意識障害におけるバイタルサインの診断的価値

池田正行1,松永高志2, 伊良部徳次3, 吉田象二4

1. 国立犀潟病院 臨床研究部
2. 旭中央病院 神経内科,3. 同 救命救急センター,4.同 内科
 

Ikeda M, Matsunaga T, Irabu N, Yoshida S. Using vital signs to diagnose impaired consciousness: cross sectional observational study.. BMJ 2002;325:800

はじめにー共同研究へのお誘いー

この研究の目的は,意識障害の診断という,救急診療で日常的に遭遇するのに,いつも頭を悩ませる問題に,極めて基本的で,いつでもどこでも誰でもが利用できる臨床指標であるバイタルサインが役立つのではないかという仮説を検証することでした.その結果,収縮期血圧が有用だという結論に達したのですが,更に多施設間で検証する必要があります.ここを読んでくださっているあなたの協力が必要なのです.

下記を読んでいただければわかることですが,この研究には,何の特別な用意も要りません.意識障害の患者さんで,全例バイタルサインは記録されているでしょう.そして,グラスゴーコーマスケールが記録されていれば,それで全ての条件が揃ったことになります.明日からでも研究は始められるのです.

要 約

【目的】意識障害の診断で,バイタルサインは脳病変の有無の判定に役立つか?【方法】2000年に旭中央病院に来院した意識障害患者529名を対象に,バイタルサイン各項目について,ROC AUC±SE (Receicer Operating Characteristics Area Under the Curve±Standard Error)と,階層別尤度比(SSLR: Stratum Specific Likelihood Ratio)を算出し,意識障害の原因が脳病変(B群)か否(S群)かの弁別能力を検討した.【結果】529人中312人(59%)がB群だった.体温以外のバイタルサインではB群とS群で有意差があり,収縮期血圧, 拡張期血圧,脈拍のROC AUC±SE はそれぞれ,0.90±0.01,0.82±0.02,0.63±0.03と,収縮期血圧が最も鋭敏な弁別力を示した.収縮期血圧のSSLRは,90mmHg以下で0.04,170mmHg以上で6.09と,脳病変の除外,診断にそれぞれ有用であった.【結論】収縮期血圧は,意識障害の診断で,脳病変の検出にも,除外にも役立つ.

緒 言

内科医が下す診断の中で最も難しいのが意識障害の鑑別診断である.Plum & Posner [1]によれば,意識障害の半数以上で,脳病変ではなく全身疾患が原因である.しかし,現実には(特に日本では),ほとんどの意識障害例で,CTあるいはMRIが撮影され,しばしば意識障害の原因を推定することなしに神経内科医あるいは脳外科医にコンサルテーションが行なわれている.検査機械の面でも,専門医の労力の点でも,医療資源の無駄遣いが横行していることになる.また,意識障害患者の診断の際に,常にCTあるいはMRIが撮影できるとは限らないし,神経内科医や脳外科医が常駐している施設もまれである.つまり,医師であれば,科や専門性を問わず,病歴や身体所見による意識障害の診断に習熟している必要がある.意識障害の鑑別診断の誤りは,適切な検査法適用の遅れ,重篤な全身疾患の見逃しや,CT/MRIの撮影中の急変といった救急場面での事故にもつながる.

しかし,意識障害患者で脳病変を検出するため,画像検査以外の手段は限られている.神経学的所見が有用とされているが,どんな症候を組み合わせるべきか,一定の結論は得られていない.脳病変の有無に対する各症候の感度と特異度も不明である.神経症候学の習得も容易ではなく,救急外来で詳しく神経学的所見をとるのも非現実的である.そこで,意識障害患者で,脳病変の有無を判断するために,誰もが施行可能で,かつ安定した成績が得られる指標として,バイタルサインの有用性に着目した.
脳卒中の急性期には血圧が上昇する[2].また,頭蓋内圧亢進症で,脳血流を維持するために,全身血圧が上昇し徐脈になる現象はクッシング効果として,古くから知られている.一方,意識障害を起こすような全身疾患で,しばしば血圧が低下することも,我々は経験的に知っている.ならば,次のような仮説を立てられる.すなわち,“意識障害の鑑別診断において,高血圧と徐脈は脳病変を示唆し,低血圧と頻脈は全身性疾患を示唆する”この研究では,この仮説を検証するために, Receiver operating characteristic (ROC) curve [3, 4]とStratum-specific likelihood ratios (SSLRs 階層別尤度比) [4, 5]という,二つの臨床疫学指標を組み合わせて,この仮説の検証を行なった.

