一方で,サルならぬ狐につままれたような感じがする方もいらっしゃるかもしれませんが,この不思議なお祭り騒ぎの種明かしは決して難しくはありません。以下ご覧ください。
根本的な疑問:なぜ二用量を検討したのか?→デザインからしてイカサマだった!
この試験の目的はFDAのガイダンスに従って,新規血糖降下薬の安全性を検証することだった.安全性を検討するのなら,高用量の一用量を用いなくてはならない.なぜなら低用量特有の安全性の問題はない一方,用量依存性の副作用はしばしばあるからだ.たとえば,エンパグリフロジンのeGFRの影響を見てみると,10mgよりも25mgの方で明らかに低下率が大きい.だからこそ,FDAのガイダンスに従って行われた新規血糖降下薬の安全性検証試験では,どれも高用量側の一用量が検討されている.EMPA-REG
OUTCOME試験でも10mgを設定する理由はどこにもなかった.ところが,このような根本的な疑問に対し,本論文の中にもプロトコール論文(Cardiovasc Diabetol 2014;13:102)にも何の説明もない.この点からして,イカサマ研究であることを論文自身が物語っている.
見え透いた子供だまし:各用量独立ではプラセボと差がなくなる!←実は想定内の当然のことなのですが・・・
Subjects | CVD events | % | HR | p value | 95%CI | |
Placebo | 2333 | 282 | 12.1 | |||
Empagliflozin 10mg | 2345 | 243 | 10.4 | 0.85 | 0.07 | 0.72-1.01 |
Empagliflozin 25mg | 2342 | 247 | 10.5 | 0.86 | 0.09 | 0.73-1.02 |
Empagliflozin 10mg+25mg | 4687 | 490 | 10.5 | 0.86 | 0.04 | 0.74-0.99 |
注:10mg、25mg各群の心血管イベント数と%は論文本文には記載がなく、Appendix Table S6より引用しました。(業務放送:見え透いたイカサマやるんじゃねえよ.このタコ!日本の検察より隠蔽が下手なサルどもが)
つまり、エンパグリフロジンが心血管リスクをさせたと主張しているのは、10mg投与群と25mg投与群を「合算した」イベント数とプラセボの比較であって、10mg投与群と25mg投与群のそれぞれと,プラセボとを比較した通常の比較の場合には、統計学的な有意差がなかったのです。これでは子供だまし以外の何物でもありません.
Zinman「驚くべき結果」, Krumholzが「歴史的」と表現したのは,合算群の10.5%がプラセボ群の12.1%に比べて,絶対リスクは1.6%(つまりNNT=62.5 !),相対リスクは14%減少、ハザード比にして0.86 (P=0.04, 95%信頼区間は0.74-0.99 !)というデータです。随分と際どい「歴史的」試験もあったものです.
それだけでも滑稽なのに,10mgと25mgの各群は、プラセボ群と有意な差がありません。(それぞれp=0.07, 95%CI 0.72-1.01, p= 0.09, 95%CI 0.73-1.02) これは実は想定内の当然のこと、つまり、どちらの用量も、心血管イベントを増加させなかったので、これこそめでたし、めでたし、よかったねと喜んで終了すべきことであり、このデータを、何か悪いことでも起こったように、論文そのものには肝心のイベント数は明記せず Appendixの中に埋め込むような真似をするから,「ずいぶんと見え透いたサル芝居」と言われるのです.
これが子供だましでなくて何が子供だましか?:
この試験結果の解釈が子供だましであることは、原点である検証仮説に立ち返って見れば即座にわかります。そもそもなぜ、10mgと25mgの2用量を検討したのでしょうか?1用量の検討では検証できず、2用量で初めて検討できる仮説とは何だったのでしょうか?そして得られた結果から、どのような結論が得られたのでしょうか?
