Road to BMJ (or Road to Boston)

こんなところを読んでいる人の中には,Road to Natureは遠くになりにけりという人も多いだろう.でも,サルでも書けるBMJの著者が紹介するRoad to BMJなんて,面白そうだなと思いませんか?

池田正行.早い,安い,旨い臨床研究を目指してー意識障害の診断におけるバイタルサインの価値の研究からー。JIM 2007; 17: 121-123

このページでは,日常診療の中で,研究費ゼロ,患者負担ゼロ,倫理委員会不要,いつでも,どこでも,誰にでもできる,素晴らしい臨床研究のアイディ アを公開します.必ずしや,BMJ(時にはNature狙いのものも)に載せられる素晴らしいアイディアですが,どういうわけか誰もやりたがらなず,宝の 持ち腐れになっています.BMJでインパクトファクターを荒稼ぎしたい人,Ignobel賞をとってハーバード大学まで呼ばれたい人は,どうぞご連絡ください.→massie.ikedaあとまあくgmail.com

 「脳卒中らしくない脳卒中」の研究 道路逆送する認知症はどんなタイプなのか? 尿管結石のclinical prediction rule Introduction/Discussionの書き分け方 医学教育における笑いの質的研究 ショックバイタルの臨床的意義の研究 重症患者予知のためのお告げの研究 学校体育科目による筋ジストロフィーの鑑別診断 セガかナムコか 蹲踞試験の検証 小字症micrographia,大字症macrographiaって,本当? パーキンソン病の患者さんの体臭 自閉症の男性は背が高くて美男子が多い? 精神障害者におけるカラオケの腕前の研究


「脳卒中らしくない脳卒中」の研究
こんなところを読んでいる方々には,「脳卒中らしい脳卒中」よりも「脳卒中らしくない脳卒中」の方に興味があるだろう.では,「脳卒中らしくない脳卒中」って何でだろう?そういう素朴な疑問からこそ,素晴らしい臨床研究が生まれる.こんなことを言うのは,最近,「敗血症らしくない敗血症」に関する論文を読んだからだ.→「なんとなくおかしい」を科学する

「脳卒中らしくない脳卒中」と一口に言っても,いろいろな表現があるだろう.真っ先に思いつくのは,pure sensory stroke,やWallenberg症候群のように,既存の症候群でだろう.しかし,患者は,「私はpure sensory strokeです」「Wallenberg症候群です」と看板を掲げてやってくるわけではないから,そのような記述の仕方は実際の救急外来では何の役にも立たない.我々が投げかけられているのは,『「脳卒中らしくない脳卒中」とはどういう仮面を被ってやってくるのか?』という切実な問いかけである.その時に役立つのは「やられた!」という失敗の記憶である.成功体験はあなたを馬鹿にするだけだ.(負けに不思議の負けなし

あなたが「やられた!」というのは,例えば,「歩いてくる脳卒中=意識が清明で四肢の筋力が保たれている」だっただろう.その場合,「やられた!」というからには,最終的には脳卒中と診断されたわけだ.だとすると,最終的には脳卒中と診断された例を集めて,「やられた!」という例と「お見事!」の例の分かれ目がどこなのかを検討すれば良い.それにはいろいろな方法があると思うが,例えば次のようなものはどうだろうか?

最終的に脳卒中と診断されたケースを,ABCD2スコアを準用して層別する(Duration of symptoms(持続時間)は除く).もちろんGCS:Glasgow coma scaleも層別因子に入れておく.そうして,たとえば各患者が受診から診断確定までどのくらい時間がかかっているかを検討する.そうやって得られた診断確定までの時間と,ABCD2スコアの合計点数や各項の点数,GCSとの関係を検討することによって,
1.救急外来の医師が何を重視して脳卒中と判断するのか?
2.上記1の裏命題として,見逃されやすい脳卒中=脳卒中らしくない脳卒中とはどんなものか?
という臨床疑問に答えられる.世界に冠たる画像診断王国である我が国ならではの臨床研究である.Clinical settingの異なる複数の施設でやれば,それなりのジャーナルにきっと載せてもらえる.あとはあなたの山っ気次第.


