毛沢東の大飢饉

 
著 ディケーター2010
原書 MAO'S GREAT FAMINE
訳 中川2011,2019
ISBN 978-4-7942-2375-3

事実関係を淡々と拾った本。
自己正当化と無邪気な賛美が行われたことは顧みられるべきだが無邪気な賛美を送った日本側は歴史を伝えず当事者は口を噤み無かった事にさせられつつある。
それは兎も角、2点興味深いのは、感染症と文書管理である。
今も2019年のCOVID19と2003年のSARSでも、唐突に人民解放軍が封じ込めに当たる。
そのような術をどの様に獲得したか良く判らなかった。
今回の大飢饉でも疫病は並行して大衆を圧し潰しても良かった筈である。第32章が病気に充てられている。
コレラやA型肝炎などの発症率は高く、食品衛生の水準は低かったが、死因としての感染症は餓死や暴力に較べて2桁3桁少なかったようだ。
発疹チフスなどは村ごと封じ込められ拡散出来ないうちに鎮火させられ拡散しなかった。
「手慣れていた」というしかない。
「県史」でも語られることは少ない。
医師や看護師は反右派闘争で亡ぼされ資材も物流も途絶えていた割には病気になる前に餓えて死ぬか暴力で死ぬか自死してしまった様である。
日本と違って西洋化する前から検死の役職もあり共産党や人民解放軍が産んだ制度でも無いのだろう。

次は文書管理「档案」である。
档案は人事に限らず、色々あるが、きちんと保存され公開の原則も設けられている。
勿論、法治の範囲内と言え、公開しなくても只管蓄える。焼いた振りをしても焼きつくせないという漢以来の中国の伝統を遺憾なく発揮している。
ディケーターはそれを丹念に掘り起こした。
日本は文書を保存しないが中国は共産党であろうが無かろうが中国である。


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