なんちゃってメタアナリシス(「金を払ってくれるラット」改題)
ーJust another GIGO paperー
9 July 2015 updated
ちょっと長い前置き
前
世紀までは医薬品開発はプラセボに対する有効性の検証に主眼を置いてきたことはご存じの通り。ところがかつてはme too
drugsの存在が簡単に容認されていた生活習慣病の領域でも、既存治療が確立され、今やプラセボ対照の開発は非常に困難となっている。かといって、既存治療に対する有効性の検証の難しさは、プ
ラセボ対照試験の比ではない。内外資や企業の大小を問わず、多くの製薬企業がしょーもない効能効果の薬やウルトラオーファンの開発なんぞに乗り出し始めたのもそのためだ。し
かし、ニッチ市場だけでは先細りは誰の目にも明らかだ。ボリュームのあるマーケットも確保しておかねば生き延びることはできない。
そ
こで有効性だけではもはや差
別化できないとなれば、安全性・リスクベネフィットバランスの改善を目指した開発が増えてくるのは必然的な流れだ。1998年にFDAが承認したハーセプ
チンに象徴されるように、医薬品のリスク
ベネフィットバランスの個人差に注目し、そのバランスが最善の集団に対してだけ投与するというコンセプトの開発はその一例だが、見事な成功例がそうたくさ
んあるわけではない。
一方で有効性では既存治療と非劣性だが、有効性以外の面で既存治療との差別化を図ろうとする、あまり見栄えは良くないが実行可能性は
そこそこの戦略を狙う向きもある。たとえば、納豆を食べられるという奇妙なプロモーションにより登場した新規経口抗凝固薬(noveloralanticoagulants:
NOAC)は、モニタリングができない難点がモニタリングしなくて良いというデマとして流布された結果、アドヒアランスの悪化を招いた。
以下本論
Comparison
of the efficacy and safety of new oral anticoagulants with warfarin in
patients with atrial fibrillation: a meta-analysis of randomised
trials. Lancet. 2014 Mar 15;383(9921):955-62.
けっ、また見え透いたイカサマや
りゃーがって。ほんと、懲りねえな。このクズジャーナル。バルサルタン顔負けのイカサマなのに、論文が出てから1年経っても、医学ジャーナリスト協会賞を受賞
した記者さんも、オンブスパーソン様も騒がねえってことは、どいつもこいつも素人が揃っていらっしゃるってことだぜ。また5年も経ってから騒ぐんだった
ら、その時はこのページを引用してくれよな。それから、武士の情けで誰とは指名しないが、この論文を引用して提灯持ちをやっていらっしゃる方々は、今のう
ちに取り下げておいた方が身のためだぜ。もたもたしてると、JIKEI Heartの別刷を宣伝ビラとして配ったノバルティスの営業同様に袋叩きに遭うぜ。
●大前提を忘れてはならない:
この論文で二次利用(!)されている臨床試験の共通のデザインは、ワーファリンに対する有効性の非劣性である。出血の副作用についてはあくまで副次評価で
あり、勝ち負けを判定する材料にはならない。つまり勝負はつけられない。確かなのはどちらが負けとは言えないということだけだ。つまり、異なる新薬を相手に4度戦って一度も負けてないワーファリンの強みを示していると言える。
●ゴミその1 所詮は副次評価項目の後付け解析:最初にそもそも、副次評価項目の後付け解析というMethod自体がアウト!子供だましの見え透いたデータロンダリングに他ならない。この点だけでもランセットには前科がある。主要評価項目でプラセボと差がつかなかったという結果がすでに2年も前に出ているFIELD study (Lancet. 2005; 366: 1849-61)を、ほとぼりが醒めただろうとでも思ったのだろうか、2年後に三次評価項目の後付け層別解析を臆面もなくfull paper(Lancet. 2007; 370: 1687-97)で出している。副次評価項目の後付け解析というだけでもゴミの寄せ集めに過ぎないことがわかる。GIGO (Garbage In, Garbage Out)とは、正にこのような論文のことを言う。
