研究論文の紹介(その2)

   本研究開始後に、論文化された研究を以下に紹介します。

都道府県別 維持透析患者の年齢調整死亡比とCKD-MBDガイドライン管理目標達成率


もしかすると、リン管理の良い都道府県では、その他のガイドライン遵守率も高いため、生命予後が良いのかもしれません。しかし、PTHではその結果が異なることを考えると、やはりリンではないかなあと思います。

透析導入患者の既往・合併症有病率:認知症は低下,脳出血は増加,脳梗塞・四肢切断は不変


 
 なお、本調査は,導入患者の導入年末時の既往・合併症の有無であり,導入時のものではない点に注意が必要です。
慢性腎臓病(CKD)と認知症は,加齢,糖尿病,高血圧症,蛋白尿などの共通するリスク因子を有することから,CKD 対策が認知症予防につながった可能性があるかもしれません。 CKD対策の中でも,アルブミン尿を減らす戦略と,厳格な血圧コントロールといった,少なくともこの 2 つの介入は,保存期 CKD 患者の認知機能低下を減らす可能性が示唆されています。 この 2 つの介入は,保存期 CKD 診療では常に行われていることであり,その結果,保存期 CKD 患者,ひいては透析導入患者の認知症有病率が低下した可能性があるかもしれません。 他の CKD コホートで,認知症有病率が真に低下しているか否かを検討する必要があると考えます。

わが国透析患者の死因の性差

 
 一般に、女性は男性よりも長生きです。血液透析患者では、多くの国で生命予後に男女差がないことが示されていますが、日本では、女性の方が少し良いことが報告されています。そこで、透析患者ならびに全国民で、死因の性差を検討しました。  
 年齢を調整すると、男性透析患者は女性透析患者に比べて20%死亡リスクが高い結果でした(標準化死亡比(SMR) 1.21 [95%信頼区間, 1.20-1.23])。透析患者・全国民とも、すべての年代で男性が女性よりも全死亡率が高い結果でしたが、死亡率の男女比は全国民よりも透析患者で小さい結果でした。  比較的若年層では心血管死亡で、高齢層では非心血管死亡で男女差が大きい結果でしたが、これは透析患者・全国民で共通して認められました。死因別では、透析男女間の死亡率差の38.4%は感染症が、次いで、悪性腫瘍(22.7%)、心不全(12.1%)が寄与していました。
 本研究は、年齢以外の背景因子では調整していないため、男女差の理由が性そのものによるのか、性別に関連する他の要因によるものかは不明です。もし、後者なら、性差を小さくすることは可能と思います。 論文はこちらです。

患者対透析スタッフ比率と都道府県別標準化死亡比:構造方程式モデリング

 患者対看護師比率(看護師 1 人に対する患者の人数)に代表される医療スタッフの人員配置は、患者アウトカムに影響を与えることが知られています。本研究は、都道府県別に集約されたデータを用いて、患者対透析医療スタッフ比率の透析患者死亡率に与える影響を、構造方程式モデリングを用いて検証しました。
 性年齢で調整した透析患者の死亡率には都道府県による差があり、その差に患者対臨床工学士比率と患者対医師比率が関与していることを明らかにしました。
 都道府県差を小さくするためには、患者対看護師比率を維持した状態で、患者対臨床工学士比率を下げる(すなわち、臨床工学士数を増やす)、および、患者対医師比率を下げる(すなわち、医師数を増やす)ことが有効であることが示唆されました。(Visual Abstract風は、もう少しお待ちください)

末期腎不全の生涯リスク

 Visual Abstract風に作ってみました。
 昔、新聞記者さんに、「日本人の2人に1人が、一生のうち一度は癌になると聞きますが、透析はどのくらいなんですか?」と聞かれたことが、この研究のきっかけでした。当時、諸外国からの報告はありましたが、日本の数字はなく、私はこの質問に答えられませんでした。 論文はこちらです。
 計算方法は、生命表を用いた推計です。仮に今、1千万人の赤ちゃん(0歳児)のコホートがあったとします(仮想コホート)。各年代の、性・年齢階級別の透析導入率、および、透析に導入される前に死亡する確率(競合リスク)を、かけていくことで、生涯累積透析導入率が得られます。

死因統計で「腎不全」は過小評価されている


 
 死因統計によると、日本全体で、1年間に約2万5千人が原死因「腎不全」で死亡していますが、透析患者は年間約3万人死亡していることから、多くの透析患者の死亡は死因統計の原死因「腎不全」に含まれていないことを、公表されている集計数字を用いて明らかにしました。  
 日本の維持透析患者数は、米国の腎代替療法患者数に次ぐ世界第2位であることから、その死亡者数は無視できない大きさです。一般に、死因順位などの政府統計は、施策の策定や優先順位に資すると考えられるため、この過小評価は、公衆衛生上、重要な問題と考えます。 論文はこちらです。
 なお、論文では、透析導入の見合わせ(非導入)割合も推計しています。かなり低めに見積もった数字ですが、それでも非導入割合は決して小さくなかったことは、わが国の85歳以上において非導入は決して稀な選択ではないと考えられました。

透析導入率の経年変化

  論文はこちらです。