99年までの話題,2000年の 話題,2001年の話題,2002年の話題,2003年の話題,2004年の話題、2005年の話題,2006年の話題
観察研究をRCTに近付ける
Clinical Questionの楽しみ
やっぱり好きです。BMJ
英国人気質
似たり寄ったり
これがあなたの仕事(になるはずだったのに)
心電図が正常例での生命予後の予測
やっぱり使えぬグリタゾン
あれから6年 あのワクチンは今
冠動脈疾患と気の持ちよう
医療か信仰か
これならできるでしょう
戦争での死者数を推定する
ピアスの疫学
功成る者と枯る者の比率
帳尻会わせ
モニタリングの頻度のエビデンスって?
血糖を測ると鬱になる(そして貧乏にも)
メタボ検診○○食らえ!!
治療ネットワークの幾何学
急いては事を
どうする?エゼチミブ
肺年齢
腰痛を餌に公共事業
ヨーグルトは,重症急性膵炎に対して有害である
急性期脳塞栓における抗凝固療法のリスク
余計なお世話
あなたの内なるみのもんた
ARBsとACE阻害薬の併用
学校給食の威力
それは劣性でしょうが
アスピリン抵抗性と心血管リスク
頸動脈狭窄症のスクリーニングの価値
慢性腎臓病患者へのビタミンDは無効
学術機関主導の臨床試験とGCP
pay-for-performanceに対する警告
誤った指標
抗凝固療法:一体いつまで続ければいいのか?
高齢者における副作用の原因薬剤
屍累々
Jikei Heart Study :嘘はつけないしペテンも不可能
嘘はつけないがペテンは可能
医療の国際比較:ACP position paperから
紙一重
CTスキャンの濫用と発癌リスク
Bell麻痺の治療に結論
アルツハイマーの行動異常には打つ手無し
公衆施設での全面禁煙の影響
ぞっとしない新抗凝固薬
国境なき提灯持ち
糖尿病治療薬と心不全
連敗が止まらない:セレンが糖尿病リスクを増す
米国人の1/5がアスピリンを常用
10億円プレーヤーに勝つ方法(超急性脳梗塞病変に対する拡散強調画像の感度はたったの7
割!)
敗軍の将、兵を語る
NEJM総説:脳梗塞:アルテプラーゼ使用上の注意
恥の上塗り?:セレコキシブによるステント再狭窄の抑制
心房細動患者での脳塞栓予防:後期高齢者でもアスピリンよりワーファリン
フェニルケトン尿症:補助的な治療薬?
行政が恣意的に決めることの悪影響の検証
Health Literacyと初等教育
WISDOM試験結果
医師の労働時間が治療効果に及ぼす影響
新規(?)降圧薬と雑誌の品格
世界一の売り上げの正体
”サプリ”による死亡率の上昇
老舗の凋落3
指導・介入・治療
受講資格
行動科学と結核診断率
深緑色の動脈血
アスピリンによる大腸癌抑制
老兵の逆襲?
噂の溶けるステント:外科的介入と医薬品の開発が相互に与える影響
養護老人ホームの職員にインフルエンザワクチンを奨励すると入所者の死亡率が低下する
ヨーグルトを馬鹿にするな
スタチン単独療法では横紋筋融解のリスクは上昇しない
TIAから脳梗塞進展のリスク評価新スコア:ABCD2
ちょっと待ったその破傷風
99年までの話題,2000 年の話題 2001
年の話題,2002 年の話題,2003年の話題,2004年の話題、2005年の話題,2006年の話題
英国の国民健康保険NHS National Health Serviceでgate
keeperとなる開業医(GP)の電子カルテデータベースである,UK general practice
researchdatabase
(GPRD)を基にした心血管系イベントに関する有効性について,観察研究結果とRCTの一致する割合を,標準的なハザード比(Cox
adjusted hazard ratios)で解析した場合とprior event rate ratio
(PERR)で解析した場合とで比較した研究です.
17の比較検討のうち9検討では,標準法とPERRの両者間に解析結果の有意差はありませんでした.残りの8検討においては,標準法で
は,RCTと観察研究の結果が不一致で,観察研究における未知の交絡因子が示唆されました.一方,PERRでは,その8検討中,5検討で
は,RCTと観察研究結果の間に有意差はなく,3検討では観察研究結果がRCTと類似していました.以上より,PERR法は,観察研究の結果
から未知の交絡因子の影響を軽減しうる方法と考えられました.
蛇足:GPRD:NICEはこのデータベースを使って,エビデンスばかりでなく,治療のコストパフォーマンスまで計算して,たとえば,高価
な抗体医薬品を推奨しないという結論を出したりしています.)
http://clinicalscience.info/modules/canser_info_blog/details.php?bid=287
これと同様のことをオーストラリアもやっています.日本はどうなんでしょうかね?レセプトDBで安全性云々と声高に言っている人が日本にもい
るので,たとえばアバスチンがそれだけの価値があるかどうかなんてことも算出できるのではと思ったりもします.保険局医療課にその度胸はない
としても,財務省がやって,脳循環改善薬を潰した時みたいに,抗体医薬潰しに使ったりして.保険局医療課としても,「合理的な」薬価算定根拠
としては有効なんじゃないんでしょうか?
なお,2006年,ダブリンで行われたコクランコロキウムに出た時の感触では,コクランの連中はNICEと仲良しのように見えました.コクラ
ンも,母体はUKですし,営利団体ではないコクランが,あれほど力を持っているのは,NICEと組んでいることも一因と思っていますが,コク
ランとNICEの関係についてご存じの方,いませんか?
BMJのクリスマス特集は,大変楽しいClinical Questionの検証論文がたくさん出る.
BMJ 2008;337:a2768 Rugby (the religion of Wales) and its
influence on the
Catholic Church. Should Pope Benedict XVI be worried?
ウェールズが五カ国(現在はイタリアが加わって六カ国)対抗ラグビーでグランドスラム(すべての相手に勝っての完全優勝)を達成した年は,法
王が死ぬというジンクスは本当か?
BMJ 2008;337:a2794 The impact of appointments timed in proximity
to annual
milestones on compliance with screening: randomised
controlled trial
日本でも,誕生日一か月前に自動車運転免許の更新のお知らせをしているのと同じように,誕生日やクリスマスといった特定日の時期にからめて検
診日程を設定すると受診率は向上するか?
BMJ 2008;337:a2825 Head and neck injury risks in heavy metal:
head bangers
stuck between rock and a hard bass
ヘビメタやハードロックの音楽に合わせた激しい踊りは頭頚部の外傷リスクとなるか?
BMJ 2008;337:a2826 Right-left discrimination among medical
students:
questionnaire and psychometric study
医学部学生における右左弁別能の性差と外科・内科志向の関係や如何に?
Misperceptions and misuse of Bear Brand coffee creamer as infant food: national cross sectional survey of consumers and paediatricians in Laos. BMJ 2008;337:a1379
おかあさん熊が子供の熊を抱いている図柄のコーヒークリームが粉ミルクと間違えら れて子供の授乳に使われて、栄養失調となっている問題を扱った論文である。もし、日本のように、ほぼ全国民が字を読める国でも、極めて誤解を 生みやすいとして問題になるだろう。ましてや女性の識字率が 50%のラオスである。
こういう論文をフルペーパーとして掲載するBMJって、やっぱり好きです。なお、すでにこの問題は2006年から取り上げられていた。(Nestle Using Deadly Labels in South Asia, March 16, 2006)。つまり誰でもBMJの論文が書け る状態にあった。みなさんも、BMJへどうぞ。
Changing perceptions of weight in Great Britain: comparison of two population surveys BMJ 2008;337;a494
1999年と2007年と比べて,肥満を心配している人の割合はどう変化しているだろうか?そんなこと,調べる必要はないと思うだろうか? それはなぜだろうか?
2007年の方が高いに決まっているだろう,そんなわかりきったことでも,実証主義に基づいて,検証するのが大切だってことは,理屈ではわ かるけど,とてもじゃないが,自分はやる気がしない,それよりも,結果がどう出るかわからない新薬の治験の方に興味があるって?
結構.ではあなたには治験の方に専念してもらうとして,ここでは,わざわざ,その分かり切ったことを調べたグループの報告を解説しよう.結 果は簡単だ。図を見てもらえばいい.あなたは肥満ですかとの問いに答えてもらっ て、その答えの感度と特異度を1999年と2007年で比較したものだ.2007年の方が肥満の感度が低下している.感度の低下は偽陰性,つ まり,客観的な指標では肥満と判断されても,自分は太っていないと考える人が増えていることを意味する.
一体これはどういうことなのだろうか?肥満が目の敵にされる時代に,公共の場での喫煙を禁止するほどの健康志向の国民が,肥満に対してどう してこのように寛容になれるのだろうか?いまだにオートマチック車を受け入れられない英国人特有の頑固さゆえなのか?それとも,自分の国の料 理と同様,自分の健康にもシニカルになれる英国人特有のユーモアゆえなのか?
Review: Imaging techniques have similarly high accuracy for diagnosing cancer in solitary pulmonary nodules 総説:肺の孤立腫瘤影の診断に対して,4種類の画像検査は同等に高い感度・特異度を有する.
ダイナミックCT, MRI,
FDG-PET, SPECT,どれも大差はないってことで,裏を返せば,口角泡を飛ばして,こちらの機械の方がいいなんて論争する暇があったら,その施
設にある機械の種類と,患者さんの条件(腎機能など)を考慮して,融通を利かせろってことだね.
Beausoleil M, et al. Effect of a fermented milk combining Lactobacillus acidophilus CL 1285 and Lactobacillus casei in the prevention of antibiotic-associated diarrhea: a randomized, doubleblind, placebo-controlled trial. Can J Gastroenterol. 2007;21:732-6.
プロバイオティクス乳酸菌(Lactobacilli-fermented milk)の連日投与は,入院患者の抗生物質関連下痢症を予防した.
ピロリ菌除菌の時の下痢の予防にヨーグルトがいいことを以前説明した.この論文も大した
物だ.抗菌薬の最大の副作用である下痢が,ただの発酵乳で,RRRが55%で,NNTが6だ
ぜ!!大規模試験クソ食らえ!!日本人のエビデンスとやらに何億円もかける前に、こういう試験をやるのが、あんたの仕事ってもんだろうに。
同じ正常心電図の持ち主であっても,年齢,性別,タバコ,糖尿病,運動耐用能,負荷後の心拍回復度といった指標が,その人の生命予後を大き く左右するってこと.こういう論文の結果を見て、どこぞの国で流行している脳ドック、MRIやPETといった物々しい検査よりも、外来での5 分間の問診と長谷川式スケールの方が、予後判定にはずっと役に立ったりして と思ってしまうのは私だけ?
そういう研究こそ、脳ドック大国でやるべきだし、できると思うし、それこそ、トップジャーナルに載せられると思うんだけどな。実際,脳ドッ クではないけれど,性別,年齢,そして簡単な日常生活動作スケールで,認知症の生命予後がわかるという研究が出ている.
Xie J, Brayne C, Matthews FE. Survival times in people with
dementia: analysis from population based cohort study with 14 year
follow-up. BMJ. 2008;336:258-62.
ACCORD試験でのロシグリタゾンの併用と死亡率の上昇に関しては,帳尻あわせで触れ た通りだ.今回の報告は,66歳以上の高齢者を対象にした検討である.症例対照研究,retrospectiveではあるが,心不全ばかりで なく,心筋梗塞,全死亡もリスクが高くなっている.
下記はACPジャーナルクラブのコメントなんだが,別にアメリカの偉いお医者さんに言われなくても,「他にいくらでも薬があるんだか ら,○○グリタゾンを敢えて使う必要がどこにあるのか?」ってことぐらい,誰でもわかるさ.
given that alternate therapies are readily available,unless more
compelling evidence of benefit with TZD therapy is forthcoming,
these
agents have a questionable benefit?risk profile for treatment of
type 2 diabetes.
AN1792といっても,今では覚えている人もいないだろうが,アイルランドのエラン社と言えばピンと来る人もいるだろうか.2002年 に,第U相臨床試験で,360人の被験者のうち,15人に重症の脳炎が起きて開発中止になったアルツハイマー病のワクチンの第I相試験の被験 者について,神経病理学的検索を含めて,長期フォローの結果が明らかとなった.
被験者の血清には血清に抗体が認められたので,脳からアミロイドが消失し,その結果,アルツハイマー病の進行を阻止できるのではないか.そ う希望を持った人々が,第U相で脳炎の事故が起きてからなおも,第I相試験の被験者の経過を追っていたのだった.(Highlights: アルツハイマー病:ワクチンという選択肢の再検討:Nature Reviews Drug Discovery 1 ( 12 ), ( Dec 2002 ))
では,その結果は如何に?実はあまりわくわくするものではなかった.たしかに,ワクチンを受けた被験者の多く(神経病理学的検索が行なえた 8人中6人)で血清中に抗体が確認された.そして,抗体価が高いほど,脳からのアミロイド斑の消失が顕著だった.抗体価が最も高かった2例で は,アミロイド斑がほとんど見えなくなってしまっていた.しかし,アミロイドの消失と認知機能は全く関係が無かった.
アミロイドの蓄積が,アルツハイマー病の本態であるかどうか,長年にわたって議論が続いてきた.その論争にけりをつけるのが,アミロイドワ クチンの有効性だった.と,私はここまで過去形で書いてきたが,まだまだ現在形で書かなければならないのだろうか?
Positive and negative affect and risk of coronary heart disease: Whitehall II prospective cohort study. BMJ 2008;337;118-
前向きの気持ちだと冠動脈疾患になりにくいか?沈んでいると,心筋梗塞になりやすいのか?1985年にロンドンの官庁街に就職した 10308人(6895 men and 3413 women)を対象にしたコホート研究である.619人に心筋梗塞あるいは狭心症が発生した.既知の冠動脈危険因子で補正したところ,陽性感情 (positive affect)との有意な関係はなかったが,陰性感情の方は弱い関係があったとのこと.
