第8回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次

4 小動物臨床獣医師を対象としたヒストプラズマ症に関する認識調査
 
○佐野 文子,高橋 英雄,村田 佳輝,亀井 克彦
千葉大・真菌センター
 
【目的】
  ヒストプラズマ症は輸入真菌症の一つとして取り扱われてきたが,近年,ヒトと動物で国内感染症例が相次いで報告されて以来,その原因菌である Histoplasma capsulatum は 国内に生息する唯一の危険度レベル3の高度病原性真菌である可能性が指摘されている.さらに,ヒトおよびイヌの国内感染例から検出された遺伝子型はウマの仮性皮疽の原因である H. capsulatum var. farciminosum と近縁なため,呼吸器感染だけでなく,接触感染の危険も示唆されている.しかし,ヒストプラズマ症は約6割の大学で獣医微生物学の講義中に紹介されているにすぎず,実際に症例に遭遇する機会のある小動物臨床現場の獣医師の認識度は不明である.
そこで,ヒストプラズマ症を小動物臨床領域で遭遇しうる最も危険度レベルの高い真菌症として,本症への関心を高めるとともに,調査結果に基づいた安全対策等を考察し,実態に則したコントロール法および予防法の提言ための基礎データを得ることを目的として,本症に関するアンケート調査を行った.
 
【方法】
  小動物臨床獣医師を対象にメールまたはファックスによる任意転送によるアンケート調査を行った.
 
【結果】
  257 通(母数不明,平成18年小動物臨床従事者約 13,200 名の 1.9%に相当)の回答を得た.
 ヒストプラズマ症の認識率は 78.6%と大学での教育より高かった.一方,仮性皮疽は48.6%,仮性皮疽が家伝法で届出伝染病であることは 29.6%,ヒストプラズマ症と仮性皮疽が広義に同じ疾病であるとの認識は 24.1%,ヒストプラズマ症を法律で管理する必要性については 35.2%が必要ありと答えていた.
  国内感染によりヒト( 15.2%)や動物( 21.4%)が発症していることを知っているとする回答は低かった.また、病名と原因菌、ヒストプラズマ症と仮性皮疽の関連を正しく認識している割合は10.5%で,国内感染の情報を含めて総合的理解をしている割合は5.8%であった.
  なお,今回の調査で疑症例3例(いずれもイヌ)が示唆された.
 
【考察】
  小動物臨床獣医師の間でヒストプラズマ症という病名は広く認識されている.しかし,真菌による感染症で,国内にも存在し,ウマの仮性皮疽がその病型のひとつであることを総合して理解している割合は極めて低かった.
  ヒストプラズマ症は各種動物に感染することが知られており,我が国でもヒト,イヌ,ウマ以外に,ウシでは少なくとも明治時代に3例と1972年に1例,ラッコ症例は2001年に報告されている.今回,イヌで本症と病理組織学的に診断もしくは疑われたことを経験された方が3名おられたが,それ以外の動物種にも,注意を向ける必要があると考えている.
  ヒストプラズマ症は経気道感染,接触感染の他に海外では経口感染も示唆されている高度病原性真菌症であるため,臨床従事者,飼育家族,他の患者などへの二次感染防止を考慮した安全対策が必要である.現在,不安を煽動しない方策を慎重に考えている.
 
【結語】
  ヒストプラズマ症は我が国にも存在する高度病原性真菌症で,小動物臨床領域でも遭遇する可能性のある感染症として注意が必要である.
 
【謝辞】
  調査に御協力いただいた各都道府県の獣医師の方々および千葉県獣医師会事務局に厚く御礼申し上げます.また,ヒストプラズマ症の歴史的背景についてご教授いただきました白水完児先生(山口県),唐仁原影昭先生(新潟県)に厚く御礼申し上げます.尚,本研究は厚生労働省新興・再興感染症研究事業の補助により行われました.
 
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