誰が考えても主要検証仮説は当然「10mgと25mgの2つ承認用量のどちらも、安全性に問題はない。つまり、どちらの承認用量もプラセボに比べて心血管イベントを増加させない」(真の検証仮説と名付けておきます)でした。絶対に「10mgと25mgの2つの承認用量のどちらも有効である。つまりどちらの承認用量もプラセボに比べて心血管イベントを減少させる」(偽の検証仮説と名付けておきます)ではなかったのです。もし偽の検証仮説が最初の検証仮説であれば、EMPA-REG OUTCOME試験は誰が見ても完全な失敗試験となって、それこそ「歴史に残って」いたでしょう。
患者さんから「10mgと25mgの どちらが効くのか?」という問いに対して、医師が「どちらも効きません」と答えるしかない。こんなまやかしで,子供はだませても,患者さんは騙せません。 ましてや医者を騙せるわけがないのです.それを堂々と学会で、ウェブで絶賛することを「歴史的」と言わずして何と言いましょう。ZinmanやKrumholzが,見え透いたサル芝居を演じていると私が主張するのは正にこの点にあります.
論文の中でも、「各群の被験者数が少なかったために有意差が出なかった」とありますが,中学生の理科の実験じゃあるまいし,NEJMが「努力賞」のハンコでアクセプトを出すとは,恐れ入谷の鬼子母神.それを承知で,こんな子供だましを「歴史に残る」と表現するのですから,メガファーマの広報誌としての NEJMの性格をこれ以上雄弁に物語る論文はありません.
こうしてみると,この論文の著者達は,まるっきりしらばっくれて,このサル芝居を打っているように見えますが,実は弱気あるいは逃げ道を残している部分が,
Discussionの下記の部分に見られます.Although a small dose-response effect for the
10-mg dose of empagliflozin versus placebo and the 25-mg dose versus
placebo has been documented for metabolic responses, in our study the 2
dose groups had similar hazard ratios for cardiovascular outcomes.
Thus, in clinical practice, the choice of the empagliflozin dose will
probably depend primarily on the achievement of metabolic targets and
the occurrence of adverse events.
つまり,「有効性」に「用量依存性が見られなかった」という表現で,「どっちも効いてないじゃないか」という指摘を意識しているわけです.そんな子供みたいな言い訳じゃなくて,appendixに隠蔽したデータを論文に出せば済むことなのに.
FDAは共犯者:FDAが解析計画を事前に承認してたじゃないかって?それがどうした?&それが問題!
「FDAが解析計画を事前に承認していたのだから,批判には当たらない」。こういうコメントは、FDAという言葉が生み出す思考停止から生じています。確かに、FDAのこの試験の計画は統計解析も含め、FDAのガイダンスに従って計画されFDAも事前に了承、論文としても公開されていました(Cardiovasc Diabetol
2014; 13: 102)。その意味では何の操作も不正もありません。つまり2用量の合算のイベント数とプラセボのイベント数で優越性を比較するという歴史に残る子供だましを含めた解析計画は、FDAによって事前に承認されていたのです。
FDAとしても、所詮は承認申請資料の位置づけではないのだから、要求されたとおり試験をやって安全性に問題がないことを検証し、その結果を公開してくれればいいのであって、あとは、2用量の合算とプラセボの比較を含め、そのデータをどのように「翻訳」して宣伝に使おうと、嘘をついているのでない限り、当方は関知しない.と,「表向き」はそういうスタンスなのです。
えっ,じゃあ,裏は何かって?そりゃあ,FDAとしても,「効かないことを証明する試験」=被験者を副作用のリスクに晒すだけの試験(ヘルシンキ宣言違反)を課したという負い目がありますから、「イカサマ宣伝するな!」なんて,大声では言えないのでしょう.なあに、エンパグリフロジンに始まったことじゃありません。日米欧三極の中で唯一ロシグリタゾンの守護神であり続けているのがFDAじゃないですか。
そもそもFDAは1992年にPrescription Drug User Fee Act (PDUFA)によって製薬企業との重大な利益相反を抱え込むはるか以前、1980年代の前半から、すでに企業と癒着して、日本をはるかに上回る、米国での薬害血友病HIV/AIDSを生んだ「主犯」なっていたのです。このスキャンダルは秘密でも何でもなくて、すべて公開情報です。みなさんが知らないのは、「薬害」を食い物にして散々儲けたマスメディアの報道管制の賜物です。「欧米には薬害エイズはなかった」というのは「ミッドウェイは帝国海軍の大勝利」を上回る「大本営発表」です。→薬害ビジネス
