第6回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


1 国内飼育犬における狂犬病ウイルスに対する中和抗体調査
 
○大東卓史 1),伊藤直人 1),杉山 誠 2),源 宣之 1)
1)岐阜大学応用生物科学部獣医学科人獣共通感染症学研究室
2)岐阜大学連合獣医学研究科
 
【背景と目的】
  我国では、狂犬病予防法によって年1回の犬の狂犬病予防接種が義務付けられている。犬集団の免疫状況を定期的に把握することは、狂犬病の防疫上極めて重要であると同時に、社会への説明責任を果たす上でも意義が大きい。過去に我々は、東海及び関東地方における飼育犬の狂犬病ウイルスに対する抗体保有率が85%と高率であったことを報告した(Clin. Diagn. Lab. Immunol.,1997)。しかし、この報告から約10年が経過した現在の状況は不明である。そこで、今回調査地域を拡大し、最近の飼育犬における狂犬病ウイルスに対する中和抗体保有状況を調査した。
 
【材料と方法】
  2005年に国内の動物病院で採取された飼育犬の血清計1049例(北海道109例、茨城県103例、千葉県51例、埼玉県30例、神奈川県105例、静岡県153例、石川県106例、兵庫県110例、香川県140例、愛媛県12例、福岡県86例、沖縄県44例)を材料とした。オワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白質遺伝子組換え狂犬病RC-HL株を用いたTCID50法により、本ウイルスに対する中和抗体価を測定した。標準血清を基準とし、抗体価を国際単位(IU/ml)に換算した。WHOに従い、0.5 IU/ml以上の抗体価を保有する犬を抗体陽性とした。
 
【結果と考察】
  WHOは、地域における犬集団の抗体保有率が70%以上であれば狂犬病の感染拡大を十分に防ぐことができるとしている。今回調査した飼育犬全体での中和抗体保有率は80%であった。これらの抗体保有犬の72%が5.0 IU/ml以上の高い抗体価を示した。また、抗体保有率が70%を下回る地域は認められなかった。これらのことから、国内の飼育犬における抗体保有状況は良好であると推察された。次に、予防接種の回数と中和抗体保有率との関連を調べた。1回接種群の犬の抗体保有率が37%であったのに対し、接種2回以上の犬群の抗体保有率は94%と高値を示した。このことから、犬集団に十分な免疫を迅速に付与するためには、基礎免疫における接種方法の検討が必要と考えられた。今回行った調査には未登録犬及び放浪犬が含まれていない。今後これらを含めた調査が防疫対策上重要であると考えられる。本研究は、日本小動物獣医師会と共同で行われた。
 
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