道路逆送する認知症はどんなタイプなのか?
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認知症事件の現場から(3) 逆走の悲劇 後たたず 高速道で正面衝突 免許更新時の検査見逃しも 日本経済新聞 2015/10/2

1月7日午前0時すぎ、東京都板橋区の首都高速道路。「真っ暗だった前方に突然、ヘッドライトの光が見え、急接近してきた。よける間もなかった」。逆走し てきた軽乗用車と正面衝突した大型トラックの40代の運転手は警視庁の事情聴取にこう話した。逆走した車を運転していたのは茨城県稲敷市の男性(当時 83)。まずタクシーと接触し、その後も約2キロを逆走、トレーラーと大型トラックに正面衝突した。男性は外傷性ショックで死亡した。
 「行ってくる」。男性は1月6日、家族にこう告げて外出。夜になっても戻らず、県警に行方不明届が出された。男性は実は2013年8月ごろ、認知症を引 き起こす病気とされるアルツハイマー病と診断されていたが、買い物のため自宅周辺で運転を続けていた。なぜ自宅から約60キロ離れた板橋区を走行していた かは分かっていない。
 警察庁によると、1〜6月に全国で発生した高速道路の逆走は149件。このうち約2割の29件は運転手が認知症か、その疑いがあった。
 長野県麻績村の長野自動車道で13年8月、認知症の60代女性が運転する乗用車が逆走、大型バイクと正面衝突した事故では、バイクを運転していた男性会 社員(当時56)が死亡した。警察庁幹部は「事故を起こせば相手にも深刻な影響を与えると本人も家族も知ってほしい」と訴える。
 高齢者の交通事故の増加を受け、道路交通法が6月に改正。施行後は、75歳以上の人が免許更新時に受ける認知機能検査で、「認知症の疑いあり」と判定されれば医療機関の受診を義務付けた。認知症と判明すれば免許取り消しか停止となる。
 「きょうは何年何月何日、何曜日ですか」「さきほど見せた絵に何が描かれていたか思い出してください」。認知機能検査は30分の筆記試験で記憶力や判断力、空間把握能力などを調べる。
 しかし、脳機能障害に詳しい森悦朗東北大教授は「いまの認知機能検査は過剰に判定してしまったり、見逃してしまったりする可能性がある」と指摘する。例 えば、前頭側頭型の認知症の場合、アルツハイマー型と異なり記憶障害が表れにくく「検査ですり抜ける恐れがある」と懸念する。
 ほかの方法で運転能力を調べようという試みもある。8月、山梨県富士河口湖町の町役場に7185歳の約30人が集まり、ドライビングシミュレーターを使った運転能力診断を体験した。
 前方の車から段ボール箱が落下したとの設定で、モニター画面を見ながらハンドルを操作する。参加者の多くは段ボール箱を避けられず、フロントガラスに大 きなひびが入ったり、車道脇に衝突したりした。伊藤安海山梨大准教授は「運転中のアクセル操作などから脳の活性度、運転能力が分かる」と説明する。
 厚生労働省は認知症の人は25年に、12年の1.5倍になると推計する。伊藤准教授は「早期に認知症だと分かれば重大事故を防げる。本人にとっても治療で進行を抑える可能性が広がる」と指摘する。

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道路逆送と認知症の関係は,社会的に極めて重要な臨床研究のテーマなので,以前から気になっていたのですが,塀の中に務めるようになって2年,ようやく予備的に先行研究を検討することができました.まず知りたかったのは,「アルツハイマー型(AD)と前頭側頭型(FTLD,以前ピック病と呼ばれていたタイプ)のどちらが高速道路逆送のリスクになるのか?」でした.
●AD
の方が圧倒的に有病率が高い
●AD
が初期から地誌的失認を起こしやすい徘徊につながるのに対し、FTLDはよほど末期にならないと地誌的失認は起こさない
での徘徊が逆送と考えると,道路逆送例の中に占める割合は,ほとんどがADだろうと私は考えていたのですが,ある精神科医と雑談していた際に,「一般道で 道に迷うのはADが多いかもしれないが,高速道路逆送のような攻撃的な確信犯はFTLDだろう.ADにはそこまでの攻撃性は生じないのではないか」との見 解を披露してくれました.実際に,「その時、認知症の父は高速道路を逆走した!」のような,攻撃性の高い事例は,FTLDと考えてほぼ間違いありません.

そこで検索したところ,高知大学精神科の上村直人先生が精力的にこの分野の仕事をしていらっしゃることがわかりました.

