有効です。運動療法や栄養療法等の組み合わせていきますが、しかしながら回復させる方法はなかなかありません。タバコを含む汚い空気を吸わない予防が大切です。次世代をCOPDから救う為脱タバコ・脱車社会が望まれます。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は死因の10位です。
総数 13 444名(男10,187、 女3,257)
タバコの灰の粒子径は比較的大きいので気管の中枢側に害を及ぼす事が多かったです。
フィルターなしの頃は気管に大きな粒子が入り中枢性の扁平上皮癌が多く見られました。また気管支の炎症が主でした。
副煙流では2.5μm、フィルターを通った主煙流では100nm-1μmと小さな粒子になります。この大きさは小麦粉の百分の一、花粉の十分の一になります。このように細かい粒子は、酸素と炭酸ガスを交換する袋:肺胞の奥底まで到達します。
肺胞では単球という白血球の仲間が異物の除去に当たります。除去に当たるとき活性酸素を作り異物に吹き付けます。また、飲み込んだ後分解しようと活性酸素を作ります。でも、タバコの灰は、単球が想定しているようなウイルスや細菌と違い蛋白や核酸の固まりではなく、灰と無機質ですから分解できません。そうして、食べたままどうしようも無くなって自滅してしまいます。それを繰り返すと膿みとして痰に混じって外に出ようとします。それを出す為に咳が多く出ます。
咳については北アイルランドとアイルランドでの比較の研究があります[bmj 331(12 Nov)。自分は吸わない飲食店の店員さんで比較すると飲食店での全面禁煙が実施されたアイルランドではニコチン代謝物の唾液中濃度は80%減少しました。同じ時期禁煙が進み北アイルランドでも20%濃度の減少を見ています。咳等の症状はアイルランドで16.7%減少したのに北アイルランドでは変化がありませんでした。
パブでの測定では血中一酸化炭素濃度が1ppmから11ppmに上昇したという報告もあります。これはタバコ2本分に相当します。環境中の一酸化炭素濃度は血中のそれとほぼ一緒です。横須賀では0.6~0.8ppmで環境基準では10ppmを超さない事になっています。また、血中の一酸化炭素濃度は数日間正常に復するまで掛かるので、非喫煙者も喫煙環境に暴露されたあと数日影響が残ることになります。
日本では、中田ゆりらが環境中の浮遊粒子状物質を精力的に調べています。日本の飲食店の測定では「飲食店(7店)のうち、全面禁煙店(3店)ではほとんど検出されなかった。しかし、自由に喫煙できる2店では、昼食、夕食時間帯を中心に、1立方メートルあたり最高1.2ミリグラム、平均でも0.11ミリグラムだった。仕切りがないなど、分煙対策が不完全な2店は、喫煙スペースで最高0.56ミリグラム、禁煙スペースでもピーク時には基準の倍以上の0.3ミリグラムを超えた」とされています。
非喫煙者が携帯型のSPM測定装置をつけると1日31.4μg/m3のところ、喫煙者では74.3μg/m3に上ります。[環境再生保全機構の調査研究pdf]
浮遊粒子状物質の横須賀市の目標は「200μg/m3以下であること」です。東京都区内のSPMの年平均値49〜74μg/m3となっており、横須賀市も15〜45μg/m3と同様に目標を達成しています。しかし、タバコ1日20本当たりマンションの中では、およそ 100μg/m3上昇するとされています。横須賀市内で越えた日はありません。(横須賀市の大気汚染のページ)
中国では煙突をつけると58%呼吸器疾患が減ったという報告があります[bmj 331(5 Nov)]。16号沿いの様に車等の浮遊粒子状物質があると比較が難しいのですが、空気のきれいな長崎県の北部田平町で行われた千住秀明らのの研究では肺気腫の頻度が喫煙者で12.6%、非喫煙者で1.8%あり、全体で418人中59人が肺気腫であったという報告もあります。もっとも、田平は炭鉱町だったので職業歴の詳しい検討も必要と思われます。
ホルムアルデヒドというとタンス等の接着剤に使われる物質です。これが多いと新建材の嫌な匂いがきつく、家に酔ってしまう化学物質過敏症の人も出ます。乳児のオクルミには「ホルムアルデヒド『ゼロ』」を謳っている製品もあります。タバコもホルムアルデヒドの発生源で、部屋内でタバコを吸った場合、ホルムアルデヒド濃度が0.1mg/m3を越えることがあり、環境基準に達してしまいます。
焼き魚や炒め野菜でもニトロソアミンという発癌物質が出来ます。それと同じで物が燃える事で発癌物質が生じます。細かい灰に載って肺の奥底まで到達します。タールも発癌物質です。
慢性の炎症で組織が破壊されると再生しようとします。新しい細胞が生まれるときに変異原性のあるタールなどがあると間違った細胞=癌が出来ます。
タバコに限らず他の煙、大麻もディーゼルの煤煙も健康を害します。しかしながらタバコは直接喫煙する場合も、間接的に喫煙する場合も、灰の奥底まで届くので影響力が強くなります。一般に、粒径が10μmより大きい粒子は、呼吸により鼻から入っても大部分は鼻腔の粘膜に吸着され、肺には達しません。しかし、10μm以下の浮遊粒子状物質は、気管に入りやすく、特に粒径が1μm以下の粒子は、気道や肺胞に沈着しやすく、呼吸器疾患の原因になります。
道路のディーゼル粒子の場合では1μg/m3あたり10万人に0.1名/年の肺癌を生じるとされます。23.6-32.7%道路沿線の方が肺癌発生率が高く、おそらくディーゼル粒子での女性の肺癌発生率は1都6県で133名/年といわれています[国立環境研究所 兜真徳]。一方タバコによる女性非喫煙者の発癌は10万人あたり19名、遥かに多い肺癌を生じます。車の公害に対する憤りの前に、自分や周囲の喫煙の影響の大きさも忘れない様にしましょう。
タバコとインフルエンザ
上のグラフは循環器学会英文雑誌に国立環境研究所のグループが発表した論文。
2.5マイクロより小さく肺の奥まで届く大気汚染物質:PM2.5の濃度と死亡数を東京で見た結果が上段
下は各都市での影響。
当日の大気汚染が酷いと急性心筋梗塞での死亡数が高くなる傾向があり、特に65歳未満では5.4%(95%信頼区間;0.2から10.8%)有意に増加していた。しかし、高齢者ではその違いがなく、全体では有意差が無くなっていた。
京都府立大の繁田先生[pdf]によると、禁煙のゲームセンターではPM2.5濃度は最大6から33μg/立米であったが、喫煙のゲームセンターでは最大33から266であった。
先のグラフで高い日程、死亡者が多いが、分煙していない環境ではその濃度を大きく上回ることになる。全面禁煙が求められる理由は、そこにある。
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