こういう時代だから,海外で働いたり,学ぼうという人も危機管理のコストに敏感になっているだろう.海外生活は何かと金がかかるものと,はじめからあきらめて保険会社のセットメニューで盲目的に加入するのは金をどぶに捨てるようなものだ.人生が人それぞれならば,その人生に伴うリスクも,そのリスクに対する考え方も人それぞれだ.生命保険にせよ,損害保険にせよ,どういう保障内容になっているのか,内容をよく理解してから契約すべきだ.以下述べるのは,その理解を助けるための基礎知識である.なお,スコットランドの医療についてはスコットランド生活情報で詳しく述べてある.
1.”保険”の種類
2.ケーススタディ:保険会社のセットメニューの例:年間20万円??
3.賠償責任保険は必要か?
4.生命保険(死亡保険金)のコストを考える
5.医療保険(通院,入院治療費用の保険)
6.動産保険
7.緊急一時帰国費用
8.具体的な商品
1.”保険”の種類
大きく分けて,生命保険(けが,病気)と損害保険(物が盗まれた,壊した)に分けて考える.生命保険はさらに,病気(疾病)とけが(障害),死亡と医療というように原因と結果によって細分される.損害保険も,自分の持ち物が盗まれた,誤って壊した,あるいは他人の財産に損害を与えたの大別される.保険に加入する時は,まずあなた自身がそれぞれのカテゴリーのリスクをどのように考えるかが問題となる.
1-2:今入っている日本の医療保険はどうなるのか?
まず,公的な医療保険と民間の医療保険とに分けて考える.
公的な医療保険(健康保険・国民健康保険)は,日本を離れて,保険料を支払わない場合には,加入は取りやめになり,英国での疾病は対象外となる.
(国民健康保険では,日本での居住地から転出扱いとならず,保険料を払い続ける場合には,海外療養費制度といって,海外での医療にも国民健康保険が適用されるが,これは旅行などで一時的に滞在する場合を想定しており,長期滞在では,日本の居住地に転出届を出さねばならず,その結果,国民健康保険も使えなくなるので,スコットランドに長期滞在する場合には,海外療養費制度の対象外になるだろう.参考→海外療養費制度のトラブル事例)
民間の医療保険については、詳細は,個人の責任で「ご契約のしおり・約款」を確認していただきたいが,多くの会社では、約款の中で,「医療法に定める日本国内にある病院、または患者を収容する施設を有する診療所、あるいはこれと同等と会社が認めた日本国外にある医療施設(一般にほとんどが対象)」での入院、手術等は、通常支払いが受けられる,とされているが,国外にいても保険料を払いつづければ,契約は有効なのか,カバーされる範囲も同じなのか,是非とも自分で確認すること。
2.ケーススタディ:保険会社のセットメニューの例:年間24万円??
具体的な事例を呈示してわかりやすく説明しよう.ここではAIUの海外駐在員保険を例にとる.パンフレットでは契約タイプはいくつかあるように見えるが,実はカテゴリーの種類は共通で,どの項目にいくらの保険金がつくかという金額の差でしかない.557というタイプを例にとると
カバーする範囲 | 保険金額 |
|
保険料(円) |
傷害による死亡 | 3000 | けがよる死亡・高度障害 | 18660 |
治療救援費用 | 1000 | けがや病気の治療・救援費用 | 89020 |
疾病による死亡 | 3000 | けが以外の病気による死亡 | 21090 |
家族総合賠償責任+被害者治療費用 | 10000+10 | 他人の財産の損害:失火で借家を全焼させた | 28650 |
生活用動産長期用 | 200 | 自分の持ち物の盗難,損害 | 47000 |
緊急一時帰国費用 | 100 | 親族の急病で急ぎ帰国(航空運賃,滞在費) | 32820 |
(万円) | 237240
(一年間) |
こうやってみると一年間に24万円の出費になってしまう.それも全部かけ捨てである.費用が会社持ちならいいが,自分で支払う場合には,これではたまったものではない.何もセットメニューでないと契約できないわけではないから,必要でないものは切り捨てる作業に移ろう.
3.賠償責任保険は必要か?
とくに単身赴任の場合には,自分一人のリスクを考えればよいから,家族総合賠償責任保険は不要だろう.この保険は,保険金額1億円で,失火により借家を全焼させてしまった場合や,自動車事故の際,現地自動車保険の支払額でカバーできない分もカバーし,同行の家族全員が対象となる.