そんなFDAとメガファーマと、そして彼らの利益相反に完全黙秘するお医者様達に騙されて、高い金を払って効きもしない薬を処方されて副作用にさらされる患者はいい面の皮です.世界中の糖尿病患者は、メガファーマとその広報誌であるNEJM、そしてその提灯持ちになっている偉い偉いお医者さん達(国籍問わず!)に、馬鹿にされ、食い物にされているのです。
ちなみに、Statistical AnalysisのところにはWe used a four-step hierarchical-testing strategy for the pooled empagliflozin group versus the placebo group in the following order: noninferiority for the primary outcome, noninferiority for the key secondary outcome, superiority for the primary outcome, and superiority for the key secondary outcome. と書いてある。つまり、絶対に落とせない主要評価項目の非劣性を最重要解析に持って来て、もし万が一それで落としても副次評価項目の非劣性で食い止める。あとの優越性は出たら儲けものという三番手、四番手です。以上より,EMPA-REG OUTCOME試験の本質は,サブ解析のいいとこ取りというありふれた手法に、2用量の合算という新型手法を重ねたことです.これが極めて特異な統計解析法という意味なら「歴史に残る」と言えましょう。
糖尿病治療薬の「肩身の狭さ」とSGLT2阻害薬陣営の焦り
スタチンや降圧薬がハードエンドポイントとして心血管イベント抑制のエビデンスを示しているのに対し、メトホルミン以外の糖尿病治療薬はHbA1cに代表される代用エンドポイントで承認された後も、心血管イベント抑制のエビデンスを示せていません。むしろ、肝障害の副作用で市場撤退したトログリタゾンや、心血管障害で欧州市場から撤退したロシグリタゾンに象徴されるように、有効性以前に、安全性の点で疑いの目を向けられてきたのが、糖尿病治療薬です。EMPA-REG OUTCOME試験のような見え透いた子供だましが生まれた背景には、生活習慣病治療薬の中での、上記のような糖尿病治療薬の「肩身の狭」さの上に、SGLT2阻害薬の場合、同じように心血管イベントを減少させないDPP-4阻害薬に(科学ではなく,売り上げで!)水をあけられて、何とか逆転を との焦りがあったのでしょう。
泰山鳴動ゴキブリぞろぞろ なのにバルサルタンの悪夢再び・・・とならないのは?
「効かない薬にバカ高い値段をつけて売りまくる」前世紀末,日本の規制当局と製薬企業はそんな悪夢に苦しみました.その悪夢に,今度は世界中が苦しむのか,と思いきや,とんでもない.歴史的な子供だましで,NEJMも参入してバカ騒ぎ.少なくとも前世紀末までは,日本の規制当局と製薬企業があまりも真面目すぎたのでしょうか?
だとしても,オンブズパーソンとマスメディアはどうしたのでしょうか?副作用だけがあって効かない薬が,日本だけでも950万人いる糖尿病患者に毎日処方されているのです.これは脳循環・代謝改善剤を上回るスキャンダルではないのでしょうか?薬害に対しては世界一厳しい態度で臨む「はずの」日本のマスメディア・オンブズパーソンが,こんな重大なスキャンダルに対して完全黙秘している理由はどこにあるのでしょうか?今度は厚労省ではなく FDAが主犯だからでしょうか?それとも,今度もまた,バルサルタンの時のように,イカサマ論文がトップジャーナルに載ってから5年も6年も経ってから, 押っ取り刀で炎上商法を展開するという目論見でしょうか.
本来必要な安全性の議論の欠如:そこから見えるEMPA-REG OUTCOME試験の「功績」
試験の本来の目的は安全性の検証だったはずです。たとえば、この試験における女性の性器感染症(主にカンジダに起因する)のリスクは、プラセボ群2.6%に比べて実薬群で4倍の10%、男性でもプラセボ群1.5%に比べて実薬群で5%となっています。たかがカンジダ性膣炎というなかれ.たとえば、「ステロイド、タクロリムス、シクロスポリンといった免疫抑制剤による高血糖の場合には、SGLT2阻害薬はまず使えない」.そういった地道な議論がこの試験から導かれれば,著者はもちろん,資金・労力を提供した企業も,そして試験を課したFDAの評価も高まったはずです.ところが,EMPA-REG OUTCOME試験の結果を受けて,エンパグリフロジンの安全性に関するを見直そうという動きは一切見られません.安全性を検証することが目的だったのに,心血管イベントの抑制の有無だけに注目し,他のデータがおろそかになって,潜在的に重大な安全性の問題を見逃したのが,シタグリプチンによる急性膵炎の問題です.これはピオグリタゾンでの膀胱癌と同じ,あるいはそれ以上の潜在的な危険性をはらんでいる問題であり,今後,薬害ビジネスの新たな餌食になる可能性があるのです.