South African court bans vitamin trials for HIV/AIDS. Lancet 2008;372:15
南アフリカで,HIV/AIDSに対して有効性・安全性が検証されていないビタミン・サプリメント療法を推進していた組織に対し,裁判所か ら禁止命令が出た.先進国のニセ薬事件とは比べ物にならないぐらいの大きな社会問題になった背景には,traditional medicine/healersに対する一般市民の信仰と貧困があるだろう.何しろ,保健大臣自身が抗ウイルス療法に対する疑念を公言して はばからず,政府の介入がひどく遅れてしまったぐらいなのだから.90年代初めの話だが,マレーシアからの医学生が,自分の国ではまだま だ”witch doctor”の方が人気が高いと話していたのを思い出す.
国民皆保険で誰もが標準的な治療を受けられる環境ならば,決して起きなかった悲劇である.まあ,先進国でもおまじない同然の医療というの は,あちこちに転がっているわけだが,深刻度が違う.
医療と宗教はどこが違うのか?代替医療への信仰に対する国家権力の介入?もし,このビタミン療法の臨床試験(実薬?プラセボ?対照)を南ア フリカでするとしたら,現地の倫理委員会はどういう結論を出すだろうか?
注 意欠陥多動性障害にセントジョーンズワートは無効:6ー17歳の患者を対象にした無作為化試験の結果
Hypericum
perforatum
(St John's Wort) for Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in
Children and Adolescents
A
Randomized Controlled Trial JAMA. 2008;299(22):2633-2641.
2重盲検試験は、2005年3月から2006年8月に同大学で行われた。DSM-IVに基づいてADHDと診断された6ー17歳の患者54
人を無作為に、セントジョーンズワート(300mg、ヒペリジン0.3%含有)を1日3回8週間投与(27人)、またはプラセボ(27人)に
割り付けた。試験期間中はそれ以外のADHD治療薬の使用を許可しなかった。割り付けられた薬剤の服薬遵守率は82.0%(95%信頼区間
77.5から96.4)だった。
主要アウトカム評価指標は、ADHD Rating Scale-IV(ADHD
RS-IV、0-54ポイント)と臨床全般印象度-改善度(GCI-I、0-7ポイント)、そして有害事象に設定。分析はintention-to-
treatで行った。ベースラインから8週目までのADHD
RS-IVのスコアの変化を、介入群とプラセボ群の間で比較しても、有意差は見られなかった。スコア総計は、介入群で4.4ポイント、プラセ
ボ群は5.2ポイント、それぞれ改善した。(日経メディカルオンライン.大西淳子氏)
どうです.魅力的なリサーチクェスチョンを現実的なデザインで検証する.それがJAMAに載る.これならあなたもできるでしょう.
Fifty years of violent war deaths from Vietnam to Bosnia:analysis of data from the world health survey programme. BMJ 2008;336;1482-1486
戦争の最中に、その戦争で殺された人間の数を正確に数えることはできない。ならば、戦争の前後の人口動態を比較して、戦争による死者数を推 定したらどうだろうか?なるほど、日本のような人口動態統計のしっかりした国ならそれもできるだろう。しかし、多くの場合、戦争が起こるのは まともな人口統計などない国だ。それに、難民だってたくさん出て行って、戦争が終わってもなかなか帰ってこられない。だから、戦争の前後の人 口動態を比較する手法にも限界がある。
著者らは、2002-2003年にWHOによって行われた聞き取り調査(家ごとの調査だと、そもそも家庭自体がなくなっていることも多いの で、戦争で死んだ兄弟姉妹の数にしたそうだ)から、既知のバイアスを排除して、ベトナム、スリランカ、エチオピア、ボスニア等の13地域での 死者数を推定した。すると、既存のUppsala/PRIO研究とよく相関が得られたが、近年になって、「テクノロジーの発達」により戦争で 殺される人間の数が減っているとの主張を支持するデータは得られなかった。
ところで、明治維新以降、日本が係ったそれぞれの戦争で、どのくらいの日本人が死んだのか、あなたは知っていますか?
鼻はまだしも唇とか舌にピアスをするメンタリティって,どうなっているのだろうと思うが,まあ,本人はいい気持ちなのだろう.個人的な印象 では,日本よりイングランドの方がピアスの頻度はずっと多いのだが,そのイングランドでは実際にどのような数字になっているのだろうか?以 下,耳以外のピアスについての数字である.
まず,性別では,男性5%,女性15%と女性に多く,年齢層別で最も頻度の高い16−24歳では,男13%に対し女ではなんと46%だっ
た.地域別では,以外にもロンドンが最も低く7.1%,最も高いのがEast
Midlandsの13.1%である.ロンドン以外の他の地域では軒並み10%を越していて,ロンドンの低さが目に付く.
ではピアスの部位はどこが多いのか?女性では,何と,臍!で9.5% 鼻が5.3%と続く.男性では,これも何と乳首で1.8%,僅差の
1.6%で眉毛の部分が続く.
やっぱり理解できないなあ.もっと知りたいか方は実 際の論文をどうぞ.(リンクをたどれば無料で読めます)
抗上皮細胞成長因子受容体(EGFR)抗体製剤であるセツキシマブは他の治療法が無効の結腸・直腸癌患者において生存率を改善した.
Cetuximab improved overall survival in colorectal cancer patients in whom other treatments had failed Jonker DJ, O’Callaghan CJ, Karapetis CS, et al. Cetuximab for thetreatment of colorectal cancer. N Engl J Med. 2007;357:2040-8.
コメント:被験者数527人.1年後の生存率が実薬で79%,プラセボで84%,相対リスク減少が8.9%で有意差あり,NNTが14と なっている.これらの数字は生活習慣病関係の臨床試験と全く感覚が違う。
たとえば、スタチンや降圧剤の有効性を検証する試験で,心血管系の複合エンドポイントとして、感度を上げるにしても、相対リスク減少が 8.9%で有意差を出すとしたら、観察期間5年で数千人以上の被験者が必要である。そして、決して、NNTが14はありえない。二桁の後半. 下手したら三桁になる。
しかし,他の治療法が無効の結腸・直腸癌患者を対象にして,生存率をエンドポイントにした場合,だと,一年後には多くが死んで生存期間にば らつきが少ないから,被験者数527人でも実薬で79%,プラセボで84%でも有意差がついちゃう.でも,この有意差って何なのだろう。
そしてNNTが14という数字も・・・,生活習慣病のエンドポイントなら,「大したものだ」と思うけど,死亡がエンドポイントの抗癌剤だか らね.14人に投与して,13人はプラセボと同じってとになると,僕は米軍陣地に突撃する日本軍みたいなイメージしか描けない.しかも、その 14人の中から選ばれた一人も、ずっと生き延びられるわけじゃない。
こんな薬でも,NEJMのフルペーパーになったからには,一バイアル二十万円って値段がつくんだろうな.
セツキシマブが結腸・直腸癌対象に部会を通過(日経メディカルオンライン2008. 5. 27)
薬事衛生審議会第二部会は、5月23日、メルクが申請している抗上皮細胞成長因子受容体(EGFR)抗体製剤セツキシマブ(商品名「アービ
タックス」)の承認を了承した。次回の薬事。食品衛生審議会を経て承認される。セツキシマブの適応症はEGFR陽性の切除不能な進行・再発の
結腸・直腸癌。承認条件に、市販後の全例調査が義務付けられている。
2 型糖尿病における血糖の厳格な管理:
ACCORD試験:N Engl J Med 2008; 358 : 2545 - 59
ADVANCE試験:N Engl J Med 2008; 358 : 2560 - 72
二つの試験が同じ号のNEJMに載った.双方とも,薬物により,血糖コントロールを一層強化すれば,血管性イベントが減らせるのではないか という仮説を検証するために行われたわけだが,双方で異なった問題点が明らかになった.
ACCORD試験では, 観察期間1年の時点で,糖化ヘモグロビン中央値は,厳格管理群で 6.4%,標準治療群で 7.5%だった.平均 3.5 年の追跡調査後, 厳格管理群の 257 例が死亡したのに対し,標準治療群では 203 例(ハザード比 1.22,95% CI 1.01-1.46,P=0.04)と厳格管理群のほうが死亡率が高かったことから,厳格管理は中止された.なお、この間,主要転帰とした macrovascularの心血管イベントの複合エンドポイントは,厳格管理群の 352 例で発生したのに対し,標準治療群では 371 例であった(ハザード比 0.90,95%信頼区間 [CI] 0.78-1.04,P=0.16).
では、厳格管理群での死亡率上昇の原因は何か?ただちに特定することはできないが、ロシグリタゾン 併用率が厳格管理群の90%、標準治療群の58%だったことは注目に値する。ロシグリタゾンは体液貯留により 体重を増加させることが知られているが、ロシグリタゾン併用率を反映してか、厳格管理群で体重が10kg以上増加した人が27.8%に上った という。(標準治療群ではその半分の14.1%)
ちょっと待ってよ。糖尿病の管理では、体重コントロールってとても大切なはずだよね。なのに、体重が10kg以上も増えちゃう「厳格管 理」って何さ?
さらに気になるのは、死亡原因の内訳である。心臓血管死が、厳格管理群の135例(2.6%)だったのに対し,標準治療群では94 例(1.8%)にとどまった点だ。普通は、糖尿病を厳格にコントロールすれば、糖尿病合併症と考えられている心臓血管死は減少するはずだ。そ れが全く逆の結果になっている。おまけに、心臓血管死数の差で、全死亡の差がほぼ説明できる。ということは、厳格管理群と標準治療群の死亡率 の差は、心臓血管死の差と考えられる。
臨床試験デザインを考えるとき,基礎治療・併用療法の規定は基本中の基本です.ACCORD試験は、その基本ができていないと,こういうこ とになるという良い(悪い?)見本です.それにしても体重を10kg以上増やす糖尿病の薬ってどうやって使うんでしょうねえ. 不器用な私に はとても使えません.まあ,承認されていなければ使いようがありませんが,「欧米でこんなにたくさん使われている素晴らしい薬なのに,厚労省 が”認可”しないのはけしからん」って声は,今回はどうしちゃったんでしょうかね.同じように体重を増やす国産の類薬があるから,外国製の素 晴らしい薬は要らないんでしょうか?
一方のADVANCE試験では,標準治療群と厳格管理群の間で死亡率の差はなく,試験が中止になることもなかったわけだが,けちをつけるに は充分な結果が得られた.すなわち,主要エンドポイントとは,主要大血管イベント(心血管系の原因による死亡,非致死的心筋梗塞,非致死的脳 卒中)と主要細小血管イベント(腎症,網膜症の発現・悪化)の複合エンドポイントして,一応,厳格管理群により,主要エンドポイントの発生率 が低下した(18.1%,これに対し標準コントロール群 20.0%;ハザード比 0.90;95%信頼区間 [CI] 0.82?0.98;P=0.01)
ところが、その内訳を見てみると,主要エンドポイントの低下は主に腎症の発生率が低下したことによるものであり(4.1% 対 5.2%,ハザード比 0.79,95% CI 0.66-0.93,P=0.006),肝心の網膜症、主要大血管イベント、に対しては有意な効果はみられなかった。
ADVANCE試験では、複合エンドポイントの問題点が露呈した.macrovascularだけでも,複合エンドポイントにはいろいろ問題点があるの
に,
macrovascularだけでなく,microvascularもごっちゃにして,主要エンドポイントにしたのは,ただ単に感度を上げて
有意差をつけたいがためだったとのツッコミにはどのように反論するのかな?
これは私だけの言いがかりではない.糖尿病臨床試験の多くの主要評価項目はゴミに過ぎず,患者にとって重要な転帰を含んでいる試験は18% にすぎない.Gandhi GY et al. Patient-important outcomes in registered diabetes trials. JAMA. 2008 Jun 4; 299(21): 2543-9.
トップジャーナルに載る臨床試験さえゴミを満載しているのだから、役所が主導するメタボ検診なんて、さしづめ違法産業廃棄物捨て場だな。
いずれにせよ,薬だけで,血糖やグリコヘモグロビンの値だけを帳尻会わせしても,ごまかしは利かない.やはり食事療法,運動療法を十分やっ た上で薬を使わないと,望ましい結果は得られないという常識が確認されたということで,大規模臨床試験とやらが,時に何かの役には立つことが 証明されたという意味で,ACCORD試験,AVANCE試験に関与した人達も報われるというわけだ.
参考(Editorial)
Redefining Quality. Implications of recet clinical trials. N Engl
J Med 2008; 358 :2537
Intensive glycemic control in the ADVANCE and ACCORD trials. N
Engl J Med 2008; 358 :2630
Monitoring Cholesterol Levels: Measurement Error or True Change?
Ann Intern Med 2008;148:56-66
コレステロール低下治療の効果をモニタリングする際,通院の度に変化する血清コレステロール値は偶然のばらつきによるものと真の経時的変化に
よるものとがある.著者らは冠動脈疾患を有する患者でプラバスタチンとプラセボを比較した試験データを解析した.通院毎の血清コレステロール
値の変化の大部分は偶然のばらつきであり,投与量の調整のきっかけとすべきではなかった.真の長期的変化の寄与を強調するために,著者らは
しっかりとしたコレステロール低下治療を受けている患者では,数ヶ月毎や年一回よりも3ないし5年間毎にモニタリングすることを提案してい
る.
同じ号のBMJでは,
Cost effectiveness of self monitoring of blood glucose in patients
with non-insulin treated type 2 diabetes: economic evaluation of
data from the DiGEM trial. BMJ 2008;336:1177-1180
血糖の自己測定群では,検査の費用が余計にかかるばかりでなく,生活の質も低下するそうだ.
Prognostic Value of Functional Performance for Mortality in
Patients With Peripheral Artery Disease.J Am Coll Cardiol, 2008;
51:1482-1489
診察室内で実施可能な簡便な歩行試験は末梢動脈疾患患者peripheral artery disease
(PAD),の評価に有用である
最近報告された研究によると,末梢動脈疾患患者に対する下肢の状態についての簡便な機能検査は,足関節・上腕血圧比検査ankle
brachial index
(ABI)よりも有用な情報が得られ,死亡率などの予後の予測にも役立つことが明らかにされた.444名のPAD患者に6分間の歩行の距離と4m(キロ
メートルではない)の歩行のスピード(巡航速度と最高速度の二通り)を測定して,5年経過を追ったところ,この指標はankle
brachial index (ABI)よりも感度良く心血管死のリスクを表す.
類似のものとして,以下のランセット論文がある。ランセットでも,まだこんなまともな論文が載るのだ!メタボ検診クソ食らえ!!
