10億円プレーヤーに勝つ方法
(脳梗塞の診断にMRIは役立たない)

MRIの概算希望納入価格は、1.5テスラのもので4億6000万円から9億7500万円(医療機器の流通実態に関する調査報告書 平成17 年12 月公正取引委員会)だそうだ。あなたの勤めている素晴らしい病院なら、3.0テスラで10億円以上のMRIが放射線科の奥に鎮座ましましているかもしれない。そして、そのMRI大明神様のご託宣をどう解釈すればいいのかを巡って、何人もの医者が侃々諤々の議論をしている。

しかし、他の医者はともかく、臨床医の誇りを辛うじて保っているあなたには、その光景がどうも面白くない。”この検査はすごいんだぞ,機械は大きいし,すごく高いんだから”って言ってるだけ.そんなスネオみたいな自慢してどうするのさ.自分の腕じゃなくって,機械の自慢をしてどうするのさ.

医者ならば,検査の限界を踏まえて,どのような時に役立たないのか,落とし穴はどこにあるのかを説明して,だから,こんな図体ばかり大きいでくの坊より,俺の方が偉いんだって自慢できなくちゃ.自分の方が偉いことを何とかして証明してやる手だてはないものか。そう歯ぎしりしたことはないだろうか。

実はある。それも、あのランセットがあなたの味方だ。(*)
Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency assessment of patients with suspected acute stroke: a prospective comparison. Lancet 2007;369:293.

経過を追った後の確定診断をgold standardとして,急性脳梗塞に対する拡散強調画像の感度は,発症3時間以内ではたったの73%だ。つまり3割近くは偽陰性。12時間以内に時間を広げても、感度は81%にしか上昇しない。しかも、この数字は天幕の上と下を合わせた数字だ。ということは、小脳、脳幹部梗塞は、これよりさらに感度が落ちる。

たとえ拡散強調画像で陽性所見を捉えられなくても、X線CTと全く同様、MRIでも、”出血がない”という陰性所見と臨床症状に基づいて脳虚血の診断を下すことには変わりがない.だから、臨床的に明らかな脳卒中の患者で、拡散強調画像で陽性所見があるだのないだの大騒ぎする話ではない。

そもそも、MRIで早期に、拡散強調画像の陽性所見として脳虚血を捉えることが良好なアウトカムに結びつくかどうかは明らかではない。

だから、臨床的に明らかな脳卒中で、拡散強調画像に臨床症状を説明できる病変が見あたらなくても、何ら慌てる必要はない。拡散強調画像で病変が見つからなければ,CTの場合と同様に、”出血が認められないから梗塞”と堂々と診断していい。何億円もする高価なMRI大明神様に遠慮する必要など、これっぽっちもない。これまで修羅場をくぐってきたあなたの眼力が、たかがMRIに負けるわけがないのだ。

参考パワーポイントスライド→脳梗塞の診断にMRIは役立たない 論説:脳卒中の診断にMRIは役立たない

*注:ただし、このランセットの論文は、急性期脳梗塞の診断には、CTよりもMRI(拡散強調画像)の方が感度がいいから、急性期脳梗塞の診断にはCTよりもMRIを使うべきだという、全くの見当違いの結論を導いている。そういう問題じゃないんだよ。タコ!このような論調の論文を平然と載せること自体、最近の”いかれたランセット”の象徴である。

参考
日本がダントツに多いCT・MRI普及率 日経BPnet

 OECD Health Data 2007: Statistics and Indicators for 30 Countries, Paris, OECD, 2007.

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