NHKのおはよう日本での解説
(2015年2月10日(火) 午前7:00〜午前7:45(45分))では,高速道路の逆走では,FTLD,ADどちらもありうるとのことです.
一方で、FTLDの方が、交通ルールを無視する反社会的な事故を起こしやすいというデータも出していらっしゃいます.(Jpn J Rehabil Med 2013;50:87-92
また,FTLD10倍交通事故を起こしやすく、発症から事故までの期間が短いとのことです Psychogeriatrics. 2015 Mar 3. doi: 10.1111/psyg.12115

結局,有病率ではFTLDADに遠く及ばないが,その攻撃性においてADをはるかに凌駕するから,道路逆送というアウトカムではADに比肩する ということのようです.今回の予備的な先行研究だけでも新たに生まれた臨床疑問はたくさんあります.高齢者による高速道路逆送問題は,高齢化率の点から 言っても,日本が世界のトップを走れる研究テーマです.若い人が勝手に始めてくれることを期待しています.

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尿管結石のclinical prediction rule
Derivation
コホート1040 and validationコホート491人という数字を見て,「こりゃかなわない」なんて思う必要は全然ありません.というのは,このコホートにはアジア人が 5%未満,つまりvalidationコホートで23人!しか入っていないし,さらに人種が重要なリスク因子になっている(非黒人がリスクになっている が,白人とアジア人の差異については不明)から,日本でvalidationをやる意義は十分ある というか,是非ともやる必要があるのです.
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5
つの臨床所見で尿管結石を予想する採点法(スコア)ができた Biotoday 2014/3/31
5
つの臨床所見/特徴-性別、痛みの期間、人種、悪心嘔吐、血尿-に基づく非複雑性尿管結石リスク予想ルール(スコア)が開発され、その妥当性が証明され ました。入院などの患者にとって重要な転帰の改善と結びつかないCT検査なしでの治療または低用量CTでの治療が適した患者を同定し、放射線曝露や造影の 過剰使用を制限することに今回の結果は役立ちうると著者は言っています。
Derivation and validation of a clinical prediction rule for uncomplicated ureteral stone-the STONE score: retrospective and prospective observational cohort studies. BMJ 2014; 348 doi:
http://dx.doi.org/10.1136/bmj.g2191 (Published 26 March 2014)
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2191
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Introduction/Discussionの書き分け方
旭中央病院で定期的に担当している臨床研究外来(Research Questionの洗練の仕方から始まって、英文論文アクセプトまでのone-stop service)で、しばしば質問を受けるのがIntroduction/Discussionの書き分け方です。と言うと、研究を本業としている方々は不思議に思うかも知れません。なぜなら、Introduction/Discussionの書き分けは自明だからです、Introductionは研究を始める前に本来出来上がっているものであり、Discussionは反対に結果が得られないと書けないものです 一方、Discussionには研究の結果が出てからはじめて、その結果に関連して考察ができることを書きます。Discussionに書くことは本来Introductionには書けないはずです。両者は次元の違うところにあるのですから、書き分けられない方がむしろおかしいのです。

Introductionには、その研究に着手するまでのことを書きます。具体的には、なぜその研究を思い立ったのかというResearch Questionの原点から始まって、今まではここまではわかっているが、この点が明らかではない等々です。Introductionを書くにあたって、その研究が検証する仮説を明確に意識する必要があります。検証仮説も研究を始める前に立てますから、Introductionと検証仮説は密接な関係にあります。研究を始める前に検証仮説を明確にしなくてはならないのと同様に、本来ならば、研究を始める前にIntroductionも書き終えておく必要があるのです。それに、研究を始める前にIntroductionも書き終えてしまっていれば、Discussionとの書き分けに迷うことなどあり得ないはずなのです。しかし、実際にはDiscussionを含めて他の部分同様に、Introductionもデータが得られてから書き始める研究者が圧倒的に多いでしょう。ところが実はこの点に大きな落とし穴があります。

検証仮説と言うと、随分と難しいことのように聞こえますが、要は研究者の思い込みです。研究して得られたデータは、研究者の思い込みに対する審判結果です。では、得られたデータが検証仮説=研究者の思い込み に反するものだった場合、研究者はIntroductionに対してどういう行動を取るでしょうか?