対象と方法

1.対象
対象は,2000年1月から12月までに旭中央病院救命救急センターを受診した意識障害( Glasgow Coma Scale 15未満)529例である.当外来では,意識障害に限らず,全例でGCSとバイタルサインが記録されている.したがって,研究の型はprospective observational cross-sectional studyとなる.年齢は15歳以上で頭部外傷例は除外した.これは頭部外傷の場合,初診医は意識障害の原因は頭部外傷にあると考えるので,意識障害の鑑別診断のための本研究にはそぐわないと判断したからである.
この529例について,バイタルサインと,GCSを記録し,意識障害の原因により患者群を分類した. Gold standardは,意識障害の原因を最終的に説明しうる診断名とした.Gold standardとは,診断指標の価値を最終的に判断するための基準である.例えば,内視鏡診断のgold standardが病理組織診断ということになる.この研究では,あくまで,日常の診療で我々の仮説がどこまで通用するかを検討するのが目的だったので,診断のための特別なプロトコールは一切作っていない.従って,診療にあたる医師は,本研究のことも,初診時のバイタルサインも全く意識せず,CT/MRIといった脳画像診断装置の使用も含めて,純粋に通常の診療行為として最終診断を下した.

2.臨床疫学指標:ROCとSSLR
次に,ROC曲線とStratum-specific likelihood ratios (SSLRs 階層別尤度比)について説明する.Receiver operating characteristic (ROC) curve:とはX軸を偽陽性率(1-特異度),Y軸を感度としてプロットしたグラフである.ROCは診断指標の優劣を比較するのに用いる.例えば,空腹時血糖における糖尿病の診断を考えてみよう.図1でA, B, Cの点を,それぞれ,血糖値のカットオフポイント,140, 120, 100として,糖尿病診断の感度と偽陽性率を考えてみればよくわかる.すなわち,A=140の点では,感度も偽陽性率も低い.B=100の点では感度は高くなるが,偽陽性率も高くなる.カットオフ値として理想的な点は,図1の左上,つまり感度が100%,偽陽性率が0となるポイントである.ある診断指標がROC曲線はここに近づくほど,その診断指標は優れていることになる.カットオフ値としては,この理想点に一番近い点,例えば,糖尿病診断の際の空腹時血糖ならば,B=120の点を選ぶことになる.ROC曲線を用いると,複数の診断指標の間でその優劣を比較することもできる.左上隅の理想点に近くなれば,ROC曲線の下側になる部分の面積(ROC area under the curve: ROC AUC)が広くなるはずである.したがって,この部分の面積を比較して,診断指標の優劣を決定する.ちなみに,このROC曲線の由来は,第二次世界大戦中のレーダーのsiganal/noise比を判定するためにために考案されたと言われている[6]

次にSSLRについて説明する.SSLRを一言で言えば,診断指標のカットオフ値ごとに重みをつけた診断確率である.一般に診断検査の妥当性は感度と特異度で表されてきたが,感度と特異度は臨床現場で用いるにはやや不便で,とりわけ連続値をとる検査では多くの情報を失い,時に不正確な結論に結びついてしまう.そこで現在臨床疫学者によって推奨されているのがSSLRである[5].一例として,75gOGTTをGold Standardとした糖尿病の診断において,スクリーニングとしての空腹時血糖値を考えてみよう.この場合,カットオフ値を126としよう.このようにカットオフ値を一点だけに決めてしまうと,空腹時血糖が200であっても127であっても同じ糖尿病として扱われてしまう.一方,空腹時血糖が125であれば糖尿病でないことになる.空腹時血糖のように,連続した値が得られる場合,カットオフ値を一点だけに定めることによって,このような不都合が生じる.このような不都合を避けるために,連続した値を取る診断指標の場合,値の階層別に陽性率判定の重みをつけたのが,SSLRである.詳しい計算式は省くが(*),SSLRを用いれば,検査前確率,すなわち,病歴や身体所見による医師の判断と,SSLRを加味して,検査後確率を算出することができる.この算出のためのノモグラムを図2に示すFaganのノモグラムである.