Laboratory-based versus non-laboratory-based model for assessment
of cardiovascular disease risk:the NHANES 1 follow-up study cohort
Lancet2008;371:923-31.
血液検査なしに心血管系疾患のリスクを簡単にかつ正確に判断できる手だてがあるのか?特に発展途上国では,採血してコレステロールを測るこ となど非現実的であるため,WHOは,総コレステロールの代わりにBMIを採用するよう勧告している.しかし,この勧告の有効性は検証されて いない.
この疑問を検証するために,Laboratory-based modelとNon-laboratory-based model(血液検査は行わず、病歴と診察所見のみ)の心血管系の疾患を予想できるか検討した。Laboratory-based modeはフラミンガムとほぼ同じで性別、年齢、収縮期血圧、喫煙、総コレステロール、糖尿病(reported yes/ no)血圧の治療(reported yes/no)。Non-laboratory-based modelでは総コレステロールの代わりにBMIを代用。
対象は,1971から1975年の間に登録された25-74歳のアメリカ市民14407名のデータベースThe national health and nutrition examination survey(NHANES)のうち,基礎疾患とし心筋梗塞、心不全、脳卒中、狭心症および癌が認められない市民6186名を21年間追跡した。
【結果】6186名の内1529名に最初の心血管系の疾患のeventがあり、578名(38%)の死亡は心血管系疾患による。女性では
Laboratory-based
modelでのc-staticsは0.829 Non-laboratory-basedmodelでのc-staticsは0.831と
同等。男性ではそれぞれ0.784と0.783。死亡のみに絞りこんでも性別を問わず同等であった。ROCカーブは見事に重なった→この重な
りは圧巻!!
【結論】Non-laboratory-based modelはLaboratory-based
modelとおなじく正確に予想しうる。つまりコレステロールを測定しなくても,BMIで十分であって,WHOの勧告はOK!外来患者のリスク評価を費用
をかけず、血液検査の結果を待たず、5-10分で評価可能。
いくつかの治療方法からどれが最も効果的かを評価する時,どの治療がすでに比較さ
れ,どの治療がプラセボと比べられたかを知ることが重要である.著者らはこの関係
を幾何学的に表した.これらのネットワークは,どの治療方法が直接1対1で比較され
ていないかを,図を用いて示している.幾何学的に示された治療比較のネットワーク
は,将来の治療評価研究の方向性を明らかにするのに役立つ可能性がある.
(翻訳:山前正臣)
これ,コンセプトは面白い.つまり,糖尿病や高血圧など,介入手段がたくさんある場合に,それぞれの関係がどうなっているのか,ネットワー
クとして捉えるってこと.じっくり読む暇がないけど,論文の図を見ると.Aの放射状のやつ
は中心にプラセボがあって、複数の薬がプラセボとhead to headで比較されているわかりやすい図式。線が太いほど、head to
headの試験の数が多いってこと。ところが、今時プラセボとの比較がありえなくて、かつ複数の薬剤の併用が当たり前な糖尿病とか高血圧とか
は、壊れた段 ボール箱のような複雑な関係で図示されるってこと。
それとも,メディアによる規制当局叩き,スケープゴート探しと私刑が怖いから,たとえ人数が倍になっても,安全性を入念に検討するための人
数と時間が倍になるだけで,ドラッグラグは決して解消されないのだろうか?
スタチンにさらにエゼチミブを追加しても利点はない:シンバスタチンに脂質降下薬を追加することは,LDLコレステロールをさらに下げる が,動脈硬化の進展には影響を与えないことが明らかとなった.
エゼチミブ(商品名 ゼチア)が,Niemann-Pick C1 like 1 proteinに選択的に結合し、腸管からのコレステロール吸収を阻害する分子標的薬として華々しくScience誌上に登場したのは、わずか4年前であ る (Science 2004;303:1201-4)。それからFDAが承認するまで、2年とかからなかったと記憶している。サイエンスに載ってからFDA承認まで2年かか らない!おそらく史上最高の開発スピードだろう。
対象は家族性高コレステロール血症患者 (720 例)だから、まさに標的患者群を対象に、シンバスタチン単独とエゼチミブ併用群で、頸動脈内膜中膜厚をエンドポイントに24 ヵ月間観察したけど、有意差は出なかった(むしろ、併用群の方が厚くなる傾向あり)。
結論では、「エゼチミブとシンバスタチンの併用療法は,シンバスタチン単独と比較して,内膜中膜厚の変化に有意差をもたらさなかった が,LDL コレステロール値と CRP 値を低下させた」って書いてあるけど、それこそ、「少なく ともエゼチミ ブの場合には,LDL コレステロール値と CRP 値の代用エンドポイントとしての意義を疑わせる結果となった」 ということに他な らない。
まあ、スタチンだって、当初はLDL コレステロール低下という代用エンドポイントだけで承認されて、ずっと後になってハードエンドポイントが証明されたわけだし、後に開発される新薬ほどハー ドルは高くなるわけだから、こういう結果になっても仕方がないんだけど、どうするんだろうね。
エゼチミブはブロックバスターになるはずだった。大型新人になるはずだった。の事例は、スタチンという、強力な治療薬が存在している上に、 上乗せ薬として今後も、臨床試験と承認審査が判断できる範囲がどんどん狭まって、市販後にその薬の本当の意味が問われる、ある意味では企業に とって厳しい時代になっていくということを示している。裏を返せば、規制当局がパターナリズムを発揮できる場面がどんどん少なくなっていくと いうことなんだが、そのあたり、どれだけの人がわかっているだろうか。
このような,存在意義が疑われるエゼチミブの処方が,米国ではカナダの4倍以上だった.米国の医者にEBM云々を言う資格はない.→恥と外聞の国境線
2008/6/10追記:この結果を受けて,FDAは高脂血症治療薬のハードルを高くした.米国食品医薬品局は2つの新しい
コレステロール薬を承認しなかった.
米国食品医薬品局はCordaptibe(ER
niacin/laropiprant)とmipomersenという2つの新しいコレステロール薬について,各自の薬剤でより多くの情報が必要という理
由で承認しなかった.
FDA rejects two new cholesterol drugs
The FDA rejected two new cholesterol drugs, ER niacin/laropiprant (brand name: Cordaptive) and mipomersen, saying they needed more information on them.
The agency said the application for ER niacin/laropiprant, which lowers LDL and raises HDL, needed more information, the April 29 Washington Post reported. The agency also rejected the brand name "Cordaptive," so the makers plan to resubmit an application with the new name "Tredaptive," the Washington Post said.
One business day earlier, the agency told the makers of mipomersen that they must conduct a large-scale study to see if patients taking the drug not only have lower cholesterol levels, but also live longer or have fewer heart problems. The research will delay the drugs’ launch by several years, according to the Washington Post.
The value of newer cholesterol drugs is under debate following a
January study that showed Vytorin?which combines ezetimibe (Zetia)
and simvastatin (Zocor)?doesn’t reduce plaque any more than
simvastatin alone, though it does produce lower cholesterol
levels. Some observers say the FDA appears to be setting a higher
standard for determining a cholesterol drug’s effectiveness in the
wake of those results, said the Washington Post.
脳帝国主義の世の中だが,脳だけ気にしていていいのか?肺は高齢化してもいいのか?
2008年3月6日付けのBMJオンラインでは,ややこしい呼吸機能検査を、「肺年齢」という表現で置き換えることによって、禁煙
率向上が図れる。さらには、肺年齢を数値化したデータだけではなく、図に示すと一層効果があるのではないか? と伝えている.
Telling smokers their lung age improves quit rates:
A study of 561 UK smokers aged over 35 finds that telling them
their lung age significantly improves the likelihood of them
quitting. The "lung age" concept was developed to help patients
understand complex lung data and to show how they are prematurely
aged by smoking. An accompanying editorial says that providing
feedback on lung age with graphic displays seems to be the best
option so far for communicating the results of spirometry.
なお,日本呼吸器学会でも,「肺 年齢」の概念を宣伝しはじめたそうな。
その一方でこんなニュースもある.
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/080301/erp0803011208002-n1.htm
【ブリュッセル2008年3月1日共同】オランダからの報道によると、同国で老齢年金を運営する民間基金が29日、「平均余命が短い」ことを
理由に喫煙者への年金支払額を割り増しする方針を発表した。愛煙家団体は「喫煙者の権利擁護へ向けた一歩」と歓迎している。
報道によると、割り増し受給できるのは(1)過去5年間、毎日紙巻きたばこを10本以上吸い(2)1カ月以上、禁煙が続いたことがない-な
どの条件を満たす年金加入者で、尿検査により喫煙者であることを裏付ける必要がある。非喫煙者に比べて最大16%高い年金が支払われるとい
う。
コメント:うーん、オランダらしいなあ。薬物依存患者のHIVリスクを下げるために注射針を無償で提供するとか、安楽死を合法化すると
か、”弱者いじめ”(背景に認知の歪みあり)の是正を国家レベルでやっちゃうんだから、面白い国だよねえ。私なら,本来喫煙者で割り増すべき
健康保険料との相殺とすべきであって,年金割り増しは不当だと主張したいところだが.
コメント:860億ドルって、9兆3000億円だぜ。どうなってんだい。アメリカって国は。これじゃあ、「たとえ日本が世界中のMRIの 1/4を保有していても、何ら恥じることはない」って主張する輩が出てきても反論できないぜ。
ちなみに、BMJでは「思い物を持ち上げる時は膝を曲げて・・・」といったような腰痛の生活指導は、腰痛抑制や予防には結びつかないとの結
論が導き出されている.
Effect of training and lifting equipment for preventing back pain
in lifting and handling: systematic review. BMJ 2008;336;429-431
Conclusions There is no evidence to support use of advice or
training in working techniques with or without lifting equipment
for preventing back pain or consequentdisability. The findings
challenge current widespread practice of advising workers on
correct lifting technique.
結局、この種の介入は、アウトカムを考慮することなしに、公共事業としてpolycy
makerが設定するんだよな。2008年4月から始まるメタボ検診みたいに。
Probiotic prophylaxis in predicted severe acute pancreatitis: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2008; 371: 651-59
ヨーグルトを食わせた群で、主要評価項目の感染合併率はプラセボと変わらなかったけれど、プラセボ群で一例もなかった腸管虚血が、実薬群で 9例(6%)も起きて(そのうち8例が死亡)、死亡全体もプラセボ6%に対して実薬16%とショッキングな結果となっている。
152 individuals in the probiotics group and 144 in the placebo group were analysed. Infectious complications occurred in 46 (30%) patients in the probiotics group and 41 (28%) of those in the placebo group (relative risk 1?06, 95% CI 0?75?1?51). 24 (16%) patients in the probiotics group died, compared with nine (6%) in the placebo group (relative risk 2?53, 95% CI 1?22?5?25). Nine patients in the probiotics group developed bowel ischaemia (eight with fatal outcome), compared with none in the placebo group (p=0?004).
Review: Anticoagulants increase intracerebral bleeding and do not
reduce death or disability in acute cardioembolic stroke.
Paciaroni M, Agnelli G, Micheli S, Caso V. a meta-analysis of
randomized controlled trials. Stroke. 2007;38:423-30.
急性心原性脳卒中患者において抗凝固薬はプラセボやアスピリンと比較して死亡または機能不全の複合イベントや再発性の早期脳卒中を含む脳卒中
に関して差はない.しかし,抗凝固薬は頭蓋内出血のリスクを増やす.
コメント:慢性期で安定した心原性脳卒中患者では、ワーファリンの有効性はもちろん確立している。今回は急性期患者の話。要は、脳梗塞患者 が運び込まれてきた時は、たとえ心房細動が判明して脳塞栓とわかっても、抗凝固療法をやっちゃだめってことね。だから、急性期脳梗塞患者に深 部静脈血栓症や肺塞栓症のリスクがあるからといって,簡単に抗凝固療法をやっちゃいけないのよ.Xa因子阻害薬にこだわっている人達,わかっ たかな?
なお、内科系疾患での深部静脈血栓症のリスクについてはENDORSE study
Venous thromboembolism risk and prophylaxis in the acute hospital
care setting (ENDORSE study): a multinational cross-sectional
study The Lancet 2008; 371:387-394
を参考にされたい。
家族性高コレステロール血症患者720名を対象に,頸動脈の内膜肥厚を評価項目として,エゼチミブとシンバスタチン併用とシンバスタチン単
独投与とを比較したところ,有意差がなかったという結果に対して,米国循環器学会(ACC)は,「さらなる大規模試験が進行中だから,その結
果を待つべきであり,エゼチミブを簡単に見捨てないように」と,シェリング・プラウが涙を流して喜びそうなコメントをわざわざ出している.こ
んなことは企業に言わせておけばいいのであって,学会は,本来,こんな露骨な提灯持ちをすべきではない.恥知らずな”学会”,余計なお世話も
いいところだ.
本人がどんなに叩かれようとも,みのもんたの支持者は決して絶滅しないし,ねつ造番組は後を絶たない.なぜだろうか?科学者や医師が,捏造 番組を支持するとしたら,一般市民に,みのもんたを信用するなと言っても,タバコのにおいのする白衣を着た医者が禁煙を説くのと同様,無理な 話だ.日本だけの話じゃない.多くの人が崇拝する「欧米のお医者さん」ですら,観察研究が描いた幻を追い続けるのだから,citation biasの背景にある批判能力の低さと思考停止については,まずお医者さんから改めていかねばならない.
実際のデータを見てみると1+1=2ではなく、1.1か1.2というぐらいの併用効果なのよ。その程度のベネフィットと、高カリウム血症や NSAIDs併用による腎不全のリスクのバランスを考えたら,ARBsとACE阻害薬の併用なんて,とてもじゃないがと思ってしまう.
