第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


8 輸入動物(アメリカモモンガ)に起因するレプトスピラ症感染事例
 
○増澤俊幸 1),岡本能弘 1),宇根有美 2),竹内隆浩 3),塚越啓子 3),
川端寛樹 4),小泉信夫 4),吉川泰弘 5)
1)千葉科学大学薬学部
2)麻布大学獣医学部
3)静岡済生会総合病院
4)国立感染症研究所細菌部
5)東京大学大学院農学研究科
 
【目的】
  レプトスピラ症は野生齧歯類等を保有体とするスピロヘータ感染症であり、感染症法上4類に指定されている。レプトスピラは保菌動物腎臓に長期にわたり定着し、尿中に排出される。排出されたレプトスピラはヒトや動物に経皮あるいは経粘膜感染する。近年輸入動物を介した感染症の侵入が危惧されている。今回アメリカより輸入されたアメリカモモンガ(Glaucomys volans)に起因するレプトスピラ症の発生を経験し、患者診断ならびに感染源の特定を行うことができたのでその結果を報告する。
 
【材料と方法】
  患者の血清学的並びに遺伝学的診断は、顕微鏡凝集試験(MAT)並びに鞭毛遺伝子flaBを標的としたPCRにより行った。レプトスピラの分離は、動物の腎臓乳剤または患者全血をEMJH培地に添加後30℃で2〜4週間培養した。分離株の性状解析は、flaB並びにDNAジャイレースBサブユニット遺伝子gyrBの配列解析、およびパルスフィールドゲル電気泳動による全ゲノム制限酵素Not I断片長多型性解析(RFLP)、ならびに血清型特異的ウサギ抗血清を用いた交差凝集試験により実施した。
 
【結果と考察】
  動物取扱い業者の従業員2名(29歳男性、28歳男性)が、発熱、腰痛及び倦怠感、さらには結膜黄疸、充血、乏尿、血尿を呈し静岡済生会総合病院を受診した。レプトスピラ症を疑いストレプトマイシンの治療を行い回復退院した。一方、厚生労働科学研究費吉川班の研究の一環として、この輸入業者より動物を買い上げ各種病原体の保有調査を実施していた。そのなかでアメリカモモンガの腎臓培養10匹中5匹よりレプトスピラの増殖を確認した。その他の試験した輸入動物からは検出しなかった。感染源としてアメリカモモンガを疑い、分離株の性状解析を行った。
  1例目患者では、血清のPCRで陽性となり診断が確定された。また、回復期血清はMATでアメリカモモンガ由来株に対して800倍で反応した。2例目患者では全血培養よりレプトスピラの分離に成功し、さらには全血PCRによりflaBの増幅を確認した。血清学的検査でも回復期血清はアメリカモモンガ由来株に対して200倍陽性反応を示した。患者、並びにアメリカモモンガ由来株はflaB、gyrB配列解析、およびゲノムRFLP解析、各種血清型特異的ウサギ抗血清を用いた交差凝集試験においても同一であることを確認した。同じ動物の膀胱凍結試料からもflaB-PCRにより増幅産物を検出し、アメリカモモンガを介したレプトスピラ感染事例であったことを明らかにした。分離株はLeptospira kirschneri serovar Grippotyphosa と同定した。我々は過去にも輸入動物のアフリカヤマネがレプトスピラを保有している事実を明らかにしてきたが、今回輸入動物を介したヒトへの感染事例を経験すると共に、その感染源の特定に成功した。
 
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