もし、研究を始める前に検証仮説を明確にして、さらにIntroductionまで書き終えていれば、データを見て、思い込みを悟り、過去に思い込んでいた自分をその場で決して消去することなく、得られたデータを踏まえて、自分の思い込み=検証仮説に対して様々な方向からツッコミを入れれば、それが自然とDiscussionになり、論文が完成します。

一方、
検証仮説が不明確なまま研究を始めた場合にはどうでしょうか。検証仮説=自分の思い込みが不明確ならば、Introductionもデータが得られてから書くことになります。その場合、データを見た途端、ああ、そうだったのかと素直に納得して、研究前の自分を消去してしまいます。ところが、この研究前の自分とは、本来Introductionを研究前に書くはずだった自分です。そうなると、本来のIntroductionが書けなくなる。でも論文を書かなくてはならない、そうして自然とDiscussionに書くべき事をIntroductionに書いてしまう。Introduction/Discussionを混同してしまう事態の背景にはこういう誤った習慣があるのです。

検証仮説が不明確で、さらに、結果が得られてからしか書けないようなことがIntroductionに書き込んである論文がこうして出来上がります。査読者にはこのような論文・研究の意義は認めません。こうして論文はリジェクトの憂き目に遭うわけですが、それはひとえに研究者の責任です。

Introductionに書くべき事がわかれば、Discussion書くべき事が自然と明確になってくるはずです。Discussionを書くにあたっては、BMJの論文の小見出しは非常に参考になると思います。
http://www.bmj.com/content/347/bmj.f6954
Principal findings
:得られたデータのうち、独創性が高い主要知見と考えてください。
Comparison with other studies
Strengths
:ここは自分が一番言いたいことを書きます。データの解釈に基づく主張であって、データ自体のことは先に述べているので繰り返せない。
Limitations
:学会準備の時を思い出してください。どんな意地悪な質問が来るか。それにどう答えるかです。
上記のの説明が理解できれば、症例報告の場合も実は同じだということがわかるでしょう。

参考:論文のアウトライン(気象関係の研究者の解説ですが、どんな自然科学研究者にとっても参考になります。

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医学教育

医学教育における笑いの質的研究
文章にせよ,プレゼンにせよ,どこでどうやったら笑いが取れるか,私はいつもそこに集中する.なぜなら,笑いは,教育・学習効率性の最も強力な指標だからだ.「気分いい」が一瞬に濃縮されたもの.それが笑いだ.

読み手,あるいは聴衆が,一瞬にして自分の認知の歪みや自動思考に気づき,メッセージの真意を捉え,心から納得した時に,初めて笑いが生まれる.笑 いは自分&他人への攻撃性を消失させる.苦悩(攻撃性)を伴うメッセージは誰でも早く忘れたいが,笑いを伴うメッセージは,自然と記憶に残り,容易に再生 される.

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救命救急分野

ショックバイタルの臨床的意義の研究
宮城征四郎先生がしばしば強調なさるショックバイタル(血圧低下+頻脈で、収縮期圧mmHgよりも脈拍数が明らかに高い)の重要性については、多くの医師が経験的・直感的に理解していますが、どういう患者さんで、どのように重要なのかは明らかになっていません。

目的:ショックバイタルって一体何だろう?その臨床的意義を明らかにする。

背景にある疑問の数々
1.ショックバイタルの基礎疾患にはどのようなものがあるのか?
2.ショックバイタルは予後(エンドポイントの例として、入院期間、生存・死亡)とも関係があると推測されるが、それは本当か?
3.収縮期圧60で脈拍120は誰でもショックバイタルと思うが、収縮期圧100で脈拍110というのはどうか?少なくとも、収縮期圧60で脈拍120とは病態も予後も違ってくるだろう。どこをカットオフポイントにすれば適切だろうか?

