厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業) “神経皮膚症候群に関する診療科横断的な診療体制の確立”研究班 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病) Neurofibromatosis type 1 (von Recklinghausen disease)

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診療ガイドライン

日本皮膚科学科雑誌:128(1),17-34,2018(平成30)

神経線維腫症1型について

神経線維腫症1型(NF1)は, カフェ・オ・レ斑と呼ばれる褐色の色素斑が皮膚に多発するのを特徴とする疾患で, 他にも表1にあるように年齢に応じで神経線維腫などの病変や中枢神経の様々な症候を伴うことがあります。 ニューロフィブロミンと呼ばれる遺伝子の変異によって起きることが分かっており、常染色体優性の遺伝形式をとりますが, 患者さんの半数以上は孤発例で, 突然変異によって発症します.
頻度は, 人口3000人から3500人に1人の有病率といわれています.

(表1) 神経線維腫症1型患者にみられる主な症候のおおよその合併率と初発年齢(本邦)
症候 合併頻度 初発年齢
カフェ・オ・レ斑 95% 出生時
皮膚の神経線維腫 95% 思春期
神経の神経線維腫 20% 学童期
びまん性神経線維腫 10% 学童期
悪性末梢神経鞘腫瘍 2% 30歳前後が多い(10-20%は思春期頃)
雀卵斑様色素斑 95% 幼児期
視神経膠腫 7-8% 小児期
虹彩小結節 80% 小児期
脊椎の変形 10% 学童期
四肢骨の変形・骨折 3% 乳児期
頭蓋骨・顔面骨の骨欠損 5% 出生時
知的障害(IQ<70) 6-13% 幼児期
限局性学習症 20% 学童期
注意欠如多動症 40-50% 幼児期
自閉スペクトラム症 20-30% 幼児期
偏頭痛 25% 学童期
てんかん 6-14% 小児期
脳血管障害 4% 小児期

診断

通常, 臨床症状により診断します. 1988年にNIH(National Institutes of Health)から提案された診断基準)をもとに作成された日本皮膚科学会の診断基準2018(表2)を参考にして診断します. カフェ・オ・レ斑, 神経線維腫があれば診断は容易ですが, 乳児期ではカフェ・オ・レ斑のみの場合がほとんどでまたその大きさも成人と比較してやや小さいため, 家族歴がなければ診断が難しい場合があります. カフェ・オ・レ斑を6個以上認めた場合には後にその95%はNF1と診断されますが, 疑い例では時期をおいて再度確認を行う必要があります.

(表2)日本皮膚科学会
【神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の診断基準2018】

(概念)
カフェ・オ・レ斑, 神経線維腫を主徴とし, 皮膚, 神経系, 眼, 骨などに多種病変が年齢の変化とともに出現し, 多彩な症候を呈する全身性母斑症であり, 常染色体優性の遺伝性疾患である.

(診断基準)
1) 遺伝学的診断基準
NF1遺伝子の病因となる変異が同定されれば, 神経線維腫症1型と診断する. ただし, その判定(特にミスセンス変異)においては専門科の意見を参考にする.
本邦で行われた次世代シーケンサーを用いた変異の同定率は90%以上と報告されているが, 遺伝子検査で変異が同定されなくとも神経線維腫症1型を否定するわけではなく, その診断に臨床的診断基準を用いることに何ら影響を及ぼさないことに留意する.
(2018年1月現在保険適応外)

2) 臨床的診断基準
1.6個以上のカフェ・オ・レ斑*1
2.2個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫など)またはびまん性神経線維腫*2
3.腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)
4.視神経膠腫(optic glioma)
5.2個以上の虹彩小結節(Lisch nodule)
6.特徴的な骨病変の存在(脊柱・胸郭の変形, 四肢骨の変形, 頭蓋骨・顔面骨の骨欠損)
7.家系内(第一度近親者)に同症
7項目中2項目以上で神経線維腫症1型と診断する。

<その他の参考所見>
1. 大型の褐色斑
2. 有毛性褐青色斑
3. 若年性黄色肉芽腫
4. 貧血母斑
5. 脳脊髄腫瘍
6. Unidentified bright object(UBO)
7. 消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor, GIST)
8. 褐色細胞腫
9. 悪性末梢神経鞘腫瘍
10. 限局性学習症(学習障害)・注意欠如多動症・自閉スペクトラム症

(診断のポイント)
*1:多くは出生時からみられる扁平で盛り上がりのない斑であり, 色は淡いミルクコーヒー色から濃い褐色に至るまで様々で色素斑内に色の濃淡はみられない. 通常大きさは1~5 cm程度で形は長円形のものが多く, 丸みを帯びた滑らかな輪郭を呈する(小児では大きさが0.5 cm以上あればよい).
*2:皮膚の神経線維腫は常色あるいは淡紅色の弾性軟の腫瘍であり, 思春期頃より全身に多発する. 圧痛, 放散痛を伴う神経の神経線維腫やびまん性に隆起した神経線維腫がみられることもある.