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系統的レビュー:本態性高血圧治療に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬の有効性の比較
Systematic Review: Comparative Effectiveness of
Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors and Angiotensin II
Receptor Blockers for Treating Essential Hypertension. Ann Intern
Med 2008;148:16-29
著者らは,本態性高血圧の成人を対象にアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と
アンジオテンシン?受容体拮抗薬(ARBs)を直接比較した臨床研究を系統的にレ
ビューした .彼らは,この二種類の治療薬が,死亡率や心血管イベント,さらに糖
尿病発症,左室機能や腎疾患への進展に関して一貫した差はなく,血圧に対して同様
な長期的効果を有していたという明確なエビデンスを見出した .ACE阻害薬にはARBs
よりも高頻度に慢性咳嗽がみられた.(翻訳:吉田 博)
メタ解析:腎疾患の蛋白尿に対するレニン?アンジオテンシン系阻害薬の単独療法および併用療法の効果
Meta-analysis: Effect of Monotherapy and Combination Therapy with
Inhibitors of the Renin-Angiotensin System on Proteinuria in Renal
Disease. Ann Intern Med 2008;148:30-48
著者らは蛋白尿に対するARBsとプラセボまたは代わりの治療法と比較する無作為化試
験のメタ解析を行った.彼らはまた,蛋白尿に対する併用療法(ARBsとACE阻害薬)
とそれらの単剤での治療もレビューした .6,181名の参加者と72の比較研究を含む49
の研究からのデータによると,ARBsとACE阻害薬はプラセボやカルシウム拮抗薬に比
べて同等に蛋白尿減少に有効であった .ARBsとACE阻害薬の併用療法はそれぞれの単
独療法よりも蛋白尿を減少させた(←池田注:ここが聞き捨てならない)(翻訳:石田真実子)
レニン?アンジオテンシン系阻害薬:証明された利点と証明されていない安全性
Inhibitors of the Renin-Angiotensin System: Proven Benefits,
Unproven Safety. Ann Intern Med 2008;148:76-77
Matcharとその同僚,また,Kunzとその同僚の系統的レビューの中で最も重要な貢献
は,私たちが何を知らないのか,これらの薬剤の長期投与の副作用はどれなのか ,
を教えていることである.私たちは,アンジオテンシン受容体拮抗薬とアンジオテン
シン変換酵素阻害薬のそれぞれの単独投与,および2剤併用療法を含む3群間の,大規
模 ,長期間の無作為コントロール試験を行う必要がある.それが済むまでは ,これ
ら2種類の薬剤の併用療法を行っている末期腎臓病の患者を医師は注意深く観察すべ
きである.(翻訳:井田弘明)
Interpretation Improving nutrition in early childhood led to
substantial increases in wage rates for men, which
suggests that investments in early childhood nutrition can be
long-term drivers of economic growth.
つまり,グアテマラのような貧しい国の経済力を高めるためには,子供にいいものを食わせることが大切だってことだ.日本の学校給食は進駐軍 が導入したような言い方をする向きもあるが,すでに昭和7年に,はじめて国庫補助によって貧困児童救済のための学校給食が実施されている. (ランセットも,こういう論文だけを載せていれば文句を言われることもないん だが・・・)
ヘルスケアシステムの実績の公表は,患者に高い実績のあるシステムへ目を向けさ
せ,ケアの質改善プログラムに対するビジネスモデルを創出させる可能性がある.実
績データの公表要求はケアの質改善プログラムと結びつくという最新の証拠が解析さ
れている.ケアの質改善の努力やケアの質そのものについての公表の影響を評価した
45編の査読された英文総説が発表されている.病院レベルでは,実績データを公表す
ることがケアの質改善を促進するということは証明されたが,他の条件での結果,あ
るいは有効性,安全性,患者中心性への効果は不明確である.
(翻訳:道免和文)
コメント:ならば,論文を書け,持っているデータは公表して世の中の役に立てよう といった呼びかけに呼応しなくてもよいのでは?と考える
向きがあるのかもしれない.でも,この系統的レビューは,”まだ不明確である”としているだけで,否定しているわけではない.系統的レビュー
で否定されなかったことだけでも素晴らしい.
だって、この系統的レビューの考え方を,たとえば,アルツハイマー病の基礎研究分野に当てはめたら,アルツハイマー病の治療薬はまだないわけ
だから、今まで何千何百と出てきたアルツハイマー病研究の論文は、全て無駄ということになってしまうじゃないか。
ワーファリンを対照として,新たな活性型第X因子拮抗薬であるidraparinuxの,非弁膜症性心房細動患者における塞栓予防効果を検 討した試験である.ランダム化オープン試験で,ワーファリンに対する非劣性を検証しようとしたが,重篤な出血が実薬群で多くなったために,途 中で中止になった.脳出血も,それ以外の重篤な出血も実薬群で多かったが,堂々と非劣性が検証されたとのたもうている。そもそも、安全性の問 題で途中で中止になったのだから、非劣性が検証されたとは言わんのだよ。そんなこともわからんで,臨床試験をやるから,無様なことになるのだ よ.まあ,大層な名前つけちゃって.モーツァルトが文句言ってるよ.
それにねえ、仮に有効性で非劣性が検証されたとしても、安全性で劣っているわけだから、薬としてはワー ファリンより劣っていることが証明されたことに他ならないのだよ。
この試験に見られるように,虚血性・出血性の両方を”脳卒中”とひとまとめにエンドポイントとしてしまっている、愚かな(キッパリ!)プロ トコールの試験をしばしば見かける。当然、FDAやEMEAが同意したプロトコールだ。本来,FDAもEMEAも.「よい子は、ベネフィット とリスクをごちゃまぜにして評価してはいけません」 とはっきり言うべきだったのだが、「どうせ後から区別できるからいいじゃん」とか何とか ねじ込まれて、「まっ、いいか」 なんてことになっちゃんたんだろう。FDAもEMEAも,いい加減なもんだ。
このように,洋の東西を問わず,規制当局が何でも監視していてくれると甘えていたら大間違いだ。「現場を知らない厚労省の役人達が、専門家 の自分たちと大切な患者様が必要としている薬を使わせないのはけしからん」 と大声を上げる人も、自分の”専門分野”の臨床試験の吟味能力 を,せっせと磨いておくんだな。そうすれば、「新薬審査はPMDAになんか任せておけない。自分たちが責任を持って行う。もし市販後副作用が 明らかになったら自分たちが責任を持つ」と言えるまで成熟できる・・・かもしれない。
アスピリンを同じ量飲んでいても,血小板凝集能が影響されない集団がある.このようなアスピリン抵抗性のある人は,心血管イベントのリスク
が高いと想像するわけだが,果たして本当かどうか,まともな検討がなかった.(その背景には,アスピリン抵抗性の定義とか,コンプライアンス
の問題とか,いろいろあるのだが)そのmeta-analysisである。
in
vitroの血小板凝集能は,これまで,一般的に実際の心血管イベントリスクを反映しないと言われていたが,今回,アスピリン抵抗性という観点から見た限
りでは,血小板凝集能が,心血管イベントリスクをよく反映するとの結論が得られた.
20の研究,2930例(アスピリン用量は多くの研究で75-325mg)で,そのうちの6研究では,他の血小板凝集抑制薬が併用されてい
た.in vitroの血小板凝集能で定義されたアスピリン抵抗性は,810例(28%).そのうち4割に心血管イベントが起こり(オッズ比
3.85,95%信頼区間3.08-4.80),5.7%が死亡(オッズ比5.99 同 2.28-15.12)という結果だった.
さらに,アスピリン抵抗性に伴うこのリスクの増大は,クロピドグレル併用でも変わらなかった.
無症候の人にスクリーニングをする・しないのRCTはないので,そもそもスクリーニングそのものの評価には限界がある.またたとえ適応を 絞って手術手技をコントロールしたにせよ,5年間の脳卒中リスク絶対減少が5%である一方,頸動脈内膜剥離術の術後30日の脳卒中・死亡率が 2.7-4.7%と高いことを考えると,無症状の健康人は頸動脈狭窄症のスクリーニングから受ける利益はないと判断した.
患
者さんへのまとめ本文(Full Text)和訳(翻訳:澤木秀明)
こういう地道な活動が,結局はみのもんたに対抗することになるんだよな.下記抜粋
著者らは何を見い出しましたか?
著者らは,無症状の頸動脈狭窄症を有する人たちが外科手術から受ける利益は最小限のものであるという良質のエビデンスを見い出しました.しか
しながら,弊害は検査や外科治療の双方から生じます.脳卒中や死亡は,頸動脈手術を受けた100人毎に,約3人生じます.米国予防医療サービ
ス専門作業部会によれば,頸動脈狭窄症をスクリーニングすることの潜在的な弊害は,潜在的な利益を上回る可能性が高いようです.
米国予防医療サービス専門作業部会から,患者さんと医師が何をしたらいいか提案がありますか?
無症状の健康な患者は定期的な頸動脈狭窄症の超音波検査によるスクリーニングを,受けるべきではありません.
進行した腎疾患患者の多くが2次性副甲状腺機能亢進症の予防のためにビタミンD製剤
を服用している.Palmerと同僚らによる76の無作為化試験を対象としたメタ解析の結
果,慢性腎臓病患者における死亡率,骨痛,血管石灰化,あるいは副甲状腺切除術の
必要性について,ビタミンD製剤服用による相対的リスクの改善効果は認められな
かった.対照群と比較して,以前からのステロール型ビタミンD製剤では高カルシウ
ム血症と高リン血症の危険率の増加がみられ,一方,より新しいビタミンDアナログ
製剤では高リン血症は増加しないが,高カルシウム血症の相対的リスクの増加がみら
れた.より新しいビタミンDアナログ製剤と以前から汎用されているステロール型ビ
タミンD製剤とを直接比較したが,より新しいビタミンDアナログ製剤の優越性は認め
られなかった.慢性腎臓病患者において,ビタミンD製剤服用による有害事象の減少
効果は認められず,逆に増加させるかもしれない.
池田コメント:
要
旨(Abstract)日本語
これを読んで,えっ と思った方も多いのではないか.これほど一般的に行われている処方の有効性が否定されたので,editorialでも取
り上げられている.Vitamin D in Patients with Chronic Kidney Disease:
Nothing New under the Sun. Ann Intern Med 2007;147:880
要するに,ビタミンD製剤服用で検査所見を改善しても,ハードエンドポイントには貢献しないってことなのだろう.むべなるかなってところだ
が.
今回の研究の背景は次の通りである.欧州では,2004年5月1日から,The European Clinical Trials
Directiveが発効し,承認申請を前提とした企業主導治験以外の,大学などの学術機関主導で行われる臨床試験にもGCPが適用されるようになった.
このため,大学関係者からは,煩雑な事務手続ばかり増えて臨床研究推進の妨げになると非難囂々だったそうな.
というわけで,1993年から2006年までのデンマークの治験届け件数の推移を見てみたが,1993年から2006年まで,治験登録数が
徐々に減ってはいるものの,2004年の前後で大きな変化はなかった.なお,治験登録数の減少傾向は企業主導治験でも同様だった。著者らは、
2004年の前後で大きな変化がなかった原因を、デンマークではすでに99年から、学術機関主導で行われる臨床試験にもGCPが適用されるよ
うになっていたからだと解釈している。その解釈の根拠を支持するデータとして,2004年まではGCPが適用されていなかったオーストリアで
は,2004年以降,登録数が2/3に減ったことを挙げている.
この論文の結果を、そのまま日本に当てはめるわけにはいかない.そもそも,日本では,学術機関主導で行われる臨床試験の数が把握できていな い.UMINなどの登録システムが稼働してまだ3年ほどしか経っていないし,登録はあくまで任意である.だから,どこでどんな臨床試験が行わ れているかが把握できない.だから,日本で行われる全ての臨床試験を登録制としてGCPを適用するとしたら,試験数はもちろん減るだろうが, 適用前のデータがないので,どのくらい減るかもわからない.
なお,日本で行われている医師主導治験とは,承認申請(つまり,薬を市場に出して商売をする)を大前提にしているので,その実体は企業主導
治験と同じで,ただ,治験を遂行する主体に企業が入っていないだけであり,外国で言うところの,investigator-
initiated trialとは意味が異なる.→主導というより徘徊
患者中心の医療を促進するためのpay-for-performance
principle(実績に応じた支払い原則):倫理に関する声明 政策論文(Position Papers)
Lois Snyder, Richard L. Neubauer for the American College of
Physicians Ethics, Professionalism and Human Rights Committee.
Pay-for-Performance Principles That Promote Patient-Centered Care:
An Ethics Manifesto. Ann Intern Med 2007;147:792
この米国内科学会の意見書は,pay-for-performanceプログラム(実績に応じた支払
い方式)の潜在的な落とし穴に焦点を当てている.ある状況において,特定の要素が
良い結果を出すことにインセンティブを与えると,医師が複雑な患者の他の要素を無
視したり,そのような患者の診療を放棄したりすることにつながるかもしれない.
「指標を気にして行動する」ことは,別の危険性をはらむ.質の改善において第一に
注目すべきは患者であり,「支払い」や,限られた尺度に基づいた「実績」の評価で
はない.(翻訳:泉谷昌志)
池田コメント:私の意見は、成果主義という名の時代錯誤 を参照のこと.ただし,
このPosition Papersでは,成果主義の弊害に注意が払われているようだ.
人工呼吸器関連肺炎ー医療の質改善のための誤った指標
Michael Klompas and Richard Platt. Ventilator-Associated
Pneumonia-The Wrong Quality Measure for Benchmarking. Ann Intern
Med 2007;147:803
立法者,支払者,医療の質の提唱者らは,医療の質を評価するための方法として,病
院による人工呼吸器関連肺炎の発生率の報告を義務付けるかどうかを検討している.
