第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


9 東京都および近県で飼育されているイヌ、ネコの野兎病菌抗体価測定
 
○畠山 薫 1),橋本志津 2),長澤昭範 2),奥野ルミ 1),遠藤美代子 1),山村穂積 2),柳川義勢 1),諸角 聖 1)
1)東京都健康安全研究センター微生物部
2)ペットクリニックアニホス(東京都板橋区)
 
【目的】
  野兎病は、Francisella tularensis の感染によって起こる熱性疾患である。この菌は野生動物とダニ等の節足動物の間で循環しており、ヒトは主に保菌野生動物との接触や節足動物による刺傷、汚染した塵埃の吸入等により感染を起こす。北アメリカ、ヨーロッパ、北アジアの地域に分布しており、日本でも東北および関東(栃木、茨城等)で患者報告がある。しかし、日本に分布している野兎病菌は弱毒株であり、また、患者発生も希である。しかし、北米に分布する株の一部は、強毒株で1985〜92年の間にアメリカでは20例の死亡をふくむ1409例の感染例が報告されている。北米では、プレーリードックやコットンラット、野ウサギなど齧歯類を始めとした野生動物が菌を保菌しており、イヌ、ネコの感染、発症の報告もされている。近年、この強毒株に汚染されたエキゾチックアニマルの国内への侵入危惧されている。しかしながら、日本国内では、動物に対しての実態調査はほとんど行われていないのが現状である。このため、野兎病菌の疫学状況を把握するために、東京都および近県で飼育されているイヌ、ネコ等の抗体測定を行った。
 
【材料と方法】
  血清検体:2000年〜2005年3月までに主に生化学的検査目的に採血された生後3ヶ月齢〜20歳のイヌ400頭468件、ネコ212頭224件、その他10頭10件の計662頭702件を供試した。
  抗体検査:菌体凝集反応(F.tularensis No.36株による自家調整菌液を使用)
 
【結果と考察】
  702件中、菌体凝集反応で40倍以上を示したものは、50頭51件であった。そのうちわけは、イヌ36頭37件、ネコ13頭13件、その他1件であった。イヌにおける陽性を犬種別に見ると、イヌではマルチーズ28件中8件、シーズー44件中8件の他にチワワ、ヨークシャテリアなどであった。また、ネコではチンチラ、アメリカンショートヘアー等であり、イヌ、ネコともに陽性を示したものは室内飼育中心と思われるものが多数を占めた。このため、野外で野兎病菌に感染したとは考えづらく、今後さらなる検討が必要と思われた。
 
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