(診断する上での注意点)
1.患者の半数以上は孤発例で両親ともに健常のことも多い.
2.幼少時期にはカフェ・オ・レ斑以外の症候はみられないことも多いため, 疑い例では時期をおいて再度診断基準を満たしているかどうかの確認が必要である.
3.個々の患者にすべての症候がみられるわけではなく, 症候によって出現する時期も異なるため, 本邦での神経線維腫症1型患者にみられる症候のおおよその合併率と初発年齢(表1)を参考にして診断を行う.

重症度分類

神経皮膚症候群研究班が作成した重症度分類(DNB分類)を用います(表3). 皮膚病変(D), 神経症状(N), 骨病変(B)を組み合わせて重症度を決定しますが, stage 3以上と診断されれば, 本邦では医療費公費補助・給付の対象となります. なお, 2015年よりNF1は指定難病のみならず小児慢性特定疾病の対象疾患となっています.

(表3) 重症度分類(DNB分類)
Stage 1:D1であってN0かつB0であるもの
Stage 2:D1又はD2であってN2及びB2を含まないもの
Stage 3:D3であってN0かつB0であるもの
Stage 4:D3であってN1又はB1のいずれかを含むもの
Stage 5:D4、N2、B2のいずれかを含むもの

皮膚病変(D)
D1:色素斑と少数の神経線維腫が存在する
D2:色素斑と比較的多数の神経線維腫が存在する
D3:顔面を含めて極めて多数の神経線維腫が存在する
(1cm程度以上のものが概ね1000個以上, 体の一部から全体数を推定して評価してもよい)
D4:びまん性神経線維腫などによる機能障害や著しい身体的苦痛又は悪性末梢神経鞘腫瘍の併発あり

神経症状(N)
N0:神経症状なし
N1:麻痺, 痛み等の神経症状や神経系に異常所見がある
N2:高度あるいは進行性の神経症状や異常所見あり

骨病変(B)
B0:骨病変なし
B1:軽度ないし中等度の骨病変(手術治療を必要としない脊柱または四肢骨変形)
B2:高度の骨病変あり<dystrophic typeないし手術治療を要する難治性の脊柱変形(側彎あるいは後彎), 四肢骨の高度の変形・偽関節・病的骨折, 頭蓋骨欠損又は顔面骨欠損>

病変の解説

カフェ・オ・レ斑
カフェ・オ・レ斑

神経線維腫

a) 皮膚の神経線維腫
皮膚の神経線維腫
b) 神経の神経線維腫(nodular plexiform neurofibroma)
皮下の神経に沿って紡錘形に硬く触れ, 圧痛, 放散痛を伴うことが多い.
c) びまん性神経線維腫(diffuse plexiform neurofibroma)
びまん性神経線維腫
腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)
腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)
視神経膠腫(optic glioma)
視神経にできる腫瘍で, 7歳以前の発症が多いとされ, 無症状のことも多いですが, 視力低下で気づかれる場合があります.
虹彩小結節(Lisch nodule)
視力障害をきたすことはほとんどなく, 診断には有用ですが, 通常治療の必要はありません.

特徴的な骨病変

1)脊椎変形
脊椎の変形は10歳以前から始まることが多いですが, 15歳を過ぎて変形がみられなければその後新たに出現する可能性は低いです). 変形には側彎, 後彎, 前彎があり, 側彎あるいは, 側彎と後彎の合併が多いです. 診察時に左右の肩の高さに違いがある場合やお辞儀の姿勢で左右の背中の高さの違いがみられれば必要に応じてX線撮影等の検査を行い, 整形外科専門医へ紹介します. 変形が著しくなる前に治療を行うことが重要です.
2)四肢骨の変形(先天性脛骨偽関節症)
頻度は低いですが乳児期に下肢にみられることが多く, 骨の菲薄化, 変形により容易に骨折して偽関節を形成します.偽関節は保存的治療では骨癒合を期待できないため, 外科的治療を要します.
3)頭蓋骨, 顔面骨の骨欠損
小型の骨欠損は気づかれることが少なく, 放置されることもありますが, 大型のものでは髄膜瘤, 脳瘤を起こすことがあるため, 脳神経外科専門医へ紹介します. 眼窩後壁の蝶形骨欠損は小児期からみられ, 徐々に欠損が拡大するとともに, 眼窩上壁や側頭部など周辺の変形も進行します. 症状として拍動性の眼球突出がみられます.
大型の褐色斑

