見えない不安は怖くない、見つめない危険こそが重要

2011-05-05

[pdf]富山県:焼肉酒屋えびす・大和屋の事件中間取りまとめ

(1)横浜の未使用未開封パック肉から検出されたO111VT(-)と富山で亡くなった男児の検体などが遺伝型が一致した。また、症状の軽かった石川県内のえびす従業員からも同じ遺伝型のO111が検出された[pdf]。(2)並行して、ベロ毒素(VT)のあるO111やO157、さらには08と幾つもの血清型の病原性大腸菌が検出されている。
死亡にいたったから、保健所が重い腰を上げ、警察も出てきて調べたから判った事だが、日常的に焼肉店が雑な扱いをしていて、食中毒が起こり続けていた可能性がある。実際流行曲線が1峰性ではない。死亡事件を扱うと上流の卸の過失競合での割合が高くなるが、他の菌株が幾つも出ていることからフードフォーラスの衛生管理の責務も重い。
しかし消費者がそもそも売っているからと言って買うのが間違っている。


そもそも、食肉業界は適切な処分を行いにくいとBSEの対応で述べた事がある。脳天くい打ち(ピッシング)で細かい脳の断片が血流にのり本来プリオンが含まれない筋肉に病原体が運ばれるのだが、日本では非観血的と殺の導入が遅れた。東京や横浜は平成20年度まで掛かっていた[pdf]。
実体の薄いBSEのエライザ検査にお金を注いだ。BSEの免疫学的検査はBSEしか防げない、未知の病原体を含んだ包括的対応をピッシングを取りやめる事で実施可能なのに、業者側の対応を怠り、行政=国民の税金でBSEだけを対象とした「お札張り」だけで事を納めた。
こんにゃくゼリーやBSEのように、既存の概念が無い物には後ろ指を指し易いが、既得権益に切り込むのは、と殺や食肉処理・流通など困難を極める。

さて、毎年数千例あるカンピロバクターや病原性大腸菌の事案の多くを占める、肉や内蔵の生食を続けて来た商習慣がまた惨事を生んだ。生食に限らず、客に調理を委ねる形の外食は、平成21年9月のpepper lunchやどんの横隔膜形成肉の様に、焼く筈でも食中毒を招き易い。それは家庭や職場でBBQをしても同じである。肉を摘んでその箸で生卵をかき混ぜてのんびり2時間かけて、すき焼きを食べれば、生卵は良い培地になる。バーベキューやすき焼きなども含め、生肉を触れる時は専用の菜箸を用い、それで野菜などを触れない様に動線を分ける必要がある。調理場で手袋をしても付けっぱなしなら、肉から肉へ或は野菜にも、スタンプリレーで汚染が拡散する。調理者の手からの汚染を考えれば、1動作が終わったら1手洗いで、リンクを断つしか無い。これは、家庭でも職場などの食事会でも同じ事である。河川敷BBQでは手洗いできているのだろうか?

牛肉を主とする食肉中の腸管出血性大腸菌[pdf]
生焼けだと牛レバーのO-157は1/100、完全に焼くと生焼けの1/50(=生の1/5000)
食肉全体に付着している菌数の1/100~1/1,000が当該調理器具を汚染 、焼けた肉を同じ箸やトングで掴むと調理器具から1/10~1/100の菌量が移行。

肉を卸した大和屋(北陸中日新聞2011年5月3日)での汚染を想定しないと、「焼肉酒家えびす」による、神奈川・福井・富山と広域での感染事案は生じがたい。しかし、菌がO-111とO-157と2種も検出されているのである。そうなると店ごとに個別に生じたのじゃないか?、或は生じる可能性があったのではないかという、過失相殺を卸側が申し立てる余地がある。もっとも、パルスフィールドで遺伝型が確定しているO-111という証拠があるから汚染は上流であったのだろう。上流ということでは、もう一つ報道されていないのは、ユッケの漬け汁である。どうやって調製されていたのだろうか?松の実などの場合もあるかもしれない。ナッツ類のO-157事案[pdf]は北米ではよく報告される。
通常、肉の刺身は、周囲を十分削ぎ落として、表面の汚染から遠い、芯の部分を供食する。一般の精肉店も加熱用の肉を販売する為に、スライスする折に、削ぎ落とすことが通例である。
しかし、卸がトリミングしているからと、店舗のマニュアル自体にトリミングの指示が無く実際にトリミングしないまま供食していた(読売5/5)のだから、これは起こってしかるべき事案であったのだろう。かつ、運営会社のフーズフォーラスは在庫を処分(読売5/4)してから、保健所の検査を受け菌が検出されなかったと、主張している。検査逃れである。