しかしながら,人工呼吸器関連肺炎の正確な診断は極めてむずかしく,現在サーベイ
ランスに用いられている定義では,多くの主観的判断が必要となる.人工呼吸器を使
用している患者への医療の質を有意に反映する客観的なアウトカム評価方法が開発さ
れ,有効性が確認されるまでは,人工呼吸器関連肺炎は報告義務の一部として含まれ
るべきではない.(翻訳:泉谷昌志)
池田コメント:ここでも、「エンドポイント」とは何かという本質的な議論が大切だ。何を測るにしても、万能の物差しはない。誰のため、何の ための指標かを常に監視したいものだ。政商のための、金儲けのための指標に、”改革”とか、”医療の質改善”とか、もっともらしい”偽装”を ほどこして、多くの人を不幸せにした作業はまだまだ全国のあちこちで行われている。
静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法中止後の致死的肺塞栓症のリスク
James D. Douketis, Chu Shu Gu, Sam Schulman, Angelo Ghirarduzzi,
Vittorio Pengo, and Paolo Prandoni. The Risk for Fatal Pulmonary
Embolism after Discontinuing Anticoagulant Therapy for Venous
Thromboembolism. Adults. Ann Intern Med 2007;147:766
静脈血栓塞栓症(VTE)に対する抗凝固療法を中止するか否かの決定は,中止後の致
死的な再発のリスクにより決定される.最初のVTE発症の後,抗凝固療法を中止し平
均5年間観察した2,052症例における2つのコホート研究で,年間リスクは致死的肺塞
栓症で100人年あたり0.43,「definite」もしくは「probable」と判断された致死的
VTE再発で100人年あたり0.17であった.もし抗凝固療法を中止するなら,これらの比
率を考慮しなくてはならない.(翻訳:金澤雅人)
池田コメント:静脈血栓塞栓症(VTE)に対する抗凝固療法をいつまで続けるかは悩ましい。臨床試験をするとしても、観察期間の始めからプ ラセボを飲ませるデザインはできないので、3ヶ月飲ませる群と1年飲ませる群を比較するような研究になるだろうが、検出力の問題で膨大な患者 数が必要になって、RCTは無理だろう。だからこういう観察研究にならざるを得ない。この研究での抗凝固療法の平均期間は半年(3ヶ月から 39ヶ月の範囲)、抗凝固療法終了後の平均観察期間は54ヶ月だそうな。図7FF1を見る と、深部静脈血栓とPEを合併したものが一番やばそうに見えるけど、それでも抗凝固療法終了後半年たってようやく他の群と差がついてくるし、 ここでn数ががたんと下がるから、この差もどこまで信用できるか
Daniel S. Budnitz, Nadine Shehab, Scott R. Kegler, and Chesley L. Richards. Medication Use Leading to Emergency Department Visits for Adverse Drug Events in Older Adults. Ann Intern Med 2007;147:755
有害事象に関する全国サーベイランスや全国外来医療調査のデータによると,65歳以上の高齢米国成人は,薬剤の有害事象により年間
17,500回救急外来を受診している.これらのうち,3.6%は(池田注:添
付図Beers criteriaによる)不適切な処方のためであったが,しばしば問題となる3つの薬剤 ワルファリン,インス
リン,ジゴキシ ン?が,その1/3を占めていた.高齢
者における有害事象を減らす対策として,これら3つの薬剤を注目すべきである.(翻訳:金澤雅人)
池田コメント:Beers criteriaの薬物のリストはエビデ
ンスなしに、いわゆるexpert
opinion複数の専門家が集まって、高齢者でリスク・ベネフィットのバランスが悪くなる薬剤を議論してリストアップした結果をまとめたも
のだ。今回の研究の目的の一つは、この薬剤リストの有効性を検証したところにある。結果はBeers
criteriaによるものは3.6%だったのに対し、ワルファリン,インスリン,ジゴキシン?が,その1/3を占めていた。つまり、まず、
ワルファリン,インスリン,ジゴキシンの適正処方が大切で、Beers
criteriaの薬剤を一つ一つ覚え込むのは、全く無駄とは言わないが、優先順位は低いという結果となった。
この問題と直接関係はないのだが、Beers criteriaによる不
適切な処方をする傾向のある医師の研究がある。日本語なのでざっと読める。ただし、研究場所は米国。論文を書かない医者と開業医
がそういう傾向があるという結論だが、もちろん、これは交絡因子で、その実体は、副作用情報のアップデートを受けにくい環境だろう。だから,
論文を書かない医者が腕が悪い,開業医が腕が悪いという結論にはならない.
主要評価項目でプラセボと差がつかなかったという結果がすでに2年も前に出ているの(Lancet. 2005; 366: 1849-61)FIELD study の糖尿病性網膜症サブスタディ(1012例:fenofibrate群512例,プラセボ群500例)である.一次エンドポイントである ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)病期分類による網膜症の2段階進展においては両群間差はなかった.差があったのは,網膜症既往例ではfenofibrate群で有意に抑制 (3.1% vs 14.6%,p=0.004)。fenofibrate群で初回レーザー治療(網膜光凝固)の必要な全網膜症が有意に低下(3.4% vs 4.9%,ハザード比0.69;95%信頼区間0.56?0.84,p=0.0002)。ということだそうで.
そりゃあ,”大規模試験”をやって,たくさん指標を取れば,何かしら差は出るでしょうよ.だから何だっての.主要評価項目でプラセボと差が つかなかった同じ試験の何と三次評価項目、それも層別解析で差が出たとの報告をfast trackで掲載する所業は、六条河原の晒し首も同然の扱いだ。
こんなちんけな論文も,掲載誌がランセットだったから、問題視されたのであって、impact factorがランセットの1/10の雑誌だったら、誰も相手にしなかっただろう.裏を返せば、ACE阻害薬を貶してARBの提灯持ちをする降圧剤の総説、しょーもない新規降圧薬の宣伝,Jikei Heart Study、そして本論文といった一連の掲載論文は、ランセットのimpact factorが2点台になった何よりの証拠である。
こんな論文を真に受けて,はいそうですかと,糖尿病患者にフェノフィブラートを処方する医者ばかりだと思うなよ.ランセットの墓誌名に,ま た新たな論文が一つ加わっただけだ.
高血圧,心不全,虚血性心疾患などの心疾患を有する症例に対して,現行治療にバルサルタンを上乗せした場合の心血管イベント予防効果をバル サルタン以外の降圧薬と比較したところ,一次エンドポイントである心血管疾患による入院および死亡の複合の発症はバルサルタン上乗せ群の方が 有意に少なかったと主張している.
しかし,それはペテンである.なぜか?まず,最も大切な主要評価指標 (Primary Endpoint)の評価が盲検ではなく,PROBE(prospective randomized open-labeled blinded study)法である.PROBE法では,自分がどの薬を飲んでいるか,患者も医者も知っている.その結果,どんなことが起こるかは,みなさんよくご存知 の通り.バルサルタン群の患者は,自分は,あの素晴らしいお薬を飲んでいるから大丈夫と思い,非バルサルタン群の患者はあの素晴らしいお薬を 飲めない自分はどんな怖い病気になるかもしれないと恐怖におののき,救急外来を受診する.
非バルサルタン群患者A ”先生,どうも昨日から,だるくて”
治験医師X ”大丈夫,ただの風邪ですよ”
患者A”でも先生,熱もないんですよ.なのにだるいっていうのは,あのお薬を飲んでいないんで,心臓が悪くなったんじゃないかって,心配なん
です”
医師X”大丈夫,心電図とっても異状ないし”
患者A”でも先生,だるいのは,脳の血管が詰まってるなんてこと,ないでしょうね.昨年,母親がくも膜下出血で倒れた時も,はじめは風邪の頭
痛だって言われていたんですよ”
医師X(参ったなあ.脳卒中見逃したら訴えられるし,でもいますぐMRI撮れないし・・・)”そんなに心配なら,どうします.1−2日入院し
て検査してみますか?”
患者A”ええ,先生,是非お願いします”
こんなもんが”臨床試験”とは片腹痛い.それとも,この会話にみられるよう な”実地臨床”を反映しているからこそ,PROBE法が有効とでも言うのだろうか?だったら,PROBE法なんて無理してかっこつけないで, まるきりのオープン試験の法がずっといいだろう.後述のように,ランセットはprimary endpointのすり替えさえ許容してくれるのだから,オープン試験だってOKと言ってくれるだろうよ.
PROBEでは,医者の介入ではない,検査値のような客観的指標をエンドポイントに採用しなくてはならない(それでも患者側の受診行動に対 するバイアスは排除できないのだが,とりあえず)のに,このJIKEI Studyの悪質なところは,入院という,医者の判断そのものをエンドポイントにしてしまっている点にある.それだけでも,このJIKEI Studyは,臨床試験として三流の価値しかないと考えられるのに,さらに,Primary Endpointの変更という,常軌を逸したプロトコール修正が途中で行なわれている.
つまり,当初の試験計画(Cardiovasc Drugs Ther 2004; 18: 305-309)では,primary endpointを”心血管疾患の発症”としていたのに,いつのまにか(!!),”心血管疾患による入院”にすりかえられていたのである.さすがに後ろめ たいと見えて,その変更理由の説明はどこにも書いてない.
主要評価指標を試験開始後に変更すること自体、詐欺を通り越して喜劇である。なぜか?それは、小学生さえだませないから,詐欺として成り立 たないのである.
2007年プロ野球日本選手権,第一戦のスコアボードをご覧いただきたい。そ う,3-1でファイターズの勝ちだ。どんなにドラゴンズを愛している小学生でも、ドラゴンズが4安打でファイターズが2安打だから、4-2で ドラゴンズの勝ちとは絶対に言わない。
だから、どんなにバルサルタンを愛していても、「一体、この薬は何に効くのか?」という、検証仮説の根幹を成すエンドポイントを、試験の途 中で変えてはいけないことは、小学生にだってわかる。
だから,試験の途中でのprimary
endpoint変更は,小学生にも理解できる喜劇なのだ.しかも,変更の方向が盲検性を保つ方向ではなく,逆に破れる方向となっている点に至っては,尻
を拭かずにトイレから出てくるような行為で,ギャグネタにさえもならない.
(なお、お時間の余裕のある方は、2006
年の第三戦もご覧あれ。)
この論文の最大の功績は,primary endpointを試験の途中ですり替えるという,前代未聞の裏技をランセットが見逃してくれることを証明した点にある.で は,なぜこんな恥さらしな論文をランセットが掲載したのかという素朴な疑問については→こ ちら
かつては,http://www.jikeiheart.jp/なるページは,たくさんの偉い先生方のありがたいコメントで満ち溢れていた
のだが,いつのまにか雲散霧消してしまって,2008年9月現在,このページは,「肛門科情報局」のページとなっていた。でも,一旦ネットに
出たら,もう逃げられないんだよ.ネタは上がってい
るんだぜ. 頭か くして尻隠さず という洒落のつもりなのだろうか.
Veronica Yank, Drummond Rennie and Lisa A Bero. Financial ties and concordance between results and conclusions in meta-analyses: retrospective cohort study. BMJ 2007;335;1202-1205
2004年12月までに発表された降圧剤に関する124のメタアナリシスについて、対象となった降圧剤とスポンサーと、結果と、結論の関連
性を検討した。その結果、124のうち、49,実に40%が、単一のスポンサーと金銭的なつながりがあった。結果そのものに対してはスポン
サーの影響はみられなかったが(当たり前だろ)(odds ratio 1.16, 95% confidence interval
1.07 to 1.27).、当該医薬品そのものに有利な結論は、スポンサーの影響が大であった。(odds ratio 4.09,
95% confidence interval 1.30 to 12.83 交絡因子調整後 5.11, 1.54 to
16.92).
関節リウマチの特に早期で,早期から生物製剤を使えと断定的に言う御仁もいるようだが,インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブと いった抗TNF作用を持った生物製剤とdisease-modifying antirheumatic drugs DMARDs (methotrexate, leflunomide, and sulfasalazine) をどう使い分ければいいのかはよくわかっていない.ではどちらがいいのかを検討した下記のsystematic reviewでもはっきりした結論は出なかった.つまり,どちらの単独療法がいいのかもわからないし,併用療法が単独療法よりも有効性が高い ことは明らかだが,ではどのような併用療法がいいのかもわからなかった.でもわからないことがわかったというのは大変大きな収穫だ.
やはり気になる自分の国のことですが、Table
2に数字が載っています。そこには米国の他,オーストラリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツと日本が載ってい
ます。ざっと眺めると
○日本は平均余命最長、乳児死亡率と肥満率は最低
○国民1人当たり医療費はやはり最低
○医師数は、最低(2/1000人)だが、米国がそれほど多いわけではない(2.4/1000人):(統計の取り方の難しさは本文にあり)
○喫煙率は日本が最高(26.3)になっているが、ダントツというわけではなく、デンマーク26 フランス23
ドイツ24.3と高い国もある。
○Generalistの割合のデータは日本とベルギーで欠けている
○1人当たりの薬剤費は米国がやたらと多い(日本の2倍近く)カナダ、ドイツも日本より多い
○総医療費に占める薬剤費の割合は19%とトップ(注:でも1人当たり医療費が最低ということを考慮に入れる必要があると思いました)
3053人のカナダ人を対象にしたRCT。介入の差は,自身の冠動脈疾患のリスクを評価したレターサイズの紙一枚。その他の治療はスタチン などの薬物治療を含めて全く同じ。つまり、”紙の上乗せ効果”。紙を渡された群のLDL低下が51.2 mg/dL 、渡されなかった群の低下が48.0 mg/dL でその差は-3.3 mg/dL; 95% confidence interval [CI], -5.4 to -1.1 mg/dL 。ほんの少しだけど、それでも有意な低下。
この試験は,我々のふだんやっていること,つまり患者さんとの対話に非常にポジティブなメッセージを与えてくれる.患者さんの脂質プロ フィールと冠疾患を説明した紙一枚と,処方箋の紙一枚とでは決定的に違う.前者の紙には,何年にもわたる現場おでの我々の悪戦苦闘が凝縮され ているが,後者は中学生でも書ける紙切れだ.だから同じ3000人を使った試験でも,処方箋の有効性を示した試験と,説明文書の有効性を示し た試験では,有り難みが全然違うんだ.
おまけにこいつはRCTだ.RCTでさえ有効性が示せたのだから,目の前の大切な患者さんに我々が説明する時の有効性のパワーは,RCTで
示されたパワーより桁違いに大きいことを我々は知っている.ここが薬と,職業人のskillの決定的に違うところなんだ.だから我々の苦労は
伊達じゃないんだし,大切にされるだけの価値があるんだ.どうだい,論文一つで,自己評価を高くできるだろ.というか,自分が普段やっている
ことの本来の意義を確認したってことに過ぎないんだぜ.”認知の歪みを正す”っていうと,特殊技能のように聞こえてしまうけど,そういうこと
なんだよ.
