谷口恭先生も5類支持だけど・・・
なのに本人がそうと気付けない理由:医師の認知バイアスとコロナ死水増し問題
日常の診療で遭遇する難題から決して逃げずに真正面から取り組む。真摯な姿勢の熱血漢ぶりがそのまま伝わってくる。谷口恭(たにぐちやすし)先生のコラムは、新型コロナ流行の前から愛読しています。今回のコラムも期待に違わぬものでした。

「正直者がバカをみる」コロナの現状を打開する方法 谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」 日経メディカル 2022/03/07

 「先月、微熱と喉の痛みがあってコロナかな?と思ったんやけど、感染確定したらいろいろとややこしそうやから検査受けんかったんですわ。隔離? まあ自分なりのカクリですわ……」
 「この前、ダンナが会社でコロナにかかって、あたしも喉痛かったんですけど、子どもは保育園に送らなあかんし、あたしもパートの仕事休まれへんから黙ってたんです……」

 こういったことをまったく悪びれずに診察室で話す若い患者が次第に増えてきている。確かに、現在流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のオミクロン株は、高齢者にとっては依然「死に至る病」であるが、若者に対しては感染しても重症化することはほとんどなく「ただのかぜ」に過ぎない。

 医師や看護師の医療系国家試験が例年同様2月に実施された。僕は個人的興味から、昨年末から2月中旬にかけて、当院に通院する医学部6回生や看護学部4 回生などの医療系国家試験を今年受ける予定をしていた患者10人ほどに「試験前日や当日に熱が出ればどうしますか?」と尋ねてみた。

 一瞬、返答にためらった者もいたが、ほぼ全員が「(笑いながら)まあ、ロキソニンとか……」などのコメントを返してきた。彼(女)らによると、「コロナは検査を受けなければ感染者ではない」という“不文律”があるらしく、中には学校の先生からこのようなことを言われたという学生もいた。
 だが、これ以上「正直者がバカをみる」事態を放っておくべきではない。となると、陽性者や濃厚接触者を隔離するのではなく、ハイリスクの高齢者や基礎疾患保持者を“隔離”するという方法はどうだろうか。

(中略)

 医療系国家試験であれば、試験監督や事務のスタッフを全員若者にして、高齢の関係者は会場に来ないようにすればよい。そして、試験会場だけでなく、人が集まる全ての場所で若者と高齢者を分離するのだ。コンビニ、スーパー、飲食店などには高齢者は近づかないようにし(もしくは「高齢者タイム」を設け)、高齢の労働者はリモートワークか休職とし、公共交通機関にも乗らないか、もしくは高齢者専用車両を作るのだ。医療機関受診は若者と高齢者で時間帯を分ければよい。若者と高齢者が同居している場合は、しばらくの間どちらかが臨時の施設に入るのだ。

 こんな突拍子もないアイデアは高齢者差別だと言われるだろう。だが、検査を受けた者が不利益を被るという「正直者がバカをみる」事態を日々見聞きしている僕の立場からは、この“隔離”政策をする以外に解決策がないように思えるのだ。

 「規則を撤廃して若者は自由に行動すべきだ」と僕が考える理由はもう一つある。当院の患者の中にはワクチンを3回接種しているのに罹患しているというケースが増えている。その一方で、再感染の話はあまり聞かない。オランダのメディアBNOがまとめているCOVID-19再感染のデータによると、世界全体での再感染例は疑い例も含めて約100万人、死亡者はわずか1382人だ。全ての再感染者がカウントされていない可能性はあるが、世界の累計感染者数が4億人を超えていることを考えると再感染は非常にまれである。ワクチンを3回接種しても感染する者がそれなりにいることを考えると、COVID-19はワクチンよりも感染する方が、その後、かかりにくくなると言えるのではないだろうか。

 ならば若者限定で規制を撤廃するという案を真剣に考える時期に来ているのではないだろうか。同時に、高齢者にとっては依然「死に至る病」であることを強調しなければならないが。

優秀な臨床医ほど陥るリスクの高い認知バイアス
中略の部分も含めて、今回のコラムにも5類という言葉は全く出てきません。無論、インフルエンザも高齢者にとっては「死に至る病」であることを谷口先生は御存知です。医療者であろうとなかろうと、誰でも知っているその事実を踏まえれば、今回のコラムの書きぶりは全く違ったものになっていたでしょう。つまり、谷口先生はこのコラムを書く際に、インフルエンザも高齢者にとっては「死に至る病」であることを知っていながら想起できなかった。

そしてこのコラムが医師会員数だけでも18万人を超える(日経BP 2020年09月28日)媒体で公開され、注目を浴びることが分かっているわけですから、おそらくこのコラムを書く前も、そして公開された今も、今も想起できないままでいらっしゃるでしょう。これが,谷口先生のような優秀な臨床医が新型コロナの診療に真剣に取り組む時に陥りがちな認知バイアスです(新コロバブルと認知バイアス)。