対象と方法(基本的にはBMJ 2002;325:800と同じです)
Setting
は救急外来。対象は来院患者全例
評価項目は、バイタルサインと意識障害(Glasgow Coma Scale)
アウトカム評価は、入院期間、生存・死亡、主要な最終診断(ショックバイタルの原因疾患)
観察期間は1年が望ましい(季節によるバイアスを避けるため)

普段の診療そのもので、お金や設備は一切不要、徒手空拳でBMJに載せられます。

また、全く同じデータセットから、BMJ
2002;325:800
のバリデーション論文もできます。これも、施設が2つもあれば、やはりBMJに載せられるのではないかと思います。 一粒で二度美味しいわけです。

誰でもどこでも明日から(あるいは今日から)始められる研究なので、もちろん勝手に始めていただいて結構ですが、共同研究の御提案も歓迎し ます。といっても、デザインというほどのこともないぐらい、至極簡潔明瞭で、かつ頑健な研究計画なので、私が貢献できることは全くないのです が。

重症患者予知のためのお告げの研究

問診(媒体は音声言語)、診察(診察手技で働けきかけて非言語性メッセージを引き出す)、検査(侵襲的な手技や大がかりな機械を使って、非 言語性デジタルメッセージを引き出す)は、いずれも患者から教えてもらう行為で、我々はそうやって患者に教えてもらわなければ商売にならな い。
そのメッセージの中でも、受療行動は、最も初期に示される患者からの非言語性メッセージだ。受療行動は、患者本人の生物学的状態よりも、本人 好みや、社会的な環境に影響を受けやすい。だから、生物学的診断では、多くの場合は受療行動は重要視しない。

しかし、いつも安定している受療行動が変化した場合は話が違ってくる。本来影響が大きくて安定しているはずの本人の好みや、社会的な環 境をも凌駕する新たな重大なイベントが起こったことを意味する。その新たな重大なイベントが社会的なものに求められない時、我々は、患者に重 大な生物学的変化が起こったと考える。私は、こういう患者の特異な行動を、「お告げ」と呼び、患者から学ぶ過程を効率化したい。

お告げとは何かと?具体的な事例で考えてみよう.

ある中年男性が腹痛で救急外来を受診したとします.病歴と身体所見で尿路結石を疑って患者さんが採尿で席をはずした時に,付き添ってきた 奥さんが心配そうな顔をして,ふだんは医者ぎらいで,風邪で寝込むようなことがあっても,絶対に医者には来ない人なんですってあなたに囁 いたとしますね. その一言だけで,あなたの頭の中の警報閾値はぐんと下がって,たとえ尿潜血が陰性でも(陰性だからこそ?),こりゃ,うっかり家には帰せな いなと思うわけです.これが,お告げです,この奥さんの一言が,経験を積んだ臨床医の決断に重大な影響を及ぼすのです.このお告げの診 断価値を検証する.

お告げの研究・解説

検証する仮説は,医者ぎらいにもかかわらず,救急外来にやってくるのは何か重い病気があるはずだというお告げです.
方法:基本構造はpospective cohort studyです.問診表で,年齢,性別といった基本的な要素とともに,患者さんが,どのくらい医者嫌いかチェックする項目を設けてスコアリングする.たと えば,風邪ぐらいでは医者にかからない本人が嫌がるので家族が無理やり連れてきた何日間も我慢していた酒,タバコが大好 来院の時間帯といった具合.Generation data setで作ったこのスコアリングを,validation data setでその後の転帰(入院,入院時診断,最終診断,入院日数,手術の有無)を比較検討する.スコアリングの各項目で層別解析,ロジスティッ ク回帰分析,スコアリング総点数での尤度比,ROC曲線といった分析までできます.統計のことはいくらでもお手伝いしますから,やりませんか.

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神経学分野
学校体育科目による筋ジストロフィーの鑑別診断
デュシェンヌのように,就学前に症状が明らかになってしまうものを除いて,筋ジストロフィーでは,学校時代の体育活動が,診断のてがかりなる ことがしばしばある.例えば,三好型筋ジストロフィーでは,日常生活に障害が出るずっと前,中学生時代から垂直跳びがひどく苦手だったとか, 水泳ではクロールはできたけど,平泳ぎがだめだったとか,顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーでは,バスケットボールはだめだけど,サッカーは得 意だとか,苦手な・得意(比較的後までできていた)スポーツや、苦手・得意な動作(中学校や小学校の時の体力テストの各種目で特に何が苦手 だったか)をチェックリストにして、筋ジストロフィーの鑑別診断表を作って,日本中の各施設で検証してもらえば、立派な仕事になるでしょう.