エンパグリフロジンはとして日本で6番目(2015年9月現在では最後発)に承認されたSGLT2阻害薬です.承認時期は欧州で2014年5月、米国で2014年8月、日本で2014年12月であり,世界的に見ても,まだまだ何が出てくるかわからない.市販後の安全性をじっくり見ていかなくてはならないのです.以前のように,ドラッグ・ラグをうまく利用して,欧米で開発を先行させ市販後に重大な安全性の問題が出ないことを確認してから,おもむろに日本で承認申請するという,真に患者と医師のことを考えた戦略が採用できない時代なのです.
それなのに,金儲けのために,こんな子供だましでイカサマを売りつけようとすれば,まともな医者からは「バカにしやがって」と反発を食らうだけ,そして営業が配るNEJMの別刷はゴミ箱に直行です.企業はまだしも,FDAがそんなことぐらいわからないはずがありません.Investigatorもスポンサーであるべーリンガーインゲルハイムも,イーライリリーも,誰かにだまされているのです.これはFDAとお金に目がくらんだ企業以外の誰かが仕組んだ罠としか思えません.子供だましを論文にした大人達をだました,その「企業以外の誰か」とは? それは,この論文掲載で一番収益を上げた組織です.
患者の安全を考えた有益な議論を全て無視した羊頭狗肉の広告ビラを載せ,バカ高い別刷を企業に引き取らせ、世界中の糖尿病患者を騙し、食い物にする黒幕.今世紀に入ってから死んだと思っていたNEJMの正体が,実はとんでもないブラック企業だった.EMPA-REG OUTCOME試験の最大の功績は,その点を明らかにしたことにあります.
他誌の評価:他のトップジャーナルにとっても踏み絵と化すEMPA-REG OUTCOME試験:JAMAの当てつけとACPの日和見
ここまで来ると,EMPA-REG OUTCOME試験は,他のトップジャーナルにとっても「踏み絵」になります.まずはJAMAから
Nathn DM. Diabetes: Advances in Diagnosis and Treatment JAMA. 2015;314(10):1052-1062. doi:10.1001/jama.2015.9536:
まず,この論文を読んだ,私の尊敬する方のコメントを紹介します.
「2型DM治療の第1選択薬はあくまでもメトフォルミンであり、決してSU剤やDPP-4、SGLT-2拮抗剤などではありません。メトフォルミンの次の第2選択薬に何が妥当なのかはわかっていません。現在、GRADE study(Glycemic Reduction Approaches in
Diabetes)が進行中です。この研究はメトフォルミンに追加して第2選択薬に何が妥当か、各種糖尿病薬をhead-to -headで比較する最初の研究です。この研究の結果が出るまで第2選択薬には不十分なevidenceしかないのです」
このコメントを受けて,私は,これは非常に「タイムリー」な総説だと思いました.偶然と思えという方が無理なぐらい(^^;).この総説が出た2015年9月8日は,NEJMと欧州糖尿病学会でEMPA-REG OUTCOME試験の結果が発表された9日前です.著者は当然それと知っていて原稿を準備し,JAMAも,NEJMへの当てつけとして,この総説を,このタイミングで出したことになります.こういう「いたずら」を仕掛けるのが大好きなのがGordon Guyattです.個人的な推測ですが,このJAMAの総説掲載のタイミングには彼が一枚も二枚も噛んでいるんじゃないかと思いました.というのは彼には「前科」があるからです.
