5 輸入サル(Macaca fascicularis)から分離された赤痢菌について |
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○里村 祥子、長田 幸恵、近藤 奈央子、森脇 俊英 |
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農林水産省動物検疫所 関西空港支所検疫第2課 |
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【序文】 |
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輸入サルにおいては、日本到着後にエボラ出血熱及びマールブルグ病を対象とした30日間の輸入検疫を実施しているが、それらの類症鑑別として重要な疾病に細菌性赤痢があげられる。検疫中のサルには軟便や下痢便等の消化器の異常症状を呈する個体が多く認められるため、輸入サルの赤痢菌保有状況調査を実施したところ、21株の赤痢菌を分離したので報告する。 |
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【材料及び方法】 |
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平成18年5月から平成20年3月の間にインドネシア、中国、フィリピン及びベトナムから輸入された試験研究用のカニクイザルのうち60群6,918頭を対象に、下痢便等の臨床症状がある個体を中心に抽出して47群401頭(5.8%)の検査を実施した。 |
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検査材料として、新鮮落下便又は直腸便、死亡サルからは直腸内容物を採取し、DHL寒天培地、XLD寒天培地及びSS寒天培地を用いて赤痢菌の分離培養を行った。疑わしいコロニーを複数釣菌し、TSI寒天培地、SIM培地及びリジン脱炭酸試験用培地に接種して一時鑑別を行った。赤痢菌を疑う性状を呈した場合には、追加の生化学的性状検査を実施するとともに、抗血清を用いた平板凝集反応による血清学的性状検査を実施した。赤痢菌と同定された菌株の一部において、PCR法による病原遺伝子(
ipaH遺伝子及びinvE遺伝子)確認検査及びディスク法による薬剤感受性試験を実施した。 |
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【結果】 |
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12群20頭から21株の赤痢菌を分離した。そのうち4株は大腸炎を呈して死亡した4頭から分離された。分離個体の輸出国は、中国17頭、フィリピン2頭、インドネシアが1頭であった。菌株は全てB群(Shigella flexneri )で、血清型は1a、5aが各1株、2aが10株、VariantXが2株、VariantY が4株、型別不能が3株であった。遺伝子検査においては、実施した9株全てにipaH遺伝子及びinvE遺伝子が確認された。薬剤感受性試験においては、11株全てがコリスチン及びオフロキサシン感受性、リファンピシリン耐性を示した。また、フィリピン以外の国から分離された菌株はアンピシリン及びテトラサイクリンに耐性を示した。サルの細菌性赤痢の治療によく使用されるホスホマイシンについては、8株で感受性であったが、3株は感受性と耐性の中間であった。 |
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【考察】 |
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今回調査を実施した47群中の12群(25.5%)、401頭中の20頭(5.0%)で赤痢菌が分離された。輸出国の検疫施設別では、中国で5施設中の4施設、フィリピン及びインドネシアで各1施設中の1施設から分離された。ベトナムについては1施設の検査を実施したが分離されず、全体として8施設中6施設のサルから赤痢菌が分離された。また、検疫中に3頭が大腸炎を呈して死亡した1群においては、死亡サルを含めた7頭から7株が分離され、群内で伝播していることが疑われた。 |
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これらの結果を踏まえ、検疫中の感染・汚染防止対策の徹底や輸出国及び国内の検疫施設における清浄化対策の遂行等、輸入関係者による適切な対応が望まれる。ただし、サルに対する抗生物質を用いた治療を開始するにあたっては、今回の感受性試験の結果から、すでに薬剤に耐性を示す菌株が出現していること、またホスホマイシンのように良好な感受性を示すものでも、今後、耐性と成りうる要素を持つとも考察される菌株の存在が明らかとなったことを踏まえ、薬剤感受性を確認した上で、適切な薬剤選択と投与方法を検討する必要がある。 |
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