コメント:日本では、単位人口当たりのCT,MRI台数が、OECD平均の7倍ある(OECD Health Data)。ここで引用されているのは次のNEJMの総説だ
CURRENT CONCEPTS CT Scans: An Increasing Source of Radiation
Exposure. NEJM 2007;357:2277
CT スキャン:増加する放射線曝露の原因
コンピュータ断層撮影(CT)検査の施行数が急激に増加している.CT スキャンは単純 X
線撮影よりもはるかに放射線量が多いため,一般集団での放射線曝露が著しく増加していると考えられる.疫学研究では,2?3 回の CT
スキャンによる放射線量でも,とくに小児において,検出可能なほどの癌のリスク増加にいたることが示唆さ
れている.この論文では,この被曝形態と公衆衛生への影響に関する事実を簡潔に述べている.必要性に疑問のあるCTと、defensive
medicineの悪影響は合衆国でも問題視されている。まして況やわが国に於いておや。studies have questioned
its use in specific situations, such as blunt trauma, seizures,
chronic headaches and for diagnosing acute appendicitis in
children.Particularly worrisome, the authors noted, is the use of
CT scans as part of defensive medicine or repeated scans due to
lack of communication throughout the medical system.
日本における診断機器による被爆線量の高さはすでに2004年に、ランセットで指摘されている
Lancet. 2004 Jan
31;363(9406):345-51.In 13 other developed countries,
estimates of the attributable risk ranged from 0.6% to 1.8%,
whereas in Japan, which had the highest estimated annual exposure
frequency in the world, it was more than 3%.
Early Treatment with Prednisolone or Acyclovir in Bell's Palsy. N Engl J Med 2007; 357 : 1598 - 607
デザインは、プレドニゾロン(50mg/day=25mgx2/day)、アシクロビル(2000mg/day=400mgx5/day) のそれぞれ単独、併用群、両方のプラセボの4群間並行RCTで、被験者数の点でも充分なパワーがある。治療期間は10日間、観察期間は9ヶ月 で、プレドニゾロン単独でよく、アシクロビルを重ねても、有効性の上乗せ効果は見られなかった。また、アシクロビル単独はプラセボと有意差が なかったという結果だ。(ちなみに上記用量については,要約には記載がなく,full paperを見て初めてわかる)
方法は健全で、結果も悩ましいものではない。しかし、プレドニゾロンの用法・用量についての疑問が解決しないと、この論文の結果を明日から そのまま使えない。以下は私の素朴な疑問に対し,皿谷 健先生と菅野圭一先生にご教示いただいた回答である.
疑問:50mg/dayを外来で10日間の問題:通常、Bell麻痺で来院する患者は、特に重篤の基礎疾患を持ってはいません。となると、 50mg/dayを外来で投与するか?それとも、この試験が英国(スコットランド)で行われたことを考慮し、彼我の体重差を考慮して40mg /dayあるいはそれ以下にするか?
答え:50mg/dayを外来で投与する時の気持ちの悪さの原因は何だろうか?消化管出血?それならご心配には及ばない.プレドニゾロン単 独ならば,消化管出血のリスクは高くならない.ただし,NSAIDsとの併用ではリスクが2-4倍と格段に上昇するので要注意.
Messer J; Reitman D; Sacks HS; Smith H Jr; Chalmers TC. Association of adrenocorticosteroid therapy and peptic-ulcer disease. N Engl J Med 1983 Jul 7;309(1):21-4.
Piper JM; Ray WA; Daugherty JR; Griffin MR. Corticosteroid use and peptic ulcer disease: role of nonsteroidal anti-inflammatory drugs. Ann Intern Med 1991 May 1;114(9):735-40.
ステロイド単独では非使用に比べ消化性潰瘍のリスクは1.1から1.5倍(有意差なし)とのことでした。
そして、ステロイドにNSAIDSを併用した場合は、どちらも併用していない場合に比べ、
上部消化管出血のリスクは4倍になるとのことでした。
Gabriel SE; Jaakkimainen L; Bombardier C. Risk for serious
gastrointestinal complications related to use of nonsteroidal
anti-inflammatory drugs. A meta-analysis. Ann Intern Med 1991 Nov
15;115(10):787-96.
ステロイドにNSAIDSを併用した場合は、NSAIDS単独に比べ上部消化管出血のリスクは2になるとのことでした。
steroid phychosisは,40mg/day以上は要注意.多くは最初の1週目に生じ、90%は6週以内に
[Mayo Clin Proc 2006;81:1361-1367]Dosage is the most important
risk factor for the development of adverse effects, with patients
receiving less than 40mg/d at minimal risk, those taking 40 to
80mg/d at moderate risk, and patients receiving more than 80mg/d
at high risk.
疑問:この論文では,50mg/dayを25mgx2/dayと表現している.これは朝、夕の投与を意味するのでしょうか?ステロイドは朝
1回ないし朝昼2回の投与とし、夕の投与を避けるのは、日本独特の風習なのでしょうか?こ
の風習にはエビデンスはなくて習慣的なものなのでしょうか?
できることなら朝1回投与が良い分2にするなら起床時と夕方5時頃とする。朝は2/3を夜は1/3に相当する量が良いこれはACTH surgeを妨げないため(Adrenal Insufficiency JAMA 2005;294:2481-2488)
(質問ではなく、参考情報)アシクロビルは先発品がめちゃくちゃ高くて、後
発品の3-4倍以上する。
降圧剤などと違って、長期間、同じ薬を使うわけではないので、こういう場合は後発品を使いたくなる。
Effectiveness of Atypical Antipsychotic Drugs in Patients with
Alzheimer's Disease. N Engl J Med 2006; 355 : 1525 - 38
こちらは2006年の論文だ.臨床全般印象尺度(CGIC)で少なくとも最小限の改善が認められた患者の割合は,オランザピン群の
32%,クエチアピン群の 26%,リスペリドン群の 29%,プラセボ群の
21%と,有意差が認められなかった(P=0.22).有効でないなら、わざわざ脳卒中のリスクを冒す価値がないということだ
Changes in child exposure to environmental tobacco smoke(CHETS)
study after implementation of smoke-free legislation in Scotland:
national cross sectional survey
公衆施設での全面禁煙で、家庭での喫煙増加→子供達の受動喫煙が増えることが懸念されたが、受動喫煙は減少していた(唾液中のニコチンを指標
とした)とのことです。
なお,2007年10月現在,下 記のニュースは論文にはなっていないようだ.
”スコットランドで,公共の場での全面禁煙が施行されてから最初の1年間で心臓発作のため入院する人が17%も減少した.全面禁煙は昨年3 月に実施されたが、導入前の10年間は心臓発作で入院する患者数が年平均3%ずつ減少していたが、導入後の1年間で一気に17%に上昇したと いう。スコットランド医療当局の研究者は「喫煙者だけでなく、受動喫煙を強いられてきた人の健康状態が改善した」と分析している。
静脈血栓塞栓症に対するイドラパリナックスと標準療法の比較(N Engl J Med 2007; 357 : 1094 - 104)
Idraparinux versus Standard Therapy for Venous Thromboembolic
Disease
イドラパリナックスと標準療法(ヘパリン+ワーファリン)の比較.深部静脈血栓症患者 2,904 例と肺塞栓症患者 2,215
例を対象に,2 つの無作為化非盲検非劣性試験.主要評価項目は3
ヵ月間における症候性静脈血栓塞栓症(致死的または非致死的)の再発率.肝心の結果はというと,深部静脈血栓症患者対象の試験では,実薬に対
して非劣性を満たしたけれども,肺塞栓症患者対象の試験では負けた!非盲検で負けたっちゅうのは,相当なもんだぜ.
同じ号にもう一つイドラパリナックスの試験が載っている.
静脈血栓塞栓症に対するイドラパリナックスの予防投与の延長(N Engl J Med 2007; 357 : 1105 - 12.)
Extended Prophylaxis of Venous Thromboembolism with Idraparinux
こちらはワーファリンを長期間(投与開始後6か月以降も)投与しなければならない患者に対してプラセボ対照試験をしたのだけれど,当然のこと
ながら,プラセボ群よりも重大な出血の発生率が高かった(3.1% 対
0.9%).この試験の結果からは,ワーファリンのさらなる延長と,イドラパリナックスへの切り替えのどちらがいいかは全くわからない.
イドラパリナックスの最大の問題点は,週一度ながらも皮下注射しなければならない点だ.ワーファリンと非劣性でしかないのに,3か月ー6ヶ 月間皮下注射ですよ.患者も医者も,だったらワーファリンにするって言うわいな.
珍妙な総説である.文章は英語で書いてあるのに、やけになじみのある論調だ.国内学会のランチョンミーティングでの提灯持ち解説を英訳した んじゃないかのかなと思って、この総説の著者を見たが、ご覧の通り日本人らしき名前ではない。提灯持ちは、グローバルってことなのだろう。そ う考えた理由をいくつか.
この総説のあちこちで、ACE-IよりもARBがいいと主張しているが,明確な根拠は示していない。たった一カ所、ACE-Iでは、血管浮 腫の副作用がある(が、ARBではそれがないから)という文章があっただけ。つまり、根拠ではなく、著者の”思い入れ”だ。この思い入れの背 景には、血管浮腫はブラジキニン産生を介したものなので、薬剤の作用点を考えると、血管浮腫はACE-Iでは起こるが、ARBでは起こらない という理論がある。でも、それは誤りだ。
現実には、(ACE-Iより頻度は少ないのかもしれないが)血管浮腫はARBでも起こっており、日本のARBの添付文書にも,重大な副作用 として明記してある.ARBでも血管浮腫が起きることは、名著、「日常診療のよろずお助けQ&A100(羊土社)」にも、はっきり書 いてある.また、これに関連して、ACE阻害薬で知られている,透 析膜AN69に関連したアナフィラキシーは、ARB服用患者でも起きることも覚えてもらいたい。ARBを服用している患者さんで も、AN69は使うべきではない。
となると、ARBは、ACE-Iより値段が高い後発品に過ぎないのでは?思う向きがあるかもしれない。それも違う。心筋梗 塞と心血管死が先発品では減るけれどもが、後発品では逆に増加するという、面白い関係にあることは、すでに紹介した。
なお,冠動脈疾患,脳卒中,心不全といったハードエンドポイントの観点から見たACE-IとARBの比較については,BPLTTC
の結果を参照されたい.これによれば,冠動脈疾患については,ACE-Iが勝り,脳卒中,心不全については差がないとされてい
る.
Blood
Pressure
Lowering Treatment Trialists’ Collaboration. Blood
pressure-dependent and independent effects of agents that
inhibit the renin-angiotensin system. J Hypertens. 2007; 25:
951-8.
新しい調査によれば,米国成人の約19%がアスピリンを定期的に服用しており,高齢者や心疾患を有する人ではより服用率が高い.(ACP
Observer
Weekly 8-28-07)
先に開発中止が報道された脳梗塞治療薬NXY-059の、問題となった二本目の第V相試験SAINT IIの結果がNEJMに出た。まずは、このネガティブな結果を公表した研究者達と掲載したNEJMに敬意を表したい。なかなかできることでは ない。
Ashfaq Shuaib et al. NXY-059 for the Treatment of Acute Ishchemic Stroke,NEJM 2007;357:562-71
今回の試験SAINT IIは、以前に行われ、NXY-059の有効性が示された第III相試験SAIINT I試験での結果を踏まえて、被験者数をより増やして、NXY-059の有効性を確認しようとしたものです。(FDAはプラセボ対照試験を2本 要求するのです)。そうしたら、今度は有効性が再現できなかった。
○主要評価項目であるmodofied Rankin
Scale(無症状から死亡までの5段階)で有意差がなかったのはもちろん、発症からの時間経過、アルテプラーゼの使用の有無、NIHSSスコアなど、い
くつかの因子で層別解析しても差がなかった。
○副次評価項目(NHISS, Barthel Index)でも差はなかった
○副作用については、これは皮肉にもSAIINT
I試験結果と同様、低カリウム血症がNXY-059群で有意に多かった。(個人的には敗血症が、プラセボで0.6%に対し実薬で1.4%と実薬群で多かっ
たのも気になるところ)
ラジカルスカベンジャーなんて、名前からして、テレビ番組に出てくる正義のヒーローみたいな名前でわくわくしたものだった。NXY-059 は、脳梗塞という、世界中でたくさんの善意の人間を倒している巨悪に立ち向かうヒーローになるはずだった。でも、現実はテレビ番組みたいにな らなかった。何の未練も残さない完敗だった。そして未来のヒーローと目された薬は表舞台から姿を消した。
でも、あなたにとって、お話しはこれでおしまいにならない。だって、なぜ、日本では、NXY-059と同じラジカルスカベンジャーであるエ
ダラボンが承認され、広く使われているのだろうか?そういう素朴な疑問を抱く人は→こちら
をお読みください
その中で当然アルテプラーゼへの言及があるが、特に日本人の治療にあたって留意していただきたいことがある。
○日本人での用量は、0.6mg/kgと、欧米の2/3の用量になっています。これは、日本人でのリスク・ベネフィットのバランスを考えた 結果です。
○承認効能・効果(いわゆる適応)は、虚血性脳血管障害急性期となっており、脳血栓と脳塞栓を区別していません。これは海外臨床試験では (その是非はともかく)この二つの病態を区別していないこと。国内臨床試験でも、対照のないopen one armとせざるを得なかったこともあって、組み入れ時に病型の鑑別はしたものの、結果の評価では区別しないデザインにしたこと(後付解析でも、脳血栓と脳 塞栓を区別して評価できるほどの十分な例数は確保できなかった)
○アルテプラーゼの有効性は、3時間以内に対象を絞り込んだNINDS試験のみで証明されており、他の、6時間以内まで対象を広げた他の試 験では、プラセボとの差を出すことにことごとく失敗していること。それだけに、3時間以内という条件はとくに厳守すべきこと。(6時間以内に 拡大しての臨床試験が欧米で進行中というのは、アルテプラーゼではなく、他のrt-PAです。くれぐれも誤解なきよう)
○アルテプラーゼの有効性は、運動機能予後の改善である。死亡率はプラセボと差がなかった。したがって、命を助けるような夢の薬ではない。 生命の危険があるような重症脳梗塞には使ってはならない。アルテプラーゼを”特効薬”として誤解している向きには、この点をとくに強調してお く必要がある。
特にアルテプラーゼを実際に使用する方は、審 査報告書の臨床部分P20以降をお読み下さい。添付文書からだけではわからない、本剤使用上の留意点が解説されています。
その他、この総説で気付いたこととして
○頸動脈狭窄に対する頸動脈雑音の感度も特異度も充分ではない。
○脳卒中急性期で歩行・移動が不可能な患者の下肢静脈血栓症予防のために,(未分画・低分子)ヘパリンの投与を進める向きもあるが,RCTは
ない.