2010年にNEJMに掲載されたJUPITER trialを罵倒した彼の高笑い (Was JUPITER as good as the hype?)が今度も聞こえてくるようです.EMPA-REG OUTCOME試験論文の筆頭著者Bernard Zinmanが,同じカナダはトロント大学の糖尿病の「大御所」であることも何やら因縁がありそうな.(2015/10/8追記)
一方,Ann Intern Medを学会誌にしているACP (American College of Physicians)の態度は日和見そのものです.ACP InternistのACP Diabetes Monthly2015年10月号巻頭のハイライトに,Empagliflozin associated with reduced mortality risk in patients with cardiovascular disease と持ってきています.そこには,欧州糖尿病学会で飛び交ったような,amazingとかhistoricとか,第一次大戦後のドイツにおける有効性のハイパーインフレ顔負けの,極端なおべんちゃら表現こそないものの,一応肯定的に取り上げています.そして,末尾にはこの論文のdiscussionの部分にある著者らの逃げ道表現(上記)をそのままコピペして,お茶を濁しています.当然ACPの中にもべーリンガーインゲルハイムやイーライリリーと仲良しのお医者さんはたくさんいるでしょうから,こんな日和見記事しか出せないんでしょうね.私も一応ACPの会員なんですが,Fellowの申請,ずーっとさぼってました.こういうACPの姿勢を見ると,やっぱりFellowにならなくてよかったと思っている次第.
2016/7/15追記:新規血糖降下薬の安全性試験で共通して言えること
糖尿病患者を対象とした新規血糖降下薬の一連の大規模試験論文を「発表後査読」して気づいたのは、組み入れ患者の重症度である。エビデンスの集積により、既存治療の有効性が年々少しずつ高くなる。「期待の新薬」にはその既存治療を上回る有効性が期待されるが、これまで何十年と実績を積み重ねてきた薬の数々に勝つのは容易なことではない。そのため、企業は手持ちの「期待の新薬」が既存治療の上乗せ効果を示せるようにありとあらゆる手段を使う。
一番実行可能性の高いのが、イベントを稼ぐことである。そのためには、よりリスクの高い患者を組み入れて、より長い観察期間を設定する。下記の表を見てもらいたい。CAPRIEは、アスピリンを実薬対照にクロピドグレルの臨床的有効性を検証した試験で、心血管イベントが主要評価項目になっているため、糖尿病患者対象試験との比較対照の意味で入れた。CAPRIE試験の観察期間の短さを考慮しても、糖尿病患者対象試験での全死亡と心血管イベントの方が明らかに高くなっている。この表だけでも糖尿病患者対象試験で如何に高リスク集団を組み入れたかがわかるだろう。
CAPRIE試験の比較とは別に、糖尿病患者対象試験の間でも、糖尿病のコントロール具合に随分と差があることがわかる。たとえばTECOS試験ではHbA1cが7.2と一番低い。これは同じ2型糖尿病でも、組み入れ基準でA1c ≥6.5% and ≤8.0%と、HbA1cが8以上でコントロール不良の患者を患者を除外したためである。一方、他の試験では軒並み7の後半となっており、特にプラセボの優越性を示したと自慢しているLEADERではベースラインのBMI値が32.5、HbA1cに至っては8.7というべらぼうな値になっている。こういう患者群でしか有効性が示せないのならば、効能追加でなくて、「重症者でしか有効性が示せなかった」と効能縮小するがよろしかろう。なお、LEADERで使われた用量は1.8mgという、海外でも承認最大用量である。日本の最大用量は0.9mgであり、このことからもLEADER試験結果は日本人に当てはめることは到底できない。
Trial | Publication | Active vs Control | Observation (months) | Death of any cause (%) | CV Endpoint (%) | HbA1c | BMI | ||
Active | Control | Active | Control | Active | Active | ||||
CAPRIE | Lancet 1996; 348: 1329 | Clopidogrel vs Aspirin | 23 | 3.05 | 3.11 | 5.32 | 5.83 | ||
ELIXA | NEJM 2015; 373: 2247 | Lixisenatide vs Placebo | 25 | 7.0 | 7.4 | 13.4 | 13.2 | 7.7 | 30.1 |
