血小板無力症(Glanzmann病) |
GPIIb/IIIa複合体の遺伝的欠損もしくは機能障害により、血小板凝集能が障害されている疾患です。GPIIb/IIIa複合体はフィブリノゲンやフォンビルブランド因子のレセプターとして作用します。1918年にスイスの医師、Glanzmannが発見したことから、グランツマン病とも呼ばれます。
血小板凝集能検査を行うと,リストセチン凝集を除く,ADP、コラーゲン、エピネフリン並びにトロンビンなどの多くのアゴニストによる刺激では凝集が欠如します。しかしGPIIb/IIIa複合体以外の受容体は正常ですので,これらの受容体を刺激するアゴニストに対して血小板は正常に反応し、血小板活性化による形態変化や血小板の顆粒の放出反応は認めらます。血小板「無力」症と言っても、血小板の活性化は起こり、血小板として無力ではありません。
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常染色体劣性遺伝形式を取ります。ヘテロの方はレセプター数は減少していますが、出血傾向を呈することはなく、また血小板機能検査では異常は検出できません。
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点状出血や紫斑、鼻出血、歯肉出血、女性の場合過多月経などの皮膚粘膜出血を認めます。抜歯など小手術後の止血困難で診断されることもあります。時には消化管出血や血尿も認められ、打撲などの外的要因により頭蓋内出血など重篤な出血を来たすこともあり得ます。一方で血友病でしばしば認められる筋肉や関節内出血は一般的には認められません。
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出血時間の延長が認められます。血小板数やその他のヘモグラムの値は正常です。血小板凝集能検査では,リストセチンを除くADP、コラーゲン、エピネフリン、トロンビンなどのアゴニストによる凝集反応が認められません。
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日常生活において、原因なしに治療介入する必要がある出血症状が出現することはまれです。このため外傷等を避けるなど日常生活における注意を促す患者教育が重要です。また血小板機能を抑制する可能性がある非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)などの使用には注意する必要があります。皮膚粘膜の小出血など、予後に影響が少ない出血の場合、局所圧迫や局所の処置で対応することを基本とし、トラネキサム酸などの抗線溶療法などの併用を行います。予後に影響を与える様な重篤な出血および止血困難時、並びに抜歯を含む外科的処置の場合には血小板輸血を行うことが必要になりますが、血小板輸血を繰り返すことで、GPIIb/IIIa複合体などの血小板膜蛋白やHLAに対する同種抗体が発生すると、血小板輸血不応症の状態に陥るため、止血に困難を手じる可能性があります。このため、血小板輸血は必要最小限度に留める必要があります。
血小板輸血不応状態に陥った血小板無力症においては遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa;ノボセブン)が使用可能ではありますが、適応症病名が「血小板に対する同種抗体を保有し、血小板輸血不応状態が過去又は現在みられるグランツマン血小板無力症患者の出血傾向の抑制」となっているので全ての症例に使用可能ではありません。
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