○これまで何百もの神経保護薬が動物実験で脳虚血に有効であると言われてきたが,実際に臨床応用に至ったものは一つもない.(上記NXY-
059の記事参照)
セレコキシブが、ステントの再狭窄を軽減するというネタなのだが、ステントそのものが長期予後を改善しないと言われている上に、心臓死で話 題になった薬だけに、将来、恥の上塗りにならなければいいが というのは余計なお世話?
75才以上でもアスピリンよりワーファリンという結果です。かなりはっきり出ています。でも、こんな立派な結果が出ても、脳出血に対する医 者・家族の懸念や、後期高齢者の服薬コンプライアンスといった問題が残り、では明日からやりましょうってなわけには現実にはいかないのでしょ うね。
対象
973 patients aged 75 years or over (mean age 81.5 years, SD 4.2)
with atrial fi brillation
結果
There were 24 primary events (21 strokes, two other intracranial
haemorrhages, and one systemic embolus) in people assigned to
warfarin and 48 primary events (44 strokes, one other intracranial
haemorrhage, and three systemic emboli) in people assigned to
aspirin (yearly risk 1.8% vs 3.8%, relative risk 0.48, 95% CI
0.28-0.80,p=0.003; absolute yearly risk reduction 2%, 95% CI
0.7-3.2). Yearly risk of extracranial haemorrhage was 1.4%
(warfarin) versus 1.6% (aspirin)
英国で、GP(かかりつけ医)から専門医に対して乳がん検診目的で紹介した際の待機期間が長期化している問題に対し、1998年に英国保健 省が、緊急性のあるものについては待機期間を2週間以内にすることとおふれを出した。そのお触れの影響を、実際の待機期間、紹介例数、発見率 といったアウトカムから検証した論文である。
その結果、下記のように、お触れが意図した成果と全く逆の結果が出ていることがわかった。
○緊急だから2週間以内に診てくれという紹介例が増加し、非緊急例が減少した。
○しかし、緊急例の中で乳がんと診断される率は99年は12.8%だったのが、05年には7.7%まで低下した。逆に、非緊急例の中で乳がん
と診断される率は99年は2.5%だったのが、05年には5.3%に上昇した。
○緊急例と非緊急例を含めた全体の待機期間は2002年までは短縮していたが、それ以降延長し出して、2005年はお触れが出た当時に逆戻り
した。
日本でも、どうようのお触れが、”通知”と称してしょっちゅう出されるが、そのアウトカムを検討した研究に、とんとお目にかかったことがな いのは、私の不勉強ゆえだろうか。この論文のように、行政のお触れのアウトカムを検討した、しかもその結果が期待と反対だった研究が、一流誌 に掲載される国はなんやかや言っても羨ましい。
Health Literacy and Mortality Among Elderly Persons. Arch Intern Med. 2007;167:1503-1509.
健康に関する教養の低さは生存率に関係する
高齢で健康に関する教養の低い患者は,同年代で教養のある人と比べ,あらゆる疾患による死亡率及び心血管系死亡の危険性が高いことが,新しい研究で示され
た.前向き研究で,患者の健康に関する実際的な教養を評価し,その程度を適切,やや不十分,不十分にランク分けした.約4分の1の患者は健康
に関する教養が不十分であるとされ,そのグループでは6年間の研究期間のうちに39.4%が死亡した.それに対して,適切な教養を持つグルー
プでは18.9%が死亡したのみであった.More....
(翻訳:林正樹 ACP日本支部 ObserverWeekly 7-31-07号和訳より)
コメント:
日本人の長寿の秘密は、識字率100%、学校給食(幼少時からのすぐれた食生活)、公衆衛生インフラの整備といった要因に尽きます。それが一
方で、金にあかして、MRI,
FDG-PETを買い漁って、どんどん検査を消費する態度にもなっている(それが公共投資として雇用の確保に貢献しているのですが)。正しい
Health
Literacyは、よりバランスのとれた医療・公衆衛生資源の消費の仕方に結びつくわけですが、それには、幼稚園・小学校から教育を変える
ことが最も効率的ではないかという議論を、2007/8/4-6に行われた家庭医療学会研修医・学生部会第19回夏期セミナーの懇親会で、研
修医、学生さんとしてきました。やっぱり若い人との議論は楽しいですね。
地球環境の議論が盛んですが、長期的な視点で地球環境のことを考えられる人にとって、医療崩壊に代表される医療・公衆衛生資源の枯渇とい う、直接自分や大切な人の生命を脅かす危機を考えるのは、難しいことではありません。
初等教育を変えるというと、ひどく気の長い話のように思えるかもしれませんが、禁煙教育や地球環境の教育・知識の普及の速度を考えると、そ れほど時間がかかるとは思えません。何も文科省に掛け合ってカリキュラムを変更させる必要はなく、野球やサッカーといったスポーツ、ピアノ、 バイオリンなどのお稽古ごと、ひいては、学校の勉強でさえ、学外で盛んに学習が行われています。ピアノ、バイオリン教室にお金を払ってくれる のですから、健全に生きていくためのHealth Literacy教育に対して、なおのこと、お金を払ってくれる人々が必ずいるはずです。そして、そのHealth Literacy教育が、面白く、ためになることがわかれば、子供に親が影響され、次に親同士の地域のつながりを介して、Health Literacyがどんどん広がっていく可能性があります。
Health
Literacyとは、現在、大学医学部で教えている人間生物学とは異なるものです。具体的には次のような内容です。お医者さんとは、どういう職業か(医
師のプロフェッショナリズム)、医療経済、医療行政、メディア報道の吟味、臨床試験、医療事故・医療法制、労働安全衛生といった学問です。こ
ういった学問に共通する特徴は、
○自分や大切な人の命を余分なリスクに晒さないための知恵
○大学医学部を含めて、既存の学校では、全く〜ほとんど教えてもらえない。
ですから、Health Literacy教育の潜在的需要は極めて大きい。問題は、それを伝える人材です。上記の知識はもちろんのこと、プレゼンテーション、コミュニケーション ともに高い能力を求められる。どうやって育てていきましょうかねえ。みなさんも、考えてみて下さい。
参考:バイオリン、ピアノ、野球、サッカーには、段とか免状とかありません。書道、生け花、囲碁、将棋は免状を出す組織があって、そこに上
納金を納めて免状をもらう仕組みになっている。この違いはどこにあるんでしょうかね。また、Health Literacy
Communicator/Instructorには免状が必要でしょうかね。これも考えてみてください。
Madge R Vickers et al. Main morbidities recorded in the women’s international study of long duration oestrogen after menopause (WISDOM): a randomised controlled trial of hormone replacement therapy in postmenopausal women. BMJ 2007;335;239.
この試験は、Women's Healt Initiative (WHI)試験の結果を踏まえて予定より早く終了しました。
閉経後の50-69才の女性5692人を対象にエストロゲン単剤、エストロゲン+プロゲステロン合剤、プラセボのRCTを行ったものです。プ
ラセボと合剤を比較すると、心血管死と静脈血栓塞栓症は有意に増加していましたが、乳がん、脳血管障害、骨折は増加していなかったとの結論の
ようです。
医者が真っ当な睡眠時間を確保できるようになれば患者死亡率が減少するか?誰もが知りたい回答だが、簡単には得られない。以下は、ACP日 本支部に所属する認定内科専門医の皆さんの訳である。
レジデントの労働時間規制に関連した院内死亡率の変化
Kanaka D. Shetty and Jayanta Bhattacharya. Changes in Hospital
Mortality Associated with Residency Work-Hour Regulations. Ann
Intern Med 2007;147:73-80
卒後医学教育認定評議会(Accreditation Council on Graduate Medical
Education)が定めたレジデントの労働時間規制によって生じた健康への影響はほと
んど知られていない.ShettyとBhattacharyaは,米国551施設で内科的診断のなされ
た1,268,738名の患者と243,207名の外科的診断のなされた患者の労働時間規制前後で
の院内死亡率を調査した.内科的診断のなされた患者の死亡率は―外科の患者はそう
ではなかったが―労働時間規制のなされた教育施設において非教育病院に比して規制
後に減少した.
(翻訳:櫻井政寿)
勤務時間規制がもたらす内科入院患者のアウトカムの変化
Leora I. Horwitz, Mikhail Kosiborod, Zhenqiu Lin, and Harlan M.
KrumholzChanges in Outcomes for Internal Medicine Inpatients after
Work-Hour Regulations. Ann Intern Med 2007;147:97-103
今までの研究では,レジデントの勤務時間規制の影響については一定の成績が得られ
ていない.Horwitzらは,ある一つの病院において,勤務時間規制の実施前後で教育
担当の病棟医もしくは教育に関与しない勤務医により入院診療を受けた患者の7つの
臨床的なアウトカムについて比較した.集中治療室の利用率,退院またはリハビリ施
設への転院,薬剤師の介入の必要性などは教育担当医によって入院加療した患者にお
いて通常の勤務煮により加療された患者に比してより好ましい方向に向かった.しか
しながら,今までの本課題の観察的な研究と同様に,本研究から因果関係を強く結論
づけるのは難しい.
(翻訳:吉田 博)
Oparil S et al. Efficacy and safety of combined use of aliskiren and valsartan in patients with hypertension: a randomised, double-blind trial. Lancet. 2007 Jul 21; 370(9583): 221-9.
この論文で著者らが言いたいのは、レニン阻害という新規(?)機序の降圧薬、アリスキレンとバルサルタンを併用したところ、それぞれの単剤 よりも血圧が下がったということらしい。しかしそれがどうしたというのだろうか?降圧薬を併用すれば単剤よりも血圧が下がるのは当たり前では ないのか?そう、当たり前なのだ。だから、著者らが何と言おうと、そんなことはどうでもよろしい。
そんな当たり前のことよりも、もっと面白いことが、この論文のデータから簡単にわかる。新規降圧剤であるはずのアリスキレンなる薬と、既存 のバルサルタンの有効性と安全性が全く変わらないということだ。アリスキレンはバルサルタンの新ゾロに過ぎないことを、この論文は如実に示し ている。屋上奥を重ねるような降圧剤なんて、もう要らない。
新ゾロ承認でいつも攻撃されているPMDAも、FDAだってやっているじゃないか 格好の反論材料ができたわけだ。
○ARBとレニン阻害という類似作用機序の薬の併用は、ARBと降圧利尿薬というような、作用機序の異なる降圧剤で、副作用のリスクを低減 して有効性を得るという降圧治療の基本戦略に反している。
○このため、高カリウム血症や腎機能障害といった重篤な副作用のリスクが高くなっている。具体的には、カリウム5.5meq/Lの割合が、 アリスキレン、バルサルタン単剤群では、それぞれ7/432=2%, 7/455=2%だったのに比して、併用群では18/446=4%になっている。相対危険度が2倍になっているのに、著者らは、副作用の時に 限って、統計学的に有意差はなかったとすっとぼけたことを言ってやがる。有効性の一割り増しを有意に検出するために必死になって大規模試験を やる連中の言える台詞じゃないって。クレアチニンの上昇に関しても、アリスキレン、バルサルタン単剤群では、それぞれ0.2, 0.4%なのに対し、併用群では0.9%と、これも相対危険度がぐんと上がっている。
○日本人ではバルサルタンの通常用量が40-80mg、最高用量が160mgなのに対し、本研究では、開始用量が160mgで、4週間後に 320mg/日へ強制増量するデザインになっているので、この研究結果は日本人には当てはまらない。
こんなくだらない論文がfast trackで載るような雑誌の品格を、みなさんはどうお考えになるだろうか。
Torcetrapib and carotid intima-media thickness in mixed dyslipidaemia (RADIANCE 2 study): a randomised, double-blind trial. Lancet 2007; 370: 153-60
2006年12月に入って間もなく、HDLコレステロールを上げるファイザーのTorcetrapibが、血圧を上げる→心血管系の副作用 への懸念で開発中止になった。しかし、一方では頸動脈の内膜の厚さを有効性評価指標にした試験が行われていた。この論文はその結果報告であ る。。
アトルバスタチン単剤に比べて、併用群ではHDLコレステロールが上がったばかりでなく、LDLも、単剤よりも低下し、TGも下がったとい う、脂質プロフィールの検査データ上は理想的な変化が起こった。それにもかかわらず、頸動脈の内膜肥厚は2年たっても、アトルバスタチン単剤 に比べて全く差がなかった。(両群ともベースラインに比べてやや増加:アトルバスタチン単剤でも内膜は徐々に肥厚するんですね)。もちろん併 用群では血圧はしっかり上昇していた。収縮期圧で6.6mgです。降圧剤の試験でもこんなはっきり群間差が出ることは珍しいんじゃないでしょ うか?
HDLコレステロールの上昇が、心血管系のイベント抑制につながるエビデンスはいまだにありません。これがその嚆矢になると当初は期待され ていたはずなのですが、とんだ結果になりました。
HDLコレステロールを上げる薬は多くの企業が開発中です。その中には、血圧を上げる作用がないものもありますが、今回の結果を受けて、ど
うするのでしょうね。大きな船ほど方向転換に時間がかかるのと同じようにやっぱりそのまま開発を続けるのかな?
Knopp RH, d’Emden M, Smilde JG, Pocock SJ. Diabetes Care. 2006;29:1478-85.Atorvastatin did not prevent cardiovascular events in type 2 diabetes.
2型糖尿病患者においてatorvastatin投与群とプラセボ投与群では主要複合エンドポイントまたは致死的,非致死的心筋梗塞に差は なかった.二次的評価項目,副作用発現率においても差はなかった.