たとえば,骨髄穿刺所見をgold standardとする鉄欠乏性貧血の診断におけるフェリチンの役割[11] を考えてみよう.検査前に医師が,鉄欠乏性貧血の確率は五分五分と判断しても,もし血清フェリチンの値が15μg/Lであれば,その時の尤度比は52となり,検査前確率50%でも,検査後の確率は,尤度比から換算すると98%となり,検査前は五分五分と考えていても鉄欠乏貧血の診断が確定してしまう.

(注*正確に言うと,検査前オッズx尤度比=検査後オッズ (オッズ=その疾患を有している確率/その疾患を有していない確率)なのだが,臨床家は,ふつうオッズではなくて確率で考える.オッズと聞くとそれだけで拒否反応を示す人が多いし,オッズの計算は実際に面倒なので,オッズの計算過程をノモグラムにして検査前確率から検査後確率を算出できるようにしたのがFaganのノモグラムである)

結 果

意識障害529例中,脳病変ありが312例,なしが217例であった.この二群間で,収縮期血圧と拡張期血圧は,脳病変ありの群で有意に高く,脈拍は脳病変ありの群で有意に少なかった.一方,体温は2群間で差がなかった.このように臨床的にもクッシング効果を支持する所見が得られた.このように,実際の臨床例での検討でも,意識障害患者で,脳に病変があれば血圧が高くて徐脈の傾向となり,脳に病変がなければ,血圧が低く頻脈の傾向となるという我々の仮説を支持する所見が得られた.2群間では,年齢,性別,およびグラスゴーコーマスケールで差はなかったので,上述のバイタルサインの差が,これらの属性の差ではないことがわかる(表1).次に我々の仮説が実際の救急診療の場面で意識障害患者の診断に応用できるかどうかを,ROCとSSLRを用いて検証した.

表2に脳病変のある例の原因疾患とその疾患ごとのバイタルサインを示す.原因疾患では,脳卒中が3/4を占める.脳卒中群で血圧が高い傾向にあるが,脳腫瘍やてんかん群でも,次に示す脳病変のない群と比較すると,血圧が高いことがわかる.表3は意識障害患者のうち,脳病変のない群の原因疾患とバイタルサインである.低酸素血症びまん性脳虚血とは,慢性閉塞性肺疾患による低酸素血症,高炭酸ガス血症,敗血症,心筋梗塞・心不全といった循環不全などにより意識障害をきたした場合を示す.その他疾患は,アジソン病,甲状腺機能低下症,偶発性低体温症,緊張病性昏迷,チアミン欠乏症(ウェルニッケ脳症),アナフィラキシーショック等を含む.

図3には収縮期血圧の分布を脳病変の有無により分けてヒストグラムで表した.血圧が高いほど脳病変のある群の比率が高くなる傾向がはっきり現れている.図4は拡張期血圧の分布を脳病変の有無により分けてヒストグラムで表した.収縮期血圧ほどではないが,やはり血圧が高いほど脳病変のある群の比率が高くなる傾向がはっきり現れている.図5は脈拍の分布を脳病変の有無により分けてヒストグラムで表した.脈拍が少ないほど脳病変のある群の比率が高くなる傾向があるが,血圧ほどはっきり分かれない.

以上のように,収縮期・拡張期血圧,脈拍ともに脳病変の有無の判定に有用であることがヒストグラムより推測できるが,どれがもっとも有用なのか,定量的に判別するために,それぞれのバイタルサインについて,脳病変の判別におけるROC曲線を描いたのが図6である.そうすると,収縮期血圧のROC AUCが最も大きく,0.9となり,ついで拡張期血圧の0.83,脈拍の0.67となっている.

