3 北海道の野生動物に見られるトリヒナ症の流行状況とトリヒナの分類 |
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金井 祐太1)、井上 貴史1)、野中 成晃1)、片倉 賢1)、間野 勉2)、○奥 祐三郎1) |
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1)北海道大学獣医学研究科、2)北海道環境科学研究センター自然環境部 |
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【目的】 |
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トリヒナ症は公衆衛生上重要な人獣共通寄生虫症で、人の感染源として豚が重要視されていた。しかし、トリヒナの分子生物学的解析が発達し、これを用いた動物疫学調査や生物学的特徴の研究がなされ、様々な種(もしくは遺伝子型)が含まれることが知られるようになった。現在までに、トリヒナのほとんどの種が野生動物において広く流行していることが明らかとなっている。国内における人の集団発生に関連して行われた1970-80年代の調査では、野生動物におけるトリヒナの感染率はきわめて低いと考えられたが、1999年の北海道における我々の調査で小樽のキツネにおいて流行していること判明し(Yimam
et al., 2001)、その後より大規模な動物疫学調査を実施し、トリヒナの分子生物学解析を行った。 |
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【材料と方法】 |
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2000-2006年に北海道において捕獲されたキツネ319頭、タヌキ77頭、ヒグマ126頭、イタチ4頭、齧歯類344頭および食虫類27頭について、ペプシン消化法によって筋肉トリヒナの検索を行った。また、これらのトリヒナの伝播におけるエゾヤチネズミ(キツネの重要な餌)の関与の可能性を検討するために、北海道において分離されたトリヒナを用いて感染実験を行った。次ぎに、これらのトリヒナの分子生物学的解析のために、筋肉トリヒナを用いてmultiplex PCRおよびミトコンドリアCOI遺伝子の塩基配列を解析した。さらに、1968年に札幌市円山動物園のホッキョクグマ(スカンジナビア半島産)から分離されたTrichinella sp. の分類学的位置を明らかにするために、北海道に分布するトリヒナとの近縁関係についても検討した。 |
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【結果と考察】 |
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キツネ(感染率=13.8%)、タヌキ(7.8%)、ヒグマ(3.2%) から筋肉トリヒナが検出され、その他の動物からは筋肉トリヒナは検出されなかった。キツネでは年齢に伴いトリヒナ感染率が上昇し、山林間の農地が主である小樽市では感染率が高く、市街化調整区域が主である札幌市では感染率が低かった。感染実験ではエゾヤチネズミがこれらのトリヒナに対し高い感受性を有している事が示された。トリヒナの分子生物学的解析では音更町のキツネ1頭から得られたトリヒナはTrichinella nativa、その他の5市町において捕獲されたキツネ21頭、タヌキ2頭およびヒグマ4頭から得られたトリヒナはTrichinella T9 と同定された。ホッキョクグマの虫体はT. nativa であることが判明した(以下T. nativa (札幌))。さらに、このT. nativa (札幌)と前述のT. nativa (音更)および他のトリヒナ種について詳細に比較したところ、T. nativa (札幌)が北欧のT. nativa よりT. nativa (音更)に近いことが示唆された。 |
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以上のように、北海道では2種のトリヒナが分布し、野生動物において常在していることが確認された。なお、これらのトリヒナはTrichinella spiralis (T1)とは異なり、豚への感染力は弱いことが報告されているが、今後とも注意を要する。 |
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