セガかナムコか
私は、学生時代から、セガと共同で(ナムコでももちろんいいんですが)、診断+リハビリ機器を開発したいと考えています。レーシングゲーム を、神経変性疾患の診断(パーキンソン病ではすくみ現象のため、スタートが遅れ、固縮と寡動のためブレーキの遅れ+踏み込み不足が起きる。脊髄小脳変性症では、運動失調により側壁に衝突する回数が増加し、測定過大(hypermetria)のため、アクセルの負荷しすぎが起こ る)+運動障害のスコアリング+リハビリテーション機器+リハの効果測定 という、スーパー診断+リハ機械に使いたいと考え続けています。こ れで論文を書けば、JAMAでもランセットでもどこでも載せられますし、日本のレーシングゲームが、カラオケのように、世界中のリハビリテー ション施設を席巻することになります。その下地はすでにできていて,ナムコは,ヒット作,太鼓の達人をリハビリ用機器にしています。

蹲踞試験の検証:しゃがむときに踵が床につくのは,筋緊張低下や腓腹筋の筋力低下を示す病的所見であると習ったのですが,神経学的に正常と思われる若い人がコンビニ前の路上でしゃがみこんでいるのを見ると,踵を地面につけたままです.年齢,性別で,蹲踞試験の特異 度を知りたい.

小字症micrographia,大字症macrographiaって,本当?:パーキンソン病は小字症,脊髄小脳変性症は 大字症っていいますけど,どこまで信用できるのでしょうか?その感度,特異度,医者による判断の差はどうなんでしょうか?

パーキンソン病の患者さんの体臭これは,ある学生さんが教えてくれたのですが,パーキンソン病の患者さんて,独特の体臭が しませんか?加齢臭とは違うと,はっきり彼は言っていました.神経内科医の方で思い当たる節はありませんか?私は,これは面白いと思っていま す.もしかしたら,パーキンソン病の生物学的マーカーが見つけられるかもしれない.それが,病態と新たな治療に結びつけば,狙うのはBMJ はなくNatureになるでしょう.一山当てたい人,連絡ください.もちろん,これを読んだ後,密かに初めてもらってもいいですけど,私と組 んだ方が得ですよ.私以外は相手にしてくれないだろうから.
そうして10年以上経って、スコットランドで、我々と同じような視点で研究が始まったようだ。(2015116日追記)
パー キンソン病 体臭を研究20151023() 1127分掲載:パーキンソン病患者に特有の「におい」、遺族が指摘 研究対象にパーキンソン病で夫を亡くした妻が、この病気に「におい」があることに気付き、疾患に関する新たな研究が今週、始まった。(AFP=時事)
The woman who can smell Parkinson's disease BBC News 22 October 2015
One Woman Can Detect Parkinson’s Disease By Smell TIME October 23 2015

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精神科分野
自閉症の男性は背が高くて美男子が多い?
私自身,そういう感じを持っていますし,周囲にも賛成してくれる人が結構います.この仮説を検証すれば,背が高くてハンサムな医学生は外科を志し、容貌の冴えない医学生は内科を志すという仮説を検証した論文と同様,BMJに論文が載せられまっせ.

精神障害者におけるカラオケの腕前の研究:病棟でカラオケ大会って,なんであんなに音痴ばかりなのでしょう.そう思ったこと はありませんか?2004年のIgnoble賞を獲得したカラオケを利用して,あなたもIgnoble賞を狙いましょう.
検証する仮説は,統合失調症の患者はカラオケが下手である
知りたいことはたくさんありますよね.カラオケ下手は向精神薬の影響ではないのか,病型によってカラオケの上手下手に差があるのか,治療に よってよくなるのか,病前はカラオケが上手かったか,好きだったか?他人の下手なカラオケを聞いていて不愉快ではないのか?病棟ではマイクの 奪い合いは起きないのか?統合失調症の患者さんが好きな曲目はあるのか?

参考
統合失調症でよく生じるディスバインディン低下は音処理を障害する  Biotoday 2011-10-16 -
統合失調症患者においてしばしば認められるdysbindin(ディスバインディン)蛋白質の低下は脳での音処理障害を引き起こすことを示したマウス実験 結果が発表されました。
また、多数の神経細胞活動の速やかな開始/停止切り替え能の障害やパルブアルブミン陽性介在ニューロンの低下がディスバインディン低下に伴う 音処理障害に寄与しうることが示されています。
Penn team links schizophrenia genetics to disruption in how brain processes sound / Eurekalert
Dysbindin-1 mutant mice implicate reduced fast-phasic inhibition as a final common disease mechanism in schizophrenia. PNAS October 3, 2011

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