表4は各バイタルサインの階層別の尤度比 ・感度・特異度を示す.本研究では,意識障害患者529例中,脳病変のあったのは312例だったから,検査前確率は312/529=0.59となる.表中の検査後確率は,この検査前確率と尤度比から算出したものである.たとえば,収縮期血圧が170以上であれば,検査前確率が母集団と同じと考えた(つまり,目の前にいる意識障害患者の診断について,医者が何も考えなかった)としても,意識障害が脳病変による確率は90%ということになる.また逆に,収縮期圧が90未満であれば,脳病変のある確率が4%以下ということになり,頭部CTをやるよりも,意識障害の原因を探るために他の検査を優先した方がいいことになる.

この170,90という目安は,医者が何も考えない場合であって,現実には,医者が他の情報も総合して,検査前確率を出すから,バイタルサインの有用性はもっと高くなる.たとえば,検査前確率が30%と考えれば,収縮期血圧が100でも,検査後確率は5%以下となるし,検査前確率が70%と考えれば,収縮期血圧が160でも,検査後確率は90%を越える.

考 察

本研究により,バイタルサイン,中でも収縮期血圧は,意識障害患者における脳病変の有無の判断に役立つこと,拡張期圧と脈拍は収縮期圧より診断価値が劣り,体温は有用ではないことが,臨床疫学的指標により定量的に証明された.では,他の診断指標と比べて,収縮期血圧はどの程度有用なのだろうか.表5に他の診断指標とのROC AUCの比較を示した.Swets [ 7 ] は,ROC AUC の 価値が,0.5ー0.7 の時は低く, 0.7 ー0.9 の時は中等度, 0.9以上の時は高いとしている.本研究における収縮期血圧のROC AUCは,0.9と,急性心筋梗塞におけるクレアチンキナーゼのROC AUC=0.67 [3],糖尿病における空腹時血糖のROC AUC=C0.83[8]よりも大きく,他の診断指標と比較しても優れていることがわかる.

意識障害の診断において,脳病変があるかどうかは大きな分かれ目であり,この鑑別を目的として,これまでも神経学的所見を中心にした身体所見を用いた鑑別法が考案されてきた[1, 9, 10].しかし,診察時間に制限のある救急外来で,しかも訓練を必要とする神経学的所見を丹念に取るのは実用的ではない.そのため,これらの鑑別法も,実際には使われていない.その点,収縮期血圧ならば,どの患者でも必ず測定し,特別な訓練も,時間も,費用も必要ない.

収縮期血圧が脳画像検査に取って代わるわけではもちろんないが,救急場面で必ずしもCTやMRIがあるとは限らないのだから,原因不明の意識障害患者を前にした時,収縮期血圧の有用性を知っておくことは,臨床的に意義がある.特に一刻を争う意識障害の患者では,転送先一つ考えるのにも,脳外科に送るか,それとも原因不明の意識障害として内科に送るのかは,大きな分かれ目である.また,意識障害患者を診ると,反射的にCT依頼の伝票を書き,脳外科医や神経内科医を呼びつけて,自分では何も考えない悪習を防止するにも役立つ.

研究の成果をどう生かすか

この研究成果の応用範囲は広い.まず,CTがすぐに撮れない状況での状況判断,例えば,脳卒中を強く疑って脳神経外科のある施設へ転送するのか,それとも心筋梗塞や肺梗塞,あるいは大動脈瘤破裂のような全身の循環障害を考えるのかでは,その後の診療行動が全く異なるが,そういう時の一瞬の臨床判断に役立つ.また,たとえCTが撮影できる施設であっても,低血糖や薬物中毒など,緊急に介入が必要な病態なのかどうかの判断にも役立つ.さらに,意識障害の原因が脳にあるはずだと考えてもCTに病変が映らなかった時,脳に病気があるはずなのに,映らないということは,CTで捉えられない病変,脳炎,髄膜炎,脳静脈洞血栓症などがあるのではないかと強く疑うことになり,病気の見逃しも避けられる.