池田注:こういう大切なネガティブデータは誰も読めないジャーナルにこっそり出すんだからというのはあまのじゃく池田ならではの見解か。あ まのじゃくでなければ、用量を日本の標準用量である10mgとしたから差が出なかっただけであって、80mgにしておけばということなのだろ うが、言い換えれば、それだけ用量を上げなければ有効性が出せないということ。世界で一番売れている薬にしてこの程度のパワーしかないのが悲 しいところ。
Review: Antioxidant supplements for primary and secondary
prevention
do not decrease mortality. ACP Journal Club 2007;147:4
活性酸素、フリーラジカルといった、老化の元凶を消し去る、”抗酸化サプリ”は、”アンチエイジング”(なんのこっちゃ?)の花形選手とし てもてはやらされている。ところが、ビタミンA, C, E, βカロテン、セレンといった抗酸化サプリには、死亡率を低下させるエビデンスは全くない。それどころか、ビタミンA, E, βカロテンは死亡率を上昇させることが明らかとなっていることは、これまで度々本欄でも繰り返し取り上げてきた。興味深いのは、方法論的に頑健な研究ほ ど、この死亡率の上昇を明確に示している点だ。ACP Journal ClubのCommentaryには次のようにある。
本研究の結果を踏まえ、この種のサプリを愛用している人間の数を考えると、これまで多くの医師が無害あるいは体にいいと考えてきた抗酸化サ プリのために、毎年数千人が死んでいる可能性がある。ビタミンや抗酸化サプリが、天然、自然のものだから体にいいとの考えは明らかに誤ってい る。この研究をきっかけにして、医療者は、このような誤りを正していかねばならない。
Given the number of persons exposed to these agents, this review
suggests that several thousand deaths each year may result from
use of ASs, which have hitherto been considered by many physicians
to be benign or even beneficial compounds. The public perception
that vitamins and other antioxidants have favorable health effects
because they are “natural” rather than pharmacologic is clearly
wrong and in light of this review must be corrected by clinicians
and other health advocates.
オーストラリアと(多分)ニュージーランドは本家英国よりも国民皆保険制度がまだしっかり保たれているだろう。一方、合衆国はご存じのよう
に国民皆保険制度ではなく、無保険者が6人から7人に一人が無保険者という状態である。このように保険制度が全く異なる国の間で、診療実態は
どう違ってくるのだろうか?誰もが興味を持つ問題を、この論文は提示してくれた。結論は、受診回数、診療時間など大きく異なる部分もあるが、
プライマリケアを受診する患者の疾患群など、共通する部分もたくさんあるということ。
さて、日本と比較したらどうなのだろう。診療所受診の患者調査など、データはあるはずなので、誰かまとめてくれないかな。
我が国では、何でもかんでも早期教育を進める向きがあるが、そういう人々は心肺蘇生術を教えるのが適当なのは、小学校・中学校何年生からで しょうか?という質問にはどう答えるのだろうか?そもそも、その”適当”というのは何を基準に決めればいいのだろうか?ただの観察研究だが、 こういう論文がfull paperになるBMJって、やっぱり見逃せない。
女性は、特に外来では、のどの奥から痰を吐き出すような、はしたない真似ができないので、喀痰鏡検陽性率が低くなるのではないかとの仮説を 立てて、採痰の方法を丁寧に説明するという介入によって見事に立証し、公衆衛生に貢献したパキスタンの研究です。やっぱり行動科学は21世紀 の臨床の柱ですな。
Aspirin and the Risk of Colorectal Cancer in Relation to the Expression of COX-2. N Engl J Med 2007;356:2131-2142
Effect of aspirin on long-term risk of colorectal cancer: consistent evidence from randomised and observational studies. Lancet 2007; 369:1603-1613
NEJMの方は、1976年からのThe Nurse Health Studyに参加した女性82911例と、1986年からのThe Health Professionals Follow-up Studyに参加した 47,363 例の男性を対象にした追跡調査期間中に発生した大腸癌のうち, COX-2 発現の判定が可能であった636 例を検討したところ、アスピリンの常用により,COX-2 を過剰発現する大腸癌のリスクは低下するが,COX-2 発現の弱いまたは認められない大腸癌のリスクは低下しないとの結論が得られたとのこと。
この論文を読んで私が抱いた疑問は次の通りである。COX-2発現の有無・程度は、個人により決まっているのでだろうか?ある人から同時 に、あるいは経時的に複数のポリープを取って、あるポリープではCOX2は発現しているけれど、別のポリープでは発現していないとか? こう いう疑問を抱くのは、この結果を知った医者は、COX-2が発現している大腸ポリープの持ち主には、年余にわたるアスピリンの持続服用を強く 勧めるが、発現していないポリープの持ち主には、勧めない といった行動に走る可能性があるからだ。もしも、COX-2が発現が個人の中でも 一定していないのであれば、せっかくの親切心も無意味になる。
また,上記NEJMの論文で、データを解釈する時に,薬剤曝露の程度として分母に使われているperson-yearには注意が必要だ.な ぜなら,下記ランセットの論文でも明らかなように,大腸癌発生にせよ,アスピリンの効果にせよ、5年、10年という”敷居”があるからだ.つ まり,時間経過によるイベントの発生曲線が,なめらかな坂ではなく,明瞭な段差ができてしまっている.だから,100人x1年間=10人 x10年間とはならない。 分子が小さいし、薬剤曝露を何らかの単位で分母を共通にして比較しなければならないので、やむ を得ないところがあるだが、person-yearにはこのような限界があることを踏まえてデータを解釈すべきだろう。
こんなことを言うのは、それこそCOX-2阻害薬による大腸癌抑制の試験で判明 した心血管死の増加のパターンの苦い経験があるからだ。服用後1年を過ぎ てからようやくカプランマイヤーの差が開き始め、それから徐々に拡大してい った。つまり2000人x1年≠1000人x2年だったのだ。
本論に戻ろう.アスピリンによる大腸癌抑制では、用量と服用期間が問題だ。何ミリグラムを何年飲んで、何年後に有効性が現れてくるのか?こ の問いに答えようとしたのが、ランセットの論文である。
300mg以上を5年間飲んで、プラセボと差がついてくるのがその5年後、つまりアスピリンを飲み始めてから10年後だそうな。アスピリン で大腸癌リスク低減というと、脳梗塞や虚血性心疾患でのアスピリン長期投与についてくる”うれしいおまけ”と考えたいところだが、そうは問屋 が卸さず、現在主流の81mgないし100mgの投与では、有効性が検証されていないようだ。かといって、COX-2陽性の大腸ポリープはあ るけれども、脳も心臓も丈夫な人に、胃から、あるいは脳から血が出るリスクを覚悟で、アスピリン300mgを5年間飲むようにお勧めできるだ ろうか?
上記論文のいずれもが、70年代から80年代にかけて行われた、アスピリンによる虚血性心疾患あるいは脳虚血予防の大規模試験参加者のフォ ローアップをきちんとやって結果を出している点には頭が下がる。なお、この頃の欧州・米国では、300-1000mg程度の中用量が主流で、 100mg前後の低用量が大規模試験の主流となるのはそれ以降だ。
100mg前後の低用量の癌予防効果については、45歳以上の健康な女性を対象にしたWomen's Health Study
WHSでは、否定的な結果が出ている。
Low-dose aspirin did not prevent cancer in healthy women. ACP
Journal Club. 2006 Jan-Feb;144:8.
Cook
NR,
Lee IM, Gaziano JM, et al. Low-dose aspirin in the primary
prevention of cancer: the Women's Health Study: a randomized
controlled trial. JAMA. 2005;294:47-55. [PubMed ID: 15998890]
まるきりの余談になるが、アスピリンやクロピドグレルといった抗血小板薬による動脈硬化性疾患予防の大規模試験の論文を読む場合、
○一次予防か二次予防か?
○二次予防なら、投与時期が急性期からなのか、あるいは慢性期か?
○動脈硬化性疾患のうちでも、エンドポイントに設定したのが、心臓、脳、末梢血管疾患のいずれのイベントなのか、あるいはこれらの複合エンド
ポイントなのか?
○用量は?
を必ずチェックするように。これらの点をすべてごちゃごちゃにして論じるナイーブな人があまりにも多いために、いろいろなところで余計な手間
がかかっている。
その後、高次機能障害については、より長い期間(3年間)、北米と違って、葉酸の積極的な摂取が行われていないスイスで、ホモシステインが 特に高い集団に対して介入が行われ、葉酸投与が高次機能の低下を防ぐ結果が示された(Lancet. 2007;369:208-16)、限定された集団を対象に、プラセボと比較して有意な変化ながらも、効果そのものはあまり大きくなかったの で、一般化可能性が問題視されている。(ACP Journal Club 2007;146:71)
一方、脳梗塞について、メタアナリシスの結果(Lancet 2007;369:1876-82)、相対リスク0.82と、プラセボに対して18%減少させ、3年以上の長期間にわたって、脳梗塞の既往がない例、 20%以上のホモシステイン濃度の減少といった要素が、より明確な有効性と関係したとされている。
噂の溶けるステントの臨床試験結果がランセット最新号に出ています。
Temporary scaffolding of coronary arteries with bioabsorbable
magnesium stents: a prospective,non-randomised multicentre trial.
Lancet 2007; 369: 1869-75
人工物を長く入れておくことが血管内皮を障害して晩期血栓症とか血小板凝集能阻害薬の長期(永遠?)に飲まなくてはいけないが、それなら溶け
て無くなってしまうものを入れたらいいだろうって発想ですよね。
今回は63人の初発患者で、head to headではなく、open one armで、とびきりおかしなことが起こらないことを検討するための探索的意味合いが強いようです。血管造影を4ヶ月後、フォローアップは6ヶ月、12ヶ月 で、4ヶ月後にはステントはほとんど消失。この間、心筋梗塞、亜急性・晩期血栓症、死亡は起こらなかったってことで、従来品と比べて見劣りす るようなことはなかったっていうのが、さしあたっての結論で、品物の価値を見極めるのはこれからが正念場というところでしょうか。
もし、”抗血小板剤を長期間飲まないで済む夢のステント”なんてものができたら、抗血小板剤市場ってどうなるんでしょうね。歴史的に見る と、外科的介入と医薬品の開発が相互に与える影響の例として、抗結核薬が結核の手術を不要にした、H2ブロッカーの出現が胃の手術を激減させ た例があります。抗血小板剤のような全身投与リスクの高い薬を長期に渡って飲み続けるリスクは抗結核薬やH2ブロッカーのリスクの比ではあり ませんから、このような夢のステントの開発のインパクトは絶大でしょう。
と思って、Circulationの原著に当たって、末尾のConflicts of
Interestsを見ると、やっぱり、著者はスタチンの会社からしっかり研究費をもらっているんだよね。今時、Circulationに総説を書くほど
の大物がどこの製薬会社からも研究費をもらっていない方がおかしい。製薬会社から研究費を貰っている人を除外したら、総説を書ける人がいなく
なっちゃうじゃないか という開き直りなんだろうが、開き直っても眉の唾は取れないよ。
Johnston SC, Rothwell PM, Nguyen-Huynh MN, et al. Validation and
refinement of scores to predict very early stroke risk after
transient ischaemic attack. Lancet. 2007;369:283-92. [PubMed ID:
17258668]
TIAから脳梗塞進展のリスク評価スコアとしては、有名なものが二つある。
一つはCalifornia Score(JAMA 2000;284:2901-6)で、
年齢60歳以上
糖尿病
発作持続時間10分以上
四肢の脱力
構音障害
以上の5点で、それぞれがあれば1点ずつで、最低0点-最高5点のスコア
もう一つはABCDスコア(Lancet2005;366:29)で、
A:Age(60歳以上で1点)
B:Blood pressure(収縮期圧140以上か拡張期圧90以上で1点)
C:Clinical factors(片麻痺で2点、構音障害のみで1点)
D:Duration(60分以上で2点、10分から59分で1点、10分未満は0点)
以上の二つのスコアで、どちらがいいか比較したところ、明確な差はなく、どちらも同じように役だったが、ABCDスコアにカリフォルニアス
コアにあって、ABCDスコアになかった糖尿病を加えた改良型ABCDスコア(ABCD2:ABCDスコアに、糖尿病があれば1点を加える)
が、よりよいことがわかった。
口が開きにくいという変わった訴えに出会った時は外傷の有無にかかわらず破傷風を疑うような、腕のいいあなたにこそ、是非知っておいてもら いたい。破傷風の診断に飛びかかる前に、薬剤服用歴を今一度チェックしてもらいたいのだ。薬剤誘発性のジストニア(特殊な錐体外路症状)の可 能性はないか?
そんな教訓を与えてくれたのBMJの症例報告は 次の通りだ。4週間前にケニヤ旅行から帰国した28歳の女性が、頚部と顔面の筋肉の硬直を主訴に救急外来を受診した。しかるべき予防接種と抗 マラリア薬の予防投与は受けていたが、破傷風の予防接種歴に関して、本人はわからないとのことだった(前年に破傷風トキソイドのブースター接 種を受けていたことが後にかかりつけ医に照会してはじめてわかった)。破傷風との診断のもとに、臨戦態勢に入ったが、ジアゼパム、テタノグロ ブリンの投与が行われたが、症状は1-2時間してすっかり消えてしまった。翌日、改めて薬剤歴を聞き直してみると、かかりつけ医で、繰り返す 吐き気に対して、メトクロプラミド(プリンペラン)が投与されていたことが判明し、薬剤性の急性ジストニアと診断した。
メトクロプラミドによる急性ジストニアの頻度は、0.2%。小児、若年者、女性はリスク因子である。メトクロプラミドによる急性ジストニア の70%は女性である。1967年から82年の間に英国で報告されたメトクロプラミドによる錐体外路性副作用479例のうち、455例が急性 ジストニアであり、パーキンソン症候群はわずか20例、遅発性ジスキネジアが4例だった。(私はパーキンソン症候群の方が多いと思っていまし たので、これは勉強になりました。)
急性ジストニアの原因薬剤として、メトクロプラミドやハロペリドールを始めとする抗精神病薬のような薬剤性パーキンソニスムを起こす薬剤、 抗てんかん薬、SSRI、三環系抗うつ薬、コカインといった中枢系薬剤の他、フレカイニド(タンボコール)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)の ような抗不整脈薬でも起こることが知られている。
急性ジストニアは、破傷風の他、部分発作(てんかん)、電解質異常等と誤診される。ほとんどの場合、疑わしい薬剤の服用歴は聴取できない。
というのは、ジストニアのために発語困難だったり、本人が症状と服薬の関係に気づいていなかったり、気づいたとしても、隠したりするからだ。
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