徐々に同部にびまん性の神経線維腫を生じる場合が多く, 注意深く経過観察を行うことが望ましいです。

大型の褐色斑
有毛性褐青色斑

青みがかった色素斑で毛が生えています.

有毛性褐青色斑
若年性黄色肉芽腫

幼少時にしばしば合併してみられ, 多発することが多いです。 NF1の診断に有用との報告があります。 通常1~2年で自然に消退するので治療は必要としません。

若年性黄色肉芽腫
貧血母斑

NF1の小児に合併することが多く, 診断に有用との報告もあります。

貧血母斑
Unidentified bright object(UBO)
NF1の小児に脳のMRI検査を行うと半数近くに小脳, 脳幹部, 基底核などにT2強調画像で高信号病変が認められ, UBOと呼ばれます. 本症の病因についてはいまだ不明ですが, 脳腫瘍の発生母地となることはなく, 加齢とともに徐々に見られなくなるため, 治療の必要はありません.
消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor, GIST)
消化管壁に発生する間葉系腫瘍で合併頻度は5-25%と報告されており, 下血や腹痛などの症状が出現した場合には, 消化器外科での治療が必要です.
高血圧
高血圧の合併も時に認められます. まれに, 褐色細胞腫や腎血管性高血圧による場合もあるため注意が必要です.
限局性学習症(学習障害)・注意欠如多動症・自閉スペクトラム症
多くのNF1罹患者の知能は正常ですが, 約8割で認知機能の1つ以上の領域で障害を有するといわれています. 狭義の学習障害(限局性学習症)は20%で, 注意欠如多動症は40-50%, 自閉スペクトラム症は20-30%にみられます. NF1患者では, 少なくとも診断時と就学前に発達障害, 認知機能についての評価を行うのが望ましいです.

(表4) 神経線維腫症1型の治療ガイドラインの概略2018

1.皮膚病変
・色素斑(カフェ・オ・レ斑, 雀卵斑様色素斑): 希望に応じてレーザー治療, カバーファンデーションの使用など
・神経線維腫
①皮膚の神経線維腫:希望に応じて外科的切除(局麻あるいは全麻)
②神経の神経線維腫:必要に応じて外科的切除(悪性化に注意)
③びまん性神経線維腫:可能であれば, 増大する前に外科的切除(術前の画像検査, 塞栓術, 十分な出血対策)
④悪性末梢神経鞘腫瘍:広範囲外科的切除, 放射線療法, 化学療法(専門医に相談)
・その他の皮膚病変
①若年性黄色肉芽腫:通常治療は必要としない
②貧血母斑:通常治療は必要としない
③グロームス腫瘍:外科的切除

2.神経系の病変
・脳腫瘍:脳神経外科専門医へ紹介し, 必要に応じて治療を考慮
・脳神経, 脊髄神経の神経線維腫:痺れ, 麻痺などの症状があれば脳神経外科もしくは整形外科専門医へ紹介し, 外科的切除を考慮 ・Unidentified bright object(UBO):通常治療は必要としない

3.骨病変
・脊椎変形:変形が著しくなる前に整形外科専門医へ紹介し, 必要に応じて治療を考慮
・四肢骨変形(先天性脛骨偽関節症):整形外科専門医へ紹介し, 外科的治療
・頭蓋骨・顔面骨の骨欠損:脳神経外科専門医へ紹介し, 外科的治療を考慮(治療が難しい場合がある)

4.眼病変
・虹彩小結節:通常治療は必要としない
・視神経膠腫:小児科, 眼科, 脳神経外科専門医へ紹介し, 必要に応じて治療を考慮

5.その他の病変 ・褐色細胞腫:泌尿器科専門医へ紹介し, 外科的切除を考慮
・消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor):消化器外科専門医へ紹介し, 外科的切除を考慮
・限局性学習症(学習障害)/注意欠如多動症/自閉スペクトラム症:小児科専門医に紹介する
・頭痛・偏頭痛・てんかん:専門医に紹介する
・類もやもや病:脳神経外科専門医へ紹介する