今後の検討課題

1. 一般化: 多施設での検討.気になっていることの一つに,臨床疫学で言うところの,ROCのoverfittingの可能性とvalidation data setがないこと,があります.これは簡単に言えば,今回の,特に収縮期圧のROC AUC=0.9というのが”たまたまできすぎ”たのではないか,それを検証するためにも,多施設間での検討が必要だということです.→共同研究へのお誘い

2. 年齢別・性別での検討:たとえば,20歳の女性が来た時,70歳の男性が来たときでは,それぞれSSLRはどうなのか.この二人の間には,もともとの血圧も,意識障害をきたす各基礎疾患の頻度も決定的に違います.ですから,いっしょくたにしたくない.別々にSSLRを算定するためには,十分な数の確保が必要で,これも多施設のデータを集積する必要があります.

3. 天幕上病変と天幕下病変での比較:頭蓋内圧亢進でクッシング効果が生じるのは,第四脳室底部の循環中枢への圧迫の影響と言われている.もしそうならば,天幕上と天幕下では収縮期血圧への影響が違うはず.

4. 外傷性と非外傷性の比較:今回の検討では頭部外傷は除外したが,頭部外傷例でどういう結果が出るかも知りたい.例えば行き倒れの人がいて,その人が頭部外傷を負っているのかどうか,負っているとしても,他の原因で昏倒して二次的に頭部外傷を負ったのか,それとも頭部外傷が意識障害の直接の原因なのかを区別できるか.

いずれにせよ,多施設間の検討と,症例数をもっともっと増やす必要がある.興味のある方は,是非とも池田までご連絡いただきたい

謝辞

この仕事は,古川壽亮先生(名古屋市立大学精神医学教授)の名著, エビデンス精神医療ーEBPの基礎から臨床までー,との出会い,そして古川先生のご指導があって初めて日の目を見た.ここに改めて,心から感謝したい.EBMを学ぼうとする日本人は,すべからくこの本を読むべきである.私は,英語ではどうしてもわからなかった”尤度比”を,この本を読んではじめて理解できた.また古川先生のホームページ,Evidence-Based Psychiatry Centerにも,訪れることを是非ともお勧めする.Psychiatryと名はついているが,精神科医以外にも大変有益なサイトである.ここには,NNTやSSLR,,95%CIなどが簡単に計算できるようなエクセルのシートが無料でダウンロードできるようになっている.

文 献

1 Plum F, Posner JB. The Diagnosis of Stupor and Coma. 3rd ed. Philadelphia: F. A. Davis; 1980.

2 Wallace J D, Levy L L Blood pressure after stroke. JAMA 246, 2177-80 (1981).

3 Peirce J C, Cornell R G Integrating stratum-specific likelihood ratios with the analysis of ROC curves. Med Decis Making 13, 141-51 (1993).

4 Furukawa TA, Goldberg DP, Rabe Hesketh S, Ustun TB Stratum-specific likelihood ratios of two versions of the general health questionnaire.. Psychol Med 31, 519-529. (2001).

5 古川壽亮 エビデンス精神医療ーEBPの基礎から臨床までー. 医学書院, (2000).→Evidence-Based Psychiatry Center

6 Furukawa T, Anraku K, Hiroe T, Takahashi K, Kitamura T, Hirai T, Takahashi K, Iida M Screening for depression among first-visit psychiatric patients: comparison of different scoring methods for the Center for Epidemiologic Studies Depression Scale using receiver operating characteristic analyses. Psychiatry Clin Neurosci 51, 71-8 (1997).

7 Swets J A Measuring the accuracy of diagnostic systems. Science 240, 1285-93 (1988).

8 Erdreich L S, Lee E T Use of relative operating characteristic analysis in epidemiology. A method for dealing with subjective judgement. Am J Epidemiol 114, 649-62 (1981).

9 Bates D, Caronna J J, Cartlidge Nef Knill Jones Rp Levy D E, Shaw D A, Plum F A prospective study of nontraumatic coma: methods and results in 310 patients. Ann Neurol 2, 211-20 (1977).

