MRIは訴訟予防にはならない

日本にあるMRI/X線CTの単位人口当たりの台数は,OECD諸国平均の7倍であると言うと,決まって,訴訟に怯える医師の防衛反応でやむを得ないとの意見が必ず出てくる.でも,本当にそうだろうか?何の根拠があってそう主張できるのだろうか?私はその人には以下のようにお話しするようにしている.

MRI依存症は患者・医者共通である.その背景には,人間不信がある.患者:「先生,MRIを撮って下さい=お前の腕は信用していない。だから機械を信用している」「はい,わかりました.念のために撮っておきましょう=すいません.私は機械以下の腕です。だからあんたは私を信用していなんだろ。だったら私もあんたを信用しない。あんたは私を信用していないから、訴えるかもしれない。だから訴える」 このような患者からの謂われのない(キッパリ!)侮辱に,ひたすら耐える姿勢が,実は訴訟の温床になっていることが,あなたはまだわからないのか.だって,本当はMRIより人間の方が偉いのに,逆にMRIの方が偉いと,事実と違った説明をするから,患者からも、裁判官からも「なぜ,あのMRI大明神を登場させなかったのか」と,やくざみたいな言いがかりをつけられるんじゃないか!堂々と主張しよう。あんな図体ばかり大きい金食い虫よりも、自分のほうがはるかに素晴らしいのだと。そして自分を信用してもらおう。

○だから,安易に(うるせえ患者だな,面倒くさいから伝票書いて,さっさと退散してもらおう←これも人間不信です.患者を馬鹿にする態度です.それこそが訴訟のリスクを高めるのです)MRIをオーダーせずに,10億円プレーヤーに勝つ方法に書いてある通り,あなたの医師としての尊厳と科学的データに基づいて,自分の方が機械よりずっと偉いことを患者に説明した上で,それでも,病院の収益に貢献して下さるとおっしゃるのなら,どうぞと言えば,あなたの尊厳が守られ,かつ訴訟のリスクからも免れるというわけだ.

○この方針は,無床診療所のようなMRIのない施設でも,もちろん使える.患者が”MRIのある大きな病院に紹介してくれ”と言ったら,上記と同じく,自分はMRIより偉いんだと説明するプロセスを省いてはならない.

○相手が訴訟を起こすか起こさないかは自分ではコントロールできない.自分の診療環境にMRIがあろうとなかろうと,自分が最善を尽くして(その中には患者や家族の要望を聞くことも含まれるから,当然患者の要求に応じてMRIをやることもあるだろう)診療すればいいだけであって,そうすれば,他人が訴訟を起こすかどうかなどと心配するのは無意味である.

○そうやってあなたがまともに診療しているのならば,あなたが日本のMRIの異常な多さについて言い訳をする必要は全くない.

○MRIをやれば,医療訴訟を防げるというエビデンスはどこにもない.MRIの台数も撮影回数も年々増えているが,脳神経外科や神経内科の訴訟件数が減ったというエビデンスがどこにあるのだろうか?

○MRIへの依存は、MRIの偽陰性(拡散強調画像でも急性脳梗塞に対する偽陰性は20-30%以上になることは、度々説明してきた)による見逃しのリスクを高めることを何ら考慮していない。同様の、偽陰性による見逃しには、X線CTによるくも膜下出血の検出で、これまで多くの人が被害を被っているにもかかわらず。

結局,過剰なMRIの原因を訴訟云々に求める人々は,無意識のうちに,自らの検査前確率の詰めの甘さ,日常的な思考停止の言い訳を,自分の頭に中に思い描いた弁護士や裁判官に求めているだけに過ぎない.

もしもあなたが真っ当な診療をしているのなら,そんな人たちのために,弁解をしてやる必要など,これっぽっちもないのだ.

参考
日本がダントツに多いCT・MRI普及率 日経BPnet

二条河原へ戻る