借家やアパートの失火については,現地の事情に合わせて現地の保険に入る方が賢い.当然大家が火災保険に加入しているはずだから,借主が負担する保険料はこんなに馬鹿高くないはずだ.日本の場合でも,借家人が加入する火災保険は一年間に1万円ほどである.自動車損害保険についても,現地の事情に合わせて加入すればよい.違反歴,事故歴のない人は日本で無事故証明をもらえば現地での保険料が割り引きされるという利点もある.
したがって,家族総合賠償責任保険というオプションは,他人に損害を及ぼしやすい幼児などをたくさん抱えた家族の場合には必要かもしれないが,夫婦二人だけのような場合には,よく考えて加入すべきだろう.
4.生命保険(死亡保険金)のコストを考える
次に傷害,疾病による死亡をカバーする生命保険の部分のコストを考えよう.けが,病気で死亡した場合の保険金各3000万円に対して年間の保険料約4万円(18660+21090=39750)だが,これは割安である.(契約者本人だけで家族の分は別).というのは,日本で掛け捨ての生命保険(死亡保険金3000万円)に加入する場合,35才男性で月々1万円前後とられて,割り戻し金25%としても年間10万円前後とられるから,そう考えるとお得だろう.ただし,日本ですでに生命保険に加入している人(海外で死亡しても保険金は支払われる)は,屋上屋を重ねることになるから,生命保険の部分を削ることもできる.
また,英国滞在中,病気はあまり心配ないが,事故による死亡はカバーしておきたいというのなら,傷害による死亡の部分だけに加入することもできる.その場合には保険料は半額以下の18660万円で済むわけだ.月々1555円というわけで,妥当なところだろう.
ただし,死亡保険というのは,残された人のための保険であって,天涯孤独で,自分が死んだ後お金を残さなくてもいいような人には必要がない.
5.医療保険(通院,入院治療費用の保険)
この部分は必要度が高い.というのは,日本で加入する医療保険は海外の医療には適用されないし,NHSでカバーしないプライベート治療の場合,請求額がやたらと高くなるからだ.(NHSとプライベート保険についてはこちらを参照).けがと病気を両方カバーして,保険金額が最高1000万円,保険料が年間9万円弱.随分と高い.こんなにお金がかかるぐらい大変な病気になってしまったとしたら,英国で高額の治療を受けずに,帰国して日本で治療を受けることになるだろうから,フルカバーとせずに,半額の500万円としたらどうだろう.4万数千円.月に4000円弱である.この額なら妥協できる人が多いのではないだろうか.(ただし,この場合には,帰国後,すぐに日本国内で保険治療を受けられる状態にあることが条件になる)
ちなみに,2002年1月から日本の公的医療保険が海外での診療費にも適用されることになったが,これはあくまで日本の公的医療保険に加入しつづけられる人,つまり日本に住み続けて保険料が払える人が対象だから,あくまで旅行者とか短期滞在者が対象となる.
さらに,日本で加入する医療保険と同様に,歯科治療には適用されない.だから英国赴任前に歯はきちんと治療しておく必要がある.→英国歯科診療事情
6.動産保険
ここは判断が難しい.空き巣,こそ泥が横行する土地でコンピュータを使おうなんてあなたには生活用動産保険はほしいところだが,4万7000円,つまり一ヶ月4000円はちと高い.半額の100万円でどうだろうか.盗難,火災,水害(例:コーヒーをこぼした),物理的損傷などが対象になるが,自然の消耗,故障,置き忘れは対象にならないそうだ(しかし,盗難と置き忘れはどうやって区別するのかね).損害保険の常として,免責金額が結構高いから,契約前に必ず確認しておくこと.
配偶者及び2親等以内の親族の死亡,危篤,飛行機・船舶の事故の際に事故発生から10日以内に帰国し,かつ30日以内に現地へ戻る場合に往復の航空運賃,交通費,宿泊費などが支払われるが,100万円あたり,一年間32820円をどう考えるかは個人によって判断が分かれるところだろう.
10.具体的な商品
AIUの海外旅行保険:旅行ばかりでなく,留学,駐在員用,期間も3ヶ月の留学から,1年以上の駐在まで,いろいろとメニューがある.
アメリカンホームの海外旅行保険では,保険期間が11ヶ月までとなっている.
一方,短期滞在の場合には,自分が持っているクレジットカードに付随してくる海外旅行保険も,魅力ある商品となる場合がある.通常3ヶ月の加入期間を,延長できる場合があるが.延長手続きの詳細については,各カード会社のサイトで確認されたし.→例:住友Visa.JCBでは,3ヶ月を越える場合は,別途保険に入らなくてはならない.
スコットランドに行く前に(渡航準備)