第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


7 輸入愛玩用野生齧歯類のレプトスピラ保有状況と保菌動物の病理像
 
○宇根有美 1),増澤俊幸 2),太田周司 3),吉川泰弘 4)
1)麻布大学獣医学部
2)千葉科学大学薬学部
3)川崎検疫所
4)東京大学大学院農学研究科
 
  我々は、愛玩用に輸入される野生動物の公衆衛生上のリスクを評価してきた。ここでは、感染症法4類に分類されるレプトスピラの検索結果を報告する。
 
【材料と方法】
  2003〜2005年5月の間に輸入された愛玩用野生齧歯類22種415匹を対象として、レプトスピラ(Lep)の保有状況を細菌学的及び病理学的に検討した。腎臓は培養と病理学的検査に、尿を含む膀胱はPCR法による菌検出に用いた。
 
【結果】
  Lep 陽性率は平均7.5%、種類別陽性率は0〜60%で、その内訳は2003年5/144(3.5%)で、アフリカヤマネ5/10(L. kirschneri [LK])。2004年菌は培養されなかったが、PCR法で18/176(10.2%)が陽性となり、アフリカチビネズミ8/20(L. borgpetersenii [LB]、L. noguchii )、ヒメミユビトビネズミ1/8、オオミユビトビネズミ1/16(L. intrrogans [LI])、シナイスナネズミ1/4([LB])、カイロトゲマウス2/20([LB]、L. weilii )、バナナリス2/20([LI])、シマリス1/20([LB])、アメリカアカリス2/19([LI])。2005年8/95(8.4%)、培養でアメリカモモンガ5/10([LK])、PCR法でデブスナネズミ1/10、アメリカモモンガ5/10、デグー2/9([LK][LI])が陽性となった。以上、検索した22種類のうち12種類の齧歯類がLep を保有しており、5種類の菌種が確認された。病理学的所見:培養で陽性となった動物の腎臓、主として近位尿細管内に種々の程度に細線維状の菌が観察された。濃厚感染例では、HE染色でも管内に密集、充満する菌が確認できた。病変としては、軽度な好中球浸潤が間質や管腔内に巣状に散在し、一部にリンパ球浸潤もあったが、菌の存在と必ずしも一致してなかった。
 
【まとめ】
  Lep 症は、本邦では、1970年代前半までは年間50名以上の死亡例が報告されていたが、近年では衛生環境の向上などにより患者数は著しく減少した。一方、海外では、Lep 症流行は全世界的に起こっており、最近報告されたレプトスピラ症の流行事例だけでも、ブラジル、ニカラグアなどの中南米、フィリピン、タイなどの東南アジアなどの熱帯、亜熱帯の国々で、大規模な集団発生があり、特にタイなどでは毎年数千人規模の大流行が続いている。このことは、これらの国では、身近に多くの保菌動物がいることに他ならない。 
  近年、ペット動物への嗜好の変化から、我が国には、様々な種類の動物が大量に輸入されており、専門家がこれらの動物の危険性について指摘していた。しかし、実際の保有率やその危険性に対する科学的資料が乏しかった。今回の調査で、これらの動物のLep保有率が明らかにされ、さらに、これらの動物を感染源とするヒトのLep症が発生したことから(本研究会増澤発表)、輸入動物の危険性が科学的に実証された。 
  なお、2005年9月より感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第56条の2により、野生動物の輸入が著しく制限され、新たに持ち込まれる病原体や感染症については対策がとられた。しかし、すでに輸入された動物および外来種として定着している動物についても、Lepとその保菌動物との関連を鑑みると同様に検討する必要がある。
 
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