救済制度は継続可能なのか?(2008年1月)

医薬品副作用被害救済制度は,世界に冠たる日本のシステムである.類似の仕組みを持っている国は地球上にない.それだけ,このような素晴らしい仕組みを作るのは難しい.そして,維持するのはさらに難しい.

その給付額を見ると,死亡の場合には,遺族一時金700万円の他,月額20万円の遺族年金が10年間にわたって支給される。大変な金額だ.

人間を原告席に立たせる医療事故訴訟が,被告も原告も救わないことは,これまで度々説明してきたから、ここでは触れない。では、真実を知りたいという望みを叶えるためにはどうしたらいいのか?

人間の代わりに薬を被告席に立たせたらどうだろうか?そんな裁判ならば、人間同士がぼろぼろになるまで争わなくて済む上に、真実を明らかできるのではないか?そして、それなりの金銭補償も得られるとなれば、病院や医師を相手に,勝ち目の薄い悲惨な消耗戦よりもよほど魅力的である.つまり,ADRの本格稼動を待てない人々が,副作用被害救済給付金支給を求める訴訟をADR代わりに使う動きが顕在化する可能性がある.

これまでの事例を見る限り,決着までにかかる時間,代理人に支払う費用,勝訴率のいずれの点でも,副作用被害救済給付金支給を求める訴訟は,医療事故訴訟よりもハードルはずっと低いように見える.

実際,下記に引用した事例を見る限り,医療過誤は認められなくても,副作用被害救済は勝ち取っている.

医療事故訴訟の代わりに,副作用被害救済給付金支給を求める訴訟が激増し、副作用救済制度が破綻する可能性はないのだろうか?実際、医師賠償責任保険はとっくに破綻している。

公開されている平成18年度のPMDA決算報告書で見ると,副作用救済での収入36億円(このうち33億円が企業からの拠出金であり,国庫補助は2億円足らずである)は,総収入130億円の3割近くを占め,審査相談料の64億円とともに,機構の大切な収入源になっている.というのは,36億円のうち,実際に副作用救済に当てられているのは,半分未満の16億円足らずに過ぎないからだ.

このように,医薬品医療機器総合機構にとっては,まだ余裕があるようだが,拠出金を出す企業の方としては,審査・相談料が,利益に結びつく可能性があるのに対し,そうでない拠出金については,むしろ,額を下げて貰いたいという希望が強い.

一方で,多くのC型肝障害患者が,自分の病気の原因は,フィブリノーゲンの投与によるものではないかと疑う世の中になった.さらに,B型肝炎でも国を相手取った集団訴訟が起ころうとしている(下記).これも,副作用被害救済給付金支給を求める訴訟と流れは同じだ.

そのような環境下で,副作用被害救済給付金支給を求める訴訟が激増した場合,本当に救済制度が持続可能なのだろうか?

杞憂だと,自信を持って説明していただける方がいらっしゃれば,ありがたいのだが,もし,杞憂でないとしたら,この,世界に冠たる素晴らしい制度を守るために,破綻を阻止すべく,まだ資金面で余裕のある今のうちに,企業であれ,PMDAであれ,全ての関係者は動き始めるべきではないだろうか.

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 富士市の男性(50)が、膠原病の治療のため入院していた富士市立中央病院で十分な説明がないままステロイド剤を投与され、副作用で歩行不能になったなどとして、病院を運営する富士市に約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10日、静岡地裁沼津支部で言い渡され、千徳輝夫裁判長は男性の請求を棄却した。

 千徳裁判長は判決で「ステロイド剤の投与は治療として妥当で、副作用の危険性についても当時の医療水準に沿った説明義務を尽くした」として、担当医らの診療行為に過失は無かったと判断した。
 判決によると、男性は膠原病の1種の強皮症の治療のため、平成10年12月から翌年3月にかけ、2度にわたり同病院に入院し、ステロイド剤の投薬治療を受けた。退院後、多発性骨頭壊死を発症し、歩行できなくなった。
 男性は訴訟と別に平成17年10月、独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」に対し、副作用被害の救済を申し立てている。代理人弁護士は「訴訟については、救済申し立ての結果もみながら検討したい」としている。
(2007年10月11日 静岡新聞)

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膠原病薬で副作用、救済給付支給命令…東京地裁
 膠原(こうげん)病の治療中に薬の副作用で死亡した長女(当時14歳)の両親が、厚生労働省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」に、副作用被害救済制度に基づく給付金の支給を求めた訴訟の判決が11日、東京地裁であった。

 大門匡裁判長は、給付金を不支給とした機構の決定を取り消すよう命じた。

 判決によると、長女は岩手県内の病院で治療を受けていたが、2003年4月、治療中に投与された薬の副作用により死亡した。機構側は「副作用の原因は、制度対象外の免疫抑制剤だった」と主張したが、判決は、原因は抗炎症薬など制度の対象となる医薬品だったと認定、両親の請求を認めた。

(2007年10月12日  読売新聞)
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参考記事:B型肝炎訴訟、全国で集団提訴へ=500人規模、11地裁で(2008年2月24日14時31分配信 時事通信)
集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染したとして患者らが国に損害賠償を求め、勝訴が確定したB型肝炎訴訟で、全国弁護団は24日までに、11地裁で新たな集団訴訟を起こすことを決めた。来月の札幌を最初に、原告は全国で500人を超える見通し。
 この訴訟は、最高裁が2006年6月、注射器の使い回しを放置した国の責任を認め、北海道の原告5人の勝訴が確定した。
 

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