診療行為のアウトカムが刑事訴追の対象になること自体,グローバルスタンダードどころか、ハムラビ法典の水準にも達していない.なのに,医療事故調問題を巡る一連の議論で,お得意の,「欧米では・・・」の議論が全く出てこないのは,役人も国民も,水戸黄門気取りの医者いじめが大好きだからだろう.
一体,どこの世界で,診療行為のアウトカムが刑事訴追の対象になっているというのか?厚労省の試案を支持する連中は説明してみるがいい.もちろん,”アッシリアではこうでした”とか,”松前藩の伝統では”とか,”ジンバブエのある地域では” じゃ,及第点はあげられないからな.
では,多くの人が大好きな”欧米”の代表である英国ではどうなっているだろうか?2001年から2002年の2年間で,medical manslaughterで起訴された医師は6人いる(医師の刑事訴追:a legal alien in Lodon).ほうら見ろ,英国でも刑事訴追されるじゃないかって?では,日本ではどうでしょうか?あなたの好きな英国と比べてどうでしょうか?
1999年までは年間多くても十件程度だったものがも、2000年に24件,2001年には51件、2005年には91件が、警察から検察に身柄ないしは書類送検されている。(参議院会議録情報 第164回国会 厚生労働委員会 第3号)これが,グローバルスタンダードか?(ちなみに,MRIがグローバルスタンダードの7倍多くても,それが訴訟を減らすどころか,かえって,数十倍に送致件数が多くなっているとは何たる皮肉だろうか→MRIは訴訟予防にはならない)
わが国独自の医者に対する刑事訴追文化を死守しようとする役所と、そして一般市民。そんな状況の中で黙ったまま突っ立っているどころか,こともあろうに,医師会も内科学会も外科学会も,医者を刑事訴追しようとする役所や国会議員に追従している.正気の沙汰とは思えない。
刑事訴追を受けて有罪になれば,殉教者として神社に祀ってもらえるとでも吹き込まれて,いい気持ちになっている学会・医師会幹部達のお目出度さもさることながら,彼らに対して、黙って見ているどころか、律儀に会費まで払い込んでいる会員達は、屠殺場に向かってのこのこ歩いていく羊も同然だ。このような特異な文化の背景には,科挙以来の,技術屋に対する法科の根拠のない優越感があるだろう.
一方,貨幣経済の発達,重商主義,産業革命といったえげつない経済・科学技術の発展を先導した連中の間には,法科何する物ぞとの気概が生まれた.その差が,医師の刑事訴追に対する,洋の東西間での差となったのではないか.
横田陽子 日本における公衆衛生の「専門職」化。科学史研究 2008;47:1-12
内務省衛生局時代、法科万能の世の中で、大正期の終わり頃から始まった、当時の公衆衛生技官達の地位向上の動き、居場所の確保の歴史が伺える面白い読み物になっている。
この論文には、「戦前は、厚生行政は警察が握っており、厚生行政が警察から完全に分離されたのはGHQ占領以後」とありますが、診療行為の刑事訴追が普遍的に行われているのだから、「完全に分離」という表現には疑問符がつくことになる。
えっ何?歴史談義はもういいから,医療事故調問題で,対案が出せないから困っているだと.ったく,手のかかる御羊様達だな.だから,いつものバカの一つ覚え,「欧米では・・・」をこういう時に使えってんだよ.列車一つ定刻に動かせないあの英国人でさえ,NHS苦情処理制度 を機能させている。日本人にできないわけがないだろうが.
岩田 太,峯川 浩子.オーストラリアにおける医師の自律規制(一)懲戒手続に焦点をあてて.上智法学論集 49巻2号(2005年12月)
岩田 太,峯川 浩子.オーストラリアにおける医師の自律規制(二・完)懲戒手続に焦点をあてて.上智法学論集
49巻3・4号(2006年3月)