●ゴミその2 NOACというのもゴミ箱ラベル:次にそもそも、効能効果が同じだけで、薬理学的作用機序(ダビガトランは抗トロンビン、他の3つは抗Xa因子)ばかりでなく,薬物動態も代謝ルートも用法容量も、ぜーんぶ違う薬の臨床試験結果がなんで統合できるんだよ!!アホ!! たとえば、10年前に2種類の
ACE阻害薬と2種類のARBのメタアナリシスやった論文を書いたって想像してみるがいい。そんな論文、どこがアクセプトしてくれるというのか。 たとえ
IFのつかないジャーナルにこっそり載せても、あんな薬と一緒にするなって、たちどころに各製薬企業とその提灯持ち達に叩かれていただろう。
●ゴミその3 有効性はメタアナリシスしないというイカサマ: またそもそも,肝心の有効性はどうしてメタアナリシスしねえんだよ,オラァ!違う薬の副次評価項目に過ぎない出血がメタアナリシスできるんなら,有効性主要評価項目は当然メタアナリシスできるだろうよ.その結果はどうなんだよ!そ
れで,もしNOACの「連合軍」の方が「強かったら」ワーファリンではなく,NOACの方を使いましょうって宣伝ビラに書くのか?もしNOACの「連合
軍」の方が「弱かったら」NOACは全部潔く承認整理するってのか? ほうら見ろ,何も答えられねえじゃねえか.だからイカサマだって言ってんだよ.この
タコ!!
●ゴミその4 患者をラット扱いした論文:さらにそもそも、じゃあ、どの薬を使えっていうのさ?えっ?NOACならどれでもいいですってか?バカヤロー、てめえ、患者を何だと思ってやがる!ラットじゃねえんだよ!ラットじゃ!4つのNOACを毎日日替わりで飲めってえのかよ!ええっ?!
俺たちはな、目の前の患者にどの薬がいいかって、必死になって考えるんだ。ましてや、まかり間違ったら頭の中に血が出て患者は死ぬんだ。年齢、コンプライ
アンス、生活習慣、合併症、肝臓の機能、腎臓の機能、患者の好み(NOACを提案しても、定期的に血液検査をしてもらえるから安心だといってワーファリン
を希望する、賢いばあちゃんもいらっしゃる)、懐具合・・・いろいろな要素で自然と決まってくるもんなんだ。だからこいつはな、カスの役にも立ちゃしね
え、患者のことなんかぜーんぜん考えちゃいねえ、ただの営業専用のゴミ屑なんだよ!!
●ゴミその5 最後のそもそもなんだが,メタアナリシスってのはなあ,所詮はほとんどがpublication biasそのものなんよ.
●蛇足その1 もちろん、ランセットにはアクセプトされても、規制当局には決して受け入れてもらえないから、効能効果にも変更はない。
●蛇足その2 とは言うものの、こんな論文にも有用性はある。それは、こんな論文を有難がるかどうかで、そいつが患者をお金を払ってくれるラットとして扱うかどうかがわかり、そしてそいつが持っている医薬品リテラシーが明確になる点である。
バルサルタンの宣伝ビラのごまかしは,何も捏造と言いがかりをつけなくたって,とっくの昔にわかっていたことだ.裏を返せば,捏造と言いがかりをつけるしか能が無い程度のリテラシーしか持ち合わせなければ,この種のイカサマにはころっと騙されてしまうってことだ.
それよか、ダビガトランの血中濃度モニタリングの話はどうなったんだよ!ええっ? ベーリンガーさんよ!患者をラットと思っている奴らは忘れちまったかもしれねえが、あたしゃあ、いつまでも覚えているからな。
こ
の話はベーリンガーさんにとっても、実はうま味のある話だと思うんだがな。企業として育薬が必要なら,こんなエセアナリシスを宣伝ビラに載せるより,そっ
ちの方に力を入れるべきじゃないのか?えっ?何のことですかって?嫌だなあ、とぼけちゃって。わかってるだろうに。何たって自社製品なんだから。それとも
ほんとにわからないの?じゃあ、親切に教えてあげるよ。
血中濃度モニタリングによって患者さんの安全に貢献できるNOACとして、ダビガトランをそれこそ「差別化」できるってことよ!きっと件のばあちゃんも喜んでワーファリンから乗り換えてくれること請け合いだぜ(^^)
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