LEADER | NEJM 2016; 375: xxxx | Liraglutide vs Placebo | 46 | 8.2 | 9.6 | 13.0 | 14.9 | 8.7 | 32.5 |
TECOS | NEJM 2015; 373: 232 | Sitagliptin vs Placebo | 36 | 7.5 | 7.3 | 11.4 | 11.6 | 7.2 | 30.2 |
EMPA | NEJM 2015;373:2479 | Empagliflozin vs Placebo | 37 | 5.7 | 8.3 | 10.5 | 12.1 | 8.07 | 30.6 |
新規血糖降下薬の有効性が証明されないのは無理もない。なぜなら糖尿病では、既存治療法が確立しているので、新規作用機序の血糖降下薬が承認されたとしても、「これまでにない作用機序の血糖降下薬」というだけでは、治療選択肢に加える根拠にならない。そこで、ハードエビデンスを示すことが要求されるが、その時プラセボ対照にしても、実際には既存治療の上乗せ効果を示さなければならないので、上記のように、なりふり構わずリスクの高い患者を片っ端から組み入れることになってしまい、一体何のための薬なのかわけがわからなくなってしまうというわけだ。そう考えてみると、1990年代になってαグルコシダーゼ阻害薬が承認されてから、チアゾリジン誘導体、グリニド系、そしてインクレチン関連薬と、雨後の竹の子のように次から次へと現れた血糖降下薬とは一体何のだろうかという素朴な疑問に対するまともな回答はいまだに得られていないことがよくわかる。
2016/7/17追記:
1.本論文の瑕疵を象徴しているのがFigure 3である。本試験は二重盲検のランダム化試験であり、追加投薬も含めて良好な血糖コントロールを行うようにプロトコール上も定められていた。にもかかわらず、プラセボ群でHbA1cが全く下がらない一方で,実薬群ではHbA1cがすんなり下がってプラセボ群よりも低い状態が観察期間中ずっと続いていた。本来ならば、プラセボ群と実薬群の糖尿病コントロールは同様であるべきだったのに、これではプラセボ群が負けるのは当たり前だ。実薬の安全性を検証する試験でプラセボ群のリスクが実薬群のよりも高くなってしまったのだから,それだけで失敗試験である.エンパグリフロジンは始めから下駄を履かせてもらっていたのである。このような決定的な交絡はLEADER試験でも再現されている。
2.25mgは不要:この歴史に残る子供だましが示した頑健なエビデンスは、10mgと有効性が同じで安全性に劣る25mgの市場からの撤退を求めている。第一に、有効性の面では、10mg同様、25mgにも心血管イベント抑制効果が認められなかった.第二に血糖コントロールでも用量依存性が認められなかった(Figure 3) 第三に,どんな薬にも用量依存性の副作用がある.つまり、10mgよりも25mgの方が安全だということは決してない。すなわち安全性の面では、10mg群に比べ、25mg群で明らかにeGFR低下率が大きくなっている。
3.「血糖降下作用を超えた効果」は認められなかった:Figture 3から確実に言えるのは以下のことである。仮にこの試験結果を持ってエンパグリフロジンの心血管イベント抑制効果を主張したとしても、本試験で示された有効性は、エンパグリフロジン以外の全ての糖尿病治療薬も持っている血糖降下作用に起因するものであって、エンパグリフロジンが他の血糖降下薬に比べて特別に素晴らしい新薬だからではない。もし、「血糖降下作用を超えた効果」を示したいのだったら、Jikei Heart StudyやKyoto Heart Studyと同じ細工をしなくてはならなかったのだが、Figure 3は、それが叶わぬ夢だったことを示している。
4.細かいことだが:本試験の組み入れ基準はeGFR 30 ml/min/ 1.73 m2 of body-surface areaとなっている.一方,腎臓に対する悪影響を懸念し,エンパグリフロジンの投与はeGFR 45 ml/min/ 1.73 m2 of body-surface area以上の患者に限られている.これは試験計画が策定されたのが,本薬の承認(FDAの承認は2014/8/1)以前であったためと考えられる.
参考: FDA演出による予定調和 誇大広告代理店と化したNEJM ありがた迷惑 FDA演出による予定調和 こっちも死んでるNEJM,TECOS試験,シタグリプチンによる急性膵炎,薬害ビジネス、腐ったバナナだったのに
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