ご挨拶
みなさんこんにちは。
第19回年次大会は、「モラルレジリエンス 道徳的苦悩と成長するために」をテーマに掲げました。
モラルレジリエンスは道徳的苦悩のポジティブな側面ともいわれ、困難や苦悩を成長の糧とするための概念です。臨床現場では、道徳的・倫理的問題に直面した時に、落ち込み、傷つくだけでなく、できごとから学び、さらなる成長へとつなげる力が求められます。弾力性や反発力、復元力、強靱さなどを示す「レジリエンス」は、さまざまな学問分野で注目されており、新型コロナウイルス感染症の爆発的流行によって起こった医療崩壊の危機のような状況でこそ必要な力として、一層重要性を増しています。
振り返れば、第13回年次大会は新型コロナウイルス感染症の影響により、島根での現地開催を断念し、誌上開催となりました。参加者同士での直接の対話は叶いませんでしたが、多くの演題が紙面を通じて共有され、新たな知見とつながりが数多く生まれました。まさに、困難を成長の契機とするモラルレジリエンスの精神が、参加者同士の学びと絆を支えたように感じています。
島根には古事記・日本書紀にも記されるヤマタノオロチの伝承があります。古代、出雲に降り立った須佐之男命は、ヤマタノオロチの脅威に直面し、老夫婦と泣き暮らす末娘クシナダヒメを救うため、強い酒を用いて大蛇を酔わせ、見事に討伐しました。どれほど厳しい状況にあってもそれだけで希望を失うのではなく、知識や知恵を身につけていけば、そこから立ち上がり前へ進む力を見出すことができる――この物語は、そのことを私たちに語りかけているように思います。
本大会では、臨床・教育・研究の各領域で実践する多くのみなさまにご参加いただき、宍道湖の夕景のように豊かで多彩な視点が交差する、活発な意見交換と学びの場を創りたいと考えています。出雲大社や石見銀山といった歴史文化に触れながら、宍道湖のしじみ、白イカや岩牡蠣、出雲そばなどの山海の幸、そして和菓子や島根のお酒(日本酒発祥の地ともいわれておりますが、僕はハイボール派です)を楽しむひとときも、みなさまとの交流を深めてくれることと思います。コロナ禍で培った協調力と創造力を土台に、困難や苦悩の経験を多くの方々と共有し、それらを糧として次の一歩を踏み出す知識と知恵を分かち合いましょう。
みなさまのご参加を心よりお待ちしております。
日本看護倫理学会 第19回年次大会
大会長 中村 充浩
東京有明医療大学 看護学部