食材などを調べるために保健所が立ち入ったとしても、サンプルの保存期間は3日程度である事が多い。腸炎ビブリオやノロウイルスのように半日程度で発症する病気では十分な期間である。
しかし、菌量が100コロニー程度で発症する、カンピロバクターや病原性大腸菌では、旧習墨守が裏目に出る。
[1]検出の問題:肉を5人で摘んで、20・30・60・110・200コロニーづつ喫食したグループが居た場合、発症する可能性があるのは最後の2名である。しかし、そのうち110の人は検便で引っかからなかったり自己申告しないで治癒してしまうかもしれない。
[2]潜伏期間の問題:少ない菌がお腹の中で増えてから発症する。潜伏期間が5日程度掛かる。
今回の発症者の中にえびす砺波店の従業員も居た、19日に食べて25日に発症し27日の立ち入り検査で陽性に出ている。食べてから5日間出勤していた、29日に亡くなった富山の6歳児は21日に来店している。[(2011年5月1日) 【北陸中日新聞】男児食中毒死亡 余ったユッケ翌日提供]。
21日というのは発端者にあたる福井の男児が入院した日にあたる。(2011年5月1日03時03分 読売新聞)発症しても、検査会社から検便の結果が出てくるのにやはり5日程度掛かる。そうしている間に、2次3次被害が拡大する事がある。
[3]情報共有の問題:時間をおいて散発的に複数の保健所や都府県に股がって起こる事案では、個別のリンクが見えてこない。今回はえびすというチェーン店を富山県が問題にして、報道が飛びつき、神奈川や福井の件が炙り出された。福井県は男児の死亡を先月28日に把握したが、発症した患者が男児のみで他の感染者はおらず、「法律上、どうしても公表しなければならない状況ではなかった。県から積極的に公表すべきだったとは思っていない」と述べた[asahi.com・マイタウン・福井 2011年5月3日]、情報の共有という事では週単位になるし、隣県の重症患者は把握できないが、国レベルでの統括が必要になる。
餃子事案によって厚生労働省食中毒被害情報管理室が設置された[pdf]、餃子は化学であり潜伏期間が短いが、兵庫と千葉というリンクがひと月以上結びつかなかった。
[1][2][3]がもたらす結果として、生肉やBBQによる、大衆レベルの危険の共有が疎かになる。下痢をしても、刺身や貝に関心が向く。或は、カンピロバクターで良くあるのは、熱と頭痛に気を取られて、消化器症状を失念する患者が多い事である。こちらが誘導質問を繰り返すと、実は感冒ではなくカンピロと検便に持ち込んで判明する事が多々ある。大衆レベルの知識の共有が薄い事を料飲業界・食肉業界はつけ込むし、また家庭での散発的な事例だと「しら」を切り、保健所も業務量の増加を抑えようと、卸レベルの立ち入りを行わなかったり、今回の福井県の様に、国にせっつかれて行った頃には証拠が隠滅されていたりする。
保管期間の延長が必要になってくるのである。しかし、今回も処分されてしまった。

生食の危険は、病原性大腸菌よりも、はるかにカンピロバクターの方が多い。牛の肝臓の胆汁の2割にカンピロバクターが検出される。京都・長野・愛媛など、全国的なサンプル検査では横並びである。生食用と銘打って出荷されているのは別に検査を加えた物ではなく、目視による異常が指摘されなかったのものである。牛にとっては症状を呈さない常在菌故に病原性大腸菌やカンピロバクターは目視の検査では刎ねることは出来ない。

カンピロバクターの頻度約六千人にアンケートしたところ、家庭、飲食店のいずれかで鶏肉を生で食べることがある人は約30%に上った。生食することのある人では、鶏肉料理1食当たりの感染確率の平均値は家庭で2.0%、飲食店で5.4%と、大きくリスクが増えることがわかった。
カンピロバクター感染症とギラン・バレー症候群:都立衛生研究所での抗体検査からの成績ではギラン・バレー症候群患者52名中31名がC. jejuniに対する抗体が陽性(Cut off 値は0.348〜1.313)である。このうち、下痢が先行した症例29名中22名が抗体陽性であった。ギラン・バレー症候群の15〜20%が重症化し、致死率は2〜3%であると言われている。

加熱以外の調理法についての問題は、「混ぜる」「漬ける」「なじませる」の3つである。食材の一部や表面にしかついていない病原体が、混ぜることで均一に拡散し、漬ける汁からの汚染も想定可能で、なじませるというのは、保管期間の間に菌が増殖する可能性があるという事である。
表面をトリミングすれば、発症の可能性は減るが、ゼロにはならない。同じ事は表面だけ加熱するタタキやローストビーフにも言える。
混ぜるなじませるというのは、肉だけではなく野菜にも共通する。岩見沢[pdf1][pdf2]や[pdf3]の給食では、混ぜまぜしたサラダが原因になった。加熱した後でも混ぜる器具から均一に拡散し運ぶ間に増えてしまうあるいは染み込んでしまう可能性がある。塊のまま最後まで運び食べる、和えるなら添加物で増殖を抑えるしかない。塩分を控えると常温では保存できない醤油塩辛が出来る。本来、海に居るサケの卵がO-157に汚染された、イクラしょうゆ漬けの事案も、漬ける・混ぜるが上流でおきたからこその広域食中毒だった[pdf]。
これは冷蔵だが、マスカラポーネをつかったティラミスというのも、リステリアを防ぐのは困難である、胎児に移行し流産を起こす事も報告されている。。それ以外に、手の傷から黄色ブドウ球菌の毒素を産生する可能性がある。和える漬けるというのの怖さである。

一方で、腸炎ビブリオは減りつつある、冷蔵するだけで凍えて死ぬという菌の弱さ、これが刺身をことさら悪者の様に言うユッケ・鳥刺し擁護工作員の主張が嘘という一番の根拠である。
十分塩素の入った水道水で死ぬ菌の弱さ。カルキは確実に健康を守る、カンピロバクターの評価書でも、食肉処理や厨房での塩素濃度の維持を推奨している。
「食鳥処理場での汚染・非汚染鶏群の区分処理では44.0%、塩素濃度管理の徹底では21.4%の感染者数低減率となり、いずれも比較的高いリスク低減効果が得られた。生食割合の低減が高い効果を示しており、当該指標を80%低減させれば69.6%のリスク低減効果が得られることが示された。」
浄水器・ペットボトルの水は、食中毒を助長する。


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こんにゃくゼリー
焼き肉焼けたかな?