10 Mills M L, Russo L S, Vines F S, Ross B A High-yield criteria for urgent cranial computed tomography scans. Ann Emerg Med 15, 1167-72 (1986).

11.Guyatt G H, Oxman A D, Ali M, Willan A, McIlroy W, Patterson C Laboratory diagnosis of iron-deficiency anemia: an overview. J Gen Intern Med 7, 145-53 (1992).

あとがきーゼニはグラウンドに落ちている.あるいはサルでもかけるBMJー

診療の基本になる身体所見,そのまた基本中の基本のバイタルサイン.そんな基本を,内科診断で最も複雑な意識障害の診断に生かす.医者になった時から,こんな仕事が夢でした.しかもこの仕事は,日本国内はもちろんのこと,アルゼンチンでも,エストニアでも,ウガンダでも,アフガニスタンでも,臨床医ならどこの国の誰にでも評価してもらえるのです.

この仕事は実は平凡な仕事でした.医学部の学生さんでもできることでした.日常診療がそのまま立派なデータになる.何しろ,500人ちょっとばかりの患者さんのバイタルサインを統計処理しただけなんですから.カネも道具も要りませんでした.それどころか,インフォームド・コンセントさえもいらない.患者さんへの負担はゼロ,紙と鉛筆だけでできたのです.

なんだ,こんなむちゃくちゃ簡単なことでBMJにペーパーが書けるんだったら,俺にもできると思うでしょう.そうなんですよ.わかりました?あなたもBMJに書けるのです.私はそれを証明したかった.サルでも書けるBMJ !!!

NatureやScienceに載る日本人の仕事の割合は年々増えています.なのに,NEJMやランセットでの比率は逆に低下している.おかしいと思いませんか?おまけにこれからの日本は医療資源が少なくなるばかりだから,より優れた臨床医が求められるのにですよ.物量面ではアメリカにかなわないなんて言い訳は許されません.日本よりも経済力がなくて,日本の半分の人口しかいない英国が,立派な臨床の仕事を出しているのですから.

この仕事のネタだって,私の秘密だったわけじゃない.意識障害患者で,血圧が高ければ,脳に原因があり,低ければ脳以外の全身的な原因の可能性が高い.意識障害をある程度診たことのある医者ならば,誰でも,経験的に知っていることです.ゼニはグラウンドに落ちているのです.それも地中深くではなく,見えるところに転がっている.

De Maeseneer JM, van Driel ML, Green LA, van Weel C. The need for research in primary care. Lancet. 2003 Oct 18;362(9392):1314-9.
プライマリケアでこそ臨床研究は必要なのです。オランダの総合診療医/家庭医の70のガイドラインでは(こうしたガイドラインでは,現場で突き当たる切実な問題と求められている回答が載っているものです)、答えが得られていない875もの疑問が明らかになったとのことです.

競争するような仕事では,いつも自分が勝つとは限りません.むしろ負ける場合の方が多いでしょう.しかし,競争がない仕事,誰もやろうとしない仕事では,負けることがありません.そんな仕事ほど,そこら中に転がっているのです.

とても大切なことなのに,誰もまだ白黒をつけていないことが私たちの日常の診療にごろごろしている.その白黒に決着をつければ,BMJに書けるんです.

大学を離れて勤務医になったり開業したりする人が,しばしば学問の分野から離れることを嘆きます.しかし,本当にそうでしょうか?市中病院や自分の診療所では,英文の臨床雑誌に載せる仕事などできないのでしょうか?絶対にそんなことはない.むしろ臨床の現場に近づくほど,グラウンドに落ちているゼニが見つけやすく,拾いやすくなるはずです. ゼニとは,患者さんに負担をかけずに,診療に貢献できる仕事のことです.

私の勤務先は上越にある精神科・神経内科・重症心身障害者診療の病院です.臨床研究のために特別に恵まれた環境にいるわけではありません.だからみなさんはもっとできるはず.できなきゃおかしいですよ.やってください.

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