認知バイアスがわかって初めて見えてくること
インフルエンザも高齢者にとっては「死に至る病」であることがわかっていれば,以下のような根源的な問いが生まれます。
●「ではなぜ新型コロナを今だに特別扱いしなければならないのか?一体誰が何の目的で新コロVIP超待遇を死守しようとしているのか?」(役人もまた嘘をつく-自殺の増加など知ったことか!-

そもそも一体「高齢者とは何ぞや?」。 「隔離すべき高齢者」とは何か?年齢?症状?検査結果?基礎疾患?同居家族の有無?活動性?・・・・そう考えれば「隔離すべき高齢者」を規定すること自体が不可能であることがわかります。そしてインフルエンザの場合には「隔離すべき高齢者」が規定できないことがわかっていたから,介護施設で看取っていた(今年のインフルエンザ感染者数が昨年の約9倍に!老人ホームでの集団感染予防の最前線を追う 2019/11/06 )。

●またこの認知バイアスを意識して初めて→「そう言えばインフルエンザの時ってどうだったっけ?」と自分に問いかけ→このどんちゃん騒ぎが起きる前のまともな世界に思い至ることができます。超過死亡が出ようが出まいがお構いなし。初場所の国技館は熱気むんむん。入場年齢制限なし,手洗いアルコールなんてどこにある?ノーマスクの客で満員御礼の垂れ幕,千秋楽結びの一番では大声援が起こりました。

かつては「専門家」にも見識があった: 国技館の入り口に「相撲は成熟した大人の楽しみです。無症状でインフルエンザをばらまく子どもや「若者」(これも感染予防の文脈では規定できない)はワクチンパスポートをご呈示ください」などという掲示があったとは寡聞にして存じません。新型インフルエンザ流行時でさえ,マスクの着用を呼びかける掲示さえも,体温測定装置さえも置いていなかった。そんなものが一体何の役に立つのか?それだけの見識が専門家にあったからです。

新型コロナの死亡リスクはインフル未満:5類相当を支持するこれだけの根拠
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合併症などによるインフルエンザ関連死は毎年1万人以上
毎年、日本でインフルエンザに感染する患者数は推定1,000万~1,500万人と言われています。厚生労働省の「人口動態調査」によると、2017年までの過去5年間、インフルエンザを直接的な原因とする死亡者数は多い年で2,569人、少ない年でも1,130人と1,000人を超えていました。また、インフルエンザを直接的な死因とするケースだけでなく、間接的な死因とするケース(別の病気を併発して亡くなった場合など)も含めた「インフルエンザ関連死」(*)の総数は、毎年約1万人に上ります。特に免疫力の低い高齢者の場合、インフルエンザを原因とする合併症のリスクは高いです。(今年のインフルエンザ感染者数が昨年の約9倍に!老人ホームでの集団感染予防の最前線を追う 2019/11/06 
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では,上記の記事に示された「インフルエンザ関連死」と新型コロナによる死亡リスク(2022年3月6日時点で24927人)を比べてみましょう。

果たして
インフルエンザで毎年約1万人。一方,2年間で2万5千人近くが新型コロナで亡くなっている。従って新型コロナの死亡リスクはインフルエンザよりも1.25倍高い」と言えるでしょうか?とんでもない。

    インフルエンザの流行期間は12月~翌年3月までの4ヶ月間
です。この4ヶ月間に1万人がインフルエンザで死亡します。一方,新型コロナで最も死者数の多かった第3波でも20/10/12-21/3/12の5ヶ月間での死者数は6822人でした。

一日あたりの死者数でも,インフルエンザで1万人/4ヶ月とすると83人/日。一方最も多い6波でも74人/日。

新型コロナ死リスクの水増し問題→もはや脅威はインフルエンザにも及ばない
さらに新型コロナ関連死者数算定では,昭和三十年代の土産物同様の悪質な「上げ底」(現代中国の事例)が,新型コロナ死リスクの過大評価を招いています。

●「インフルエンザ関連死」の定義は「死亡診断書の死因欄にインフルエンザあるいは肺炎(病原体不問、飲食物が肺に入って生じた肺炎除く)の記載がある場合」に限定しています(インフルエンザ関連死亡迅速把握システムについてのQ&A)。

●一方厚生労働省が毎日発表している新型コロナ関連死者数には,検査陽性者が自宅療養中に心筋梗塞を起こして亡くなった場合のように,新型コロナ以外の原因で死亡した事例も数多く含まれています新型コロナウイルス感染症患者の急変及び死亡時の連絡について)(*)。
*全例解剖するわけではもちろんありませんから,水増しの比率は誰も知りません。

厚労省が発表する新型コロナ死亡数は,インフルエンザ関連死よりはるかに水増しされた数字でした。最も頑健な指標である死者数の点からも,「42万人を死亡させる恐怖の新型コロナ」は疾うの昔に姿を消し,天下はただコロのものになっていたのです(ただコロを襲名したのは?)。

新コロバブルの物語
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