[Shousetsu Gendai Vol47 No.6 P502 editrial p704]
2009-05-03
金融小説としてリスクティカーを書いた、川端さんの短編読み切りで、オフィス小説として3本の特集のなかの1本である。リーマンショック後の不安定な外国為替取引のディーリングルームを描いている。真山さんはバブル前夜のドブ板時代の銀行営業を回顧する小説をしたためている。
金融工学の申し子としてCorTIS君なる専用電算機も出てくる。専用のハードというのはGPCPUなんだろうか、メインフレームではなくモニター付きのポータブル機のようである。(当てずっぽう)。 もちろん、テクニカルな話はあまり出てこない。自己勘定取引がバブルの反省に基づき出来なくなった後、エンロンもネットもその他のバブルもお構いなしに端々と市場取引仲介業務に徹していた。強欲は破滅などと書いてあるような堅実な状態の、黒子というか土台のようなディーリングルームの話。打ち上げも居酒屋で、バブルへGo!の様なディーラーのプライベートな部分は出てこない。
自己勘定取引をしていた人は肩を叩かれたり居なくなっている。敗戦処理に追われているうちに病に潰えた女性行員がまだ「潜水艦」に乗務しているのである。ただし、自己勘定取引には興味はなく、市場の波長や調和を佳しとしている。そして、若い天然女子行員に乗り移って実態を得て取引をするのである。そして、実態が無いが故に、CorTIS君や他の情報機器との親和性も高く、ICクレジットカードや携帯の電子マネーにも染み込む能力があるらしいというとんでも、幽霊である。「生前のアカウントのホルダー」を天然の女子行員の端末にサルベージして「教育」したりしているのである。霊感の強い子は共存できず。自己の確立した女性には浸透できないので、天然女子行員が配転されるなんて、人事システムにも食い込んでいるらしい。
悪戯としては、メキシコペソの客先注文を間違え(乗り移ってぽちっとなぁ〜されてしまったのだが)てブラジルレアルを注文し、そのポジションを持っている間にレアル高ペソ安になり、儲けっちゃったラッキー!なんて、オペレーター(顧客ディーラー)の風上にもおけない、支店には置いておけない天然ぶりが良く判るような女子行員に乗り移って、その利益を叩きだすのである。
で、あれこれ準備して日本という潜水艦から乳業国という氷海の穴から息をしに水面を目指した作者は、その穴からシロクマを目撃するはめになった(嘘)。伏線としてメキシコペソの暴落が書いてあり、今回のシロクマの様に穴の外で待ち受ける流感の流行を検知するカナリアとしてニュージーランドの高校生[pdf]たちがはたらいたことを思うと、出来過ぎのようなタイミングを思わせる。農業国故、査証の制限等が加わるか?南半球の7月は冬だ?という杞憂は、この雑誌が発売された4月22日の>翌日からの10日余のうちに世界が戦った末、スタンダードプリコーションで乗り越えられるような毒性と判り、NZも観光を重視しているようだと判ったのは、不幸中の幸いである。書いた事を、市場の女神ではなく、疫学の大神が、手にもてあそんでいるのであろうか(嘘)。
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